【完結】致死量の愛を飲みほして【続編完結】

藤香いつき

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Interlude 鏡に映る、さかしまの国

おむすびころりん、心をむすび [前編]

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(もしも、普通に受け入れられていたのなら)


 ある日の昼下がり。
 ティアに呼び出された彼らは、食堂にそろっていた。

「——はい、今から、ヴァシリエフハウスで育った君たち兄弟の絆を、僕が試したいと思います」

 唐突に切り出され、誰もが理解できずに沈黙した。ちなみに彼女は不在。長テーブルの短辺を前に立つティアの背後、調理室にいる。

「……は?」

 真っ先に口を開いたのは、ティアに近い位置に座るセト。鋭い眼の上で眉を寄せている。ティアは人さし指を立てて、にこりと笑った。

「みんな節電モードで暇でしょ? 君たち懐かしの、“レクリエーション”でも提供しようかと思って」

 ハウスは現在、節電状態。彼女のための歓迎会で使ったエネルギーを取り戻すまで、彼らは省エネ活動をいられている。そろそろ退屈したハオロンが鬼ごっこでもしようと言い出しかねないので、先手を打とうとティアはちょっとしたゲームを用意したのだった。

「僕がアリスちゃんと考えたお題を出すから、そこから連想するものを挙げてください。全員の答えが一致したら、見事クリアとなります」

 かしこまったティアの言いぶりに、「なんだそれ。意味わかんねぇレクだな」セトの眉は寄せられたまま。
 セトの向かい、窓側のいつもの席に座るメルウィンが、「クイズみたいなものかな? 僕は、スポーツのレクよりはいいかも……」
 メルウィンの横に並ぶハオロンとロキは、「面白そぉやの!」「めんど……」対照的な反応。
 セトの横に並ぶイシャンとサクラは、ふたりとも無言。
 サクラの奥に座るアリアは、ふんわりと笑顔で首をかしげている。

 全員の反応を見回したティアが、クスリと意味深長に微笑ほほえみ、

「——なんと、見事に答えが揃ったら、美味おいしい景品があります」

 セトの目が、キラリと光った。

美味うまい景品って……チョコか? 肉?」
「や、オニギリ」

 さらっと返したティアの言葉に、アリアの目がきょとりとした。「おや? オニギリとはなんでしょう?」
 アリアと遠く離れたメルウィンが、そのつぶやきを拾って、「ご飯で具材を挟んだ、三角形の……サンドイッチみたいなもの、かな? 昔ハツネさんが、食べたくなったからって言ってマシンにレシピを読み込んでたよ」
 説明から、セトの中で記憶がつながったらしい。「はぁ? あんなのただの副菜じゃねぇか!」
 セトの文句に、ティアは肩をすくめ、

「副菜ではないよね? セト君の感覚ってほんと分かんない……。ちなみに、アリスちゃんいわく“手で握るもの”らしく、現在進行形で手ずから作ってくれています」
「——よし、やるか」
「うん、分かってたけどてのひら返しがすごい」

 あっさりと乗ったセト。
 彼だけでなく、全員それなりにやる気を出したようす。ティアは予想どおりの展開に笑いつつ、それぞれのブレス端末へとゲームのプログラムを送った。(もちろんプログラムはミヅキに作ってもらった)

「君たちに出す問題は……僕とアリスちゃん、ちょうど半分ずつくらい考えたかな? 僕が今から問いを出すから、連想した答えを選択してもらって……制限時間は質問から10秒。それで、テーブル上に答えが映し出される。一致したらクリアね?」

 方々から了承の返事があがった。
 ティアは、うなずく。

「——では、いきます。答えは常に、兄弟のなかでひとりを、選んでください」

Q1. 歌といえば?

 テーブルの上、各人の前に文字が浮かび上がる。回答は《アリア》。約一名をのぞき。
 見回したアリアは、やわらかく微笑ほほえんだ。「図々しいかとも思いましたが……名前の独唱曲アリアからも、連想しやすいと思いまして……」ひかえめな言い分に、誰も異議などない。問題はそちらではなく——

「えェ? オレは? なんで全員アリアなわけ? ひとりくらい挙げてもよくねェ? オレ歓迎会で歌ったじゃん!」

 盛大な不平を唱えるロキに、ハオロンのじっとりした横目が。

「ロキ……あんた、このゲームの趣旨わかってないんか?」
「答えを揃える、だろォ?」
「ほやったら、ここは多数意見に合わせてアリアやが」
「なんで? みんながオレに合わせてくれりゃい~じゃん?」
「…………はぁ。しゃあないの、ロキに合わせよか」

 あきれはてたハオロンが、全員に目を回した。どうやらロキに合わせることでクリアを図ろうという。
 ——さて、

Q2. かしこいといえば?

