123 / 228
Chap.11 致死猫は箱の中
Chap.11 Sec.8
しおりを挟む
実をいうとメルウィンはここ4日ほど、毎朝彼女に連絡を入れている。メッセージ——音声と文章の両方で確認できる——にて、モーニングとランチの内容を知らせていた。
メルウィンは個人菜園に彼女を招いたおり、セトによってブレス端末の操作を説明される姿を見ている。なので、オーダーの仕方も分からないかな……と案じて、メッセージを送っていた。ただ、彼女が共通語のメッセージから情報をどこまで得られるか——それもあいまいだった。
一昨日は、ラボから食堂にやって来たアリアに、彼女が彼の私室にいると聞いたので、通話して誘ってみた。しかし、それ以外はメッセージを送るだけ。返信はなく、なんなら既読通知もないようなので、やっぱり共通語ではダメなのかも。まさかブレス端末のメッセージ機能も使いこなせない——なんてことは、ないだろうから。ハウス専用の端末ではあるけれど、メッセージ機能などはシンプルで、普遍的な物と変わらない。彼女も(年齢は聞いていないけれど、たぶん)同世代だから、使えるはず。
……と、信じていた。そんな、まさか。
「ぇ……アリスさん、メッセージに気づいてなかったんですか……?」
ディナーの用意をしていたメルウィンは、思わず手を止めて、彼女の方を振り返っていた。サラダのドレッシングに入れるスパイスやオイルを選んでいた彼女は、「はい。……ごめんなさい」申し訳なさそうに頭を下げた。
「ぁ、いえ……謝らなくても……」
「きょう、……はじめて」
「それで、今日は返信をくれたんですね」
「はい。……てつだい、いいよ、ありがとう」
「こんなことでよければ……いくらでも」
「……どれっしんぐは、これで、いい?」
並べられたスパイスとハーブは爽やかで、オイルとビネガーは優しい香り。クセの強いものはなく、ひかえめな感じは彼女みたい。
ひとに作ってもらうとおもしろい。自分では作らない組み合わせが生まれる。いつもだったらアクセントになるものを入れている。
「はい、やわらかい風味になります」
「ヤワラカイ、フウミ……」
「たぶん……ティアくんは好きな気がします」
「このまま、いい?」
「はい」
それぞれを加えたボトルはマシンにセットされ、攪拌されていく。水と油は混ざりきらない。乳化剤は入れていない。
できあがったドレッシングを、ふたりで味見してみる。
「おいしいです。アリスさんは、どうですか?」
「……おいしい」
安心したように頬に微笑をかざした彼女に、同じくほっとした。メルウィンが担当していたメインディッシュも終わり、保温ケースの中へと入れていく。
「……それは、なに?」
「シューファルシです。キャベツで包んだハンバーグの……煮込み料理、です。今日は合成肉の日なので、スパイスを強めにしてます」
「……ごうせいにくは……すぱいす?」
「ぇえっと……僕が、合成肉の風味が苦手なのと……みんなにも、おいしく食べてもらいたいので……」
「……ごうせいにく……おいしくない?」
「僕は苦手です……アリスさんは、平気ですか?」
「……わからない。わたし、たべた?」
「僕の料理で食べるのは、初めて……? ハウスに来る前に、食べませんでしたか?」
「……たべて、ない……おもう」
「合成肉のほうが主流だと思ってましたが……アリスさんみたいな方もいるんですね? ヴィーガンであっても、合成肉は食べるみたいですけど……宗教的な理由ですか?」
「………………」
「ぁ……ごめんなさい、つい普通に話してました……アリスさん、共通語まだ勉強中なのに……」
「だいじょうぶ、きょうつうご、わかる」
「え……?」
彼女は長い黒髪を耳に掛けて、現れた左耳をこちらに見せてくれた。白を基調とした油膜のようなオーロラカラー、イヤフォンらしき小さな端末。
「ろきが、つくってくれた」
「えっ! ……アリスさん、ロキくんに渡せる物なんて……ありました?」
「……?」
「大丈夫ですか? なにか理不尽な要求をされたんじゃ……」
「……これは、くれた。わたしは、なにも……ない」
「……なにも、交換はなかったんですか?」
「はい」
「………………」
(それは、ぜったい危険です。僕、知ってます。タダより高いものは無いんです。しかもロキくんなんて……ぜったいぜったい怖いことがまってます……)
