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第十節 〜十字路(クロスロード)〜
126 僕たちは再び“溜まりの深森”に分け入る 3
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124 127 126 127 128は“ひと綴りの物語”です。
“遷”二日目から次の冒険に出発するまでのお話し。
《その3》
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
「ハム君、君は、なんて小さいんだ」
◇
“遷”二日目も、もう終わりに近づいている。日が傾き、東の空が藍色を深めつつ在る。
僕とハナは蜘蛛の巣の上を一日中駆けずり廻ることはなかった。
最初は連携も取れず勝手も解らず苦慮していたが、さすが歴戦の傭兵共である。すぐに慣れてズバズバカトンボを倒していった。
ルルたち“花魁蜘蛛’ズ”も参戦している。今までの鬱憤を晴らすように嬉しそうに。今まで戦いたくとも主を持たなず、魔力の乏しい、思考が確立していない身では叶わなかったらしい。
ハナに至っては尖塔内や迷路な塹壕内をルルを従えブラブラ散歩しながら気ままに戦端が破綻しそうな所に赴いては瞬殺でお助けし傭兵共に感謝され、叱咤激励の激励を抜いた励ましと言う名の罵詈雑言を行い何故か崇拝を受けていた。
エルフ爺ぃサトリといえばハナの後に黙って付き従って……言い間違い。従ってはいない。ただ後ろに付いてくるだけ。流石に呆れ、ギルド擁壁組に帰れと言ったら「ギルド兵は辞めた」と言われた。それではしょうが無い。この国の子爵らしいし、凄く年上らしいし。
彼はギルド内に入って直ぐの頃にハナに跪いて目をウルウルさせていた奴だと教えられた。自ら壁に激突していった奴だ。申し訳ない、顔を覚えていなくて今まで気づきもしなかった。
僕は知らなかったが、“跪き事件”があった後、ハナはふと、尊敬や崇拝と言ったような普段から受け慣れたものとは全く異なる、ネチネチゾワゾワするような視線を感じ、辺りを見廻すと必ずそこに物陰から伺う半笑いのエルフの目があったそうだ。
うん、コレはアレだね。典型的だね。だから。
「オマエ、ハナにストーカー認定されてるぞ」と告げてあげる。
エルフじじぃサトリは驚愕した顔を見せると後ずさり、その場で頭を抱え蹲った。その後は物陰に隠れる距離が二倍になった。
うん、アレだね。闇が深まっただけだね。
火縄銃モドキ改、改め『私の愛しの“アレスティエア・マークⅣ”』は蜘蛛糸で折れた部分を包帯のようにぐるぐる巻きにしているだけの応急処置だが、それでいいらしい。だからまだマークⅣのままだ。
尖塔組には兵站がいないので僕が全て行い、時たま医療行為に勤しんでいた。非常に忙しい。地味に。僕は相変わらず小僧と呼ばれている。地味なのがいけないのか?
多勢に無勢、やはり危ない場面も何度もあり、その度に救ったのがツルさんの広域壊滅魔法“紅い稲妻《レッドスプライト》”だ。
この魔法は“花魁蜘蛛の糸”と物凄く相性が良い。空中に放つのではなく糸に直接通せば、巣にみっしりと張り付いていた全てのカトンボが一斉に泡と化し、有り難いことに自動で魔晶石をボトボト落としてくれた。
傭兵頭オッサンは泣いて喜んで連発を願ったが、如何せん燃費が悪すぎて、それは無理だった。
魔力的には僕とパスが通っているので問題ないはずが、体力的精神的にキツイらしい。それでも三十分に一回は使ってもらった。
スタミナ増強ポーションの空き瓶を周りに散乱させ、げっそりと頬をコケさせ、充血した目をギラギラさせていたが、気の所為だ、頑張れ。ポーションなら腐る程在るからね。
強制はしていない。でも、オルツィは贖罪の気持ちから引く気はないようだった。
ギルド擁壁組もまだ崩壊していない。
シヅキが大活躍しているらしい。盾使い組と槍使い組、兵站班関係なく。元気になって何より。
サチも擁壁組だ。スタミナ増強ポーション片手に頑張ってほしいものである。今まで仕事してなかったのだからバチバチと“紅い稲妻《レッドスプライト》”フリフリ働いてもらう。うちはブラックなのだ。南無。
強制はしている。でも、サマンサもオルツィの意を受け、やはり引かない。
結果的に上手く行った。怪我人は多かったが重症は初日のシヅキただ一人だけだ。上手く行った理由はいろいろあっただろう。敵を二分できた事やサキュバスの電撃等々。
