半径1メートルだけの最強。

さよなきどり

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第十節 〜十字路(クロスロード)〜

127 僕たちは再び“溜まりの深森”に分け入る 4

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124 127 126 127 128は“ひと綴りの物語”です。
うつり”二日目から次の冒険に出発するまでのお話し。
 《その4》
ご笑覧いただければ幸いです。
※注
白い◇は場面展開、間が空いた印です。
―――――――――
 そして“うつり”とは結局何だったのか? サガンの街とは?
 そして皆さんもうお忘れだとお思いですが、懐かしき『フワ金さん』とか『黒フードの地味顔男』に襲われた件。


 諸々盛り沢山。でもね、どうしても知りたいかって聞かれたら、“いや別にそんなに”って答えちゃう。だってマジ関係ないもん。でも、そうも言ってられない感じ。正確な情報は必要かなって。
 そのままズバリじゃなくても方向性とか、触りだけでも。“かたり”に引っかからない最低限の基礎知識はね。そこで“オババ”様。
 信頼が置けそうでちょっとでも知ってそうで教えてくれそうな人が他に居ないんだよね。それで。

 もともとサチをハナの“拐かし”に派遣したのもオババらしいし。普段のオババ様は守銭奴で人使い荒くてモラルが低いブラックな社長様だが、高位貴族令嬢拐かしの様なリスキーでしかない荒事に加担するような人ではないらしい。今から改めて考えると可笑しい、必ず“裏”が在るとサチ。いや~、要らないな、その“裏”。人選間違えたかな。でもな~。他に居ないんだよなあ。

 これからのことを考えて身分証代わりのギルドカードを用意してもらった。無論のこと偽名で。オババの里まで“溜まりの深森”を抜けたら直ぐって訳ではなく、国や街やらも抜けていくから。“溜まり”は足取りを晦ますだけだから。サチがちゃんと機能すればだけど。


 瞳を細め、彼方を凝視し、何かを思案するサチの姿はとてもカッコ良く、ノエリも“ズカ的”にホワってなってるけど騙されるな! アレはポンコツだぞ。
 何度も“溜まりの深森”に入る箇所を間違えてその度にシヅキに指摘されていた。
 もうシヅキでいいんじゃねーのと思うが、意地になって譲らない。大人げない。なにげにシヅキが優秀。なんでジンクオマエが自慢げなんだよ。

 サチは本来の道案内系? でチーム編成資格を有する三級シルバー(めでたく昇給)。その他は目立ちたくなくて有象無象の五級錫ティンだがシヅキとジンクは警護系の“丙|(C)”、ハナだけ討伐系“|甲(A)”だ。年齢的に冒険者登録出来ないノエリを警護して旅をしているって体だ。以上。
 いじょうじゃねー。俺には冒険者カードはない。何でだ。

「だってハムは魔力ゼロでしょ。大きな街の入口では身分証明書提示と、不審者には偶に魔力計測を求められることがあるのよ。魔力を一定数保有してないとそもそも冒険者登録できないし、偽装がバレるでしょ。だから無し」と凄くイイ顔で宣うサチ。サチのくせに。ポンコツのくせに。冒険者カードをれ見よがしに見せびらかすな、うッぜー! 

 だからって何で従僕なんだよ。僕の身分はノエリお嬢様の下僕、下男扱い。荷物持ち。おんぶ要員。お断りします。
 なら俺も“警護対象”でいいじゃんって抗議したら。
「だって見えないでしょ」とサチ。バッサリと切り落としやがった。
 そして何時の間にか呼び捨て。

「職業に貴賎はありませんから」と訳の分からない事で慰めに掛かるシヅキ。オマエもか? ジンクは腹を抱えて地面を転げて笑っている。
「まあ、なんだ、我慢してくれよハム君」と半笑いでハナ。
 泣くぞ。いい加減泣くぞ。


 フン、いいもんね。ギルドカード身分証など無くとも俺には強い味方がある。
 金だ。大金だ。世の中金さえ有れば何でも出来る。札束で頬を叩いてあげればひざまずかない者などいない。