 テーブルの上、各人の前に文字が浮かび上がる。回答は《ロキ》。今度は約二名をのぞき。
 ハオロンが勢いよく立ち上がった。

「こら! ロキに合わせるって言ったが! 勝つ気ないんかぁ!」

 ハオロンの目の先には、セトとイシャン。むっつりと目線を下げていた二人の回答は《サクラ》。
 セトは「こいつを選んだらむしろ負けだ」
 イシャンも「私も……ロキは選びたくない」
 静かだが揺るがない主張に、「はァ~?」ロキが不満いっぱいのようす。高みのティアは苦笑している。「よっぽど嫌だったんだね……」

 立ち上がっていたハオロンが彼らを指さして、

「サクラさん! このふたりしかって!」
「まだ始まったばかりだ。次を合わせればいいだろう?」

 サクラの横では、アリアがニコニコしている。「そうですね。コツはつかめましたから、次は揃いますよ」

 ——しかし、

Q3. カードが得意といえば?

 《ティア》の名前が並ぶなか、またしても二人のズレが。
 ハオロンとメルウィンの前、ふたりの回答は《ハオロン》。沈黙してテーブルを見つめるハオロンの隣で、周りの回答を確認したメルウィンが「……あれ?」困ったように眉尻を下げた。

「カードゲームって、ハオロンくんが得意じゃなかった……?」
「——いや、お前はいい。知らねぇんだから仕方ねぇ。……おいハオロン、話が違うじゃねぇか」

 メルウィンをフォローしたセトの鋭い目が、ハオロンへと。
 突き刺さる前にハオロンが「うちも得意やし!」必死に訴えてみたが、隣のロキが「“も”って言ってる時点でアウト」
 全員の目が向くなか、ハオロンはしょんぼりと肩を落とした。ただひとり、イシャンの目には同情が浮かんでいる。

「うち、ティアって選びたくなかったんやって……どうしても。……ごめんの、ゆるして……」
「……その気持ちは、とても理解できる」
「イシャン、ありがとの。うちもさっき怒って悪かったわ……認めてない相手を選ぶなんて無理やの。兄弟のなかで賢いのがロキって……正直ゆるせん」
「……なァんかオレもけなされてねェ~?」

 しんみりした空気を割るように、ティアが手をたたいた。「はい! イシャン君とロン君の仲が深まったところで、次にいきます!」

Q4.  優しいといえば?

 ティアの目には、何人か選択を迷うようすが見られた。挙げられた回答のほとんどは《メルウィン》。メルウィンのみ《アリア》。

「ぇ……僕?」

 びっくりして目を丸くしたメルウィンに、向かいでセトが吐息する。

「これは仕方ねぇな。俺もアリアとで迷った。けど、アリアは最初に出たぶん、次はロキ含めみんなメルウィンかもなって」
「うちも同意見やわ」
「……私も」

 ハオロンとイシャンがセトに同意すると、メルウィンは困惑したように首を縮めた。

「僕、優しい……? 僕はアリアくんだと思うけど……」
「そう言ってもらえて嬉しいですが……私も、メルウィンさんがとても優しいと思いますよ」
「……反応に、困るよ……」
「ふふ、そこは〈ありがとう〉で良いと思いますよ」
「……みんな、ありがとう」

 微笑ましい空気。
 しかし、ティアは腕を組んで、「うん、いい雰囲気なところ悪いんだけど、気になるからいていい? ……ロキ君、選択してないのはどうして?」

 見逃していたが、ロキの回答がない。どうやら選択せずに時間切れとなったらしい。
 真向かいのサクラが「ロキ、最低でも選ばなければ揃わないのだが、分かっているか?」念のため確認すると、ロキのほうはいまだに悩んでいるようで、「いや、オレこれマジで分かンなかったの。優しいやつなんていなくねェ? ってェことは、無回答が正解じゃん! ってゆう……オレなりの回答なんだけど」

 微笑ましい空気が、一瞬で冷ややかに。
 ハオロンとセトに至っては、全力で冷たい目を送っている。ロキに。
 
「……これ、お題が反対やったら全員ロキやからの」
「だな」
「は? どォゆうこと?」

 不穏な展開を避けるべく、「はいはい、次にいこう」ティアが問いを口にした。

Q5. 強いといえば?