最初から全て揃えられていたならば、シヅキは死んでいなかったのだろうか。そう思うと自分の無能さに押しつぶされそうになる。ただ、冷静な自分は初日の無謀な激戦があって初めて二日目以降が維持できたと確信している。経験値的なことで。そして死亡一名は出来過ぎだったなと、三分の一は死んでいて当たり前だと見積っていた。必要な死だと容認していた。傲慢でクソで、僕一人が背負う罪として。
「大丈夫、ハム君は“ひとり”ではないよ」
と、ハナが僕を抱きしめて囁いてくれた。
「そうだね、そして君もやっぱり“ひとり”じゃない」
と、僕はハナを抱きしめる。
「やっぱり薄いとか、思ってねーだろうな、おー!」
ふと思う。これが最善な方法なのではないかと。正解だとは思わないが。少ない“花魁蜘蛛の糸”での擁壁型“虫取り網”方式の。
“花魁蜘蛛がいてサキュバスがいて、サポートするアラクネがいて、下支えの多くの“国落の民”のギルド兵がいる。
ギルドなのだから“国落の民”が運営し、多くのサキュバスとアラクネが在籍している。実際今のギルド兵にも数多くのサキュバスが在籍している。大規模滅殺の“紅い稲妻《レッドスプライト》”は無理でも、僕はその魔法陣を知っており、“表象印契”で刻んだ魔導具をサポートとすれば蜘蛛糸を通した雷撃は放てるだろう。コスパを考えれば連発も可能で次回ではそれが主流となるだろう。
アラクネ達は今回の経験で本来の才能を開花させた。順調にギルド兵も増えるだろう。蜘蛛達も僕の魔力を使い放題で、それは僕が側にいなくても使用可能だったりする。
これを全て見越してコウイチはサキュバスであるオルツィを寄越したのか。まさかそこ迄では……出来過ぎだろうと思ったが、鳥肌が走った。
まッ、憂がった考えはそこまでにして。
次回“遷”って、楽勝じゃねってことで、蜘蛛糸の年間生産量もバク上がりの予感。
著作権料とか色々ロイヤルティは頂きますけど何か。
価格安定の為の生産調整は必要だろうか。お仕事系だな。楽しみである。
全体指揮を司る赤鬼ゲートを背後から殺傷しようとした裏切り者は現行犯で捕まえた。来るのが分かってたから楽勝だと思っていたら、赤鬼ったらちょっと怪我したらしい。さすが公爵家お抱え暗殺者と驚くべきか、元ギルド幹部の護衛なのにと呆れるべきか? まあ、どうでもいいけど、警護任務は辞めてよかったね、としか言えない。
話を聞いたら“指揮”が楽しすぎて忘れていたらしい。委員長系ギル長に本気で叩かれていた。
暗殺者は前回“遷”を生き残った古参だったらしいが、その一年前、領主交代と同じ頃にギルド兵に加わったらしい。
因みに前回の副ギルド長殺害の実行犯は領主館の独房から発見された。精神を壊されていたが、傭兵団団長のオッサンの証言もある。
これで今回の黒幕である公爵家や政敵に対抗できると、委員長系ギル長は息巻いていた。
ただ、現行犯逮捕で犯行を自白していようとも裁判所があるでもなく高位貴族には痛くも痒くもないだろうと思ったが、魔法バッチコイな異世界では神経とか魂とかに直接問いただす嘘発見機的な秘匿された魔法も在るらしい。なにそれ怖い。それでも弾劾、即断罪とは行かないらしいが、威嚇や抑制には充分だとか。
◇
僕らの歩く後方から僅かに汽笛の音が聞こえる。左手の高架軌道の壁面が僅かな振動を伝えてくる。“溜まりの深森”の縁を辿り、サガンの街を出て五日目、“遷”の終結を受け、やっと鉄道の運行が再開したらしい。
当初は鉄道に乗って街から出る事を考えたが、あまりにも足が付きやすいし、鉄道再開まで時間が掛かるとのことなので諦めた。道案内の大ベテラン専門家“乙職二種三級|冒険者”のサチ様のご提案です。
今、僕らの頭上を汽車が駆け抜ける。青い空を吐き出された白い煙が覆う。僕らは軌道の壁に張り付く。警護の貨物車上の冒険者に発見されて魔物と間違えられて攻撃されたらたまらない。背中にレールの継ぎ目を越える車輪の規則正しい振動が伝わる。足元を貨物車の影が幾つも幾つも通り過ぎる。
「いいなあ」とは、ハナの呟き。
最後まで鉄道に拘ったのはハナだった。色々御託を並べていたが、汽車に乗ってみたいってだけなのはモロバレだった。でも誰もハナに反対意見を言える筈もなく、何でか皆が一斉に僕を攻め始めた。ちょっと待って、俺は最初の方で汽車は諦めたじゃん。歩きでいいって言ったじゃん。ジンクより早かったじゃん。なんで?