言いたい言葉が胸の中にきゅうきゅうと詰まっている。でも、吐き出せなかった。彼女の目は一点のくもりもない。
「そうなんですね……僕も、今日は会話がスムーズだなって……思いました。……翻訳機があったから……なんですね」
「はい」
言いたいことは全部とじこめて、ポジティブな言葉だけ。どことなく嬉しそうにも見える彼女の耳で、翻訳機が虹色に淡く光を反射している。……不吉な色。
今はもう夕方で、彼女が連絡をくれたのは2時間ほど前。昨日と今日の2日間、ロキは彼女を私室に拘束していた。おそらく、その間まともな食事もとれていない。セトではないが、もうすこし人間らしい扱いをしてあげてほしいと思う。
なにより一番やるせない気持ちになるのが、そんな扱いを受けておきながら、なぜか彼女はロキに対して優しいというか……あまい。彼女の言語を習得したことと、今回の翻訳機が重なったのか、ロキのことを話している彼女の表情は一段と甘い。甘いというのはスウィートではなくて、母親が子供の悪事に目をつぶるみたいな、甘やかしのほう。
「そろそろ時間なので……ディナーの連絡をしますね」
「はい」
ディナーの通知を出し、残りの作業はロボに任せた。彼女が手伝っている姿を見たら、またロキが絡んでくるかもしれない。それは避けたいので、先に着席しようと彼女を誘った。窓側の端にメルウィンが座ると、彼女は「わたし、ここ、いい?」確認なんてしなくてもいいのに、隣の座席について丁寧に許可を求めた。
どうして彼女はこうなのだろう。そんなにへりくだる理由を、メルウィンは気にしている。
「はい、もちろんです」
「ありがとう」
ふたり分のメニューをロボに頼んでいると、食堂のドアが開いた。サクラとイシャン、1分も経たずにセトとアリア。セトだけこちらを見て(あれ?)みたいな意外そうな顔をした。たぶん、彼女が座っていたから。ロキに拘束されていたはずの彼女がひとりでいる理由を、メルウィンだけが知っている。この理由のせいで、このあとロキに絡まれる可能性を恐れてもいる。
すこし時間を空けて、ティアとハオロン……そして、ロキ。ロキはアリアとハオロンが並んだ席の後ろを回って、彼女の頭上から声をかけた。
「なんで勝手に出てンの?」
そう怒る気はしていた。ロキが眠っていて暇だから何か手伝いたい——そんな理由で出て来てしまった彼女を、メルウィンは追い返せなかった。
メルウィンの方から振りあおいだ彼女は、不思議そうな顔をしている。不機嫌そうなロキに見下ろされても怖くないらしい。すごい。
「……ろき、ねむってた」
「オレが眠ってたら勝手に出ていいワケ?」
「……わたし、なにか、したい……から」
「シェイプシフターしといてって言ったじゃん」
「した。……これ、ねこが、いいね……してくれた」
彼女はイスをずらして、頭上のロキに洋服を見せている。足首にスリットの入ったスラックスが動きやすそうで、とてもシンプルなセットアップ。気になるところとしては、全体的に白い。怒られているはずなのに、わずかに誇らしげな空気が出ているのはどうして。
「はァ? なんで推奨機能使ってンの? それどォ見ても昨日の無色彩から学習されてンじゃん」
「……だめ?」
「ダメっていうかさァ~……アプリの意味ねェ……」
ロキが返す言葉をなくしている。あきれた分、苛立ちも収束している気はする。
正面にいたサクラの視線が刺さり——配膳がロキ以外終わったので——合掌をしなくてはと、ふたりから目線をそらして前を向いた。ロキもそれ以上は話さず、席に戻っていく。ロキを待たなくていい、そんなサクラのプレッシャーを感じて、ためらうことなく食事の開始を告げた。
いただきますの唱和中ずっとセトが奇妙な顔をしていて、ティアもまた困ったような表情をしていた。彼女がロキと自然に話していたからだと思う。ロキと関わりたくないので、(翻訳機をもらったって言ってたよ……)伝えてあげられない。目線だけ送ってみたけれど、セトは気づかない。ティアだけ(分かってるよ)みたいな反応があった。
それ以外は変わりのない、静かな食卓。いつもどおりハオロンの声だけがよく通る。そしてそれに応える誰かの声も、内容を理解できる程度には届いてくる。
「ロキ、今夜は暇やろ? うちとゲームしよさ」
「……なんの?」
「前の、ふたりプレイのやつ」
「昨日その辺の犬とやったンじゃねェ~の?」
「セトは話にならん。始まって5分もせんと眠ってたわ……約束したのに……」
