ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第八章 天からの贈り物

むすんでひらいて

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「楓ちゃんが生まれたとこ、早く見たいな~。あ、中原くん、“むすんでひらいて“しない?」

「むすんでひらいて?」

 なぜ?突然、姫は何を言い出すんだ?

「ほら、誰もいないよ。しよーよ!」

 佑夏の言うことには、まるで僕は抵抗できない。

「♪むっすんで、ひらいて~てをうってむすんで~♪」

 綺麗な明るい美声。聴く者を幸せにしてしまう、不思議な歌声の持ち主。
 それが、彼女。

 外を吹き抜ける冷たい木枯らしの音が、自然の伴奏のように、歌に優しく溶け合う。
 台風の夜、苺奈子ちゃんに歌って聞かせていたハードロックを思い出す。

 あの時も、嵐の轟音さえ歌と一体化し、暖かい地球の息吹に感じられてしまった。
 
 この子には、周囲を笑顔にしてしまう、天から授けられた力がある、本当に「天使」と呼んでも差し支えないんじゃないか?

 佑夏と一緒に手を動かしている内に、辛かった新聞配達の記憶など、何処かに行ってしまい、僕の心は幸福感で満たされ、氣が付けば、やっぱり笑顔になってしまっているし。

「佑夏ちゃん、こういうのも、幸福論と関係あるの?」

「う~ん、あると言えば、あるかな?でも、半分は私の趣味で~す♪」

 やっぱりか。教養のある彼女だが、姫は、それ以上に、楽しいこと、面白いことが大好きなんだよね。

「アランはね、本当の体操は、肉体の運動に対する正しい理性の支配だって言ってるの。」

 ありゃ、何か、武術の奥義書にでて来そうな、佑夏の台詞。

「子供達にね、ただの乱暴な運動をやらせて、自然な反応を妨げちゃいけない、って幸福論には書いてあるわ。」

「ああ、そうだね。暴力やってて、成功できた人はいないしね。」

 武芸者として、語ってみると、佑夏は話を続けてくれる。

「肉体は監督や支配を止めると、すぐに悪い方向に向かうのよ。そうやって氣分次第な人は、簡単に不幸で意地悪になっちゃうね。
 子供もね、規則正しいお遊戯してないと、すぐに乱暴なことして暴れだしてしまうわ。」

 大の子供思いでありながら、決して放任主義ではない佑夏、立派だよな。

 だが、

「佑夏ちゃん、俺、子供じゃないよ。」

 ちょっと笑って言ってみると、姫も笑う。

「アハハ、そう思うでしょ?手を打つ遊びは、子供は熱中するのは当たり前なんだけど、アランは、若い男の人にやらせてみて、って言ってるの。
 そうするとね、多分、恥ずかしさを乗り越えて、途方もないことをやり出すんだって。」

 なに~?僕に何をやらせるつもりだったんだ?

「参ったな、そういうことだったのか。」

「うん。乗馬も正しい体操してないと、うまくいかないそうよ。」

「まあ、どんなことでも、準備体操は大事だね。」

 今から、僕達が向かう乗馬クラブ。

 僕の家で暮らしている、三毛猫の楓が、そこで生まれたのである。
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