今歩いている、いつ何時魔物が襲ってくるか分からない荒れたこの道は普通は誰も通ろうとはしない裏行路だ。方向が一緒の整備された街道は反対側にやはり高架軌道に沿うように次の駅の在る街まで繋がっている。僕らは途中で“溜まりの深森”に入り、完全に足取りを消し、最初の目的地であるギルドの元総会頭“オババ”に会いに行こうと思う。
サガンの街に辿り着いた行程を少し戻ることになるし、ハナの国へ帰る道筋からも少し遠回りになるが致し方ない。僕らは情報を欲していた。
『コウ・シリーズ』だとか『勇者』とか『魔力パス』とか『耽溺』とか、特に『ハーレム』とか『ハーレム』とか? どうやって『はーれ……。すいません。ハイ。それはモウ。……ぜんぜんス。ゼンゼン考えてないっス。いえ……スイマセンでした!
……とにかく、“御たる誰か”を総べる“祝たる従者”って結局何なんだって事。
そして“遷”とは結局何だったのか? サガンの街とは?
そして皆さんもうお忘れだとお思いですが、懐かしき『フワ金さん』とか『黒フードの地味顔男』に襲われた件。
―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
“遷”二日目から次の冒険に出発するまでのお話し。
《その3》
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
「ハム君、君は、なんて小さいんだ」
◇
“遷”二日目も、もう終わりに近づいている。日が傾き、東の空が藍色を深めつつ在る。
僕とハナは蜘蛛の巣の上を一日中駆けずり廻ることはなかった。
最初は連携も取れず勝手も解らず苦慮していたが、さすが歴戦の傭兵共である。すぐに慣れてズバズバカトンボを倒していった。
ルルたち“花魁蜘蛛’ズ”も参戦している。今までの鬱憤を晴らすように嬉しそうに。今まで戦いたくとも主を持たなず、魔力の乏しい、思考が確立していない身では叶わなかったらしい。
ハナに至っては尖塔内や迷路な塹壕内をルルを従えブラブラ散歩しながら気ままに戦端が破綻しそうな所に赴いては瞬殺でお助けし傭兵共に感謝され、叱咤激励の激励を抜いた励ましと言う名の罵詈雑言を行い何故か崇拝を受けていた。
エルフ爺ぃサトリといえばハナの後に黙って付き従って……言い間違い。従ってはいない。ただ後ろに付いてくるだけ。流石に呆れ、ギルド擁壁組に帰れと言ったら「ギルド兵は辞めた」と言われた。それではしょうが無い。この国の子爵らしいし、凄く年上らしいし。
彼はギルド内に入って直ぐの頃にハナに跪いて目をウルウルさせていた奴だと教えられた。自ら壁に激突していった奴だ。申し訳ない、顔を覚えていなくて今まで気づきもしなかった。
僕は知らなかったが、“跪き事件”があった後、ハナはふと、尊敬や崇拝と言ったような普段から受け慣れたものとは全く異なる、ネチネチゾワゾワするような視線を感じ、辺りを見廻すと必ずそこに物陰から伺う半笑いのエルフの目があったそうだ。
うん、コレはアレだね。典型的だね。だから。
「オマエ、ハナにストーカー認定されてるぞ」と告げてあげる。
エルフじじぃサトリは驚愕した顔を見せると後ずさり、その場で頭を抱え蹲った。その後は物陰に隠れる距離が二倍になった。
うん、アレだね。闇が深まっただけだね。
火縄銃モドキ改、改め『私の愛しの“アレスティエア・マークⅣ”』は蜘蛛糸で折れた部分を包帯のようにぐるぐる巻きにしているだけの応急処置だが、それでいいらしい。だからまだマークⅣのままだ。
尖塔組には兵站がいないので僕が全て行い、時たま医療行為に勤しんでいた。非常に忙しい。地味に。僕は相変わらず小僧と呼ばれている。地味なのがいけないのか?
