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最後の六隻
入れ替わるは人機 (1)
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「ずいぶん減ったわね」
空母ラファイエットの格納庫で、ケントが傷ついた『ケイローン』を見上げていると、後ろから声をかけられて振り返った。
声をかけてきたのがメイフィールド少尉だと知って、おざなりに敬礼するケントに、少尉がこちらにふわりと飛びながら同じく崩れた敬礼を返す。
「おっと」
無重力状態の方が整備には都合が良いが、人工重力が切られた格納甲板では磁力靴でどこかにくっついていないとどこまでも飛んでいってしまう。
キャットウォークにくっついていたケントは、少尉が伸ばした腕を捕まえると、抱きかかえるようにして隣に立たせた。
「ありがと」
「どうしたんです?」
「多分あなたと一緒よ、マツオカ准尉」
そう言いながら、メイフィールド少尉は青い三角形にの中に『3』と描かれたケントの愛機を見上げた。
赤外線ステルスと、対レーザー防御を兼ねたマットブラックの分厚い塗装を焼き飛ばし、チタニウムとセラミックの複合装甲に焼け焦げた三本線が入っている。デカイ猫にでも引っかかれたようだ。機体下側のレーザー発信機はアームの半分あたり断ち切られている。
「俺のも酷いですが、少尉のもなかなかですね」
ケントは隣に格納された機体を見上げた。青い三角形の中に『1』と描かれたメイフィールド少尉の機体は、荷電粒子砲がかすったのだろう、左の外縁部が溶け落ちていた。
「左の姿勢制御スラスターが死んで、ここに戻るの大変だったんだから」
ブルネットの髪に褐色の肌、紫のルージュをひいた少尉が長いまつげを瞬かせ、明るい茶色の瞳でこちらを見つめながらウィンクを一つよこしてみせる。
到着時は二十四機あった機体は十三機しか残っておらず、ほぼ半数を失ったことになる。墜ちた中にはケントの小隊にいたベニー・キム准尉と、トリガーハッピーの中隊長も含まれていた。
「しかし半分か……酷いもんだ」
「巡洋艦があそこにいただけでも、儲けものだとおもわないと仕方がないわね」
駆逐艦がドッグ内にいなかったのは、ある意味、情報不足からくる大失態ではある。もちろん、少尉のいうように巡洋艦が繋がれていたのは幸運ともいえるのだが。
「儲けもの……か……」
「なあに?」
「いえ、なんでも」
「そう、ならいいわ」
ポン、とケントの肩をたたいてメイフィールド少尉がキャットウォークを蹴り、自分の機体めがけてゆっくりと飛んでゆく。途中体をひねってこちらを向いて真剣な顔で口を開いた。
「マツオカ准尉」
「ケントでいいですよ」
「そう、じゃあケント。今日のあなたはとても慎重だったわ」
「臆病だと?」
少しムッとしてケントは少尉に問いかける。
「いいえ、戦いはね勇敢なやつとバカから死んでいくから、慎重なくらいで丁度いいんじゃないかしら」
「褒め言葉として受け取っときますよ」
ケントの言葉に片手を上げ、一番機のハッチめがけて消えてゆく彼女を見送った。とりあえずケンタウルスⅤまでは通常航法で二週間、時間だけはたっぷりある。
次の戦いにそなえ、ケントはAIのテッドと訓練するべくキャットウォークを蹴るとコックピットへと向かった。
§
「それで、ケントはどうやってセシリアさんと仲良くなったの?」
「仲良く……か」
「だって、彼女だったのでしょう?」
ケントの膝を枕に、青空を模したスクリーンから降り注ぐやわらかな光を見上げて、シェリルが目を細める。
「暑くないか?」
「いいの、だってほら、うちの近所はみんな天井壊れちゃってるから」
「そうか」
もうコロニー生まれの大半の連中が見たこともない青空を天井に投影して、疑似太陽光を届けるスクリーンは、復旧の遅れている旧市街の大半ではこわれたままだ。応急処置で天井に据え付けられた太陽灯が味気ない光を届けてくれてはいるが。
「そうだな、立体映画《ホロシネマ》のようにロマンチックな話でもなんでもないんだ」
「そうなんだ?」
「ああ」
「聞かせて?」
そう言ってシェリルが手を伸ばすと、ケントの頬に触れる。