ハオロンから恨みがましい目で見られたのか、セトが会話に加わった。
「それは謝っただろ」
「謝ったらなんでも赦されるのっ?」
「ゲームくらい赦されていいだろ……っつかよ、俺が朝、今からやろうって起こしてやったのに、お前が眠いからって断ったんだぞ……お互い様じゃねぇか」
「そんなの記憶にないわ。約束では夜って言ったし、セトの言い分は認められん」
「そんな怒んなよ……今夜ロキに付き合ってもらえば済む話だろ」
「それとこれとは別やが。うち昨日の淋しさは一生忘れんからの!」
「……悪かった。次は起きとく」
「……ほんとかぁ?」
「…………たぶん」
「もぉ! ぜんぜん反省が見えん!」
(セトくんは、ベッドに入るとすぐ眠っちゃうタイプだったな……)
会話を聞き流しながら、メルウィンは昔のことを思い出していた。セトとロキの夜遊びは兄弟間では有名だったが、セトの「夜は眠い」という発言もよく耳にした。彼らの夜遊びが週一だった(らしい)のは、セトのそういう性質によるのか。
メルウィンの考察のあいだ、「うちのベッド独占して寝るし……落としてやればよかったわ……」暗い呟きが聞こえていた。それには意識を向けず、隣の彼女の反応を、そろり。シューファルシを口にした彼女が、こちらの視線に気づいた。
「おいしい」
いつもの、硬い微笑み。
——ロキくんを、警戒してください。
与えてあげられない助言を、見つめるだけで伝えられたらいいのに。
「……デセールも、自信作なので、ぜひ」
「ありがとう。たのしみ」
作られたような小さな笑みに向けて、せめて食事の時だけは、穏やかに過ごせるよう願った。
メルウィンは個人菜園に彼女を招いたおり、セトによってブレス端末の操作を説明される姿を見ている。なので、オーダーの仕方も分からないかな……と案じて、メッセージを送っていた。ただ、彼女が共通語のメッセージから情報をどこまで得られるか——それもあいまいだった。
一昨日は、ラボから食堂にやって来たアリアに、彼女が彼の私室にいると聞いたので、通話して誘ってみた。しかし、それ以外はメッセージを送るだけ。返信はなく、なんなら既読通知もないようなので、やっぱり共通語ではダメなのかも。まさかブレス端末のメッセージ機能も使いこなせない——なんてことは、ないだろうから。ハウス専用の端末ではあるけれど、メッセージ機能などはシンプルで、普遍的な物と変わらない。彼女も(年齢は聞いていないけれど、たぶん)同世代だから、使えるはず。
……と、信じていた。そんな、まさか。
「ぇ……アリスさん、メッセージに気づいてなかったんですか……?」
ディナーの用意をしていたメルウィンは、思わず手を止めて、彼女の方を振り返っていた。サラダのドレッシングに入れるスパイスやオイルを選んでいた彼女は、「はい。……ごめんなさい」申し訳なさそうに頭を下げた。
「ぁ、いえ……謝らなくても……」
「きょう、……はじめて」
「それで、今日は返信をくれたんですね」
「はい。……てつだい、いいよ、ありがとう」
「こんなことでよければ……いくらでも」
「……どれっしんぐは、これで、いい?」
並べられたスパイスとハーブは爽やかで、オイルとビネガーは優しい香り。クセの強いものはなく、ひかえめな感じは彼女みたい。
ひとに作ってもらうとおもしろい。自分では作らない組み合わせが生まれる。いつもだったらアクセントになるものを入れている。
「はい、やわらかい風味になります」
「ヤワラカイ、フウミ……」
「たぶん……ティアくんは好きな気がします」
「このまま、いい?」
「はい」
それぞれを加えたボトルはマシンにセットされ、攪拌されていく。水と油は混ざりきらない。乳化剤は入れていない。
できあがったドレッシングを、ふたりで味見してみる。
「おいしいです。アリスさんは、どうですか?」
「……おいしい」
安心したように頬に微笑をかざした彼女に、同じくほっとした。メルウィンが担当していたメインディッシュも終わり、保温ケースの中へと入れていく。
「……それは、なに?」
「シューファルシです。キャベツで包んだハンバーグの……煮込み料理、です。今日は合成肉の日なので、スパイスを強めにしてます」
「……ごうせいにくは……すぱいす?」
「ぇえっと……僕が、合成肉の風味が苦手なのと……みんなにも、おいしく食べてもらいたいので……」