 マネー・イズ・ザ・グレート・オーバー! お金よ永遠なり。
 ふっふー! アーハッハハー! 我、神の力を降臨させしこの手に! 全てを蹂躙し、跪かせる究極の神器なり。


 “うつり”終結の翌日、ハナやサチはギルド兵や傭兵共に囲まれドンちゃん騒ぎ。ええそうですよ。誘われませんでした。兵站班は混ぜてくれるかなと期待したけどアカラサマに避けやがった。目さえ合わせてくれなかった。

 アラクネは二年前に街を守って亡くなった旦那や兄弟、種族の男どもを慰霊する儀式を独自に行なっており、流石に其処そこに混ざる勇気はなかった。って言うか排除された。

 ねえ、僕って結構貢献してたと思うんだけど。ああ、そうですか。知らないですよね。裏でコソコソしてましたもんね。そうですか。
 ちきせう。
 
 委員長系ギル長は目を血走らせて後始末に駆けずり回っていた。僕を見ると凄い形相で奥歯をギリギリ鳴らして睨んできた。構ってくれないようなのでサガン領主男爵のおツルさんを紹介したら無言で僕の首を締めに来た。なんで? 赤鬼? 知らん。

 そんなこんなで僕は涙をチョチョギレさせながら鹵獲する事にした。ここは戦場。そう言うことだな。
 狙うは“花魁蜘蛛クイーンの糸”を原料とする大型3Dプリンター様式の『何でも製造機』と、ギルド地下施設最奥の、隠された秘密の坩堝るつぼに収められた、その名は『造幣機』。謂う所のお金がバッコンバッコンなやつ。

 気分は三代目フランス出身の怪盗。君の心を奪ってやるぜ。
 なにもそのままって訳じゃない。現在不動の三台を直しておいた。結構時間が掛かった。だから祝勝会には出なかった。自分の意志で出なかった。出なかったんだもん。

 ふっふー。自個保有魔系技能ユニークスキル“表象印契”フルバージョン始動。チャキチャキと直してさっさと僕の“魔法の鞄ストレージ”に収納。余裕。
 可愛そうだ暇だったからその他の個々の故障品の修理箇所と魔法陣章を書いたメモを残しておいてあげよう。二年ぐらい寝食を削って励めば修理出来るかも知れないな。過労タヒしろ! 俺をハブンチョした罪を思い知れ。
 ふと我に返って虚しくなんてならないもん。
 そんなこんなで鹵獲成功。ああ、夕日が目に染みるぜ。寂しくなんてないもん。


「ガーハッハー! 其処そこに跪き我を讃えよ賤民せんみん共よ。そして刮目せよ。我は神の御業を手にした。それを今、お前たち拝ませてやろう」

 昼食のハンバーガーモドキを頬ぼる不浄たる皆を睥睨へいげいし、そう宣ってやる。 
「なにか余興でもしてくれるのかハム君」とハナ。
「また、良からぬ事でしょう。嫌な予感しかしません」とサチ。
 シヅキは控えめに拍手してくれる。ノエリはオーって感じで口を開けている。ジンクはハンバーガーモドキを頬張る手を休めずケって顔をしている。

 「ふっふー。我はお金が湧き出る不思議な箱を手に入れた。その名は造幣機」

「おまえ! それは禁忌! 重犯罪だぞ!」とサチ。

「ふん! ギルドが硬貨を造幣している事は極一部の上層部しか知らない秘密なのだろう。他ならない君からご教授して頂いたのだがなサチ君。
 なら罪には問われんな。罪を論うことは即ち秘密をバラすことだからな。それに既に廃棄された廃棄品を頂いて直したのだ。稼働機を頂いた訳ではない。
 親切にも他の壊れた造幣機を直し、その他の“尊遺物レリクト”の修理メモも残して来てやったのだ。逆に感謝されたいぐらいだ。これは今回の“うつり”案件攻略の正当な報酬だ。誰にも文句は言わせん!」

