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最後の六隻

入れ替わるは人機 (2)

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 タラント作戦が成功し、ケンタウルスⅧに駐留していた太陽系辺境艦隊を壊滅させたケンタウリ独立政府は、太陽系統合政府に対して自治権を求める旨を通告して宣戦を布告した。

「よう、ケントどこにいくんだ?」
「暇なんでな、テッドと遊んでくる」
「お前も好きだねえ」

 作戦後、四機づつに分けられた戦闘機部隊は、フリゲート艦『フリージアン』に搭載され、ケンタウルスⅤを中心としたジャンプアウト宙域のパトロールに当たっていた。

「あら、ケントどこに行くの?」
「AIと戦術訓練でもしようかと思いまして、メイフィールド少尉」
「そう、ちょうどよかった。アリスの実地飛行に付き合ってあげて、報告書があって手が離せないの」

 少尉の隣に立っていた少女が、ぴょこんとお辞儀をする。そこは敬礼するところだろうとケントは苦笑いした。アリス・ブラウン准尉、タラント作戦で撃墜されたキム准尉の代わりに補充されたの、技術学校をでたばかりの新人ルーキーだ。

「よろしくおねがいします、マツオカ准尉」
「ケントでいいよ、アリス」
「はい! じゃあケントさん……よろしくです」

 パイロットとして配属された時点で、階級はケントと変わらない。今のところ志願兵しか取っていないとはいえ、まだ未成年だろうにとケントは少し気の毒に思う。

「あら、なんだか私だけ仲間はずれみたいでやだな、ちょっとセシリアって呼んでみてよケント」
「少尉は偉いからだめです」
「ケチー」

 長い年月を経て、統一設計《ユニバーサル》のコックピットが採用された宇宙船は、今ではほぼ全ての操作をシミュレーターで学ぶことができる。タグボートから大型のコンテナ船までよほどのことがない限り操作は同じだ。
 二本の操縦桿と四つのペダルで統一され、異なるのは付属する機能、戦闘機なら火器管制FCSくらいのものだろう。

「こちらブルー・ツー、フリージアン発艦許可を」
「こちらフリージアン、発艦を許可する、新人をあんまりいじめるなよ」
了解ラージャ、気をつけますよ」

 フリゲート艦の後部甲板の上下左右に、へばりつくように搭載された『ケイローン』が、小さな振動とともに切り離される。
 真ん中のペダルを踏んで機体を艦から離すと、小さく逆噴射。『フリージアン』から距離を取る。

「オーケイアリス、幸いこの宙域はデブリも殆ど無いクリーンな宙域だ。そのへんに浮かんでる無人偵察ポッドにぶつかるヘマでもやらなきゃ平気だから、安心していい」
了解ラージャ

 ケンタウルスⅤ周辺、とくにケンタウルスⅤから半径三千キロの球状の宙域は、百年かけて念入りにデブリが掃除されている。
 転送門ゲートを使って安全に・・・ジャンプアウトするには、何もない空間が必要となる。転送繭コクーンを解除したところに小惑星でもあろうものなら、ひどい目に合うのは確実だ。

「あと、AIを副操縦士コパイに設定にしとけ」
「どうしてです? 戦術分析タクティカルに回したほうが戦闘では有利なのに」
「高機動で気絶しても、宇宙の果まで連れて行かれなくて済む、訓練で死にたくはないだろう」
「ああ、なるほど、流石です」

 宇宙戦闘機としての性能を極限まで追求した『ケイローン』は、太陽系星系軍の戦闘機より二割ほど大きいが、倍近い大出力エンジンとプラズマステルス、高性能のAIのおかげで戦闘機同士の戦いであればまず負けることはない。
 問題は高出力すぎて慣性制御装置キャンセラーが追いつかず、リミッターを外せば最大15G、リミッター内でも最大9Gがかかるという点だ。

「オーケイ、ヘッドオンで交差からの格闘戦訓練だ」
了解ラージャ

 そのままきっちり六十秒、反対方向に飛び続けた二機が反転して向かい合う。

「いきますよ、ケント」
「お手柔らかに頼むよ、アリス」

 静止状態から最大加速する。

「テッド、仮想敵をセット、タイプは標準型マスプロ
了解ラージャ

 ここ最近、時間を見つけてはテッドと過ごしていたおかげで、ケントの思考を先回りできるようになったAIが、瞬時に敵の攻撃パターンを可能性が高い順に提示する。一番上に来ているのは、交差後に宙返りして背後を取るパターンだ。

「まあ妥当だろうな」

 テッドのおすすめは、宙返りに付き合ってからの旋回戦闘。
 距離が縮まる。

「テッド、火器管制を任せるFCS・ユーハヴ
「了解《ラージャ》、アイハヴ・FCS」

 発砲のタイミングをテッドに渡し、ケントはすれ違った刹那、進行方向はそのままで小刻みにバーニアを吹かすと機体をその場でクルリと回す。
 加速Gがそのまま、リミッターいっぱいの減速Gとなってケントに襲いかかり、目の前が暗くなる中、短距離ミサイルと二門のレーザー砲をテッドが一斉射。

敵機撃墜スプラッシュワン
「ええっ!?」

 テッドの宣言をアリスの機体のAIが確認、彼女の悲鳴にも似た驚嘆の声が、戻り始めた意識のなか遠くで響く。それを聞きながらケントは笑った。

「なんですか今の? どうやったらあんなのが当たるんです?」
「悪いなアリス、今のはちょっとした意地悪だ。次はちゃんと付き合ってやる」

 機械と比べてヤワな人間が、いまだに中に乗っている理由は、AIにとって「ノイズ」であることだ。求められているのは第六感や、突拍子もないズルの類であるといっていい。

「イテテ」

 肩に食い込んだベルトの後が、明日にはアザになっているだろう。一旦距離を置いてから、こちらに機首を巡らせて再びヘッドオンしようとするアリスに、ケントが操縦桿を握り直したその時。

「こちらフリージアン、中止アボート、繰り返す、訓練中止ミッションアボート、セクターD18に識別不明機アンノウンがジャンプアウト」

 緊張した通信がフリゲート艦『フリージアン』から飛び込んできた。
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