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Chap.7 墜落サイレントリリィ
Chap.7 Sec.12
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冷ややかな暗闇の中にいた。
そこは薄ら寒くて、手足の感覚がなく、どこからが自分でどこからが闇なのか。境界線がぼんやりとしていた。
痛みはないが、ひどい耳鳴りがする。神経に障る音がいたるところから聞こえ、耳の中で反響しているみたいだった。
耳鳴りが遠ざかるにつれて、どこからか人の声が聞こえてくる。それは遠すぎるのか、話し声であることしか分からない。
——これは?
——サクラさん……ロキくんが、アリスさんを階段の手すりから落としたんだよ……。
——本当か? ロキ。
——………………。
——僕とアリアくんが映像を確認したけど、ロキくんが、アリスさんを手すりに乗せて……肩を押してたよ……。
——容態は?
——脳の損傷は無いようです。階段下の床は衝撃を吸収しますから……そこに落ちたのが幸いですね。ぶつけた後頭部に皮下血腫が見られますが、こちらは冷やしておけば大丈夫でしょう。
——脳震盪か。
——ええ。ただ、意識が戻らないのが気になりますね……。
——……そうか。顛末は後ほど私が確認しよう。それから、この件については此処にいない者への口外を禁ずる。
——……ぇ、口外禁止って……ティアくんたちに、言っちゃだめってこと……? それは、なんで……?
——余計な混乱を招くからだ。ブレス端末への警告は私とアリアにしか通知されていない。これが此処にいるのは、身体検査のためということにする。いいな?
——……うん。
——分かりました。
——ロキ、お前もだよ。不要なことを口にしないよう、注意しなさい。
——……分かった。
声が消える。きぃん、と。耳鳴りだけが小さく残っている。
世界は深い闇に包まれて、体の輪郭がまた、はらりはらりと崩れ始めた。砕け落ちた私の身体は、暗く深い海へと呑まれることなく、黒い闇と同化し、いずれ消えてしまう気がした。
——行くな。
誰かが、呼んでいる気がする。よく知っているようで、まったく知らない声。
漆黒の世界は何も見えないはずなのに、辺りに青紫色の花が咲いているのを感じていた。手を伸ばせば届くかも知れない。けれど、私の手はもう闇に染まっていて、なにも掴めない。——すべてが、消えようとしている。
崩れ落ちていく身体を、とどめることもできずに、ただ見送っていると、
頬に、何かが触れた。
ふわり、と。
確かな温度をもった、何かが。
世界との境界線をなぞっていく。
輪郭を、明瞭なものへと、取り戻していく。
——やめて。
声にならない制止が、頭の中だけで響いた。
急速に、全身へと重たさが伝わっていく。自分という概念がはっきりとこの身体の形に収まっていく。否応も、なしに。
かすみ掛かった脳に、そっと、なめらかな声が響いた。
その声は、なんと言ったのか。脳裏で翻すことなく、別の新たな声が身体の中から浮かび上がった。
——起きて。どうか、起きて……お願い。
泣いている、女性の声。
私は、知らない。なのに、わたしの身体が——憶えている。その声に応えたいと、願っている。
あなたは——わたしは、だれ?
おぼろげに現れた正体をつかむことなく、ぷつりと意識が途絶えた。
そこは薄ら寒くて、手足の感覚がなく、どこからが自分でどこからが闇なのか。境界線がぼんやりとしていた。
痛みはないが、ひどい耳鳴りがする。神経に障る音がいたるところから聞こえ、耳の中で反響しているみたいだった。
耳鳴りが遠ざかるにつれて、どこからか人の声が聞こえてくる。それは遠すぎるのか、話し声であることしか分からない。
——これは?
——サクラさん……ロキくんが、アリスさんを階段の手すりから落としたんだよ……。
——本当か? ロキ。
——………………。
——僕とアリアくんが映像を確認したけど、ロキくんが、アリスさんを手すりに乗せて……肩を押してたよ……。
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——脳の損傷は無いようです。階段下の床は衝撃を吸収しますから……そこに落ちたのが幸いですね。ぶつけた後頭部に皮下血腫が見られますが、こちらは冷やしておけば大丈夫でしょう。
——脳震盪か。
——ええ。ただ、意識が戻らないのが気になりますね……。
——……そうか。顛末は後ほど私が確認しよう。それから、この件については此処にいない者への口外を禁ずる。
——……ぇ、口外禁止って……ティアくんたちに、言っちゃだめってこと……? それは、なんで……?
——余計な混乱を招くからだ。ブレス端末への警告は私とアリアにしか通知されていない。これが此処にいるのは、身体検査のためということにする。いいな?
——……うん。
——分かりました。
——ロキ、お前もだよ。不要なことを口にしないよう、注意しなさい。
——……分かった。
声が消える。きぃん、と。耳鳴りだけが小さく残っている。
世界は深い闇に包まれて、体の輪郭がまた、はらりはらりと崩れ始めた。砕け落ちた私の身体は、暗く深い海へと呑まれることなく、黒い闇と同化し、いずれ消えてしまう気がした。
——行くな。
誰かが、呼んでいる気がする。よく知っているようで、まったく知らない声。
漆黒の世界は何も見えないはずなのに、辺りに青紫色の花が咲いているのを感じていた。手を伸ばせば届くかも知れない。けれど、私の手はもう闇に染まっていて、なにも掴めない。——すべてが、消えようとしている。
崩れ落ちていく身体を、とどめることもできずに、ただ見送っていると、
頬に、何かが触れた。
ふわり、と。
確かな温度をもった、何かが。
世界との境界線をなぞっていく。
輪郭を、明瞭なものへと、取り戻していく。
——やめて。
声にならない制止が、頭の中だけで響いた。
急速に、全身へと重たさが伝わっていく。自分という概念がはっきりとこの身体の形に収まっていく。否応も、なしに。
かすみ掛かった脳に、そっと、なめらかな声が響いた。
その声は、なんと言ったのか。脳裏で翻すことなく、別の新たな声が身体の中から浮かび上がった。
——起きて。どうか、起きて……お願い。
泣いている、女性の声。
私は、知らない。なのに、わたしの身体が——憶えている。その声に応えたいと、願っている。
あなたは——わたしは、だれ?
おぼろげに現れた正体をつかむことなく、ぷつりと意識が途絶えた。
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