多勢に無勢、やはり危ない場面も何度もあり、その度に救ったのがツルさんの広域壊滅魔法“紅い稲妻《レッドスプライト》”だ。
この魔法は“花魁蜘蛛の糸”と物凄く相性が良い。空中に放つのではなく糸に直接通せば、巣にみっしりと張り付いていた全てのカトンボが一斉に泡と化し、有り難いことに自動で魔晶石をボトボト落としてくれた。
傭兵頭オッサンは泣いて喜んで連発を願ったが、如何せん燃費が悪すぎて、それは無理だった。
魔力的には僕とパスが通っているので問題ないはずが、体力的精神的にキツイらしい。それでも三十分に一回は使ってもらった。
スタミナ増強ポーションの空き瓶を周りに散乱させ、げっそりと頬をコケさせ、充血した目をギラギラさせていたが、気の所為だ、頑張れ。ポーションなら腐る程在るからね。
強制はしていない。でも、オルツィは贖罪の気持ちから引く気はないようだった。
ギルド擁壁組もまだ崩壊していない。
シヅキが大活躍しているらしい。盾使い組と槍使い組、兵站班関係なく。元気になって何より。
サチも擁壁組だ。スタミナ増強ポーション片手に頑張ってほしいものである。今まで仕事してなかったのだからバチバチと“紅い稲妻《レッドスプライト》”フリフリ働いてもらう。うちはブラックなのだ。南無。
強制はしている。でも、サマンサもオルツィの意を受け、やはり引かない。
結果的に上手く行った。怪我人は多かったが重症は初日のシヅキただ一人だけだ。上手く行った理由はいろいろあっただろう。敵を二分できた事やサキュバスの電撃等々。
最初から全て揃えられていたならば、シヅキは死んでいなかったのだろうか。そう思うと自分の無能さに押しつぶされそうになる。ただ、冷静な自分は初日の無謀な激戦があって初めて二日目以降が維持できたと確信している。経験値的なことで。そして死亡一名は出来過ぎだったなと、三分の一は死んでいて当たり前だと見積っていた。必要な死だと容認していた。傲慢でクソで、僕一人が背負う罪として。
「大丈夫、ハム君は“ひとり”ではないよ」
と、ハナが僕を抱きしめて囁いてくれた。
「そうだね、そして君もやっぱり“ひとり”じゃない」
と、僕はハナを抱きしめる。
「やっぱり薄いとか、思ってねーだろうな、おー!」
ふと思う。これが最善な方法なのではないかと。正解だとは思わないが。少ない“花魁蜘蛛の糸”での擁壁型“虫取り網”方式の。
“花魁蜘蛛がいてサキュバスがいて、サポートするアラクネがいて、下支えの多くの“国落の民”のギルド兵がいる。
ギルドなのだから“国落の民”が運営し、多くのサキュバスとアラクネが在籍している。実際今のギルド兵にも数多くのサキュバスが在籍している。大規模滅殺の“紅い稲妻《レッドスプライト》”は無理でも、僕はその魔法陣を知っており、“表象印契”で刻んだ魔導具をサポートとすれば蜘蛛糸を通した雷撃は放てるだろう。コスパを考えれば連発も可能で次回ではそれが主流となるだろう。
アラクネ達は今回の経験で本来の才能を開花させた。順調にギルド兵も増えるだろう。蜘蛛達も僕の魔力を使い放題で、それは僕が側にいなくても使用可能だったりする。
これを全て見越してコウイチはサキュバスであるオルツィを寄越したのか。まさかそこ迄では……出来過ぎだろうと思ったが、鳥肌が走った。
まッ、憂がった考えはそこまでにして。
次回“遷”って、楽勝じゃねってことで、蜘蛛糸の年間生産量もバク上がりの予感。
著作権料とか色々ロイヤルティは頂きますけど何か。
価格安定の為の生産調整は必要だろうか。お仕事系だな。楽しみである。