「……ごうせいにく……おいしくない?」
「僕は苦手です……アリスさんは、平気ですか?」
「……わからない。わたし、たべた?」
「僕の料理で食べるのは、初めて……? ハウスに来る前に、食べませんでしたか?」
「……たべて、ない……おもう」
「合成肉のほうが主流だと思ってましたが……アリスさんみたいな方もいるんですね? ヴィーガンであっても、合成肉は食べるみたいですけど……宗教的な理由ですか?」
「………………」
「ぁ……ごめんなさい、つい普通に話してました……アリスさん、共通語まだ勉強中なのに……」
「だいじょうぶ、きょうつうご、わかる」
「え……?」
彼女は長い黒髪を耳に掛けて、現れた左耳をこちらに見せてくれた。白を基調とした油膜のようなオーロラカラー、イヤフォンらしき小さな端末。
「ろきが、つくってくれた」
「えっ! ……アリスさん、ロキくんに渡せる物なんて……ありました?」
「……?」
「大丈夫ですか? なにか理不尽な要求をされたんじゃ……」
「……これは、くれた。わたしは、なにも……ない」
「……なにも、交換はなかったんですか?」
「はい」
「………………」
(それは、ぜったい危険です。僕、知ってます。タダより高いものは無いんです。しかもロキくんなんて……ぜったいぜったい怖いことがまってます……)
言いたい言葉が胸の中にきゅうきゅうと詰まっている。でも、吐き出せなかった。彼女の目は一点のくもりもない。
「そうなんですね……僕も、今日は会話がスムーズだなって……思いました。……翻訳機があったから……なんですね」
「はい」
言いたいことは全部とじこめて、ポジティブな言葉だけ。どことなく嬉しそうにも見える彼女の耳で、翻訳機が虹色に淡く光を反射している。……不吉な色。
今はもう夕方で、彼女が連絡をくれたのは2時間ほど前。昨日と今日の2日間、ロキは彼女を私室に拘束していた。おそらく、その間まともな食事もとれていない。セトではないが、もうすこし人間らしい扱いをしてあげてほしいと思う。
なにより一番やるせない気持ちになるのが、そんな扱いを受けておきながら、なぜか彼女はロキに対して優しいというか……あまい。彼女の言語を習得したことと、今回の翻訳機が重なったのか、ロキのことを話している彼女の表情は一段と甘い。甘いというのはスウィートではなくて、母親が子供の悪事に目をつぶるみたいな、甘やかしのほう。
「そろそろ時間なので……ディナーの連絡をしますね」
「はい」
ディナーの通知を出し、残りの作業はロボに任せた。彼女が手伝っている姿を見たら、またロキが絡んでくるかもしれない。それは避けたいので、先に着席しようと彼女を誘った。窓側の端にメルウィンが座ると、彼女は「わたし、ここ、いい?」確認なんてしなくてもいいのに、隣の座席について丁寧に許可を求めた。
どうして彼女はこうなのだろう。そんなにへりくだる理由を、メルウィンは気にしている。
「はい、もちろんです」
「ありがとう」
ふたり分のメニューをロボに頼んでいると、食堂のドアが開いた。サクラとイシャン、1分も経たずにセトとアリア。セトだけこちらを見て(あれ?)みたいな意外そうな顔をした。たぶん、彼女が座っていたから。ロキに拘束されていたはずの彼女がひとりでいる理由を、メルウィンだけが知っている。この理由のせいで、このあとロキに絡まれる可能性を恐れてもいる。
すこし時間を空けて、ティアとハオロン……そして、ロキ。ロキはアリアとハオロンが並んだ席の後ろを回って、彼女の頭上から声をかけた。
「なんで勝手に出てンの?」
そう怒る気はしていた。ロキが眠っていて暇だから何か手伝いたい——そんな理由で出て来てしまった彼女を、メルウィンは追い返せなかった。
メルウィンの方から振りあおいだ彼女は、不思議そうな顔をしている。不機嫌そうなロキに見下ろされても怖くないらしい。すごい。
「……ろき、ねむってた」
「オレが眠ってたら勝手に出ていいワケ?」
「……わたし、なにか、したい……から」
「シェイプシフターしといてって言ったじゃん」
「した。……これ、ねこが、いいね……してくれた」
彼女はイスをずらして、頭上のロキに洋服を見せている。足首にスリットの入ったスラックスが動きやすそうで、とてもシンプルなセットアップ。気になるところとしては、全体的に白い。怒られているはずなのに、わずかに誇らしげな空気が出ているのはどうして。
