ヤマネ姫の幸福論

ふくろう

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第十二章 3月11日

海辺の部屋へ

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 佑夏が教育実習に行くのは、これが二度目。

 県教大ケンキョー生は、三年生の時点で、大学の付属小学校に教育実習に行く。

 しかし、付属小は、あくまでも学内施設のようなもの、本番は今回の潮騒小じゃないかな。

 僕はと言えば、実習先は母校の中学校だ。あまり、いい思い出、無いんだけど。

 ところで、さっき、姫に「教育実習で、何がしたい?」と言われて、すぐに思いつかなかったが、実は一つ、前々から考えていたことがあったのを、思い出す。うん!優しい佑夏の喜びそうな話だ!

「佑夏ちゃん、俺さ。教育実習で、アシナガバチの巣の移動をやりたいんだ。」

「ええっ?何それ?」

 またしても、大きな目を、もっと大きくする姫、可愛いよな~。

「アシナガバチは、植え込みなんかに巣を作るからね。そのままだと管理業者に駆除されると思う。」

「うん、そーよね。」

 彼女は、頷きながら、美しい、大きな瞳をぐっと近づけてくれる、他人の恋人と分かっていても、ドキドキするな。

「だからさ、その前に、蜂を殺さないで、巣ごと裏山に移動するんだよ。」

「ええ~!?そんなこと、できるの!?」

「無農薬有機農業やってる農園で、蜂を殺さないで移動させるグッズ、売ってる所があるんだ。
 そこから買うよ。」

「素敵!私もやりたい!農園の名前教えて!」

 早速、スマホに農園のサイトを保存する佑夏。

「でも、佑夏ちゃん、肌白いから、蜂に刺されたら、大変だよ?」

「中原くん、私、山育ちなんだよ?虫は全然、大丈夫で~す!」

 対応策は出来ている、と言わんばかりだな。

「春先は、まだ蜂の巣も小さいから、俺でもやれると思う。
 それでさ、俺の合氣道教室、山の方にあってさ。秋になると、カメムシがいっぱい入ってくるんだ。」

 佑夏の、あ~!という反応。

「殺虫剤は使わないで、カメムシ除けに、窓枠とかにカメムシの嫌いな、葉っぱ、乾燥したやつ、吊るしてるんだよ。
 ”生き物は殺すな”って言うとさ、子供クラスの乱暴な男子なんかも、暴力、振るわなくなるんだよね。」

「え~、いいな。そーゆーの。」

 優しい瞳で、ニコニコしてくれる佑夏、やっぱり恋する乙女は美しい!

「イジメの問題とかも、学校で生き物を殺してたら、やっぱり人間同士だって傷付け合うよね?
 生徒が残虐とか、教師の指導力がどうとか、そういう問題じゃない氣がするんだ。」

「うん!うん!そーよ♪あ、あのね、中原くん。」

 強く同意してくれた後、何か言いたげな姫。にこやかな表情、悪い話じゃなさそう。

「ん、何?」

「私ね、潮騒小の教育実習の間、真帆姉ちゃんのお部屋に泊めてもらって、真帆姉ちゃんの家から学校に通うのよ。
 歩いて五分だから。」

「え!ホント!?良かったじゃないか!?やっぱり、真帆さんは、潮騒小の卒業生なの?」

「そーなのよ!真帆姉ちゃんの通学路だった道、先生になって、私が歩くの!」

「やったねー!夢が叶ったんだ!頑張りなよ!」

 僕は、思わず、手を叩いて喜ぶ。ついでに、彼女の手も握りたいが、ここは我慢だ。

 瓦礫の山に沈む夕陽に向かって、真帆さんに誓った教師になる夢、とうとう佑夏は現実のものにしたのである。

 あとは、教員採用試験きょうさいを突破するだけ。

 国民学校の教壇に立つことを夢見ながら、空襲の炎に焼かれた真白さん。

 美術教師を志すも、震災の津波で命を落とした真帆さん。

 そして、君。
 頑張れ!佑夏ちゃん!!三人分の夢を叶えるんだ!!!

 第十二章・完

 第十三章「幸せの教育実習」に続く
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