オレ(モブ)の幼馴染はBLゲームの隠しキャラ!

大野友哉

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4.おおきい

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——ぐぅぅぅ…
 
 黒髪の少年を助けるのに力の限りを尽くした体が限界を超え気を失ったアルテアは、小腹を満たしに庭の散策に出た婦人方によって発見された。
 茶会は二時頃から始まり、お茶とお菓子を食べ飽きて手持ち無沙汰になったアルテアが外に遊びに外に行くと父に声をかけたのが三時過ぎ。そしてアルテアと黒髪の子供が庭園にある池のそばで見つかったのは四時を少し回った頃だったと言う。アルテアが一人で遊んでいた時間を短く見積もって三十分程だとしても、そのあとの決死の救出劇から時間をあまり置くことなく二人は見つかったことになる。
 
 しかし昼はまだ暖かいとはいえ季節は秋。夕方になればぐっと気温が下がる。小さな子供が水に濡れたまま意識もなく外に放り出されていれば、最悪二人とも命を落としていた可能性もあったのだ。二人がすぐに発見してもらえたことは本当に幸運だった言わざるを得ない。

 モブである少年アルテアが、そんな主人公補正のような幸運に恵まれていたなどとつゆとも知らず、再びぐぅぅぅーっとお腹を鳴らしながら、ようやくその瞼を開けた。

――ぐぅぅぅぅぅ……

「んー……ん゛っ!!?」

 自分のお腹の音と空腹共にアルテアは目が覚めた。
 ここはどこだろうと眠りから覚めたアルテアが体を伸ばそうとしたが、体中が熱くて、さらに筋肉痛のように痛くて体を起こすことも出来ない。
 部屋の中は暗くて、頭の上のベッドサイドライトの明かりがほんのりと優しく灯っている。
 もしかしたらもう夜遅いのだろうか。ならばお腹が空いていてもおかしくないなとアルテアは妙に納得した。

 とりあえずマリスを呼ぼう。話はまずそれからだと気合を入れて起き上がろうと頑張ってみたが、やはり体はいう事を聞いてくれない。お腹が空いてなければもう一度寝ることもできるが、今はお腹はペコペコだ。ペコペコを通り越して、もう体が干からびてしまう直前だ。

 とにかく何とかしてあまり動かない体を何とか頭だけでもと左側に向けると、漆黒の艶やかな黒が目に入る。

 あの子かも!?

 ベッドの横に突っ伏して寝てしまっているようだった。無事で良かったと思いながら何とか動いた左手でその漆黒に輝く黒髪に手を伸ばして撫でると、頭が急に上あがり跳ね起きた。

「う、わっ」
「起きた。良かった。良かった……」

 寝ているアステアを視線が合うなり綺麗な濃い紫色の瞳からぼろぼろと涙を流した黒髪の少年は、ぐずぐずと鼻を鳴らしながら立ち上がって走って部屋を出ていった。
 すぐにマリスとキャメルと祖母が部屋に様子を見にやってきてくれた。
 きっとアルテアが起きたことを知らせに言ってくれたのだろう。三人の後ろから黒髪の少年が泣きながらも一緒に戻ってきてくれたことがとても嬉しい。

 大丈夫かい?とベッドの横まで来たキャメルがアルテアの頭を撫でる。
 筋肉痛で痛いし、熱もあるのか体も熱いが、小さな自分が冒険の最中に誰かを助けることができたという、とある物語の主人公にもなったような高揚感がアルテアを饒舌にさせた。

「ちちうえ、おれ、色々見て、面白くて、冒険したー」
「それは良かった。楽しかったかい?」
「うん。滝のうらがわ、みてね、石の上をぴょんぴょんしたんだよ。おっこちなかった」
「おぉ、それは凄いな」
「それで、ね、冒険してたら、このこがおぼれてたから、水の上をはしったりして、助けたんだー」

 捲し立てるよう水の上を走れるんだと何度も話すアルテアにキャメルは疑問に思ったが、起きたばかりで話も口調もたどたどしい。記憶が好きな本と混同しているのかもしれないと、もう少し回復してから同じようなことを話すようならばもう一度聞くことにして、キャメルは優しく微笑みもう一度アルテアの頭を撫でた。