「はァ? なんで推奨機能使ってンの? それどォ見ても昨日の無色彩から学習されてンじゃん」
「……だめ?」
「ダメっていうかさァ~……アプリの意味ねェ……」
ロキが返す言葉をなくしている。あきれた分、苛立ちも収束している気はする。
正面にいたサクラの視線が刺さり——配膳がロキ以外終わったので——合掌をしなくてはと、ふたりから目線をそらして前を向いた。ロキもそれ以上は話さず、席に戻っていく。ロキを待たなくていい、そんなサクラのプレッシャーを感じて、ためらうことなく食事の開始を告げた。
いただきますの唱和中ずっとセトが奇妙な顔をしていて、ティアもまた困ったような表情をしていた。彼女がロキと自然に話していたからだと思う。ロキと関わりたくないので、(翻訳機をもらったって言ってたよ……)伝えてあげられない。目線だけ送ってみたけれど、セトは気づかない。ティアだけ(分かってるよ)みたいな反応があった。
それ以外は変わりのない、静かな食卓。いつもどおりハオロンの声だけがよく通る。そしてそれに応える誰かの声も、内容を理解できる程度には届いてくる。
「ロキ、今夜は暇やろ? うちとゲームしよさ」
「……なんの?」
「前の、ふたりプレイのやつ」
「昨日その辺の犬とやったンじゃねェ~の?」
「セトは話にならん。始まって5分もせんと眠ってたわ……約束したのに……」
ハオロンから恨みがましい目で見られたのか、セトが会話に加わった。
「それは謝っただろ」
「謝ったらなんでも赦されるのっ?」
「ゲームくらい赦されていいだろ……っつかよ、俺が朝、今からやろうって起こしてやったのに、お前が眠いからって断ったんだぞ……お互い様じゃねぇか」
「そんなの記憶にないわ。約束では夜って言ったし、セトの言い分は認められん」
「そんな怒んなよ……今夜ロキに付き合ってもらえば済む話だろ」
「それとこれとは別やが。うち昨日の淋しさは一生忘れんからの!」
「……悪かった。次は起きとく」
「……ほんとかぁ?」
「…………たぶん」
「もぉ! ぜんぜん反省が見えん!」
(セトくんは、ベッドに入るとすぐ眠っちゃうタイプだったな……)
会話を聞き流しながら、メルウィンは昔のことを思い出していた。セトとロキの夜遊びは兄弟間では有名だったが、セトの「夜は眠い」という発言もよく耳にした。彼らの夜遊びが週一だった(らしい)のは、セトのそういう性質によるのか。
メルウィンの考察のあいだ、「うちのベッド独占して寝るし……落としてやればよかったわ……」暗い呟きが聞こえていた。それには意識を向けず、隣の彼女の反応を、そろり。シューファルシを口にした彼女が、こちらの視線に気づいた。
「おいしい」
いつもの、硬い微笑み。
——ロキくんを、警戒してください。
与えてあげられない助言を、見つめるだけで伝えられたらいいのに。
「……デセールも、自信作なので、ぜひ」
「ありがとう。たのしみ」
作られたような小さな笑みに向けて、せめて食事の時だけは、穏やかに過ごせるよう願った。
20
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
橘若頭と怖がり姫
真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。
その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。
高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
籠の鳥〜見えない鎖に囚われて✿❦二人の愛から…逃れられない。
クラゲ散歩
恋愛
私。ユリアナ=オリーブ(17)は、自然豊かなオータム国にあるグローパー学院に在籍している。
3年生になって一ヶ月が経ったある日。学院長に呼ばれた。技術と魔術の発展しているフォール国にある。姉妹校のカイト学院に。同じクラスで3年生の男子3名と女子3名(私を含め)。計6名で、半年の交換留学をする事になった。
ユリアナは、気楽な気持ちで留学をしたのだが…まさか学院で…あの二人に会うなんて。これは…仕組まれていたの?幼い頃の記憶。
「早く。早く。逃げなきゃ。誰か〜私を…ここから…。」
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる