38 / 64
クラスチェンジ
しおりを挟む
好きだと告白した。
あとはアイオライトの返事次第。
鈍感なこの子は、もしかしたら自分も大好きですとわかってない顔で言ってくれるかもしれない。そうしたら、自分の好きはちょっと違うと、わかってもらえるまで自分の気持ちを伝えようか。
振られたならば潔く引くと、ラウルはアイオライトの言葉を待つ。
しかし、返事はなく何故かアイオライトの身体がふらりと揺れた。
間一髪、ラウルはアイオライトが床に倒れ込む前に、体を抱き込む。
「アオっ!」
声をかけても反応がない。
横にさせるために二階にあがるが、アイオライトの部屋に勝手に入るのは憚られ、取り急ぎ自分の借りている部屋のベッドに寝かせた。
目に涙を浮かべてぐったりとするアイオライトの手を握りつつ、倒れるような兆候はなかったはずだとラウルは今日の今までを振り返る。
今日の朝の営業はいつもより客は少なめで、変な客はいなかった。
その後は店を閉め、昼食後、アイスを作って共に食べた。
ラウルのちょっとした冗談にも楽しそうに反応して、体調も悪くなさそうだった。
そのアイスは今まで食べた菓子の中で一番美味かった。
夕飯も一緒に話しながら食べた。
まぁ、アオが作ってくれるものはなんでも美味い。
夕飯後、風呂に入りながら、例えばあの笑顔を見知らぬ男に向けたならと想像上の男に嫉妬して、まだ思いも伝えていないのにと自分自身に呆れた。
後ろ向きな事を考えると良くないと聞いたことがあるので、いい方向に考える。
自分に笑いかけてくれるアイオライトに、告白がもし上手く行ったなら、すぐにでも婚約を願い出てもいいだろうか。
今日は気のせいかもしれないが、自分を意識してくれているように思う。
思いを告げるならば、今日はどうだろうかと考えながら風呂から出た。
風呂あがりに店内に戻ると、アイオライトがアイスクリームメーカーを片付けていて、足場にしていた箱から落ちそうになるのが見えた。
寿命が縮まる思いでその身体が落ちないように支えた。
振り返ったアイオライトの様子は……、普段だったと思う。
しかし、木箱から降りた後はなんだかいつもと違ったように感じた。
少し頬が赤い。なんとなくだが、支えていた身体も少し熱い気がする。
これはもしかしたらいい雰囲気と言うやつなのかもしれない。
頭を撫でても、いつもと同じで拒否はされない。
前髪を上げているのが新鮮で、ちょこんと出ているおでこも可愛いと、つい口に出た。
今伝えたい。とさらに言葉を紡ぐ。
「聞いて。俺、もうアオとは友達じゃいやなんだ」
気持ちが昂って、目の前にあるおでこに唇を落としてしまった。
先日の会話から、リコとカリン、レノワールと同じ大好きと言ってくれているのだから、嫌われてはいないはずだ。
「友達以上になりたい。君が好きです」
ラウルがそう言った直後アイオライトは倒れた。
握った手が熱い。もしかして熱があるのかと額と頬に触ると、やはり少し熱があるようだ。
タオルで額と首筋を冷やす為に、ラウルはアイオライトから手を離し、一階に氷の入った水と虹色のポーションを取りに行く。
振り返ってみても、倒れるような兆候はなかったと思う。今は少しだけ熱があるようだが、微熱程度。唯一あるとしたら、自分の告白だろうか……とラウルは考えて頭を振り、再び二階に戻る。
コン、コンと念の為自分の部屋だがノックをして中に入ると、アイオライトが身体を起こして、ぽろぽろと涙を流していた。
「ごめん、ごめんなさい。ラウル」
これはフラれたなとラウルは思ったが、なんとか顔に出ないように笑おうとアイオライトに向きあう。
「今日はアイス作りは楽しかったですけど、実は自分だけ楽しんでしまっていたのでしょうか。知らないうちに、ラウルに嫌なことをしてしまいましたか?」
何を言われているのか分からなくて、ラウルは肯定も否定もできないまま、ベッド横の椅子に腰掛け、タオルを絞る。
「自分が嫌なことをしたから、友達でいるのはいやだといったんですか?」
うん? なんだ?