「凄かったんだな。アルテア、本当に偉かったな」
「あ、あの……」

 キャメルの横にいた艶やかな漆黒の黒の髪に、とても深いのに透明感があって吸い込まれそうな紫の瞳をもつ少年がもじもじとしながらも、ベッドの上から起き上がれないアルテアを覗き込んだ。

 会いたかった少年に会えた喜びでその少年にゆっくりと手を伸ばすが、体力が回復しきっていないアルテアの手は体の横で少しだけ浮いただけ。その手をそっと握って黒髪の少年が自己紹介してくれた。

「はじめまして。わたしは、デルヴァ エピフィラン ウィスタリアです」
「こんにちは。おれ、アルテア ユーフォルビアって、言うんだ。うわー。きみ、髪も、黒くてかっこいいね。目の色もね、むらさき、とってもきれい!」

 アルテアの手を握ったままたどたどしく紡がれるその言葉にどう返事をしていいのか迷って、デルヴァは『君の目の色、きれいで、すき』と返事をした。
(アルテアっていうんだ。熱でとろりとしてるヘーゼルの瞳、きれい……)
 溺れた水の中で懸命に自分に向かって手を伸ばして、絶対に助けるんだという強い眼差しを受けた時、こんなに綺麗なものがあるのかとデルヴァは幼いながらに見惚れた。その目が再び自分に向かっているのが嬉しくて、デルヴァはアルテアの手をぎゅっぎゅっと意味もなく握ってしまう。
 握られたアルテアもようやく体に力が入って来たのか、ぎゅっぎゅっと握り返した。

「おれ? ふつうだよ。ただの茶色だもん。髪の色もさ、茶色だし」
「茶色じゃないよ。ヘーゼル、だよ。みどりと茶色がすごくきれい」

 お互いがきれいきれいと言い合うのが面白くて、額を寄せてくすくすと笑い始めた二人の間から大きな音が鳴った。

ぐぅぅぅぅ……

 そう。アルテアはどうにもこうにもお腹が空いていたのだ。デルヴァと話していてすっかり忘れてしまっていたが、お腹の虫は食事を忘れたりはしていなかった。もはや待つことまかりならぬとばかりに盛大に鳴りだす。
 するといつ出ていったの分からないマリスが、サービスワゴンに食事を乗せて戻って来た。

「ぼっちゃま、お食べになられますか?」
「すごい! マリス、おれのお腹の虫のこともわかっちゃう!」
「えぇ、うふふふふ」

*******

 あの時はアルテアの大好きなコーンポタージュと柔らかいパンをマリスが持ってきてくれて、キャメルが身体を支えてくれた。そして、デルヴァがコーンポタージュをふーふーと冷ましながら不器用ながらも一生懸命食べさせてくれたんだっけ。と初めてデルヴァに出会った時の事を思い出していた。

 早く少年を助けたい一心だったアルテア。自分を助けてくれた少年を助けたい一心だったデルヴァ。あの出来事がきっかけでアルテアは風の魔法を、デルヴァは回復魔法と火の魔法が使えるようになっていった。

 自分と体型は変わらないぐらいだったデルヴァは今、アルテアがふらふらと倒れこんできても優しく受け止めらるほど大きく育ち、さらに危なくないようにとっさに膝の上に乗せたまましっかりと抱き込んでくれている。

 アルテアはデルヴァの膝の上にしっかりと座りなおし、正面からもう一度デルヴァを見据える。
 
 第二性がオメガと判明した時から、あまり大きくならないことは授業でも教わって理解していた。それでも第二性が確定する前まではアルテアの方が大きい時もあった身長も体重も、腕の太さも足の長さも、胸板の厚さも、背中の広さも、腰を支えてくれている手のひらさえも、今は全部オレより……。

「おおきい……」

 どんなに鍛えても筋肉はつきにくく、貧弱ではないがやはりもう少し大きくなりたいアルテアにとって、スラリとしつつもしっかりと大きな体で安定感のあるデルヴァの体格はある意味理想であり、羨ましいの一言につきる。羨ましくて無意識のうちに、デルヴァの腕や首をつい触ってしまう。