「詭弁だ。知らんぞ」とサチ。
「祝勝会に姿が見えないと思ったらそんな事してたのか。旅の準備や買い出しを一人で行ってたサチに謝らないと駄目だぞハム君」と、ちょっとズレてやいませんかハナさん。いいけど。謝らないけど。

 「見よ! そして驚愕しろ!」

 僕はさっきシヅキからガメた魔晶石極大を掲げ、“魔法の鞄ストレージ”の投入口に放り込んだ。造幣機も3Dプリンターも大きすぎて重すぎて人力では出し入れは無理。入れる時も部屋のクレーンを使用した。
 “万有間構成力グラヴィテイション制御魔技法・フィネス”を使おうとしたが“1m定限ルール”で対象範囲との境目で分子崩壊しそうになって諦めた。
 だからもう“魔法の鞄ストレージ”内からはもう取り出せない。だから投入口と排出口を別々の空間に造り、中に入れたままで作業が可能とした。あったまイイー。それにストレージ内に入っていたほうが色々便利。持って歩けるし。秘密はバレない。

「しばし待て愚民ども」
 なんだかんだ言って皆が注目している。ジンクの手が止まっておりその喉が鳴る音が響く。なんやかんや言って皆お金が大好きさ。
 ワクワク。

 そして、何もない空間からジャラジャラと青く光り輝く硬貨コインが排出される。正しく大陸で流通する正真正銘の魔晶石製の硬貨に間違いない。
 この瞬間、僕は億万長者となった。この世界で、この異世界で勝ち組となった。ありがとう。ありがとう。
 “我が生涯に一片の曇りなし”
  
「うん、使えないね。偽物だね。使おうとした途端に首が飛ぶね」とサチ。

 ほへ?

 ジンクはズイズイと僕の前まで進んで来るとしゃがみ込み、ヒョイとコインを拾いシゲシゲと眺めると、
「なんだコレ、オモチャか? 光ってもイネーし、コレじゃ幾らか分かんねーじゃねーか」ポトリと落とすと「チョットは期待したオレが馬鹿だったぜ」
 と、Uターンしてシヅキの元へ戻りハンバーガーモドキの残りをパクつく。シヅキはサッと顔を背けた。

ほへ?ほへ?

〈∮ 検索及び検証考察結果を報告。
 コレはアレですね。公彦がコチラの世界の硬貨の青光を認知できないのと同じ原理ですね。相対してますね。公彦の“魔法の鞄ストレージ”内は公彦の魔力アルカヌム影響下・・・ですから。
『あなた色に染めちゃう』って感じですか?
 ああ、魔導具には支障なく使えると思いますよ。逆にパワーアップしていると思います。
 と結論 ∮〉

「あーあれだ、お金に執着するなど詰まらんぞ。モグモグ。それにしてもコレは美味しいな。祝勝会で分けてもらったものかい? モグモグ」

「ハイ。色々な種類がありますし、六人で一ヶ月は持ちます。魔物クサレ肉は当分は遠慮出来るかと思います」

「それは上々。
 ハム君も、モグモグ。何時までも悄気しょげてないで、モグモグ。こっちで一緒に食べよう。モグモグ。無くなってしまうぞ、モグモグ」

 これだから既存金持ちは。持たざる者の気持ちが解らない。それに食べるか慰めるかどっちかにしてくれ。慰めにはちっともなってないけどな。

 そんなしゃがみ込み、膝を抱えている僕にノエリだけは優しく、僕の頭をイイコイイコして撫でてくれる。
 でも僕が顔を上げて見たものは、幼女ながら自分より明らかに下の、可哀想な生き物を見る眼差しだった。


 僕たちは再び“溜まりの深森”に分け入る。
 考えてみれば僅か2週間前に命からがら、死にそうになってやっと抜け出し、もう二度と入らないと決意してたのに。



―――――――――
お読み頂き、誠にありがとうございます。
よろしければ次話もお楽しみ頂ければ幸いです。
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