何を言っているのか考えながら、ラウルが絞ったタオルを頬に当てるとアイオライトが小さく呟いた。
「ラウルと友達でいられなくなるのは、辛いです」
「……」
「一緒にいると楽しくて、嬉しくて、大好きなんです」
「それは、俺も」
「じゃぁ、なんで友達をやめるなんて言ったんですか……」
「その後に……」
「その後? 何か?」
自分と友達でいられなくなるのが、倒れるほど嫌だったと……。
目その黄金の瞳にに涙を溜めて、少し震えながらラウルを見るアイオライトに、思わず安堵の溜息が出てしまった。
自分が嫌われたわけではなかった。
告白が受け入れてもらえなかったわけでもない。
ただ、伝わってない。自分の気持ちが。
「いや、友達でいるのが嫌だと言ったけど、そうじゃなくて、俺はアオと友達以上になりたくて……」
さっきのように、何かいい雰囲気でもなく、こんな風に想いを告げるなんて、なんだか自分らしいかもしれないと吹っ切って口を開こうとしたが、アイオライトのびっくりしたような顔が目に入った。
「友達以上?」
「そう、友達以上になりたい」
氷水で冷やしタオルを、今度は首筋に当てると気持ちよさそうに目を細めている。
本人もほっとしているのか、虹色のポーションを飲むように促すとこくんと飲んだ。さっきまでの悲壮感は見えない。
「友達以上と言うと……」
アイオライトの顔か高揚しているので、言葉にしなくても気づいてくれたのかもしれない。
「うん。俺、アイオライトと友達以上になりたいよ、」
君が好きですと、再度の告白を試みるがその言葉は音になる前に、急にラウルの手を取り歓喜に満ちたアイオライトの笑顔と言葉にかき消された。
「友達以上! 親友ですね!」
え?
「親友?」
「そうだったんですね。自分、てっきり勘違いしてしまって。ラウルともう一緒にはいられないのかと思って、悲しくて……」
目の前の笑顔に、ラウルは今日の所は訂正するのを諦めた。
嫌われたわけではないのだから、またの機会に伝えればいい。
「そんなに嫌だった?」
「当たり前ですよ! ラウルがいないなんて考えられないですから」
「俺も」
ただ、好意があることはちゃんと伝えていかなくてはいけないなと、この鈍そうなアイオライトを前に考えを改める。
「好きだからね」
「自分もです!」
今日はもう少しだけ好きが伝わって欲しいと、ラウルはアイオライトの頬に手を添えると、嬉しそうに目を細めてラウルをみる。
「親友と言っても、友達と何か変わる?」
「ラウルはリチャードさんとはどうですか?」
「リチャードは、親友と言ってもいいと思うけど、家臣でもあるからな……。ちょっと参考にはならないと思うよ。アオは? あの三人とはどんな感じなの?」
「そうですね。一緒に遊びに行ったり、ご飯食べたりですかね」
「今と変わらなくない?」
アイオライトがうーんと唸る。
「悪いことをしたら本気で怒ってくれて、悲しいことがあったら慰めてくれて、嬉しかったらハグもします。あとはたまにお風呂に一緒に入ったり、眠くなるまで一緒にベッドで話したりもしますね」
「最後の二つは、かなりハードル高すぎるね」
「そうですね。男の人の親友はラウルが初めてなので、出来ることから始めましょうか」
《推しと親友だなんて、胸熱展開! ヒロインが来たら全力で応援する》
昨日のチクリとした胸の痛みを完全に忘れて、アイオライトのオタク魂に火が付く。
「自分、勘違いしてすみませんでした」
そう言ってアイオライトがどん、とラウルの胸の中に飛び込んできた。
見下ろすとぎゅっと背中に手をまわして抱き着いている。
「アオ??」
「まずはハグからでしょうか? ハグは幸福感や安心感、あとは親密感も得られますからね」
そういって頭をぐりぐりと押し付けてくるアイオライトがあまりにも可愛くて、そっと抱きしめる。
柔らかな感触が全身で感じられる。上目遣い微笑まれると、どうしても色々落ち着かない。
