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赤竜の城塞
秘めたるは口づけ (2)
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「それで、どうするんだこれから」
返されたグラスから一口飲んで、スカーレットがケントの問いに答える。
「リディ、サンプルを」
「イエス、マム」
小さなビニール袋に、小指の先程のルビー色の結晶がいくつか入っている。
「まずはこいつが何なのか? ということじゃな」
「幾らするんだ、それ」
「結晶一つが末端価格で二十クレジット、一般的な合成麻薬の半値といったところじゃの」
「貧乏人に流行るわけだな」
手渡された結晶を、車内灯に透かしてみてから、ケントは興味なさげにリディに返した。
「妾と寝屋で試して見るかの?」
「やめとこう、俺は寝酒があれば十分さ」
「ふむん」
つまらなさそうに鼻を鳴らして、スカーレットがもう一口グラスを傾ける。
「オピオイド受容体に作用するも、多幸感の割に副作用と依存性が低い……というのが、軍警察の医療部門の分析結果です」
その姿を羨ましそうに見ていたノエルが、話に割り込んでくる。
「そんなものなら、星系中に転がってる合成麻薬が幾らでもあると思うがなあ」
「何か裏があるとは思うのじゃ、それが気に入らぬ」
グラスを揺らして、スカーレットがじっとケントを見る。
「あの、スカーレットさん?」
「なんじゃん、ノエル」
「そのグラスをいただけるなら、いい考えがあるのです」
小首をかしげてから、スカーレットはノエルにブランデーグラスを差し出した。
「お父様に、そのお薬をみせるといいと思います」
大事そうにそのグラスを受け取って、ノエルがそう言って笑う。
「お主の父?」
「ええ、お父様ならきっと、なにかわかるに違いないです」
自信満々のノエルと困惑した顔をするスカーレットに、ケントは苦笑いして肩をすくめた。確かにあの爺さんなら、なにが隠れているのか気がつくかもしれない。
「誰じゃな? ケントよ、こやつの父親というからには製作者じゃろうが」
「亡霊の話を聞いたことはあるか、スカーレット」
ケントの問いに、スカーレットが一瞬固まった。
「亡霊? ルドルフの遺産の事か?」
「ああ」
「お父様ならきっと、なにかわかると思うのです」
二人の会話に満足げにノエルが繰り返して、スカーレットから受け取ったグラスをケントに差し出す。
「ん? ああ、すまんな」
差し出されたグラスを、ケントはなんの気なしにぐいとカラにした。
「お主、ルドルフ・ベーゼマンと会っておるのか?」
「艦載型転送門の件の時に一度な」
言わなかったっけ? と思いながら、ケントはポケットからタバコを出すと、火をつけた。無言で出されたスカーレットの手に一本差し出すと、スカーレットが身を乗り出しキスでもするようにもらい火で火をつける。
「あのタヌキめ、生きておったのか」
「自分では、嘘つき狼と名乗っていたな、そういえば」
「狼という面ではなかったであろう?」
「まあな」
二人の会話を聞きながら、ノエルがそわそわと何か言いたげに、こちらをチラリチラリと見ているのに気がついて、ケントはノエルへと視線を移した。
「屋敷は土壌栽培区域の二十二番地だと思ったが、間違いないよな?」
「はい、マスター」
それを聞いたスカーレットがリディに目配せすると、リムジンが上層階へ向かう方に左折する。
「クリスお姉様に連絡しておきますね?」
「ああ、頼む」
「妾の事は内緒で良いぞ」
「了解です」
まだノエルが筐体を持っていなかった時に出会った、ノエルの姉妹機クリスからの返信では、ルドルフは元気にりんご作りに精を出しているらしい。
「それで、マスターあの、それ」
「ん?」
ケントが手にしたままのグラスを、ノエルが指差す。
「ああ、おまえが貰ったんだったな」
「はい」
差し出したグラスを大事そうに受け取り、ノエルが空のグラスを灯りにかざしてから、ぱくりと咥えて、にへらと笑う。
「なんだ、飲みたかったのか?」
「ククク」
その様子を見ながら、スカーレットが含み笑いをする。
「ほんとに、なんというか、難儀なお人形じゃな、お主は」
「だって……」
「よいよい、そこの朴念仁の唐変木は気づいておらぬようじゃ」
