総統戦記~転生!?アドルフ・ヒトラー~

俊也

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展望と亀裂

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11月に入り、僕は総統大本営に主たる将帥を集め、戦略会議を開いた。
ざっくり言えば今後の展望を話したかったのである。
「今回キエフ・ハリコフは守り抜きましたが、赤軍はクルスクで受けた打撃から早期に戦力を回復させていることが明らかになりました。
おそれながら、この調子で戦力を増強されますと、我が方が現状の拠点を維持することも困難になってくるかと考えます。」
エルンスト・ブッシュ元帥がまずはそう発言した。
中央軍集団の司令官として、ソ連軍の怒涛のような進撃に直面しているだけに説得力があった。
「ブッシュ元帥の意見に賛同致します。
今回のハリコフ防衛では、全般的に敵の練度が低く、なんとか凌ぎ切ることが出来ましたが、やはりあの兵器生産能力、動員能力は脅威であります。
一方我が方は広大な白ロシアの土地を占領維持し続けるにはどうしても絶対値としての兵力が足りませぬ。
ここは思い切って戦線縮小を考えてもよいかと…。」
マンシュタインもそう言った。
「両名の意見は概ね正しい。
私も現状の占領地維持にもはや固執してはいられないと考える。」
僕はそう言ってブラックコーヒーを啜った。
「…しかし、まだ敵に攻められぬうちから後退、というのには賛同しかねる。
不必要に敵の反攻、進撃に勢いをつけてしまうことにもなりかねないからだ。
あくまで敵に先手を取らせ、バックハンドブロウを要所で浴びせて出血を強いる、その上でじわじわと後退していく…という方針がよいと考える。
無論それには入念な準備、計画が必要になる故、両名には大いに知略を絞ってもらうことになるが…。」
なるほど、心得ましたとマンシュタインは頷いた。
「総統閣下、来年になりますと米英軍の西ヨーロッパ上陸も迫りくる危機として考えねばなりませぬぞ。」
ハインツ・グデーリアン装甲兵総監がそう発言した。
僕は頷く。
「彼らは来る。必ずな。
恐らくは来年5月か6月になるだろう。
基本戦略は水際撃退あるのみと考える。ロンメル君。そうであろう?」
西方B軍集団司令官として配属されているエルウィン・ロンメルは背筋を伸ばした。
「はい、一度上陸を許してしまえば、強大な空軍力を持つアメリカ、イギリス相手に自由な陸戦機動は困難であります。内陸部に引き付けて叩く…など絵に描いた餅です。
水際で叩くしかない。私が北アフリカで痛感したことでもありますが。」
「うむ。そのために必要なことがあらば私になんでも相談してほしい。」
ロンメルと、それに賛意を示した僕の発言に対し、西方総軍司令官ルントシュテット元帥は軽く顔をしかめた。かねてからの自説を否定されてしまったのであるから仕方ない。

僕は諸将へ向け改めて向き直り、言った。
「来年は過酷な一年となると思う。かなりの確度で2正面作戦を強いられるであろうし、赤軍だけに絞っても大規模攻勢に直面せねばならぬと思う。
だが!それでもここにいる諸将が力量を存分に発揮してくれれば、『負けない戦い』は可能だ。
どうかドイツ人民の為、私に力を貸してほしい。」
数秒の沈黙ののち一同は立ち上がり、「ハイル・ヒトラー!」と唱和した。


数日後…、古くからの党の支持者を中心としたパーティがベルリンにて開かれた。
アドルフ・ヒトラーの闘争時代からの支持者、幹部党員が多く集うパーティーである。
長年ヒトラーと会い、話してきた人々に「今の僕」がどう映るかが問題であったが…。
まあどうふるまっても怪しまれてしまうので…。
「機嫌の良かった総統はめずらしくワインをがぶ飲みしてしまい、へべれけに酔っぱらってしまった」
というシナリオで乗り切ることにした。
古参党員たちの談笑を数組、どうにか無難にこなす。

そんな中…一人の少女が、ゲーリングに連れられて僕のもとに近づいてきた。
腰まで伸びた豪奢な金髪。蒼く輝く瞳は強烈な意思の力を感じさせる。
そして彼女は…空軍の礼服を着ていた。
「カティア・フォン・グリューネワルト。曹長であります」
「そうか、君はパイロットであるのか。」
「はい。マインフューラー。Fw190A-6に乗って、すでに12機を撃墜しました。」
カティアは胸を張った。
「すばらしい。エースではないか。いずれふさわしい勲章を授与せねばならんな。」
「光栄です。ですがもっともっと武勲を立ててごらんにいれます。」
「はははは。頼もしい限りだ。だがくれぐれも気をつけて戦いたまえよ。」
去り際に握手を交わす。

その後も数名の幹部党員と会話を交わし、そろそろ別室に引き上げようと思った頃。

一人の中年女性が近づいてきた。
「総統閣下、ご無沙汰しております。ヘンリエッテ・フォン・シーラッハで御座います。」
「あ、ああ、こちらこそご無沙汰している。フラウ。」

確かヒトラー・ユーゲント指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの夫人だ。
「実は…気になる噂を…総統のお耳にと思いまして。」
「?」
10分後、僕は別室にハインリヒ・ヒムラーを呼びつけることになる。

「ヒムラー!貴官はあれほど私が禁じたにもかかわらず、ソ連、ポーランドの占領地において親衛隊を使ったユダヤ人の虐殺行為を行っているそうではないか!」
正直、親衛隊の解体、武装親衛隊への再編がスムーズに行かないからと、彼らの処遇を宙ぶらりんにしてきた僕にも責任はある。
しかし、だからといって許される行為ではない、
「わ、私は、ただNSの思想を体現したまでです!
総統閣下の方こそ、いったいどうしてしまわれたんですか⁉結党以来の理想をお忘れか…」
ヒムラーは青筋立てて反駁したが、僕の怒りに油を注ぐだけであった。
「黙れ黙れ!ユダヤ人への迫害虐殺が、米英ソに第三帝国打倒の大義名分を与えてしまうということが分からんか!
親衛隊は解散する!貴官は自宅謹慎だ!正式な処分は追って伝える!」

僕は呆然と立ち尽くすヒムラーを放置して部屋を出、そのまま官邸の方へ引き上げてしまった。

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