ラウルは一旦離れようと、身体を離そうとすると一瞬だけだが強烈な殺気を感じ全身が粟立った。
「誰だ!」
この家に、不審者が入っていたとは不覚、とばかりにアイオライトを背に隠すようにしてその殺気を放つもの様子を伺う。
部屋の扉が開くと、そこにはマークが苦い顔をして立っていた。
さらにその後ろ、知っている顔の二人が顔を出す。
「ラウル王子とはいえ、うちの娘を結婚前に傷物にしたら許しませんよ」
すらりとした均等の取れた美人、ジョゼットが微笑む。
「エグバード王から、ラウル王子がうちの娘の護衛についたと聞いたが、大事だったらちゃんと守って貰わないと困りますね」
アイオライトと同じ紺青の髪の色の整った美丈夫、ヴィンスが目つき鋭く言い放つ。
この国の最高位冒険者であり、アイオライトの父親と母親が目の前に立っていた。
国王から式典の警護依頼が届き、さらにその手紙にはアイオライトとラウルが良い仲のような内容も書かれていたようで気が気でなく、急いで二人は戻ってきたのだ。
戻って来た途端、アイオライトとラウルのいい雰囲気を目の当たりにして、父親としてのヴィンスの殺気が若干漏れてしまったようだ。
「ヴィンス。ジョゼット」
「父さん! 母さん」
するりとラウルの背中を抜け出し、アイオライトはヴィンスとジョゼットの胸に飛び込んでいく。
「あのね、この人はラウル。自分の親友だよ」
両親にラウルを紹介する、満足そうなアイオライトにヴィンスはほおずりし、ジョゼットはどれぐらい身体が育ったのかしら?と触りながらチェックしている。
「ちょっと、やめてよ。人がいるのに恥ずかしいな。子供じゃないんだから」
嫌がるような言葉をいいながらも、嬉しそうな顔が久しぶりに会えた嬉しさを感じさせる。
「ねぇ、父さんと母さんは、ラウルの事知ってるの?」
「知ってるぞ? 何回も剣術指南もしたことがあるしな」
「自分よりも先に知り合ってるなんてちょっと妬ける」
ぷくりと頬を膨らませたアイオライトに、その場にいる全員が心を鷲掴みされたことは言うまでもない。
「で? なんで抱き合ってたの?」
ド直球でジョゼットが尋ねた。
「お互い思い違いしてて……。さっき仲直りできたから。親友だし、仲直りにハグしてたんだ」
胸を張って両親と、マークに伝える。
「男の子と、抱き合う?」
「抱き合うって変な言い方しないでよ。父さんと母さんとも帰ってきた時するでしょう?」
なんの恋慕も見えないその娘に若干残念感を覚えつつ、ジョゼットもヴィンスも正直ラウルがかわいそうになってしまった。
「友達から、親友に? どうしてそうなった……」
マークが不憫そうに聞いてくる。
「クラスチェンジ」
「は??」
「友達から、親友にクラスチェンジ。一つ先に進めたから、さらに上を目指す」
ヴィンスとジョゼットにもみくちゃにされていたアイオライトが、ラウルのそばに寄ってきて言う。
「クラスチェンジ! 格好いいですね! 親友のさらに上は何なんでしょう。友達としては最高位なのでは?」
「そんなことないよ」
「うーん。何でしょうか」
「教えない」
軽く頭を撫でつつ、ラウルは友達から親友になったなら、男女ならばさらに恋人や家族もありうるよ、とは今は言わない。
「ヴィンスとジョゼットも。アオは少し熱があるから今日はこれぐらいにしてやってくれよ」
「「なに、その世話焼き女房みたいな言い方! しかもアオって呼んでるしっ」」
「茶化すな、ヴィンス、ジョゼット。ほらアオも自分の部屋に。戻れる?」
戻れます、とアイオライトはしぶしぶ返事をして自分の部屋に向かう。
ぱたんと扉が閉まった後のヴィンスとジョゼット、マークのニヤニヤした顔に、ラウルは一つため息をついてから、目の前の三人に宣言した。
「アオの事好きですけれど、何か?」
「ラウル王子がアオの事好きなのダダ洩れ過ぎて、宣言されなくてもわかるわよ」
ジョゼットの一言に、ヴィンスとマークが頷く。
「そんなに?」
わかっていないのは、当の本人だけなのだ。
