半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第三節 〜サガンの街〜

026 ケチくさい。実に。

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サガンの街に、まだ入らない!
その前のボーイズ&ガールズのあまずっぺー?語らいをしています。
そしてなんと、女子二人にオッサンが恐れ多くも暴言を吐きます。
女子二人、生き残ることはできるのか?
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――

「お風呂入りたい。あとビスケット」
 とハナ。


 非合法傭兵マーセナリーの皆さんがドッカンドッカンやってるのを横目で見ながら駆け抜ける。
 ガンバレ。応援しているぞ。あくまで応援だけだけどな。
 手は出さない。だって関係ないし、今まで散々ヤって来ていてもうウンザリだ。

 それにウチの唯一の兵力は今おネムだしね。うん、完全に目を瞑ってるな。ウチの兵力が夜以外で目を開けていたならば、それは非常に危機が危ないが迫っている証拠だ。逆にうつらうつらしてたら、まぁ安心。
 どんなセンサーが働いているのかさっぱり解らないけど、その正確さは僕やサチを今や凌駕している。具体性は全くないんだけどね。極度の緊張が成せる業なのか?
 まぁ、いまさら突貫猪野郎ザコ程度ならハナは起きないな。“火縄銃型の魔杖アルカナ・ロッド”の銃把を握る右手の甲に血管が浮き上がり、小さく震えているけど……。

 それでも、“忌溜まりの深森”は抜けたのだ。サチにはああは言ったが、確かに抜け出ている。岩の陰で中腰姿勢のまま夜をやり過ごすことはもうしなくていいはずだ。
 本当にもう、休ませてやりたい。

 遠くで派手にまされて吹き飛ぶ非合法傭兵軍団の皆さん、ごくろうさまです。最後にアドバイス、その突貫猪野郎タイプは前足のどちらか一本に火力を手中させるのが早くイワセるのがコツだよ。兎に角僕らが城門にたどり着くまでお願いします。

 と、もうすぐ城門にたどり着く寸前で僕の襟首を捕まえて止めに入るサチ。殺す気かサチ! 今首が変な角度でグビッとなったぞ、グビッと。直ぐ治ったけど。

「何すんだ!」

「いいから止まれ」
 僕を止め、腰にパレットのように巻いていた布を解き、
 「これを頭に巻け。髪の毛が全部隠れるようにだ」

「いらないよ、鬱陶しい、帽子とか昔から嫌いなんだよ。そんな布じゃなくてこのズタボロな服を何とかしてくれ。街に入るのに恥ずかしいぞ」

「ボウシとは何だ。分からん事を言うより早く頭に巻け。門番が此方こちらを見る前に。厄介事になる前に」

「何だよ厄介事って?」

「オマエのその白い髪のことだ」

「白い? 僕の髪は純日本人スタンダードな真っ黒だぞ」

「気づいてなかったのか? オマエは魔力を使う時、その髪は黒から純白となる。因みに瞳の色も黒から白に変わるぞ。
 白髪白瞳はそれだけで忌子とはならんが、力を使用する際の髪の色の変化はある伝承があってだな……。それに黒髪黒目も忌嫌われている。それだけで捕縛されることはないが、まず碌な事にはならん。いいから髪を隠せ。目も隠したいが、それは無理だからな。だから人前で成るべく魔力を使うな。わかったな?」

「なんだそれ、知らんぞ、髪が白くなる? 何故に? 黒いのもダメ? なら坊主にするのか?」

「その手があったか、坊主になれ小僧」

「やだ、それに外見でもって差別されるなんて、もろヘイトじゃんか」

「さっき傭兵団が飛び出てきた時に驚いて魔力を使っただろ」

 確かに索敵を行った。似非さんが、だけど。まあ僕だな。

「その時一瞬髪が白くなった。それを傭兵団の最後尾にいた赤い騎士に見られた。やつは多分領主側の貴族の一員だ。鎧の胸に紋章が刻まれていたからな」

 ソリッドレッドのやつか、それで睨んでたのか。ヘイト反対。

「今更だが、なるたけ目立たない方がいい、それに……」
とドタバタガンガンしてる後方を見やり「今は其れ処それどころじゃないだろうがな、アレが片付いたら粘着して来そうだ。あの目は嫌な目だった」

 サチもスリットから覗くあの目を見たのだろう。サチは落国の民アッシュだ。差別される側だ。だから。
 埃りまみれだったけど、鎧には傷一つ付いてなかった目にくる赤い下品な鎧。強いからなのか、後ろに隠れていたからか、指揮に忙しかったのか。弱ければいいのに。無能な名誉の何とかでお願いします。

「残念ながら奴は強い。これ程度でなら必ず戻って来るだろう」

 知ってるよ。赤いのが強いのは昔からの決まり事。だって三倍速く動いてたもん。

 髪が白くなるって……ちょっとカッコイイじゃねーかとチョット考えてました。すみません。そんな過去の自分がバカ。


 サチは元パレットだった布を僕の頭にぐるぐると強引に巻く。巻く時「すん」っと思わず嗅いでみた。しょうがないだろ、誰だって思春期爆散元気印男子なら思わず、だろ! 直接腰に巻いてたものだぞ。イイ匂いがしたんだからイイだろ。
「ガッ!」絞めるな!
 お姫様抱っこの下から手が伸びて首を絞められている。お、親指が頸動脈を、完全に喉骨を折りにきている。僕は慌ててタップした。
 
