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Chap.1 X in Unknownland
Chap.1 Sec.6
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未知の乗り物が、口を開いた。
私を招き入れるために。まるで、呑み込むように。
サクラと名乗った着物の青年に、先に入るよう促されて、車のようなその物体に乗り込む。最初に目に入ったのは、金の青年だった。正面の壁、左寄りに置かれたソファに座っていた。
ぱっと、私の姿を見て表情を明るくした。
「おお! ほんとだな。やるじゃねぇかティア!」
喜んでくれているように見える。傍らにいる黒の青年の表情は硬い。立っていた長髪の青年は、なぜか自慢げに笑っている。
私は、どんな顔をすればいいのだろう。
「サクラさん、ありがとな。明日、俺が仲間の居場所を見つけて、送ってくから」
「いや、その必要はない」
安心したように立ち上がった金の青年に、サクラが応えている。サクラが背後から、私の肩にそっと手を乗せ、
「これは、連れて帰る」
ぞくり、と。触れたところから戦慄が走った。
優しく触れられたはずなのに、心臓を掴まれたかのような恐怖を覚える。
金の青年が、当惑したように眉を寄せた。
「……は?」
「前のコミュニティでは、体を売ることで世話をしてもらっていたそうだ。——だが、トラブルを起こして追い出されたらしい。仲間はもういない」
「仲間がいねぇのか…………ん? 身体を売るって、つまりこいつ……」
「娼婦だろう。退屈しのぎにもなるし、連れて帰ればいい。いいものを拾ってきたな、セト」
「はっ? ……い、いや、ちょっと待ってくれよっ」
話している内容は分からなかったが、ある単語で全員が同時に私の方を見た。サクラがなんと言ったのか。助けてもらうために、私が払う対価について話したのかも知れない。
混乱しているようすの金の青年を無視して、サクラは私の身体をどかし、ソファとは反対側、入り口の左手にあったテーブルへと向かう。
外観はシンプルなのに、中は随分と優雅な空間だった。豪華なキャンピングカーのよう。
備え付けられたイスに腰をおろしたサクラが、微笑を浮かべたまま私を見る。
『仲間を紹介してやろうか?』
薄い唇が、私のための言語を吐く。
『お前を助けたのが、〈セト・エル=バルターギ〉。隣にいるのが、〈イシャン・ジェイン〉。立っているのが、〈ティア=アレシア・フロスト〉』
「……うん? サクラさん、僕たちのこと紹介してくれてる?」
「一応な」
「僕のことは、ティアでいいよ」
『てぃあーれしあ』といった音で紹介されたはずの長髪の青年が、私の顔を見てティアと訂正したようだった。
「この子の名前は?」
「名は無いらしい。適当な呼び名で良いと」
「えっ名前ないの?」
唖然としたティアが、「なんて呼ぼう?」腕を組んで考えるように肩を持ち上げた。演技じみた仕種と、笑顔。安全と引き換えに体を犠牲にする私を、嗤っているようにさえ見える。
サクラが口を開き、
「——食事にしようか。イシャンも、そんなに心配するな。あれは何もできない。放っておけばいい」
「……サクラさんが、そう言うなら」
イシャンと呼ばれた青年が、立ち上がってティアと一緒に奥の部屋へと向かっていった。
私の前で立ち尽くしたままの、金の青年。見つめる私の瞳に気づいて、困ったような——慰めてくれたときのような、そんな顔をした。
「せてるばるたーぎ……?」
その表情を見つめたまま、私は名前を確認した。
なにかもっと言いたいことがあったけれど、わからない。わかったところで、どうせ伝えようがない。
彼もまた何か言いたげではあった。しかし、諦めたように吐息して目を閉じ、すぐさま開いたときには、もう無表情だった。
「セト」
「……せと?」
「そう呼べ」
