42 / 79
青春をうたおう
05_Track03.wav
しおりを挟む
「ルイくん見てみて! フリードリンク! ジュース飲み放題だって!」
「わ、面白いね。紅茶やスープまである……あっ、これ何? スムージー?」
「すごっ! おれ、これにするっ」
「ね、ヒナくん。これって混ぜることもできるんじゃない?」
「ルイくん! 君は天才!」
「僕は紅茶とココアを混ぜようかなっ」
はしゃぐヒナとルイの後ろ姿を遠巻きに見つめるのは、ハヤトたち。
琉夏が受付のスタッフを気にしながら、竜星を小突いた。
「なァ、誰かアイツら止めてよ。恥ずかしいンだけど」
「カラオケ初めてって言ってたやろ。好きにさせとき」
他人のフリで見守っていると、ルイが「あっ」
紅茶もココアも一定量が出てくる仕様らしく、カップからあふれた液体がテーブルにこぼれていた。
「大丈夫ですか?」
隣にいたウタがルイにハンカチを手渡し、満杯のカップを引き取る。
その横で、ヒナもスムージーを出すためのレバーを引きすぎたのか、「こぼれるこぼれる!」なにやら非常にやかましい。ヒナには壱正が手を貸した。
「残りは貰おう」
「お、ありがと!」
壱正は新しいグラスを横から入れ替え、あふれる寸前でヒナを救った。
——子供と保護者か。
ハヤトたちは胸中で突っこみを揃える。
2Bの面々は、駅前のカラオケにやって来ていた。
桜統学園限定のSNS。2Bのチャットルームに、ヒナから連絡が入ったのは昼頃。
『カラオケ無料券もらったから行こ』
軽音の部活後、17時に駅前集合とのことだったのだが、意外にも集まりが良い。
不参加は麦のみ。家の予定があると返しがあった。
軽音組の参加は流れとして自然だが、ルイ・ウタのペアと壱正の参加は予想外で。ハヤトたちは内心で驚いていた。
「……ヒナ、このマラカスはなんだろう?」
「えっ、壱正……知らないのか? これ、シャカシャカするんだ。振ったら音が鳴るんだ」
「それは知っている」
壱正とヒナが、ドリンクコーナー横の棚を眺めて話し合っている。
受付スタッフの目がずっとこちらに向いている。ハヤトたちはそろそろ耐えられず、無知なクラスメイトを急きたてて指定の部屋に入った。
「おー! ……思ったより狭いな?」
ヒナの感想どおり、7人で限界。大きなテーブルを挟んで左右に長ソファがあるが、3・4で別れるにしては……4のチームが狭い。
当然のようにルイが「僕とウタと、あと一人こっちにどうぞ」
「うち、そっち行くわ。狭いのイヤや」
小柄な竜星が、ちゃっかり3人目を取った。
残された4人は入室した順でソファに詰める。琉夏、ヒナ、ハヤト、壱正。ディスプレイに近い琉夏が、選曲のためのタブレット端末やらマイクやらを取って、カラオケ初心者のヒナたちに説明する。
試しに琉夏が使ってみせ、適当に入れた曲を歌った。向かいのルイは目を丸くしている。
「琉夏くん、うまいね? 歌い慣れてる感じ」
「……あのさァ、オレってバンドのボーカルなんだけど?」
「そうなんだ。知らなかったよ」
「(オレら中学から一緒の内部生……)」
物言いたげな琉夏の正面で、ルイは優雅にアイスティーを飲んだ。
ふたつのタブレットのうち、片方は竜星が触っている。もう片方はヒナからハヤトに渡っていた。
「……おい、誰だよ。カラオケで合唱曲なんか入れてるやつは」
「え、おれだけど? みんな歌えるし完璧な選曲だろ?」
