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旅は道連れ
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誘ったものの『いい歳の男女が共に旅行してもいいのかどうか問題』にぶち当たった。
半日くらい悩んだけれど、
「——正直、いいのでは?」
ティアの家で、テーブルで、なぜかスキンケア用品が並ぶ前で座りながら尋ねた。
「え、なにが?」
おでこ丸出しの私は、「簡単なスキンケアの順番が知りたいです」と主張したことによって、現在ティアのレクチャーを受けている。
導入美容液、化粧水、美容液、乳液、クリーム、アイクリーム。すでに情報過多。
しかも、
——朝はビタミンCの入った美容液で、夜はレチノールかな。レチノールは毎日じゃなくていいよ。基本はナイアシンアミドで。
肌を見ながらアドバイスをくれたのはいいが、朝晩で種類を分けるなどという高等テクニックをこなせる気がしない。
「……旅行の話だよ」
ティアは立っている。テーブルの上の鏡越しに、きょとんとした顔を見返す。
理解したようなひらめきの顔。
「あぁ、その話?」
「……考えたけど、双方に恋人がいないのなら、旅行くらいよいのでは?」
「そうだね? 部屋を分ければいいんじゃない?」
「え! 温泉旅館で部屋を分けたら高いよ!」
「……うん? でも、一緒の部屋は君が困るでしょ?」
「なんで?」
「着替えるときとか……」
「全然へいき」
「……レイちゃんは、どこに『恥じらい』を置いてきちゃったのかな?」
「部屋代が倍になるよりいいよ! 着替えるときは後ろ向いてて」
「……そっか、ケチのほうが勝るんだ……」
遠い目をするティアの手が、顔から離れた。
スキンケア(夜Ver.)を施された私の顔は、つるんっとしている。水分量たっぷりなようす。
「おー!なんかキレイになった!」
小さく盛り上がる私をよそに、ティアは向かいに腰掛ける。
「……ね、レイちゃん」
「ん?」
「旅行……ほんとにいいの? 運転、大変じゃない?」
「大変じゃないよ。あ、移動は夜ね?」
「えっ、夜?」
「車少ないから。日光もなくていいでしょ?」
「それっていつ眠るの?」
「……前日?」
「うん?」
「……いや、ちょっとまだ分かんない。日程決めてから考える」
「……無理してない?」
「してないよ。こう見えて待ちきれないくらい楽しみだよ?」
「それは見えないね?」
「なんで? 軽く踊ってみせたら伝わる?」
「……え、踊らなくていいよっ? 座って?」
立ち上がっただけで、踊っていない。びっくりしたように着席を促された。
ティアはまだ何か悩んでいるらしい。
「……ティアくん、心配しなくても、日光に当たらず温泉三昧で私は十分楽しめるからね?」
「……そうなの? 日中の観光地めぐりはいいの?」
「地酒が買えればいいよ……?」
「……レイちゃんらしいね」
「あと、美味しいものは食べたい」
おまけされた主張に、ティアはくすっと笑った。
「じゃ……一緒に行かせてもらおうかな? お言葉に甘えて」
「——うん、行こう!」
勢いよく返事をすると、私の顔を見ていたティアが急に、横にずらしたはずの鏡を正面に戻した。
「え、なに? なんで鏡?」
「今の顔、可愛いかったから……見せてあげようと思って」
「はいっ?」
「あ、だめだ。その顔は違う」
まじめぶった顔で否定してくるティアの、その頬を(すこしつねってしまおうか)なんて思っていたが……
旅行の楽しみでいっぱいだったから、許すことにした。
半日くらい悩んだけれど、
「——正直、いいのでは?」
ティアの家で、テーブルで、なぜかスキンケア用品が並ぶ前で座りながら尋ねた。
「え、なにが?」
おでこ丸出しの私は、「簡単なスキンケアの順番が知りたいです」と主張したことによって、現在ティアのレクチャーを受けている。
導入美容液、化粧水、美容液、乳液、クリーム、アイクリーム。すでに情報過多。
しかも、
——朝はビタミンCの入った美容液で、夜はレチノールかな。レチノールは毎日じゃなくていいよ。基本はナイアシンアミドで。
肌を見ながらアドバイスをくれたのはいいが、朝晩で種類を分けるなどという高等テクニックをこなせる気がしない。
「……旅行の話だよ」
ティアは立っている。テーブルの上の鏡越しに、きょとんとした顔を見返す。
理解したようなひらめきの顔。
「あぁ、その話?」
「……考えたけど、双方に恋人がいないのなら、旅行くらいよいのでは?」
「そうだね? 部屋を分ければいいんじゃない?」
「え! 温泉旅館で部屋を分けたら高いよ!」
「……うん? でも、一緒の部屋は君が困るでしょ?」
「なんで?」
「着替えるときとか……」
「全然へいき」
「……レイちゃんは、どこに『恥じらい』を置いてきちゃったのかな?」
「部屋代が倍になるよりいいよ! 着替えるときは後ろ向いてて」
「……そっか、ケチのほうが勝るんだ……」
遠い目をするティアの手が、顔から離れた。
スキンケア(夜Ver.)を施された私の顔は、つるんっとしている。水分量たっぷりなようす。
「おー!なんかキレイになった!」
小さく盛り上がる私をよそに、ティアは向かいに腰掛ける。
「……ね、レイちゃん」
「ん?」
「旅行……ほんとにいいの? 運転、大変じゃない?」
「大変じゃないよ。あ、移動は夜ね?」
「えっ、夜?」
「車少ないから。日光もなくていいでしょ?」
「それっていつ眠るの?」
「……前日?」
「うん?」
「……いや、ちょっとまだ分かんない。日程決めてから考える」
「……無理してない?」
「してないよ。こう見えて待ちきれないくらい楽しみだよ?」
「それは見えないね?」
「なんで? 軽く踊ってみせたら伝わる?」
「……え、踊らなくていいよっ? 座って?」
立ち上がっただけで、踊っていない。びっくりしたように着席を促された。
ティアはまだ何か悩んでいるらしい。
「……ティアくん、心配しなくても、日光に当たらず温泉三昧で私は十分楽しめるからね?」
「……そうなの? 日中の観光地めぐりはいいの?」
「地酒が買えればいいよ……?」
「……レイちゃんらしいね」
「あと、美味しいものは食べたい」
おまけされた主張に、ティアはくすっと笑った。
「じゃ……一緒に行かせてもらおうかな? お言葉に甘えて」
「——うん、行こう!」
勢いよく返事をすると、私の顔を見ていたティアが急に、横にずらしたはずの鏡を正面に戻した。
「え、なに? なんで鏡?」
「今の顔、可愛いかったから……見せてあげようと思って」
「はいっ?」
「あ、だめだ。その顔は違う」
まじめぶった顔で否定してくるティアの、その頬を(すこしつねってしまおうか)なんて思っていたが……
旅行の楽しみでいっぱいだったから、許すことにした。
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