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大人様ランチと健康ドリンク
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「あのさ、アイオライト。さっきヨハンに聞いたんだけど、ナポリタンにハンバーグ乗せられるって、それは事実だろうか? 」
一旦片付けの為にフロアに出てきたアイオライトに、意を決したような顔のラウルが仰々しく聞く。
「できますよ。オムライスにもハンバーグと目玉焼きも一緒に乗せることもできますし」
一瞬驚愕の表情を浮かべたあと、瑠璃色の瞳が潤みはじめ、頬がほんのり赤く染まっている。
そして喜びからなのかわからないが、ラウルの魔力が身体を包み込み、陽炎のように揺れているのが見えた。
「あの、ラウルさん、魔力が……」
あくまで薄っすらだし、威圧するようなものではないので気が付かない人の方が多いと思うが、念のためラウルに声をかけた。
「あ。ごめん。つい嬉しくて」
あんな風に魔力の揺らぎが見えたら、びっくりする人がいるかもしれない。
念のため声をかけただけだが、見えていた魔力の揺らぎが消えて少し安心した。
大好きなオムライスに何かを追加で乗せることが出来る事が、魔力が外に出るほど嬉しいようだ。
「でも、ほんとに、ほんと? 」
「本当です。うち、大概トッピングできますよ」
びっくりしたのか、さらに目を見開いて固まっている。
「ちょっと待って。」
何か閃いたのか、一つ一つ確認するように頷いては頭を振る、を繰り返している。
「あ、あの……」
何度か声をかけたが、ラウルはなかなかこちらの世界に戻って来れないほど何かに没頭しているようなので、ポーションの準備のため厨房に戻った。
ポーションは冷蔵庫に入れて、コルクで蓋をし、いつでも美味しく飲めるように冷やしてある。
シュワシュワした飲み物は冷たい方が断然おいしい、と思っている。
しかし原理は全く分からないが、この世界に電気のような力が一般的に普及していて本当によかったとアイオライトは思う。
かなり便利な時代を生きていたので、冷蔵庫や照明が使えない生活が想像できない。この世界の文明の利器に感謝である。
さて、ポーションだが薄っすらでも虹色がついているので、お店で出す場合は色がバレないように濃い茶色の瓶に入れ、淡い虹色をカモフラージュしている。
そしてあくまで、あくまで気分の問題なのだが、炭酸飲料風であっで本当の意味での炭酸飲料ではないのだが、気が抜けると言うこともないのに、なんとなくしっかり蓋をしておきたいのは、気の抜けた時の不味さを知っているからだと思う。
『ラウルさんが元気になりますように』
冷蔵庫から取り出し、手に取る。
いつも、飲む人が元気になって欲しいなと願うと、瓶の中の気泡がふわふわと楽しそうに踊る。
しかし今日はなんだか中の気泡がいつもより大きく、さらにシュワシュワと元気よく気泡が踊るのが見えた。
いつもとはちょっと違う気泡の元気良さにびっくりしたが、そんなこともたまにはあるかな、と特には気にせず、元気溢れるポーションを持ってラウルの元に向かう。
「ラウルさん、あの」
アイオライトが声をかけた瞬間、カッと瞳を大きく開け、一言一言噛み締めるように、真顔でこう言った。
「オムライスに、ハンバーグ、ナポリタン、鶏肉の唐揚げ、海老のフライをトッピング、スープはコーンスープで、食後のデザートはプリン。出来るだろうか」
と。
目は鋭く、緊張感のある表情だが、その口から出た名称はその表情には似ても似つかない。
一瞬なんだか考えが追い付かず、瞬きをなどか繰り返した後、もしや? とアイオライトが知っているワンプレートを思い出した。
「完全体の…… お、大人様ランチ」
「ん? 」
危ない、ついつい声が出てしまったようだが、聞こえてはいなかったようだ。
前世流行っていた大人様ランチ。
アイオライトも友達と洋食屋に食べに行って満足したのを覚えている。
あれはいいものだ。
しかし、普通の営業時間には手間がかかり過ぎるし、いつラウルが来店するかわからない。
「出来ますが、ちょっと品数も多いので、量は一品一品少し少なめにしますね。前日までに予約してもらえれば、空の日か、天の日の夜にお出ししますよ」
「じゃぁ、明日。明日の夜、予約する! 」
即答されたが明日は空の日だ。明日の朝にはラウルはイシスを出て王城に向かうはずだ。
「明日の夜ですか? お仕事で王城に戻るために朝には出発するのでは? 」
「っ! そう……だった」
何やらもの凄く辛いことがあったような、そして泣く直前のような顔をして下を向いてしまった。
「天の日は帰ってきますか? 戻ってこれるなら夜営業の時にお出しできるように準備しておきますよ? 」
あまりにも不憫で約束をした方がよさそうだと声をかけてみる。
「天の日の夜、必ず戻る」
ラウルは視線をあげ、アイオライトをしっかり見据えてうなずいた。
何だろう。それ大人様ランチを予約するときに言うセリフ?と聞きたくなるが、それほどラウルの中で大人様ランチが大きなウエイトを占めているのかもしれない。
「あ! 忘れるところでした。健康ドリンクです。振らないようにコルクを開けてゆっくり飲んでくださいね。」
「ありがとう。俺も忘れちゃうところだったよ」
二人でまたもや笑ってしまう。
「しっかり飲んで、今夜はゆっくり休んでくださいね。天の晩にスペシャルメニューをご用意してお待ちしてますね」
「うん。必ず来るよ」
コルクを開ける音が店に軽やかに響く。
冷えた瓶に口を付けると、少しだけ甘い香りが鼻先をくすぐる。
シュワシュワと気泡が弾ける音が聞こえる。
口に含むとその泡のシュワシュワが遊ぶように口の中で弾ける。
弾けたかと思うと、身体に染みるようにじわじわ暖かく広がった。
「ごちそうさまでした」
広がる暖かさを感じながら、健康ドリンクを飲み干しラウルはお店を後にした。
宿に帰ると、ラウルは眠気に勝てず、すぐに横になって寝てしまった。
気が付くと朝。
昨日の夜、金の林檎亭で飲んだ健康ドリンクが効いたのだろうか。
もの凄く体が軽く感じた。
とにかく眠かった以外は変な感じはしないし、一晩経った今変な後遺症もないようだ。
健康ドリンクは続けて飲むのは良くないとアイオライトが言っていた気がするが、体調が良くないときにはまたお願いしようと思った。
「そういえば、何か聞こうと思っていたことがあったはずなんだけどな」
アイオライトは大人様ランチと言っていたラウルの夢の特別メニューの話をしていたら、聞こうと思っていたすっかり忘れてしまっていた。
ラウルがイケメンの意味を知るのはもう少し後である。
一旦片付けの為にフロアに出てきたアイオライトに、意を決したような顔のラウルが仰々しく聞く。
「できますよ。オムライスにもハンバーグと目玉焼きも一緒に乗せることもできますし」
一瞬驚愕の表情を浮かべたあと、瑠璃色の瞳が潤みはじめ、頬がほんのり赤く染まっている。
そして喜びからなのかわからないが、ラウルの魔力が身体を包み込み、陽炎のように揺れているのが見えた。
「あの、ラウルさん、魔力が……」
あくまで薄っすらだし、威圧するようなものではないので気が付かない人の方が多いと思うが、念のためラウルに声をかけた。
「あ。ごめん。つい嬉しくて」
あんな風に魔力の揺らぎが見えたら、びっくりする人がいるかもしれない。
念のため声をかけただけだが、見えていた魔力の揺らぎが消えて少し安心した。
大好きなオムライスに何かを追加で乗せることが出来る事が、魔力が外に出るほど嬉しいようだ。
「でも、ほんとに、ほんと? 」
「本当です。うち、大概トッピングできますよ」
びっくりしたのか、さらに目を見開いて固まっている。
「ちょっと待って。」
何か閃いたのか、一つ一つ確認するように頷いては頭を振る、を繰り返している。
「あ、あの……」
何度か声をかけたが、ラウルはなかなかこちらの世界に戻って来れないほど何かに没頭しているようなので、ポーションの準備のため厨房に戻った。
ポーションは冷蔵庫に入れて、コルクで蓋をし、いつでも美味しく飲めるように冷やしてある。
シュワシュワした飲み物は冷たい方が断然おいしい、と思っている。
しかし原理は全く分からないが、この世界に電気のような力が一般的に普及していて本当によかったとアイオライトは思う。
かなり便利な時代を生きていたので、冷蔵庫や照明が使えない生活が想像できない。この世界の文明の利器に感謝である。
さて、ポーションだが薄っすらでも虹色がついているので、お店で出す場合は色がバレないように濃い茶色の瓶に入れ、淡い虹色をカモフラージュしている。
そしてあくまで、あくまで気分の問題なのだが、炭酸飲料風であっで本当の意味での炭酸飲料ではないのだが、気が抜けると言うこともないのに、なんとなくしっかり蓋をしておきたいのは、気の抜けた時の不味さを知っているからだと思う。
『ラウルさんが元気になりますように』
冷蔵庫から取り出し、手に取る。
いつも、飲む人が元気になって欲しいなと願うと、瓶の中の気泡がふわふわと楽しそうに踊る。
しかし今日はなんだか中の気泡がいつもより大きく、さらにシュワシュワと元気よく気泡が踊るのが見えた。
いつもとはちょっと違う気泡の元気良さにびっくりしたが、そんなこともたまにはあるかな、と特には気にせず、元気溢れるポーションを持ってラウルの元に向かう。
「ラウルさん、あの」
アイオライトが声をかけた瞬間、カッと瞳を大きく開け、一言一言噛み締めるように、真顔でこう言った。
「オムライスに、ハンバーグ、ナポリタン、鶏肉の唐揚げ、海老のフライをトッピング、スープはコーンスープで、食後のデザートはプリン。出来るだろうか」
と。
目は鋭く、緊張感のある表情だが、その口から出た名称はその表情には似ても似つかない。
一瞬なんだか考えが追い付かず、瞬きをなどか繰り返した後、もしや? とアイオライトが知っているワンプレートを思い出した。
「完全体の…… お、大人様ランチ」
「ん? 」
危ない、ついつい声が出てしまったようだが、聞こえてはいなかったようだ。
前世流行っていた大人様ランチ。
アイオライトも友達と洋食屋に食べに行って満足したのを覚えている。
あれはいいものだ。
しかし、普通の営業時間には手間がかかり過ぎるし、いつラウルが来店するかわからない。
「出来ますが、ちょっと品数も多いので、量は一品一品少し少なめにしますね。前日までに予約してもらえれば、空の日か、天の日の夜にお出ししますよ」
「じゃぁ、明日。明日の夜、予約する! 」
即答されたが明日は空の日だ。明日の朝にはラウルはイシスを出て王城に向かうはずだ。
「明日の夜ですか? お仕事で王城に戻るために朝には出発するのでは? 」
「っ! そう……だった」
何やらもの凄く辛いことがあったような、そして泣く直前のような顔をして下を向いてしまった。
「天の日は帰ってきますか? 戻ってこれるなら夜営業の時にお出しできるように準備しておきますよ? 」
あまりにも不憫で約束をした方がよさそうだと声をかけてみる。
「天の日の夜、必ず戻る」
ラウルは視線をあげ、アイオライトをしっかり見据えてうなずいた。
何だろう。それ大人様ランチを予約するときに言うセリフ?と聞きたくなるが、それほどラウルの中で大人様ランチが大きなウエイトを占めているのかもしれない。
「あ! 忘れるところでした。健康ドリンクです。振らないようにコルクを開けてゆっくり飲んでくださいね。」
「ありがとう。俺も忘れちゃうところだったよ」
二人でまたもや笑ってしまう。
「しっかり飲んで、今夜はゆっくり休んでくださいね。天の晩にスペシャルメニューをご用意してお待ちしてますね」
「うん。必ず来るよ」
コルクを開ける音が店に軽やかに響く。
冷えた瓶に口を付けると、少しだけ甘い香りが鼻先をくすぐる。
シュワシュワと気泡が弾ける音が聞こえる。
口に含むとその泡のシュワシュワが遊ぶように口の中で弾ける。
弾けたかと思うと、身体に染みるようにじわじわ暖かく広がった。
「ごちそうさまでした」
広がる暖かさを感じながら、健康ドリンクを飲み干しラウルはお店を後にした。
宿に帰ると、ラウルは眠気に勝てず、すぐに横になって寝てしまった。
気が付くと朝。
昨日の夜、金の林檎亭で飲んだ健康ドリンクが効いたのだろうか。
もの凄く体が軽く感じた。
とにかく眠かった以外は変な感じはしないし、一晩経った今変な後遺症もないようだ。
健康ドリンクは続けて飲むのは良くないとアイオライトが言っていた気がするが、体調が良くないときにはまたお願いしようと思った。
「そういえば、何か聞こうと思っていたことがあったはずなんだけどな」
アイオライトは大人様ランチと言っていたラウルの夢の特別メニューの話をしていたら、聞こうと思っていたすっかり忘れてしまっていた。
ラウルがイケメンの意味を知るのはもう少し後である。
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