(それでもこの暖かさだけは、ずっと変わらないけどね。あ、ほっぺたはまだちょっぴし柔らかいんだ! これももっと顎がしゅっとして、もうじき髭が生えてきたりするのかな)

 昔の名残を見つけて嬉しくなったアルテアがそっと頬に触れると、もぞ、もぞっと腰を引くように動いたデルヴァに気がついて、ようやく我に帰る。出会った事の幼少期の思い出に浸りすぎて、ずいぶんと膝の上に乗っていたようだ。
 デルヴァの顔を見れば目尻のあたりがほんのり赤くて、額や首筋のあたりに汗が滲んでいる。

「ごめん! 転ばないように助けてくれてありがとな」
「あ、あぁ」
「もしかして体調良くない? 暑い? それともオレが重いとか?」
「いや、すこぶる健康だし、暑くはない。それにアルはいつも別に重くは……」
「ちょっと! そこは重たくなったんじゃないかって言えよー」
「……、あー、確かに、ちょっとだけな。重たい、気もしてきたような気がしてきた、かも?」

 そんな会話の最中、デルヴァは窓の外を見て何度も深呼吸をしていたので、いよいよ体調が良くないのかとアルテアは心配になったが、じっと観察してみれば……。むしろ血色自体はかなり良さそうだ。いつもと同じような軽いやり取りが出来るならば大丈夫だろう。しかし汗がぽたりとアルテアの制服の胸元に落ちた。見上げるようにデルヴァを見る。目が合ってから一拍置いて、デルヴァののどぼとけが上下に揺れた。やっぱり膝の上にずっと座っているから熱いのだろうか。それとも喉が渇いたのだろうか。
 飲み物は残念ながら持っていないが、アルテアはカバンの中からハンカチを取り出し、デルヴァの額の汗を拭ってやる。
 汗を拭き終わったのでデルヴァの膝の上から降りようとしたが、腰に添えられた手がびくともしない。
 アルテアを膝から下ろそうとはしないくせに、何故か攻防中にごくりとつばを飲む音と、やはり腰を引くように数回かもぞもぞと動いた。

「なんだよー。そんなにもぞもぞしてー。やっぱり少し重いんだろ?」

 またアルテアの制服の胸元にデルヴァの汗がぽたりと落ちた。
 顎にかかる雫をハンカチで拭ってから、今度こそデルヴァの膝を降りた。

 何故ならば学校に到着したからである。

 馬車寄せに停まった馬車のドアが開かれ、馬車の中にも涼しい風が入り込んできた。デルヴァがはぁーと大きく息を吐きだしたので、やっぱりなとアルテアはデルヴァの差し出したエスコートの手を取った。

「なぁデルヴァ、馬車の中ちょっと暑かったんだろ?」
「暑くはなかった。が……温かかった」

 大きくなってもまだ子供っぽいところが残っていることに少しホッとする。
 横でそっぽを向きながらも、ずいぶんと身長差のできてしまったのにアルテアの手を優しく取り、歩調を合わせて歩いてくれる。そんな気遣いがとても嬉しい。

「あはははっ。あんなに汗かいて、ははは、温かかったって、あははははは、やせ我慢かよ。ふは、はは」

 二カリと笑ってデルヴァに告げる。
 デルヴァの耳から首にかけてが真っ赤に染まる。図星だから恥ずかしくて照れてるのだろう。
 そんなデルヴァにからかうつもりなどなく、心からアルテアは伝えた。

「カッコつかないそんなデルヴァも、オレ好きだぞ!」
「っ、アル……こ、声が大きい……」
「ははっ! 恥ずかしがるなって!」

 デルヴァが困ったような、でも凄く嬉しそうな顔をするのが何故か妙に嬉しくて、胸の奥がじわじわ温かくて、くすぐったくて、ちょっと落ち着かなくて。

 しっかりとデルヴァと繋いだ手を離すことなくブンブンと振りながら、アルテアは上機嫌で歩いて校舎に向かったのだった。
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