目が覚めて最初に出会ったのが、彼だったことを。
恨むつもりはない。
ただ、あれは幸運ではなかったのだと——理解した。
私を招き入れるために。まるで、呑み込むように。
サクラと名乗った着物の青年に、先に入るよう促されて、車のようなその物体に乗り込む。最初に目に入ったのは、金の青年だった。正面の壁、左寄りに置かれたソファに座っていた。
ぱっと、私の姿を見て表情を明るくした。
「おお! ほんとだな。やるじゃねぇかティア!」
喜んでくれているように見える。傍らにいる黒の青年の表情は硬い。立っていた長髪の青年は、なぜか自慢げに笑っている。
私は、どんな顔をすればいいのだろう。
「サクラさん、ありがとな。明日、俺が仲間の居場所を見つけて、送ってくから」
「いや、その必要はない」
安心したように立ち上がった金の青年に、サクラが応えている。サクラが背後から、私の肩にそっと手を乗せ、
「これは、連れて帰る」
ぞくり、と。触れたところから戦慄が走った。
優しく触れられたはずなのに、心臓を掴まれたかのような恐怖を覚える。
金の青年が、当惑したように眉を寄せた。
「……は?」
「前のコミュニティでは、体を売ることで世話をしてもらっていたそうだ。——だが、トラブルを起こして追い出されたらしい。仲間はもういない」
「仲間がいねぇのか…………ん? 身体を売るって、つまりこいつ……」
「娼婦だろう。退屈しのぎにもなるし、連れて帰ればいい。いいものを拾ってきたな、セト」
「はっ? ……い、いや、ちょっと待ってくれよっ」
話している内容は分からなかったが、ある単語で全員が同時に私の方を見た。サクラがなんと言ったのか。助けてもらうために、私が払う対価について話したのかも知れない。
混乱しているようすの金の青年を無視して、サクラは私の身体をどかし、ソファとは反対側、入り口の左手にあったテーブルへと向かう。
外観はシンプルなのに、中は随分と優雅な空間だった。豪華なキャンピングカーのよう。
備え付けられたイスに腰をおろしたサクラが、微笑を浮かべたまま私を見る。
『仲間を紹介してやろうか?』
薄い唇が、私のための言語を吐く。
『お前を助けたのが、〈セト・エル=バルターギ〉。隣にいるのが、〈イシャン・ジェイン〉。立っているのが、〈ティア=アレシア・フロスト〉』
「……うん? サクラさん、僕たちのこと紹介してくれてる?」
「一応な」
「僕のことは、ティアでいいよ」
『てぃあーれしあ』といった音で紹介されたはずの長髪の青年が、私の顔を見てティアと訂正したようだった。
「この子の名前は?」
「名は無いらしい。適当な呼び名で良いと」
「えっ名前ないの?」
唖然としたティアが、「なんて呼ぼう?」腕を組んで考えるように肩を持ち上げた。演技じみた仕種と、笑顔。安全と引き換えに体を犠牲にする私を、嗤っているようにさえ見える。
サクラが口を開き、
「——食事にしようか。イシャンも、そんなに心配するな。あれは何もできない。放っておけばいい」
「……サクラさんが、そう言うなら」
イシャンと呼ばれた青年が、立ち上がってティアと一緒に奥の部屋へと向かっていった。
私の前で立ち尽くしたままの、金の青年。見つめる私の瞳に気づいて、困ったような——慰めてくれたときのような、そんな顔をした。
「せてるばるたーぎ……?」
その表情を見つめたまま、私は名前を確認した。
なにかもっと言いたいことがあったけれど、わからない。わかったところで、どうせ伝えようがない。
彼もまた何か言いたげではあった。しかし、諦めたように吐息して目を閉じ、すぐさま開いたときには、もう無表情だった。
「セト」
「……せと?」
「そう呼べ」
目が覚めて最初に出会ったのが、彼だったことを。
恨むつもりはない。
ただ、あれは幸運ではなかったのだと——理解した。
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