ヒナの選曲にハヤトが溜息をつく。音楽の授業で歌う曲が、場違いに始まった。
「琉夏、おれとハモろ」
「ヤだ」
「なんでっ?」
「ださい」
「なんで!」
琉夏に断られたヒナが、マイクをハヤトへ。
「ハヤト、おれと歌お」
「……嫌だ」
「なんで!」
タブレットから目を上げないハヤトを諦め、ヒナはハヤトの背中から壱正を誘った。
「壱正……おれと歌ってほしい……」
「私は、この曲はバスのコーラスだったが……」
「おれが主旋律やるから!」
「それなら……」
ヒナと壱正の合唱曲が、神妙な空気で響いた。
カラオケ熟練組は(カラオケで合唱曲ハモってる……)思いを言葉にすることなく聞いていた。
違和感の強い合唱曲に続いて、竜星やハヤトが歌ったところで曲は止まった。ルイとウタが選曲に悩んでいたので、残りメンバーはジュースを口に含みつつ雑談していた。
カラオケを誘う流れで、ミュージック甲子園についても、ヒナはチャットルームで皆に伝えていた。
「ハヤトと竜星も上手いんだな。アカペラのメンバー、簡単に集まったな」
笑顔で話すヒナ。横のハヤトが片眉を上げる。
「は? 俺は出ないからな?」
「いや、ハヤトも出よう。お前めっちゃ上手い。低音そこまで出るのすごい。軽音でドラムもやってるし……そう、ボイパってのがあるから。ボイスパーカッション。ヒューマンビートボックス。そのへん、ハヤトに向いてる」
横を向いたヒナが、ハヤトの肩に手を乗せて語りかける。近さと褒め言葉に戸惑うハヤトは、うっかり流されかけ……
「——いや、別もんだろ。ドラム叩くのと声でやるの、全く違うだろ」
冷静に否定した。
それでも負けないヒナが、
「いけるって。ハヤトなら、絶対やれる。俺はお前を信じてる」
「そうか……?」
真面目な顔の主張に気圧されたハヤトが、洗脳され始めた。
向かいの端、竜星が薄い目で見ている。
(ハヤト、あんた……なんも根拠ないうえに、めっちゃ雑に推されて……)
「おれって、2B以外に知り合いがいないだろ? 同じ寮生のハヤトが頼りなんだよ」
昼間ハヤトがヒナに言ったセリフを活用して、ヒナは攻め込む。しばらく黙っていたが、ハヤトは最終的に陥落した。
「……そんなに言うなら、一緒にやってやる」
「うん、やろ!」
(それでいいんか……?)
竜星が心の声で問いかけていると、ヒナの目が竜星へ。矛先を向けた。
「竜星もやるだろ?」
「ん~……うち、カラオケくらいでしか歌わんし……」
「大丈夫だ! おれも音楽の授業でしか歌ったことない!」
「……ヒナ、なんのフォローにもなってないよ? よけい不安になっただけやよ?」
「よし、これでメンバー5人だな」
「……ん? 5人?」
ニコニコとしたヒナが、自分を指さす。
「おれと、壱正と、ハヤトと、竜星と、琉夏!」
壱正の名が入っている。ハヤトと竜星が壱正を見るが、彼はとくに否定することなく、
「ああ、私も参加することにした。経験はないが努力する。よろしく」
壱正の参加表明に、唖然とするハヤトと竜星。カラオケに来るだけでなく、まさかアカペラもやるとは。
壱正の加入には、裏取引があった。
——なぁ、壱正はピアノが上手いんだろ? 音感あるなら絶対いけると思うんだ。一緒にやろう?
——そんな時間があるなら勉強がしたい。
——あのな、壱正。お前だけに言うんだけど……これ、生徒会の案件なんだ。次の選挙で推してもらえるし、内申もアツい。
——なるほど……それはメリットが大きい。やろう。
——よっしゃ!