 お姫様抱っこからハナを下ろす。
 僕はハナが魔法の鞄ストレージ から取り出したローブを羽織る。薄空色で裾に小さな花柄が刺繍されている。でも腿から下はスースーしてる。なぜなら、僕の服装がボロボロすぎてモロ不審者すぎるから。急場のしのぎとして。悲しい。
 驚いたのは、“花魁蜘蛛クイーンスパイダー”の糸で編んだ草履だけが目立った損傷もなく普通に履けてるって事。丈夫過ぎて引くレベル、恐るべし。

 サチも黒い光沢のある足元まで隠すロングコートを羽織る。
 このコート、魔晶石と魔法陣を組み込んだ体温を抑える冷感クール構造の超レアものだったらしい。森の中では損傷を恐れもったいなくて脱いでいた(だって凄く高かったんだから)。

 森を疾走している際はマイクロビキニ&パレットスタイルで見慣れていたはずだったが、ごめんなさいありがとうございます。なぜだろう“隠す面積が増えたのが逆に”の法則が発動したのか、大きく入ったスリットから覗く白くスラッとした足に目がチラリでやはり拝んでしまうのは心は高校男子な健康優良児ならしょうが無いと僕は思う。
 お久しぶりですありがとうございます。

「今度見たら殺すぞ小僧」 

 ケチくさい。実に。
 と左旋回の廻し蹴りが僕を襲う。その際、僕は目玉をクワッとさせたのは言うまでもない。お饅頭と筋。いいぞ、綺麗なお姉さん。
 後方では魔物相手に相変わらずドタンバタン、ワーワーやってる。がんばれ傭兵の諸君。我を祝福し賛となれ。

 だから背後からのチョークスリーパーはやめて! 入ってるって。入ってるからハナ! ゴメンナサイ!

 ◇

「余所者の冒険者か? この街に来たのか?
 そうか。なら可哀想だが街の防衛隊に加わってもらう。拒否権はない。協力できないとなれば力ずくだが、その際は最前線で真っ先に肉壁になってもらう。迷惑料だな。
 わかったらさっさと冒険者証を渡せ。安心しろ、金は出す。たんまりとな。その為に態々やってくる愚かな傭兵や冒険者もいるぐらいだしな。わかったら冒険者証だ」

 ここまで聞くととっても強面で脅迫じみた、いや立派な脅迫なのだが、何だかな。
 小太りのおじさん門番衛兵は抑揚のない決められたセリフを棒読みするように喋っていた。実際にセリフが書かれているらしき紙をチラチラ見ながら。喋り終わると一仕事終わった的に息を吐いて黙り込んだ。その間にこちらに視線を向ける事はなかった。

 どうすればいいの?

「幾つか質問していいか。
 私は乙職B二種四級ブロンズだがギルドの士官学校を正式に卒業した『特務指揮権限有資格者オフィサー』だ。
 “オフィサー”の冒険者は独自裁量権が与えられている。何人であろうと強制権などは有さない。誰の指揮権下にも属さない。唯一は、その冒険者が所属するグランドマスターのみだ。
 それは子供でも知っているこの世の鉄則常識だ。勿論知っているよな? そして私のグランドマスターはこの国にはいない。
 そこでだ、この馬鹿げた命令を出したのは誰だ」
 とサチ。

 たっぷり一分沈黙が続いた。その間は誰も何も言わない。微動もしない。僕らも、小太りなおじさん門番衛兵も。

「発布者はこの地を収める男爵様です。詳細問い合わせと苦情は男爵様へ直接お願いします」
 何で丁寧語?
 続けて、
「ちなみにこの地の男爵様は冒険者ギルド不必要論者です」
 サチの目尻がピクっとなった。

「次の質問だ、先ほど強制だと宣ったが、誰がイワしてくれるのだ」

 そうなのだ、ここは城門横に隣接された小さな関所的な場所なんだけど、カウンターを挟んで立つ小太りなおじさん門番衛兵の他は誰もいない。
 サチの二つ目の質問には動じる事もなく、黙って外に視線を移した。 そこには例のソリッドレッド達が未だ魔物とガチンコしていた。

 やはり一分程の沈黙。誰も何も言わない。微動もしない。
 スッと、幾許いくばくかの宝石をカウンターの上に置く。例の守り刀の装飾だ。
 微動もしない。

 数個の宝石を新たに加える。
 微動もしない。
 外では歓声が上がった。魔物がやっと討伐されたのだろう。サチの眉間がピクリピクリとした。
 ハナは無表情でカウンター上に今までの二倍の宝石を置いた。

 と、小太りおじさん門番衛兵は腰を九十度のお辞儀をして
 「ようこそサガンの街へ。この街がお客様により良い幸運をもたらし得る事をお祈ります」
 そう言うと颯爽と歩みだし、街側の扉を慇懃に押し開いた。

 サチの眉間がピクリピクリピクリとした。

 僕らはその扉を潜る。その際、小太りおじさん門番衛兵は呟いた。
「忠告だ、おまえら臭いぞ、風呂に入れ」と、ニヤリ。

 サチの眉間がピクリピクリピクリピクリとした。
 ハナは絶望的な表情でその場に崩れ落ちた「死にたい」

 “臭い”って、女子に対してはッパない破壊力だろ。
 ダメだよおじさん。それはダメ。

 そして僕は無事に抜けられてホッとしていた。無事じゃない場合、相当苦労しただろうと思う。小太り門番衛兵おじさんたら強者コワすぎ。多分“赤い”の上位機種。6倍は速く動きそう。赤くないけど。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。

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