「そうだな、俺たちがケンタウルスⅤに到着して三ヶ月ほどしてからのことだ」
空母ラファイエットの格納庫で、ケントが傷ついた『ケイローン』を見上げていると、後ろから声をかけられて振り返った。
声をかけてきたのがメイフィールド少尉だと知って、おざなりに敬礼するケントに、少尉がこちらにふわりと飛びながら同じく崩れた敬礼を返す。
「おっと」
無重力状態の方が整備には都合が良いが、人工重力が切られた格納甲板では磁力靴でどこかにくっついていないとどこまでも飛んでいってしまう。
キャットウォークにくっついていたケントは、少尉が伸ばした腕を捕まえると、抱きかかえるようにして隣に立たせた。
「ありがと」
「どうしたんです?」
「多分あなたと一緒よ、マツオカ准尉」
そう言いながら、メイフィールド少尉は青い三角形にの中に『3』と描かれたケントの愛機を見上げた。
赤外線ステルスと、対レーザー防御を兼ねたマットブラックの分厚い塗装を焼き飛ばし、チタニウムとセラミックの複合装甲に焼け焦げた三本線が入っている。デカイ猫にでも引っかかれたようだ。機体下側のレーザー発信機はアームの半分あたり断ち切られている。
「俺のも酷いですが、少尉のもなかなかですね」
ケントは隣に格納された機体を見上げた。青い三角形の中に『1』と描かれたメイフィールド少尉の機体は、荷電粒子砲がかすったのだろう、左の外縁部が溶け落ちていた。
「左の姿勢制御スラスターが死んで、ここに戻るの大変だったんだから」
ブルネットの髪に褐色の肌、紫のルージュをひいた少尉が長いまつげを瞬かせ、明るい茶色の瞳でこちらを見つめながらウィンクを一つよこしてみせる。
到着時は二十四機あった機体は十三機しか残っておらず、ほぼ半数を失ったことになる。墜ちた中にはケントの小隊にいたベニー・キム准尉と、トリガーハッピーの中隊長も含まれていた。
「しかし半分か……酷いもんだ」
「巡洋艦があそこにいただけでも、儲けものだとおもわないと仕方がないわね」
駆逐艦がドッグ内にいなかったのは、ある意味、情報不足からくる大失態ではある。もちろん、少尉のいうように巡洋艦が繋がれていたのは幸運ともいえるのだが。
「儲けもの……か……」
「なあに?」
「いえ、なんでも」
「そう、ならいいわ」
ポン、とケントの肩をたたいてメイフィールド少尉がキャットウォークを蹴り、自分の機体めがけてゆっくりと飛んでゆく。途中体をひねってこちらを向いて真剣な顔で口を開いた。
「マツオカ准尉」
「ケントでいいですよ」
「そう、じゃあケント。今日のあなたはとても慎重だったわ」
「臆病だと?」
少しムッとしてケントは少尉に問いかける。
「いいえ、戦いはね勇敢なやつとバカから死んでいくから、慎重なくらいで丁度いいんじゃないかしら」
「褒め言葉として受け取っときますよ」
ケントの言葉に片手を上げ、一番機のハッチめがけて消えてゆく彼女を見送った。とりあえずケンタウルスⅤまでは通常航法で二週間、時間だけはたっぷりある。
次の戦いにそなえ、ケントはAIのテッドと訓練するべくキャットウォークを蹴るとコックピットへと向かった。
§
「それで、ケントはどうやってセシリアさんと仲良くなったの?」
「仲良く……か」
「だって、彼女だったのでしょう?」
ケントの膝を枕に、青空を模したスクリーンから降り注ぐやわらかな光を見上げて、シェリルが目を細める。
「暑くないか?」
「いいの、だってほら、うちの近所はみんな天井壊れちゃってるから」
「そうか」
もうコロニー生まれの大半の連中が見たこともない青空を天井に投影して、疑似太陽光を届けるスクリーンは、復旧の遅れている旧市街の大半ではこわれたままだ。応急処置で天井に据え付けられた太陽灯が味気ない光を届けてくれてはいるが。
「そうだな、立体映画《ホロシネマ》のようにロマンチックな話でもなんでもないんだ」
「そうなんだ?」
「ああ」
「聞かせて?」
そう言ってシェリルが手を伸ばすと、ケントの頬に触れる。
「そうだな、俺たちがケンタウルスⅤに到着して三ヶ月ほどしてからのことだ」
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