存外、最もすんなりと落ちたのは壱正かも知れない。
カラオケを誘う裏で行われた密談を知らないハヤトが、壱正に疑問の顔を向けていた。
「正直、お前が参加するなんて思ってなかった。なんか特別な理由でもあんのか?」
「理由は……」
壱正がハヤトに目を返す。ハヤトの奥で、ヒナが首を振って口パクで何か訴えている。
「(副会長からこっそり言われた話だから! みんなに話すのはナシだから!)」
何を言っているのか正しく読み取れない壱正が、ヒナの唇のかたちを見ながら首をかしげ、
「……ダチだから?」
「お、おぉ……そうか、そうだよな」
壱正の曖昧な復唱を、更にハヤトが勘違いして、勝手に納得した。友達だから。
(ハヤトの後ろで、ヒナがわちゃわちゃやってたんやけどぉ……)
竜星だけが懐疑的。
「5人も集まれば余裕だなっ」
ヒナの明るい声に、隣の琉夏がジュースのストローをくわえて首をひねっている。
「……オレだけ誘われてなくね?」
先ほどヒナは、当たり前のように琉夏の名前を挙げていた。
琉夏の呟きを拾って、ヒナはキラッとした笑顔で振り返る。
「お前はボーカルなんだから当然だろ? その美声を聴かせてくれよっ」
「えェ~? しょうがねェな~」
(琉夏も、それでいいんか……?)
竜星の心の問いは、まんざらでもない琉夏に届かなかった。
ヒナのトラップによって引き込まれたクラスメイトたち。
人数も無事確保して安心したヒナは、流れ始めた音楽を耳にして、ディスプレイへと目を向けた。
「あっ、ルイの曲、決まった?」
「んーん、僕じゃないよ。これはウタ」
「ウタくんか。これって原曲はクラシックだよな? 有名曲に日本語の歌詞をのっけたやつ」
「ええ、歌えそうな曲をやっと見つけられたので……」
控えめな前置きを残して、ウタの声が響いた。
ルイ以外の目が、ぱちくりと開く。
低く透きとおった柔らかな音色。
マイクで拡張された音は、深く広がるようにして聴く者の体を包んだ。
「え……ウタくん、天才……?」
「まさかの才能やわ……」
驚愕の一同を見回して、ルイだけが笑っている。
「ウタは昔から、歌が上手なんだよ。みんな、知らなかったの?」
「なんでアンタが自慢げなワケ?」
向かいの琉夏に突っこまれつつも、ルイはニコニコとして聞いていた。
(チャンピオンのための救世主……!)
ヒナもまた、煌めきの瞳で見つめていた。
アカペラメンバーに確定したも同然だった。
「わ、面白いね。紅茶やスープまである……あっ、これ何? スムージー?」
「すごっ! おれ、これにするっ」
「ね、ヒナくん。これって混ぜることもできるんじゃない?」
「ルイくん! 君は天才!」
「僕は紅茶とココアを混ぜようかなっ」
はしゃぐヒナとルイの後ろ姿を遠巻きに見つめるのは、ハヤトたち。
琉夏が受付のスタッフを気にしながら、竜星を小突いた。
「なァ、誰かアイツら止めてよ。恥ずかしいンだけど」
「カラオケ初めてって言ってたやろ。好きにさせとき」
他人のフリで見守っていると、ルイが「あっ」
紅茶もココアも一定量が出てくる仕様らしく、カップからあふれた液体がテーブルにこぼれていた。
「大丈夫ですか?」
隣にいたウタがルイにハンカチを手渡し、満杯のカップを引き取る。
その横で、ヒナもスムージーを出すためのレバーを引きすぎたのか、「こぼれるこぼれる!」なにやら非常にやかましい。ヒナには壱正が手を貸した。
「残りは貰おう」
「お、ありがと!」
壱正は新しいグラスを横から入れ替え、あふれる寸前でヒナを救った。
——子供と保護者か。
ハヤトたちは胸中で突っこみを揃える。
2Bの面々は、駅前のカラオケにやって来ていた。
桜統学園限定のSNS。2Bのチャットルームに、ヒナから連絡が入ったのは昼頃。
『カラオケ無料券もらったから行こ』
軽音の部活後、17時に駅前集合とのことだったのだが、意外にも集まりが良い。
不参加は麦のみ。家の予定があると返しがあった。