あとはアイオライトの返事次第。
鈍感なこの子は、もしかしたら自分も大好きですとわかってない顔で言ってくれるかもしれない。そうしたら、自分の好きはちょっと違うと、わかってもらえるまで自分の気持ちを伝えようか。
振られたならば潔く引くと、ラウルはアイオライトの言葉を待つ。
しかし、返事はなく何故かアイオライトの身体がふらりと揺れた。
間一髪、ラウルはアイオライトが床に倒れ込む前に、体を抱き込む。
「アオっ!」
声をかけても反応がない。
横にさせるために二階にあがるが、アイオライトの部屋に勝手に入るのは憚られ、取り急ぎ自分の借りている部屋のベッドに寝かせた。
目に涙を浮かべてぐったりとするアイオライトの手を握りつつ、倒れるような兆候はなかったはずだとラウルは今日の今までを振り返る。
今日の朝の営業はいつもより客は少なめで、変な客はいなかった。
その後は店を閉め、昼食後、アイスを作って共に食べた。
ラウルのちょっとした冗談にも楽しそうに反応して、体調も悪くなさそうだった。
そのアイスは今まで食べた菓子の中で一番美味かった。
夕飯も一緒に話しながら食べた。
まぁ、アオが作ってくれるものはなんでも美味い。
夕飯後、風呂に入りながら、例えばあの笑顔を見知らぬ男に向けたならと想像上の男に嫉妬して、まだ思いも伝えていないのにと自分自身に呆れた。
後ろ向きな事を考えると良くないと聞いたことがあるので、いい方向に考える。
自分に笑いかけてくれるアイオライトに、告白がもし上手く行ったなら、すぐにでも婚約を願い出てもいいだろうか。
今日は気のせいかもしれないが、自分を意識してくれているように思う。
思いを告げるならば、今日はどうだろうかと考えながら風呂から出た。
風呂あがりに店内に戻ると、アイオライトがアイスクリームメーカーを片付けていて、足場にしていた箱から落ちそうになるのが見えた。
寿命が縮まる思いでその身体が落ちないように支えた。
振り返ったアイオライトの様子は……、普段だったと思う。
しかし、木箱から降りた後はなんだかいつもと違ったように感じた。
少し頬が赤い。なんとなくだが、支えていた身体も少し熱い気がする。
これはもしかしたらいい雰囲気と言うやつなのかもしれない。
頭を撫でても、いつもと同じで拒否はされない。
前髪を上げているのが新鮮で、ちょこんと出ているおでこも可愛いと、つい口に出た。
今伝えたい。とさらに言葉を紡ぐ。
「聞いて。俺、もうアオとは友達じゃいやなんだ」
気持ちが昂って、目の前にあるおでこに唇を落としてしまった。
先日の会話から、リコとカリン、レノワールと同じ大好きと言ってくれているのだから、嫌われてはいないはずだ。
「友達以上になりたい。君が好きです」
ラウルがそう言った直後アイオライトは倒れた。
握った手が熱い。もしかして熱があるのかと額と頬に触ると、やはり少し熱があるようだ。
タオルで額と首筋を冷やす為に、ラウルはアイオライトから手を離し、一階に氷の入った水と虹色のポーションを取りに行く。
振り返ってみても、倒れるような兆候はなかったと思う。今は少しだけ熱があるようだが、微熱程度。唯一あるとしたら、自分の告白だろうか……とラウルは考えて頭を振り、再び二階に戻る。
コン、コンと念の為自分の部屋だがノックをして中に入ると、アイオライトが身体を起こして、ぽろぽろと涙を流していた。
「ごめん、ごめんなさい。ラウル」
これはフラれたなとラウルは思ったが、なんとか顔に出ないように笑おうとアイオライトに向きあう。
「今日はアイス作りは楽しかったですけど、実は自分だけ楽しんでしまっていたのでしょうか。知らないうちに、ラウルに嫌なことをしてしまいましたか?」
何を言われているのか分からなくて、ラウルは肯定も否定もできないまま、ベッド横の椅子に腰掛け、タオルを絞る。
「自分が嫌なことをしたから、友達でいるのはいやだといったんですか?」
うん? なんだ?
