音色が繋ぐその先は

楓乃めーぷる

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第二章 音色が繋いだ現在の二人の関係性

23.キモスイッチ

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 俺が声を発する前に藤川に引き寄せられて、ぎゅううと抱きしめられた。
 折角アイスで冷えたってのに、体温が上がってしまう。

「っ、おい! バカ藤川っ」
「上目遣いでオレのアイスをかじる風見くん……可愛い!」
「はぁっ? またバカ言ってないで離せよ! 暑苦しいっ!」
「今のは風見くんが悪い。積極的な風見くんもいい……」

 俺は藤川のキモスイッチを入れてしまったらしい。
 俺より力が強い藤川が暴走すると厄介なのに、ついアイスにつられちまったのがよくなかった。
 そんなに人気がない道だからいいものの、こんな姿を誰かに見られるのは勘弁だ。
 
「史上最強なキモさを見せるな! つか、ここ道路! 一般道路だっつーの」
「道路……うん、道路」
「分かったら離せ!」

 藤川の足を思いきり踏みつけると、藤川は我に返ったのか俺を解放する。
 その場で何度か跳ねてから、くぅーんと声を出している情けない子犬のような顔で俺に訴えかけてくる。

「踏みつけるなんて、ひどいー」
「自業自得だ。俺はアイスが気になっただけで、お前のことはどうでもいい。いいから、さっさと行くぞ」
「……はい」

 藤川はしょぼんと身体を丸めたまま、静かに歩き始めた。
 俺に告白らしきものをしてから、藤川といると毎回こんな感じだ。
 大体藤川が暴走して、俺が突っぱねる。
 だけど、藤川は反省もしてるのかしてないのか分からない状態のまま俺へ絡んでくる。
 その繰り返しだ。

「しょぼくれた大型犬みたいな反応やめろ。うっとうしいんだよ」
「風見くん、つめたい……」
「アイスのおかげでひんやりだろ? って、アホか。ほら着いたぞ」

 藤川の尻に軽くケリを入れて促す。サッカー部の藤川の体幹はこれくらいのケリでどうにかなるようなもんじゃないだろうが、わざとよろけるあたりは演技派なのかもしれない。

「こんにちは」
「はーい、あら藤川君。こんにちは。お帰り、音流ねる
「ただいま」

 俺の母親、風見音葉かざみおとはは、家でピアノ教室を開いている。
 何故か母親の生徒になってしまったのが、藤川だ。
 家的には収入になる訳だし助かるが、俺的にはどこまでも藤川と一緒にいる感じがして未だに違和感だ。

 藤川は気にもせずに笑顔のままレッスン室へ入る。
 母さんもいつも通りの先生の顔で、藤川を向かい入れた。
 俺はというと……何故か一緒にいろと二人に付き合わされる。
 正直、俺がいても意味がないと何度も訴えているのだが聞き入れられない。
 母さんも藤川も、ここに座っていろと言って譲らない。

「音流、ちゃんと藤川君の成果を見守ってあげなさい? 上達してるんだから」
「それ、毎回言わなくても分かってるし。俺がいなくなろうとすると無理やりここに座らせるんだろ?」

 俺が悪態をつこうが、母さんは笑顔だ。この人を怒らせても俺にとってはデメリットしかないので、渋々付き合うしかない。

「風見くんが聞いていてくれるだけで、俺は何倍も上手く弾ける気がします」
「んな大げさな。いいから、さっさと始めろって。俺も……耳だけはそっちに集中してやるから」

 手元ではスマホアプリのゲームを立ち上げるが、宣言した通り耳は藤川のレッスンに付き合ってやる。
 母さんの言う通り、藤川は大分弾けるようになったと思う。
 まだ両手だとおぼつかないときもあるが、簡単な初期に習うような曲は弾けるようになってきていた。

「そこはもう少し優しくゆっくりね。でも、本当に上手よ」
「つい力が入ってしまって……すみません」
「気にしないで。でも、音にも硬さが出ちゃうから気を付けてね」
「はい!」

 藤川の音は身体と比例してダイナミックで力強い。
 俺には出せない藤川らしい音色だ。
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