軽音組の参加は流れとして自然だが、ルイ・ウタのペアと壱正の参加は予想外で。ハヤトたちは内心で驚いていた。
「……ヒナ、このマラカスはなんだろう?」
「えっ、壱正……知らないのか? これ、シャカシャカするんだ。振ったら音が鳴るんだ」
「それは知っている」
壱正とヒナが、ドリンクコーナー横の棚を眺めて話し合っている。
受付スタッフの目がずっとこちらに向いている。ハヤトたちはそろそろ耐えられず、無知なクラスメイトを急きたてて指定の部屋に入った。
「おー! ……思ったより狭いな?」
ヒナの感想どおり、7人で限界。大きなテーブルを挟んで左右に長ソファがあるが、3・4で別れるにしては……4のチームが狭い。
当然のようにルイが「僕とウタと、あと一人こっちにどうぞ」
「うち、そっち行くわ。狭いのイヤや」
小柄な竜星が、ちゃっかり3人目を取った。
残された4人は入室した順でソファに詰める。琉夏、ヒナ、ハヤト、壱正。ディスプレイに近い琉夏が、選曲のためのタブレット端末やらマイクやらを取って、カラオケ初心者のヒナたちに説明する。
試しに琉夏が使ってみせ、適当に入れた曲を歌った。向かいのルイは目を丸くしている。
「琉夏くん、うまいね? 歌い慣れてる感じ」
「……あのさァ、オレってバンドのボーカルなんだけど?」
「そうなんだ。知らなかったよ」
「(オレら中学から一緒の内部生……)」
物言いたげな琉夏の正面で、ルイは優雅にアイスティーを飲んだ。
ふたつのタブレットのうち、片方は竜星が触っている。もう片方はヒナからハヤトに渡っていた。
「……おい、誰だよ。カラオケで合唱曲なんか入れてるやつは」
「え、おれだけど? みんな歌えるし完璧な選曲だろ?」
ヒナの選曲にハヤトが溜息をつく。音楽の授業で歌う曲が、場違いに始まった。
「琉夏、おれとハモろ」
「ヤだ」
「なんでっ?」
「ださい」
「なんで!」
琉夏に断られたヒナが、マイクをハヤトへ。
「ハヤト、おれと歌お」
「……嫌だ」
「なんで!」
タブレットから目を上げないハヤトを諦め、ヒナはハヤトの背中から壱正を誘った。
「壱正……おれと歌ってほしい……」
「私は、この曲はバスのコーラスだったが……」
「おれが主旋律やるから!」
「それなら……」
ヒナと壱正の合唱曲が、神妙な空気で響いた。
カラオケ熟練組は(カラオケで合唱曲ハモってる……)思いを言葉にすることなく聞いていた。
違和感の強い合唱曲に続いて、竜星やハヤトが歌ったところで曲は止まった。ルイとウタが選曲に悩んでいたので、残りメンバーはジュースを口に含みつつ雑談していた。
カラオケを誘う流れで、ミュージック甲子園についても、ヒナはチャットルームで皆に伝えていた。
「ハヤトと竜星も上手いんだな。アカペラのメンバー、簡単に集まったな」
笑顔で話すヒナ。横のハヤトが片眉を上げる。
「は? 俺は出ないからな?」
「いや、ハヤトも出よう。お前めっちゃ上手い。低音そこまで出るのすごい。軽音でドラムもやってるし……そう、ボイパってのがあるから。ボイスパーカッション。ヒューマンビートボックス。そのへん、ハヤトに向いてる」
横を向いたヒナが、ハヤトの肩に手を乗せて語りかける。近さと褒め言葉に戸惑うハヤトは、うっかり流されかけ……
「——いや、別もんだろ。ドラム叩くのと声でやるの、全く違うだろ」
冷静に否定した。
それでも負けないヒナが、
「いけるって。ハヤトなら、絶対やれる。俺はお前を信じてる」
「そうか……?」
真面目な顔の主張に気圧されたハヤトが、洗脳され始めた。
向かいの端、竜星が薄い目で見ている。
(ハヤト、あんた……なんも根拠ないうえに、めっちゃ雑に推されて……)
「おれって、2B以外に知り合いがいないだろ? 同じ寮生のハヤトが頼りなんだよ」
昼間ハヤトがヒナに言ったセリフを活用して、ヒナは攻め込む。しばらく黙っていたが、ハヤトは最終的に陥落した。
「……そんなに言うなら、一緒にやってやる」
「うん、やろ!」
(それでいいんか……?)
竜星が心の声で問いかけていると、ヒナの目が竜星へ。矛先を向けた。
「竜星もやるだろ?」
「ん~……うち、カラオケくらいでしか歌わんし……」
「大丈夫だ! おれも音楽の授業でしか歌ったことない!」
「……ヒナ、なんのフォローにもなってないよ? よけい不安になっただけやよ?」
「よし、これでメンバー5人だな」
「……ん? 5人?」
ニコニコとしたヒナが、自分を指さす。
「おれと、壱正と、ハヤトと、竜星と、琉夏!」
壱正の名が入っている。ハヤトと竜星が壱正を見るが、彼はとくに否定することなく、
「ああ、私も参加することにした。経験はないが努力する。よろしく」
壱正の参加表明に、唖然とするハヤトと竜星。カラオケに来るだけでなく、まさかアカペラもやるとは。
壱正の加入には、裏取引があった。
——なぁ、壱正はピアノが上手いんだろ? 音感あるなら絶対いけると思うんだ。一緒にやろう?
——そんな時間があるなら勉強がしたい。
——あのな、壱正。お前だけに言うんだけど……これ、生徒会の案件なんだ。次の選挙で推してもらえるし、内申もアツい。
——なるほど……それはメリットが大きい。やろう。
——よっしゃ!
存外、最もすんなりと落ちたのは壱正かも知れない。
カラオケを誘う裏で行われた密談を知らないハヤトが、壱正に疑問の顔を向けていた。
「正直、お前が参加するなんて思ってなかった。なんか特別な理由でもあんのか?」
「理由は……」
壱正がハヤトに目を返す。ハヤトの奥で、ヒナが首を振って口パクで何か訴えている。
「(副会長からこっそり言われた話だから! みんなに話すのはナシだから!)」
何を言っているのか正しく読み取れない壱正が、ヒナの唇のかたちを見ながら首をかしげ、
「……ダチだから?」
「お、おぉ……そうか、そうだよな」
壱正の曖昧な復唱を、更にハヤトが勘違いして、勝手に納得した。友達だから。
(ハヤトの後ろで、ヒナがわちゃわちゃやってたんやけどぉ……)
竜星だけが懐疑的。
「5人も集まれば余裕だなっ」
ヒナの明るい声に、隣の琉夏がジュースのストローをくわえて首をひねっている。
「……オレだけ誘われてなくね?」
先ほどヒナは、当たり前のように琉夏の名前を挙げていた。
琉夏の呟きを拾って、ヒナはキラッとした笑顔で振り返る。
「お前はボーカルなんだから当然だろ? その美声を聴かせてくれよっ」
「えェ~? しょうがねェな~」
(琉夏も、それでいいんか……?)
竜星の心の問いは、まんざらでもない琉夏に届かなかった。
ヒナのトラップによって引き込まれたクラスメイトたち。
人数も無事確保して安心したヒナは、流れ始めた音楽を耳にして、ディスプレイへと目を向けた。
「あっ、ルイの曲、決まった?」
「んーん、僕じゃないよ。これはウタ」
「ウタくんか。これって原曲はクラシックだよな? 有名曲に日本語の歌詞をのっけたやつ」
「ええ、歌えそうな曲をやっと見つけられたので……」
控えめな前置きを残して、ウタの声が響いた。
ルイ以外の目が、ぱちくりと開く。
低く透きとおった柔らかな音色。
マイクで拡張された音は、深く広がるようにして聴く者の体を包んだ。
「え……ウタくん、天才……?」
「まさかの才能やわ……」
驚愕の一同を見回して、ルイだけが笑っている。
「ウタは昔から、歌が上手なんだよ。みんな、知らなかったの?」
「なんでアンタが自慢げなワケ?」
向かいの琉夏に突っこまれつつも、ルイはニコニコとして聞いていた。
(チャンピオンのための救世主……!)
ヒナもまた、煌めきの瞳で見つめていた。
アカペラメンバーに確定したも同然だった。
100
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話
桜井正宗
青春
――結婚しています!
それは二人だけの秘密。
高校二年の遙と遥は結婚した。
近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。
キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。
ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。
*結婚要素あり
*ヤンデレ要素あり
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる