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岐路
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総統大本営
「そうか、ソ連中枢でのクーデターは成功。事実上連合国との停戦成立…か…。」
僕はワインを啜った。
僕が提唱し、アメリカのOSSが中心となって行った「仕込み」が功を奏した形だ。
恐らくソ連は一旦解体、一時は連合国軍の監視を受けつつ、ロシアとその衛星国として少しづつ政治経済の自由化を図っていくこととなろう。
人民の苦労はまだ続く。だが、あのまま共産主義の枷に縛られ続けるよりは遥かに明るい未来が待っているはずだ。
僕はと言えば、三日後には再びロンドンに飛び、連合国首脳やソ連新首脳と講和条件のすり合わせをせねばならない。
執務室を後にし、私室に入った。
アイリが待っていた。
彼女に膝枕をしてもらう。
正直ナニをする気力が沸かない。ここ最近ずっとそうだ。
「アドルフ。お疲れになりました?」
「ああ、そのようだ。戦争が終わってもやるべきことは多いからな。」
「せめて今夜はゆっくりお休みください。」
「君が寄り添ってくれればよく眠れそうだ。ありが…と…う。」
あっさりと眠りの国へと移動する。
イギリス ロンドン
ここでソ連新首相フルシチョフが自ら講和文書にサインした。
五か国の首脳が揃い、ここに第二次世界大戦の終結が正式に宣言された。
そしてこの後発せられた声明に世界が驚愕することとなる。
僕も、翌日ベルリンに戻ると、改めてそれを国内向けに伝えるラジオ演説をした。
「ウクライナの西部。ジトーミル以西の土地に、新たにユダヤ人の為の国家を建設する!
国名は〝イスラエル”となろう。
段階的に移民入植を進め、1947年中の建国を目指す!
それに際し、わがNSの政権掌握から1944年に至るまで、我が国及びその勢力圏内において発生したユダヤ人への皆様への迫害、弾圧、虐殺行為に関しては、改めて、心よりお詫び申し上げる。
いずれ必要な補償はさせていただくことになろう。
また他のドイツ国民の皆様にも、無謀な戦争で塗炭の苦しみを味わせてしまった。
誠に申し訳ございません。
思うに民族、人種間の憎悪を煽って来たNSのスタンスは間違っていた!
新生ヨーロッパは!これからは互いの違いと自由を認め合い、いたわり合って共生する世界にしていかなければならない。その為には私も政治家としての全生命をかけるつもりだ!」
フランクフルト郊外
アンネ・フランクの一家はドイツ国内に戻ってきていた。
一家で総統のラジオ演説を聴く。
「あなた、どうなさいます?」
母エーディトの問いに、父オットーは腕組みした。
「そうだな…。正直ドイツにも愛着はあるが、マルゴーやアンネ達の将来を思えば、ユダヤ人の為の新国家に移るべきなのかもしれないな。」
「でも私、ドイツでも別に…。」
「でもお姉ちゃん。ここに居てもオランダに居ても、私たちはどこかよそ者として扱われるじゃない。
行こうよ!ユダヤ人の国に!」
アンネはマルゴーの手を取り、目を輝かせてそう訴えた。
ベルリン 国営放送ラジオ局。
「ありがとう。」
放送を終えた僕は、秘書に読み終えた原稿を渡し、スタジオの外に出ようとする。
天井が歪み、目の前の扉がぐらりと傾いた。
「総統閣下!」
僕は床に倒れ伏していた。
「そうか、ソ連中枢でのクーデターは成功。事実上連合国との停戦成立…か…。」
僕はワインを啜った。
僕が提唱し、アメリカのOSSが中心となって行った「仕込み」が功を奏した形だ。
恐らくソ連は一旦解体、一時は連合国軍の監視を受けつつ、ロシアとその衛星国として少しづつ政治経済の自由化を図っていくこととなろう。
人民の苦労はまだ続く。だが、あのまま共産主義の枷に縛られ続けるよりは遥かに明るい未来が待っているはずだ。
僕はと言えば、三日後には再びロンドンに飛び、連合国首脳やソ連新首脳と講和条件のすり合わせをせねばならない。
執務室を後にし、私室に入った。
アイリが待っていた。
彼女に膝枕をしてもらう。
正直ナニをする気力が沸かない。ここ最近ずっとそうだ。
「アドルフ。お疲れになりました?」
「ああ、そのようだ。戦争が終わってもやるべきことは多いからな。」
「せめて今夜はゆっくりお休みください。」
「君が寄り添ってくれればよく眠れそうだ。ありが…と…う。」
あっさりと眠りの国へと移動する。
イギリス ロンドン
ここでソ連新首相フルシチョフが自ら講和文書にサインした。
五か国の首脳が揃い、ここに第二次世界大戦の終結が正式に宣言された。
そしてこの後発せられた声明に世界が驚愕することとなる。
僕も、翌日ベルリンに戻ると、改めてそれを国内向けに伝えるラジオ演説をした。
「ウクライナの西部。ジトーミル以西の土地に、新たにユダヤ人の為の国家を建設する!
国名は〝イスラエル”となろう。
段階的に移民入植を進め、1947年中の建国を目指す!
それに際し、わがNSの政権掌握から1944年に至るまで、我が国及びその勢力圏内において発生したユダヤ人への皆様への迫害、弾圧、虐殺行為に関しては、改めて、心よりお詫び申し上げる。
いずれ必要な補償はさせていただくことになろう。
また他のドイツ国民の皆様にも、無謀な戦争で塗炭の苦しみを味わせてしまった。
誠に申し訳ございません。
思うに民族、人種間の憎悪を煽って来たNSのスタンスは間違っていた!
新生ヨーロッパは!これからは互いの違いと自由を認め合い、いたわり合って共生する世界にしていかなければならない。その為には私も政治家としての全生命をかけるつもりだ!」
フランクフルト郊外
アンネ・フランクの一家はドイツ国内に戻ってきていた。
一家で総統のラジオ演説を聴く。
「あなた、どうなさいます?」
母エーディトの問いに、父オットーは腕組みした。
「そうだな…。正直ドイツにも愛着はあるが、マルゴーやアンネ達の将来を思えば、ユダヤ人の為の新国家に移るべきなのかもしれないな。」
「でも私、ドイツでも別に…。」
「でもお姉ちゃん。ここに居てもオランダに居ても、私たちはどこかよそ者として扱われるじゃない。
行こうよ!ユダヤ人の国に!」
アンネはマルゴーの手を取り、目を輝かせてそう訴えた。
ベルリン 国営放送ラジオ局。
「ありがとう。」
放送を終えた僕は、秘書に読み終えた原稿を渡し、スタジオの外に出ようとする。
天井が歪み、目の前の扉がぐらりと傾いた。
「総統閣下!」
僕は床に倒れ伏していた。
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