 スパッと決まったかに見えた。全員が迷いなく選んだようなので。——しかし、なぜなのか。ひとり、例のごとく仲間はずれが。

「あぁっ! もぉなんでやって! あんたそこはセトって選ぶとこやが! よく怪力バカって言ってるくせに! ロキのあほ!」
「はァ? あんたらオレに合わせるって話だったじゃん!」

 昔の測定からも現在の予測からも、セトの握力やら筋力が強いのは周知の事実。ロキも怪力やら脳筋やら悪態をついていたはずだが……自分の名前を選択している。
 目前のサクラが、わざとらしくため息をついた。「皆、お前に合わせたつもりだったのだけどね」

「……人の心は、難しい……」神妙な顔でつぶやくイシャンに、ティアが「……あのさ、深い感じで言ってるけど、これはただロキ君が負けず嫌いなだけだからね? みんな予想できたよね?」ちょっと面倒になってきている。(もうオニギリできあがるんじゃない? 僕だけで食べようかな)

 ティアの胸の内はさておき、絶望の顔でハオロンとメルウィンがテーブルに視線を落としていた。

「あかん……これ無理ゲーやわ……うちら、ありすのオニギリ食べられん……」
「アリスさんに言って、作るの止めてもらう……? 食べてもらえない料理ほど悲しいものはないよ……」

 悲しみのふちにいるふたりに、向かいからは「ばか! 諦めんな! 諦めたらそこでなんとかっていうだろ!」セトが懸命に声をかけるが、イシャンから「……セト、悪いが……何が言いたいのか、全く分からない」冷静に突っこまれた。

 さわぐ彼らを横目に、サクラが、

「答えは揃った——ということにして、食べればいいだろう? ティアに口裏を合わせてもらえばいい」
「いやいや! 僕を不正に巻き込まないで!」

 なんでもないことのように、むちゃくちゃなことを言い放った。さすがにティアも拒否したが。
 サクラの奥ではアリアが「ロキさん以外はけっこう揃っているので、あともう少し心を合わせれば……」やんわりとサクラの不正を止めてくれている。

 アリアの意見に、ハオロンがハッとした。
 
「わかったわ! もうロキはずそっさ! ほらロキ、お腹痛いとか言って医務室行っときね!」
「はァっ? オレも食いてェんだけど!」
「みんなの為やし、我慢して!」
「オレのことは? ……いやなんでみんなこっち見てンの? 行かねェよ? オレだけ食べられねェとかヤだし。……ぜってェ動かねェから」

 各方面からの圧に対して、耐えるロキ。
 面白いが多少は可哀想に思えるので、ティアは半笑いで「しょうがないな……じゃ、サービス問題。アリスちゃんが考えた問題です」

Q6. お兄ちゃんといえば?

 《サクラ》
 やっとのことで、全員の答えが一致した。

「やったぁ~!」
「っしゃ!」
「イェ~イ」
「すごいね君たち……結果が分かりきってたのに、そこまで喜べるなんてね……」

 やかまし組の歓喜に、ティアはあきれの吐息をこぼした。
 メルウィンとアリアは、(……ロキくん、ちゃんと正解してくれてよかった)(……ええ、よかったです)心で会話をしている気がする。

 無事にクリアして、絆を見せつけてくれた(……くれたかな?)彼らに、ティアは笑って「アリスちゃんのとこ、報告してくるね~」背を向けた。

 楽しげな皆の様子に、サクラとイシャンだけが落ち着いている。
 ふと、サクラはつぶやいた。

「……そうか。私は兄か……」
「……サクラさん? どうかしたのだろうか?」
「——いや、なんでもないよ」

 彼らの意識のなかで、当然のように兄であることが——サクラにとって、どんな意味をもっていたのだろう。
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