何を言っているのか考えながら、ラウルが絞ったタオルを頬に当てるとアイオライトが小さく呟いた。
「ラウルと友達でいられなくなるのは、辛いです」
「……」
「一緒にいると楽しくて、嬉しくて、大好きなんです」
「それは、俺も」
「じゃぁ、なんで友達をやめるなんて言ったんですか……」
「その後に……」
「その後? 何か?」
自分と友達でいられなくなるのが、倒れるほど嫌だったと……。
目その黄金の瞳にに涙を溜めて、少し震えながらラウルを見るアイオライトに、思わず安堵の溜息が出てしまった。
自分が嫌われたわけではなかった。
告白が受け入れてもらえなかったわけでもない。
ただ、伝わってない。自分の気持ちが。
「いや、友達でいるのが嫌だと言ったけど、そうじゃなくて、俺はアオと友達以上になりたくて……」
さっきのように、何かいい雰囲気でもなく、こんな風に想いを告げるなんて、なんだか自分らしいかもしれないと吹っ切って口を開こうとしたが、アイオライトのびっくりしたような顔が目に入った。
「友達以上?」
「そう、友達以上になりたい」
氷水で冷やしタオルを、今度は首筋に当てると気持ちよさそうに目を細めている。
本人もほっとしているのか、虹色のポーションを飲むように促すとこくんと飲んだ。さっきまでの悲壮感は見えない。
「友達以上と言うと……」
アイオライトの顔か高揚しているので、言葉にしなくても気づいてくれたのかもしれない。
「うん。俺、アイオライトと友達以上になりたいよ、」
君が好きですと、再度の告白を試みるがその言葉は音になる前に、急にラウルの手を取り歓喜に満ちたアイオライトの笑顔と言葉にかき消された。
「友達以上! 親友ですね!」
え?
「親友?」
「そうだったんですね。自分、てっきり勘違いしてしまって。ラウルともう一緒にはいられないのかと思って、悲しくて……」
目の前の笑顔に、ラウルは今日の所は訂正するのを諦めた。
嫌われたわけではないのだから、またの機会に伝えればいい。
「そんなに嫌だった?」
「当たり前ですよ! ラウルがいないなんて考えられないですから」
「俺も」
ただ、好意があることはちゃんと伝えていかなくてはいけないなと、この鈍そうなアイオライトを前に考えを改める。
「好きだからね」
「自分もです!」
今日はもう少しだけ好きが伝わって欲しいと、ラウルはアイオライトの頬に手を添えると、嬉しそうに目を細めてラウルをみる。
「親友と言っても、友達と何か変わる?」
「ラウルはリチャードさんとはどうですか?」
「リチャードは、親友と言ってもいいと思うけど、家臣でもあるからな……。ちょっと参考にはならないと思うよ。アオは? あの三人とはどんな感じなの?」
「そうですね。一緒に遊びに行ったり、ご飯食べたりですかね」
「今と変わらなくない?」
アイオライトがうーんと唸る。
「悪いことをしたら本気で怒ってくれて、悲しいことがあったら慰めてくれて、嬉しかったらハグもします。あとはたまにお風呂に一緒に入ったり、眠くなるまで一緒にベッドで話したりもしますね」
「最後の二つは、かなりハードル高すぎるね」
「そうですね。男の人の親友はラウルが初めてなので、出来ることから始めましょうか」
《推しと親友だなんて、胸熱展開! ヒロインが来たら全力で応援する》
昨日のチクリとした胸の痛みを完全に忘れて、アイオライトのオタク魂に火が付く。
「自分、勘違いしてすみませんでした」
そう言ってアイオライトがどん、とラウルの胸の中に飛び込んできた。
見下ろすとぎゅっと背中に手をまわして抱き着いている。
「アオ??」
「まずはハグからでしょうか? ハグは幸福感や安心感、あとは親密感も得られますからね」
そういって頭をぐりぐりと押し付けてくるアイオライトがあまりにも可愛くて、そっと抱きしめる。
柔らかな感触が全身で感じられる。上目遣い微笑まれると、どうしても色々落ち着かない。
ラウルは一旦離れようと、身体を離そうとすると一瞬だけだが強烈な殺気を感じ全身が粟立った。
「誰だ!」
この家に、不審者が入っていたとは不覚、とばかりにアイオライトを背に隠すようにしてその殺気を放つもの様子を伺う。
部屋の扉が開くと、そこにはマークが苦い顔をして立っていた。
さらにその後ろ、知っている顔の二人が顔を出す。
「ラウル王子とはいえ、うちの娘を結婚前に傷物にしたら許しませんよ」
すらりとした均等の取れた美人、ジョゼットが微笑む。
「エグバード王から、ラウル王子がうちの娘の護衛についたと聞いたが、大事だったらちゃんと守って貰わないと困りますね」
アイオライトと同じ紺青の髪の色の整った美丈夫、ヴィンスが目つき鋭く言い放つ。
この国の最高位冒険者であり、アイオライトの父親と母親が目の前に立っていた。
国王から式典の警護依頼が届き、さらにその手紙にはアイオライトとラウルが良い仲のような内容も書かれていたようで気が気でなく、急いで二人は戻ってきたのだ。
戻って来た途端、アイオライトとラウルのいい雰囲気を目の当たりにして、父親としてのヴィンスの殺気が若干漏れてしまったようだ。
「ヴィンス。ジョゼット」
「父さん! 母さん」
するりとラウルの背中を抜け出し、アイオライトはヴィンスとジョゼットの胸に飛び込んでいく。
「あのね、この人はラウル。自分の親友だよ」
