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第二章 音色が繋いだ現在の二人の関係性
22.ソーダ味
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今日はピアノレッスンの日でもあるし、俺の家へ帰る途中のコンビニへ寄る。
俺がソフトクリームを手に取ると、藤川がさっと俺の持っていたアイスを奪い取る。
「おい、何のつもりだよ」
「今日はオレがおごります。オレがそうしたいので」
「あっそ。だったら、もっと高いヤツにすりゃよかったな」
俺がちらっと高価格帯のアイスに視線を落とすと、藤川がこれ? とそのアイスを手に取ろうとする。
俺はため息を吐いてから、あのなあと声をかける。
「いいって。いくら暑いからってそんなに何個も一気にアイスばっかり食わねぇよ」
「でも、風見くんの家へ行くわけだし。冷蔵庫にしまっておけば食べられるでしょう?」
「そりゃそうだけど……」
コイツは知っているのだろうか? 俺が熱を出すと母さんが元気出しなさいねといつもご褒美のようにこのお高いアイスを買ってきてくれたことを。
藤川はニコニコ笑顔のまま、さっさとレジへ行ってしまった。
俺は止めるチャンスを失ってしまった訳だ。
「アイツ……妙に押しが強いの勘弁してほしい」
だが、藤川の笑顔と強引さに慣れてきている自分に気づくと、胸の中がもやっとする気がした。
むずむずするような、妙な感覚。俺はこの感覚に気づいてはいけないと思っている。
藤川は笑顔のまま俺の傍へ寄る。
俺は仏頂面のまま、流されるようにコンビニを出た。
「風見くん、はいどうぞ」
「おう」
ソフトクリームを渡されたので、素直におごってもらうことにした。
例え藤川が気持ち悪かったとしても、アイスに罪はない。
藤川はコンビニの袋をぶら下げたまま、自分用に買ったらしいソーダ味のアイスを取り出して封を開けると一口かじる。
俺が持ったままのカップもよこせというので手渡すと、コンビニのゴミ箱へ捨てに行く。
こういうさりげない気遣いができるところも、好かれるところなんだろうな。
「サンキュ」
「え?」
「ゴミ。それとアイス。なに? 俺が礼を言ったらおかしいか?」
「そ、そんなことはない……けど。風見くんがお礼を言ってくれるのは……嬉しいなって思っただけで」
藤川の目尻がまた嬉しそうに垂れた。
コイツの笑顔のバリエーション、多すぎないか?
というか、その事実に気づいてしまった自分が嫌になってくる。
表情の違いが分かるようになるくらい、コイツと一緒にいるって嫌でも自覚させられるからだ。
「藤川、まただらしない顔になってるぞ」
「風見くんと一緒だから。オレはそれだけでも嬉しい」
「……だから、そういうセリフはお前のファンの前で言ってやれよ」
俺は藤川の顔を見るのも嫌になって、アイスへかぶりつく。
冷たさと甘さが俺を少し冷静にさせてくれる気がした。
「風見くん……いや、いいです。オレは急ぎすぎないって決めたから」
藤川の意味深な言い方は気にかかるが、しばらくは無言でアイスを食べ進める。
だが、藤川のアイスが溶け始めたのが気になってしまって地面に悲しく落ちる前にと勝手に藤川のアイスへかぶりついた。
「ん……あー、ソーダ味もこの時期はいいよな」
「か、か……」
「は?」
藤川の様子がおかしい。アイスは俺が食べつくしたってのに、木の棒を握りしめたままぷるぷるしている。
俺の顔を見下ろしながら、何故か顔を赤くしている。
「なんだよ。あぁ、アイス全部食いたかったのか? だったら溶ける前にさっさと食っちまえよ。じゃないと、地面に落ちるだろ? って……」
なんか嫌な予感がする。
俺がそーっと一歩離れようとしたところで、藤川にぐっと腕を掴まれた。
俺がソフトクリームを手に取ると、藤川がさっと俺の持っていたアイスを奪い取る。
「おい、何のつもりだよ」
「今日はオレがおごります。オレがそうしたいので」
「あっそ。だったら、もっと高いヤツにすりゃよかったな」
俺がちらっと高価格帯のアイスに視線を落とすと、藤川がこれ? とそのアイスを手に取ろうとする。
俺はため息を吐いてから、あのなあと声をかける。
「いいって。いくら暑いからってそんなに何個も一気にアイスばっかり食わねぇよ」
「でも、風見くんの家へ行くわけだし。冷蔵庫にしまっておけば食べられるでしょう?」
「そりゃそうだけど……」
コイツは知っているのだろうか? 俺が熱を出すと母さんが元気出しなさいねといつもご褒美のようにこのお高いアイスを買ってきてくれたことを。
藤川はニコニコ笑顔のまま、さっさとレジへ行ってしまった。
俺は止めるチャンスを失ってしまった訳だ。
「アイツ……妙に押しが強いの勘弁してほしい」
だが、藤川の笑顔と強引さに慣れてきている自分に気づくと、胸の中がもやっとする気がした。
むずむずするような、妙な感覚。俺はこの感覚に気づいてはいけないと思っている。
藤川は笑顔のまま俺の傍へ寄る。
俺は仏頂面のまま、流されるようにコンビニを出た。
「風見くん、はいどうぞ」
「おう」
ソフトクリームを渡されたので、素直におごってもらうことにした。
例え藤川が気持ち悪かったとしても、アイスに罪はない。
藤川はコンビニの袋をぶら下げたまま、自分用に買ったらしいソーダ味のアイスを取り出して封を開けると一口かじる。
俺が持ったままのカップもよこせというので手渡すと、コンビニのゴミ箱へ捨てに行く。
こういうさりげない気遣いができるところも、好かれるところなんだろうな。
「サンキュ」
「え?」
「ゴミ。それとアイス。なに? 俺が礼を言ったらおかしいか?」
「そ、そんなことはない……けど。風見くんがお礼を言ってくれるのは……嬉しいなって思っただけで」
藤川の目尻がまた嬉しそうに垂れた。
コイツの笑顔のバリエーション、多すぎないか?
というか、その事実に気づいてしまった自分が嫌になってくる。
表情の違いが分かるようになるくらい、コイツと一緒にいるって嫌でも自覚させられるからだ。
「藤川、まただらしない顔になってるぞ」
「風見くんと一緒だから。オレはそれだけでも嬉しい」
「……だから、そういうセリフはお前のファンの前で言ってやれよ」
俺は藤川の顔を見るのも嫌になって、アイスへかぶりつく。
冷たさと甘さが俺を少し冷静にさせてくれる気がした。
「風見くん……いや、いいです。オレは急ぎすぎないって決めたから」
藤川の意味深な言い方は気にかかるが、しばらくは無言でアイスを食べ進める。
だが、藤川のアイスが溶け始めたのが気になってしまって地面に悲しく落ちる前にと勝手に藤川のアイスへかぶりついた。
「ん……あー、ソーダ味もこの時期はいいよな」
「か、か……」
「は?」
藤川の様子がおかしい。アイスは俺が食べつくしたってのに、木の棒を握りしめたままぷるぷるしている。
俺の顔を見下ろしながら、何故か顔を赤くしている。
「なんだよ。あぁ、アイス全部食いたかったのか? だったら溶ける前にさっさと食っちまえよ。じゃないと、地面に落ちるだろ? って……」
なんか嫌な予感がする。
俺がそーっと一歩離れようとしたところで、藤川にぐっと腕を掴まれた。
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