新訳 零戦戦記 選ばれしセカイ

俊也

文字の大きさ
72 / 166

更なる試練

しおりを挟む
休日開け、久保拓也に正式な「中将昇進」の辞が下る。
同時に「統合参謀本部付 特別管理官」なる未知のポストに任ぜられる。
まぁ、今の「自由過ぎる」立場や言動への追認とも言えるのであるが…。


大本営統合参謀本部

「おい、見ろよ、久保だぜ?」
「なんなんだろうな。異例の出世とか、情実人事とか、そういう騒ぎじゃねえぞ。」
「あー、案外山本閣下がアレでアレなのかも…。」
「しっ、聞こえるぞ。」

丸聞こえなんだが…。

どこかの参謀部らしき佐官級二人と敬礼を交わし、参謀総長室の扉をノックする。
「開いておるよ。」
懐かしい声だ。
「山本参謀総長閣下、ご無沙汰しております!」
最敬礼する久保。
「はっは、そんな君ももはや中将閣下。
大袈裟でなく我が軍の采配を一手に委ねてしまっているからな。
いっそ今の俺のポストを譲りたい位だ。」
「はは、いやそんな恐れ多い…。」
山本らに頼み込み、久保はメディアへの露出を極端に避けていた。
別に英雄願望的なのが皆無な訳ではないが、これ以上陸海軍の強硬、守旧派に目をつけられたくないのと、何よりもアメリカの諜報員にマークされるのを嫌ったのである。
自分個人の戦略戦術を解析されると、後々が面倒になる…。まぁ、ある程度勘づかれてはいるかもしれないが。

「さて…現状の戦況であるが…。」
山本が表情を引き締める。
「マリアナ、サイパン方面に頻繁にBー29が、時に3桁単位で襲来してきておる。」
「はっ、聞き及んでおります。
我が方は54型零戦からの改三号噴進弾の上方発射と、88ミリFLAK改高射砲で損害は与え、善戦するも、2.3隻のエセックス級空母が戦線に復帰しつつあるとの話…それ経由で護衛戦闘機がつくと、かなり厄介です。」
「うむ…そうなると、零戦の強化が急務だが…本当に『アレ』で行くつもりかね?」
「御意、すでに試作段階での不具合解決にも目処がついております。
三菱としては『オリジナル』を超える気概でいくとのことで…。
来月にも制式採用といけるかと。」
「それならば頼もしいな。うむ。
ところで満州の件は確かなのかね?」
「はい。中村が言うには、地質学者を総動員し、これまでとは違う切り口で発見に至ったようで…。」
「獲得できれば我が帝国の抱える問題の半分は一気に解決…しかし内外に新たな火種を撒くことになるな。」
「仰る通りです。
故に、現在は総理と閣下のみの超極秘事項として…。」
「うむ。そうだな…。」
二人はもうしばし、今後の戦略について語り合うこととなる。




しおりを挟む
感想 102

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

処理中です...