置いてけぼりのケントと一行を乗せて、装甲リムジンはタービン音を響かせ一路屋敷へと向かった。
返されたグラスから一口飲んで、スカーレットがケントの問いに答える。
「リディ、サンプルを」
「イエス、マム」
小さなビニール袋に、小指の先程のルビー色の結晶がいくつか入っている。
「まずはこいつが何なのか? ということじゃな」
「幾らするんだ、それ」
「結晶一つが末端価格で二十クレジット、一般的な合成麻薬の半値といったところじゃの」
「貧乏人に流行るわけだな」
手渡された結晶を、車内灯に透かしてみてから、ケントは興味なさげにリディに返した。
「妾と寝屋で試して見るかの?」
「やめとこう、俺は寝酒があれば十分さ」
「ふむん」
つまらなさそうに鼻を鳴らして、スカーレットがもう一口グラスを傾ける。
「オピオイド受容体に作用するも、多幸感の割に副作用と依存性が低い……というのが、軍警察の医療部門の分析結果です」
その姿を羨ましそうに見ていたノエルが、話に割り込んでくる。
「そんなものなら、星系中に転がってる合成麻薬が幾らでもあると思うがなあ」
「何か裏があるとは思うのじゃ、それが気に入らぬ」
グラスを揺らして、スカーレットがじっとケントを見る。
「あの、スカーレットさん?」
「なんじゃん、ノエル」
「そのグラスをいただけるなら、いい考えがあるのです」
小首をかしげてから、スカーレットはノエルにブランデーグラスを差し出した。
「お父様に、そのお薬をみせるといいと思います」
大事そうにそのグラスを受け取って、ノエルがそう言って笑う。
「お主の父?」
「ええ、お父様ならきっと、なにかわかるに違いないです」
自信満々のノエルと困惑した顔をするスカーレットに、ケントは苦笑いして肩をすくめた。確かにあの爺さんなら、なにが隠れているのか気がつくかもしれない。
「誰じゃな? ケントよ、こやつの父親というからには製作者じゃろうが」
「亡霊の話を聞いたことはあるか、スカーレット」
ケントの問いに、スカーレットが一瞬固まった。
「亡霊? ルドルフの遺産の事か?」
「ああ」
「お父様ならきっと、なにかわかると思うのです」
二人の会話に満足げにノエルが繰り返して、スカーレットから受け取ったグラスをケントに差し出す。
「ん? ああ、すまんな」
差し出されたグラスを、ケントはなんの気なしにぐいとカラにした。
「お主、ルドルフ・ベーゼマンと会っておるのか?」
「艦載型転送門の件の時に一度な」
言わなかったっけ? と思いながら、ケントはポケットからタバコを出すと、火をつけた。無言で出されたスカーレットの手に一本差し出すと、スカーレットが身を乗り出しキスでもするようにもらい火で火をつける。
「あのタヌキめ、生きておったのか」
「自分では、嘘つき狼と名乗っていたな、そういえば」
「狼という面ではなかったであろう?」
「まあな」
二人の会話を聞きながら、ノエルがそわそわと何か言いたげに、こちらをチラリチラリと見ているのに気がついて、ケントはノエルへと視線を移した。
「屋敷は土壌栽培区域の二十二番地だと思ったが、間違いないよな?」
「はい、マスター」
それを聞いたスカーレットがリディに目配せすると、リムジンが上層階へ向かう方に左折する。
「クリスお姉様に連絡しておきますね?」
「ああ、頼む」
「妾の事は内緒で良いぞ」
「了解です」
まだノエルが筐体を持っていなかった時に出会った、ノエルの姉妹機クリスからの返信では、ルドルフは元気にりんご作りに精を出しているらしい。
「それで、マスターあの、それ」
「ん?」
ケントが手にしたままのグラスを、ノエルが指差す。
「ああ、おまえが貰ったんだったな」
「はい」
差し出したグラスを大事そうに受け取り、ノエルが空のグラスを灯りにかざしてから、ぱくりと咥えて、にへらと笑う。
「なんだ、飲みたかったのか?」
「ククク」
その様子を見ながら、スカーレットが含み笑いをする。
「ほんとに、なんというか、難儀なお人形じゃな、お主は」
「だって……」
「よいよい、そこの朴念仁の唐変木は気づいておらぬようじゃ」
置いてけぼりのケントと一行を乗せて、装甲リムジンはタービン音を響かせ一路屋敷へと向かった。
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