彼の素顔は誰も知らない

めーぷる

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第七章 心を焦がすモノ

67.小屋の中で暫しの休息を

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 多少休んだとは言えども、リューは思っていたより疲労があったみたいで僕が戻るまで毛布の上で横になったまま火にあたっていた。

「お待たせ。大丈夫?」
「あぁ。問題ない」
「そんなこと言ってる割には怠そうだ。暖かくしてきちんと休まないと帰還もできないな」

 ベッドは見た感じ簡易ベッドのようだから、暖炉の前まで持ってきてしまってもいいかもしれない。
 この空間が一番暖かいし。

「とりあえずこれ使って。今、ベッドを持ってくる」
「待て、手伝う」
「リューは僕を運んで体力消耗しているし、これくらいは平気だ」

 リューに湿らせたタオルを押し付けると、隣の部屋から簡易ベッドを二つ持ってくる。
 本当は一つで眠りたいところだけれど、この小屋に長くいる訳にもいかないし。
 一眠りして何かを食べたら戻らないといけない。

 何か言いたげなリューを無理やり納得させると、大人しく身体を清めはじめたので良しとする。
 さすがにシャワーはなさそうだし、今はそれくらいしかできない。

「今日は随分と積極的に動くのだな」
「僕だってやる時はやるよ。まして命の恩人を粗末に扱ったりしない」
「粗末に扱われたと思ったことはない。ただ、いつもやる気もなく気怠そうにしていたから、俺と共にいるのが面倒なのかと」

 (またそうやって。何気に自分を低く考えるところがあるというか。まぁ、僕も人のことをどうこう言えるようなモノじゃないけれど)

 リューの言い分に、リューの唇に人差し指を当てて一旦黙らせる。
 屈み込んで視線を合わせてから、笑ってみせた。

「確かにギルドの仕事も面倒だと思っているし、普段何となく生きていることも認める。でもリューのこと。最初はそう思っていたときもあったけれど、今は違う。このままずっとバディでいられたらって思ってる。何ならその先も。だから、これからも宜しく」

 僕が言い切ると、リューがゆっくりと瞬きする。
 僕の言葉を飲み込むように少しの間を置いてから、目元を少しだけ和らげた。

「……あぁ。宜しく」

 時々見せてくれるようになった優しい表情に、年甲斐もなく胸がトクンと音を立てた気がした。
 普段仏頂面の特別な表情は、いつみても嬉しいものなんだな。

「だからといって、そんなにへらへらされても困るのだが」
「それは仕方ないだろう? リューの色々な表情を独り占めしているのだから。気づいていないかもしれないけれど、僕の前では大分表情豊かになってきているし」
「あまり意識はしていなかったが、そう言われればそうかもしれないな。お前が俺に興味を持っているから気づくだけかもしれないが」
「まぁね。ギルド長以外はリューのこと分かってないだろうし。リュー自身も誰も近づくなって感じだからな」

 クスクスと笑ってリューの手を引っ張り上げて立たせると、パサリ、と毛布が落ちて裸体が炎の灯りの中で顕になる。

 僕は元々置いてあった白のシャツだけ羽織っておいたから今は裸じゃないけれど、リューの筋肉質でしなやかな身体は仄かな灯りに照らされて余計に綺麗に見えた。
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