ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第一章 秋空に特急に怪猫

幸せの駅

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 長野に入ると、風景がガラリと変わった。

「日本アルプス」の名を冠するヨーロッパアルプスに似た山々に、東洋的な情緒が溢れるように相俟って、その美しさは、今まで見た日本のどの絶景とも違っている。

 植物の植生にも、変化が見られる。
 山梨では無かったモミの木の大木が群生し、言葉を失いそうな迫力が、ズシンと胸を打つ。
 ちょっとハイジしてるような?

「素敵ね~!何だか景色が煌めいて見える。」
 終着駅の上諏訪駅は、もう目の前。佑夏は子供のように目をキラキラさせている。

 山梨より、澄んだ空気の為か、世界全体が輝いているようだ。

 明るく強い陽射しが照り付けるのに、気温は上がらない長野独特の気候。

 古くから、軽井沢が避暑地として人気のある理由。 

 そして、快晴の青い空に、トンボが舞っている。

 霧ヶ峰で、僕達を待つ小動物はトンボが好物のはず。

 冬眠に備えて、食べまくっているだろうか?

 夜行性だから、今頃は巣穴の中かな。

 その地に向かう僕達の汽車旅も、間もなく終わりを告げることになる。

 地元の駅から、新宿までは夜行バスに乗った。
 実に六時間もの道のり、しかも出発は深夜。

 男一人なら、そのまま特急に乗り継ぐところだが、美しいお姫様をエスコートの最中。

 大急ぎで、新宿のネカフェでシャワーを浴び、あずさに飛び乗った。

 こんな「美女を何だと思ってるんだ?」と言われそうな旅程にも関わらず、佑夏は、終始にこやかである。

 ぽん太の奴、何が「住む世界が違う」だ!
 佑夏は、僕とピッタリの庶民派じゃないか。

 僕はバブルを知らない世代。

 時代によっては現実に存在したらしい、移動はグリーン車か、それなりの車の助手席、宿泊は一流ホテルでなくてダメだという女性。
 が、僕はそういった人を知らない。

 もし佑夏が、そんな人だったら、今こうして、一緒に列車に乗ってはいないと思う。

 再び、彼女が幸福論を解説する。

「アランのお話だとね、汽車から見える景色は無料なんだって。」

「え?俺達は料金、払ってるよ?」

「それは運賃でしょ?風景を見るのに、お金は払っていないのよ。
 車窓から見える世界は、人に見せてお金儲けする為に、造られたものじゃないわ。」

「ああ、そりゃそうだね。」

「最高コスパね!
 私、ありのままの自然の風景や、線路沿いの人達の普段の生活見れて、とっても楽しかった!
 ありがと、中原くん!」

「いや、俺は何もしてないよ。
 そういえばさ、インディアンの格言に、
 ゛大地も自然も、みんな地球の無償の贈り物だ。欲にかまけた連中が自分のものだと言い出して、金を取って見せるようになった“っていうのが、あるんだってさ。」

「そうよねー。自然の美しさは、お金じゃ計れないよね。」

 自然の造形美は無料。
 こんな当たり前のことが、当たり前でない、今の世の中。

 今、氣付いたが、佑夏の口から、T◯Lや、U◯Jの名前を聞いたことが無い。
 あれは、今回の長野行きとは対極だ。
 僕も興味が無い。
 
 人口の、大していい光景とも思えないものを、バカ高い金を取って見せる。
 しかも、観てる時間より、並んでる時間の方が長い。

 知り合いに、英会話で知り合った、LA出身のアメリカ人男性がいるんだけど。

 彼は、家の目の前がディズ◯ーランドだったが、一度も行ったことが無いそうだ。

「The height of stupidity.」愚の骨頂、というのが、そのアメリカ人のDL評だったりする。

 その人とは、僕は氣が合う。
 やはり、類は友を呼んでいるのである。

 そこ行くと、アラン推薦の汽車旅の何と素晴らしいことか!
 彼女が気に入ってくれて、本当に良かった。

「佑夏とはこれでお別れ」。

 あの怪猫にそう言われた不安を打ち消す為に、自分に何度も言い聞かせる。

 ぽん太!この子と俺は似た者同士だ!

 中央本線、特急あずさ3号が、目的地、上諏訪駅に到着したのは、その時である。
 
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