全体指揮を司る赤鬼ゲートを背後から殺傷しようとした裏切り者は現行犯で捕まえた。来るのが分かってたから楽勝だと思っていたら、赤鬼ったらちょっと怪我したらしい。さすが公爵家お抱え暗殺者と驚くべきか、元ギルド幹部の護衛なのにと呆れるべきか? まあ、どうでもいいけど、警護任務は辞めてよかったね、としか言えない。
話を聞いたら“指揮”が楽しすぎて忘れていたらしい。委員長系ギル長に本気で叩かれていた。
暗殺者は前回“遷”を生き残った古参だったらしいが、その一年前、領主交代と同じ頃にギルド兵に加わったらしい。
因みに前回の副ギルド長殺害の実行犯は領主館の独房から発見された。精神を壊されていたが、傭兵団団長のオッサンの証言もある。
これで今回の黒幕である公爵家や政敵に対抗できると、委員長系ギル長は息巻いていた。
ただ、現行犯逮捕で犯行を自白していようとも裁判所があるでもなく高位貴族には痛くも痒くもないだろうと思ったが、魔法バッチコイな異世界では神経とか魂とかに直接問いただす嘘発見機的な秘匿された魔法も在るらしい。なにそれ怖い。それでも弾劾、即断罪とは行かないらしいが、威嚇や抑制には充分だとか。
◇
僕らの歩く後方から僅かに汽笛の音が聞こえる。左手の高架軌道の壁面が僅かな振動を伝えてくる。“溜まりの深森”の縁を辿り、サガンの街を出て五日目、“遷”の終結を受け、やっと鉄道の運行が再開したらしい。
当初は鉄道に乗って街から出る事を考えたが、あまりにも足が付きやすいし、鉄道再開まで時間が掛かるとのことなので諦めた。道案内の大ベテラン専門家“乙職二種三級|冒険者”のサチ様のご提案です。
今、僕らの頭上を汽車が駆け抜ける。青い空を吐き出された白い煙が覆う。僕らは軌道の壁に張り付く。警護の貨物車上の冒険者に発見されて魔物と間違えられて攻撃されたらたまらない。背中にレールの継ぎ目を越える車輪の規則正しい振動が伝わる。足元を貨物車の影が幾つも幾つも通り過ぎる。
「いいなあ」とは、ハナの呟き。
最後まで鉄道に拘ったのはハナだった。色々御託を並べていたが、汽車に乗ってみたいってだけなのはモロバレだった。でも誰もハナに反対意見を言える筈もなく、何でか皆が一斉に僕を攻め始めた。ちょっと待って、俺は最初の方で汽車は諦めたじゃん。歩きでいいって言ったじゃん。ジンクより早かったじゃん。なんで?
今歩いている、いつ何時魔物が襲ってくるか分からない荒れたこの道は普通は誰も通ろうとはしない裏行路だ。方向が一緒の整備された街道は反対側にやはり高架軌道に沿うように次の駅の在る街まで繋がっている。僕らは途中で“溜まりの深森”に入り、完全に足取りを消し、最初の目的地であるギルドの元総会頭“オババ”に会いに行こうと思う。
サガンの街に辿り着いた行程を少し戻ることになるし、ハナの国へ帰る道筋からも少し遠回りになるが致し方ない。僕らは情報を欲していた。
『コウ・シリーズ』だとか『勇者』とか『魔力パス』とか『耽溺』とか、特に『ハーレム』とか『ハーレム』とか? どうやって『はーれ……。すいません。ハイ。それはモウ。……ぜんぜんス。ゼンゼン考えてないっス。いえ……スイマセンでした!
……とにかく、“御たる誰か”を総べる“祝たる従者”って結局何なんだって事。
そして“遷”とは結局何だったのか? サガンの街とは?
そして皆さんもうお忘れだとお思いですが、懐かしき『フワ金さん』とか『黒フードの地味顔男』に襲われた件。
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お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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