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絶望の中、カードを切れ

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時系列は少し遡り…。

鹿屋基地
渡久地隊、凱旋!
最早、8機1機たりとも欠けることなく帰還。
それが当たり前となってしまった。
畏怖の念すら抱かれる存在へと…。

肝心の護衛すべき一式陸攻は先述の通り、9機がどうにか帰還したのみであったが…。
「親分、すまねえ。
これが限界だったわ。」
敬礼しつつ、この男なりの最大限の謝罪をする渡久地。
「なんの…元々湊川のつもりだったっていったろ?
兄さんらが居なかったらどうなっていたかって話よ。」
詫びられた野中五郎少佐はそう返す。
司令部に報告の為歩きながら、2人は言葉を交わす。
「渡久地の兄ちゃんはどう思うんだ?
桜花や、他の特攻に関してだ。」
ふうっと、紫煙をくゆらす渡久地。
「ま、悪くはねえと思うぜ?
外道とか狂気とか考案して強要してるやつの人格は置いといて。
現実マリアナ以前の戦いで全く出来なかったことを、基本がやっとのヒヨッコ達がやってしまってる。
正直、俺が考える勝ちを得るには一番効率的って言ってもいい。
こないだの話とは矛盾するがな。
だがどの道これは、『劇薬』だ。」
そこで野中は深々と頷く。
そして、司令部である。
「まずは、両名よくぞ帰還してくれた。」
宇垣はポーカーフェイスは崩さないながらも敬礼しつつ、そう第一声。
野中渡久地も、それぞれに敬礼を返す。
「だが想像以上に部下を失った。
正直通常の特攻に輪をかけて、桜花アレは作戦とも言えないクソですよ。
今回はたまたま渡久地らのお陰でハマってくれましたが。」
咎めようとする福井参謀長を、軽く手で制ししつつ宇垣は頷く。
「確かに、そうだ。
だが上は表面上の戦果に味を占めて、これからも機材人員が揃い次第、桜花を使い続けよと命じ続けるだろう。
そして明日以降も、当然一定の余力がある限りは零戦中心の特攻を繰り返せと既に命令が下っている。」
ふうん。
渡久地は呟きながらタバコに火をつける。
「それで…貴官の今後の展望を聞かせてくれまいか。」
福井が宇垣に代わりそう言った。
「展望つったってな…。
まぁ、沖縄を守る第32軍が徹底的に粘るんだろうが、18万人のアメリカ軍はもう上陸しちまってる。(日本軍は6万人強)
もちろん旦那が言うように特攻は上が言う以上続けなきゃならねえし、実際いま有効な戦術がそれしか無い。と言う現実もある。
だがな…その有効さにも限界リミットってのがあんだよ。」
「燃料、さらに言えば機材人員の絶対数か…。」
「そんなとこだな。
今の感覚で続けても、沖縄は2ヶ月、いいとこ3ヶ月粘って、その間こっちが全力で特攻かまして現地の陸軍が奮戦して、やっと向こうの犠牲が2から4万人ってとこだろう。

その後、何が残るかってーと、即席の教育で離陸がやっとのガキ達と、零戦や彗星みたいな第一線の機体じゃねえ…下手すりゃ練習機…赤トンボで特攻させるハメになるぞ?
桜花も母機の一式陸攻がどれだけ確保できるかがわからない。
何かの機体や兵器を生産しようにも、沖縄獲られれば飛行場から今までよりはるかに楽に日本全域をアメちゃんは空襲できる。
工場も基地も鉄道も街も、今以上に徹底して破壊されるぜ?
つまり交通網がズタズタ。
海上封鎖もされるだろうな。
本土決戦?
てめえの身体の血が巡りもしないのにどうやって?
温存した精鋭の戦力?
そんなもの1回か2回全力出動すれば潰えるぜ?」
「つまりは…つまるところだ。
我々大日本帝国は沖縄を奪われれば負け。逆に沖縄を最終決戦場に、その覚悟で臨まねばならぬと言うことか。」
「そういうことだな。
つまりは向こう2から3ヶ月で、こっちの手持ちの札を全て使い切る。
しかも全部最善手で、ということになる。」
宇垣は腕組みをする。
「具体的にまず何をする?」
「あるだろ?まだ?多分上の方で出すか出さないかを散々揉めてる真っ最中だろうけど…。」

帝国海軍、連合艦隊最後の希望…戦艦大和か!?
「幸い、呉軍港への3月の空襲は、なんやから向こうからしたら消化不良で終わってしまった。
他にも動ける戦艦はなんとか動かせるんじゃね?」
「バカを言うな、燃料が…油が大和1艦を片道…沖縄まで行かせるのでぎりぎりなんだぞ!?」
福井がそう叫ぶ。
「いや?ある筈だぜ?
帳簿外燃料って奴が?」
こ、この男…。
宇垣は内心呻いた。
「結局特攻機同様、本当に片道分だけなんてことはなく、なんやかやガッツリ給油してやるくらいなら、その分後プラス一隻余裕を持って入れてやるくらいは絞ればあるぜ?
取り敢えず、旦那には理由つけて東京に行って、これから俺が言う事を具申してくれれば、いい方向にいくんじゃねーかな?」
野中も福井も、改めて何者だと言う調子で唖然として渡久地を見遣る。
「よくわかった。通るかはわからんが、手を尽くそう。
だが、艦隊の出撃の際は、貴様達の隊にも護衛任務を努めてもらうぞ?」
「もちろん」

この日の深夜…上陸し、野営中の米陸軍の只中に、知覧より飛来した陸軍の隼戦闘機が突入する。
例によってレーダー搭載型F6Fに45機のうち29機が墜とされるが、残りが米軍テントに向け機銃掃射をしながら9機が爆装状態で突入。
装甲車両用の集積燃料が爆燃し、また小規模な砲弾のそれにも類が及び、直掩機まで基地に戦果打電後突っ込むものも出て…。
再び1000人を超える犠牲を米軍は被ることとなる。
100式司令部偵察機による航空写真等の事前情報が役に立った形となった。
生還機はたった2機であったが。
結局米将バックナーは、昼夜問わずの地上軍の上空警戒を、(間もなく占領する飛行場が機能するまでは)海軍航空隊に要求する事となる。
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