両親にラウルを紹介する、満足そうなアイオライトにヴィンスはほおずりし、ジョゼットはどれぐらい身体が育ったのかしら?と触りながらチェックしている。
「ちょっと、やめてよ。人がいるのに恥ずかしいな。子供じゃないんだから」
嫌がるような言葉をいいながらも、嬉しそうな顔が久しぶりに会えた嬉しさを感じさせる。
「ねぇ、父さんと母さんは、ラウルの事知ってるの?」
「知ってるぞ? 何回も剣術指南もしたことがあるしな」
「自分よりも先に知り合ってるなんてちょっと妬ける」
ぷくりと頬を膨らませたアイオライトに、その場にいる全員が心を鷲掴みされたことは言うまでもない。
「で? なんで抱き合ってたの?」
ド直球でジョゼットが尋ねた。
「お互い思い違いしてて……。さっき仲直りできたから。親友だし、仲直りにハグしてたんだ」
胸を張って両親と、マークに伝える。
「男の子と、抱き合う?」
「抱き合うって変な言い方しないでよ。父さんと母さんとも帰ってきた時するでしょう?」
なんの恋慕も見えないその娘に若干残念感を覚えつつ、ジョゼットもヴィンスも正直ラウルがかわいそうになってしまった。
「友達から、親友に? どうしてそうなった……」
マークが不憫そうに聞いてくる。
「クラスチェンジ」
「は??」
「友達から、親友にクラスチェンジ。一つ先に進めたから、さらに上を目指す」
ヴィンスとジョゼットにもみくちゃにされていたアイオライトが、ラウルのそばに寄ってきて言う。
「クラスチェンジ! 格好いいですね! 親友のさらに上は何なんでしょう。友達としては最高位なのでは?」
「そんなことないよ」
「うーん。何でしょうか」
「教えない」
軽く頭を撫でつつ、ラウルは友達から親友になったなら、男女ならばさらに恋人や家族もありうるよ、とは今は言わない。
「ヴィンスとジョゼットも。アオは少し熱があるから今日はこれぐらいにしてやってくれよ」
「「なに、その世話焼き女房みたいな言い方! しかもアオって呼んでるしっ」」
「茶化すな、ヴィンス、ジョゼット。ほらアオも自分の部屋に。戻れる?」
戻れます、とアイオライトはしぶしぶ返事をして自分の部屋に向かう。
ぱたんと扉が閉まった後のヴィンスとジョゼット、マークのニヤニヤした顔に、ラウルは一つため息をついてから、目の前の三人に宣言した。
「アオの事好きですけれど、何か?」
「ラウル王子がアオの事好きなのダダ洩れ過ぎて、宣言されなくてもわかるわよ」
ジョゼットの一言に、ヴィンスとマークが頷く。
「そんなに?」
わかっていないのは、当の本人だけなのだ。
0
あなたにおすすめの小説
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました
みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。
ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。
小さな姫さまは護衛騎士に恋してる
絹乃
恋愛
マルティナ王女の護衛騎士のアレクサンドル。幼い姫に気に入られ、ままごとに招待される。「泥団子は本当に食べなくても姫さまは傷つかないよな。大丈夫だよな」幼女相手にアレクは戸惑う日々を過ごす。マルティナも大きくなり、アレクに恋心を抱く。「畏れながら姫さま、押しが強すぎます。私はあなたさまの護衛なのですよ」と、マルティナの想いはなかなか受け取ってもらえない。※『わたしは妹にとっても嫌われています』の護衛騎士と小さな王女のその後のお話です。可愛く、とても優しい世界です。
ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます
五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。
ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。
ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。
竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。
*魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。
*お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。
*本編は完結しています。
番外編は不定期になります。
次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。
竜帝と番ではない妃
ひとみん
恋愛
水野江里は異世界の二柱の神様に魂を創られた、神の愛し子だった。
別の世界に産まれ、死ぬはずだった江里は本来生まれる世界へ転移される。
そこで出会う獣人や竜人達との縁を結びながらも、スローライフを満喫する予定が・・・
ほのぼの日常系なお話です。設定ゆるゆるですので、許せる方のみどうぞ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる