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白い嘘
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「わ。すごくいい匂いのパンだね?」
メルウィンから朝食のしらせが入ったので、これはきっと何か美味しいものだろうなと勘づいたティアは、普段よりも早めに朝食へと出向いていた。
——といっても、朝食には遅い時間である。よって食卓にいるメンバーも遅組だった。ハオロンとティアのみ。……視界に入れないようにしているけれど、奇跡のロキも。
「てぃあも、どうぞ」
ロボではなく彼女が手ずから持ってきてくれたプレートには、とても香ばしい香りのクロワッサン。ひとくち食べただけでも分かる、ぎゅっと旨みの詰まった幸せ。紅茶の香りをまとって、温かく芳しい風味を広げていく。
「……すごい。なにこれ? いつものパンから数段格上げされたみたいな……」
自然とこぼれ落ちる感想に、待機していた彼女は顔をほころばせた。
「とくべつな〈ばたー〉と、〈こむぎこ〉を、つかいました」
「へぇ……こんなに変わるんだ。すごいね?」
ティアの感動に対して、彼女の笑顔はどこか達成感めいたものが見え隠れしている。気づいてくれてありがとう。そんな感謝さえも見える。向かいではハオロンが「ん~? 言われるとなんか……めっちゃバター? 的な?」ふわっとした感想を述べた。
ひとつしか出てこなかったところを見るに、とても貴重なものなのだろう。なぜそんな貴重な物が急に出てきたのか——は、さておき。真っ赤なジュースをすすっているロキが、先ほどから不満そうな瞳を彼女に向けている。
「……なァ、ウサちゃん」
「……はい」
「それ、オレには持ってきてくんねェの?」
「……ろき、きょうは、はやおきだね?」
「それは、どォでもよくね?」
「……ろきは、ぱん、なんでもいい……よね?」
「オレもそれが欲しい」
「………………」
ものすごく考えているような沈黙があった。ティアから見える横顔だけでも、(手作りとロボの差が分からないロキには、このパンはもったいないんじゃ……)悩めるようすが伝わってきた。(同感、あげなくていいよ。その分を僕にくれる?)ティアの心の声は当然だが届かず、ためらいながらも彼女はクロワッサンを運んできた。
ぱくんっと軽い感じで食いつくロキ。黙って見守る彼女。
「……おいしい?」
「めちゃくちゃうまい」
「ほんと?」
ぱっと。彼女の表情が明るくなった。ロキの言葉を(ぜったい嘘なんだけど)素直に受け取ったらしく、安心したように喜んでいる。
「〈ばたー〉が、おいしい。〈こむぎこ〉のかおりも、いっぱいする。とてもおいしい?」
「……まァね」
——あのさ、それ完全なる嘘だよね?
場を割ってみようかと思ったティアだが、ロキの表情に気づいて、ささやかな悪意は消え失せた。
集中して味わっているけれど、彼女の言っている言葉の一粒も分からない。何がどう違うのか本気で分からない。まさか自分は騙されているのではないか。
(……騙してるのは君なのにね)
真剣に思い悩んでいるようなので、黙って紅茶を口に含むことにした。
ロキの横で、彼女は非常に嬉しそう。
「とくべつな、ぱん。ろきもわかるくらい、おいしい。……よかった」
窓の外は雪景色。
汚れのない、純白。
メルウィンから朝食のしらせが入ったので、これはきっと何か美味しいものだろうなと勘づいたティアは、普段よりも早めに朝食へと出向いていた。
——といっても、朝食には遅い時間である。よって食卓にいるメンバーも遅組だった。ハオロンとティアのみ。……視界に入れないようにしているけれど、奇跡のロキも。
「てぃあも、どうぞ」
ロボではなく彼女が手ずから持ってきてくれたプレートには、とても香ばしい香りのクロワッサン。ひとくち食べただけでも分かる、ぎゅっと旨みの詰まった幸せ。紅茶の香りをまとって、温かく芳しい風味を広げていく。
「……すごい。なにこれ? いつものパンから数段格上げされたみたいな……」
自然とこぼれ落ちる感想に、待機していた彼女は顔をほころばせた。
「とくべつな〈ばたー〉と、〈こむぎこ〉を、つかいました」
「へぇ……こんなに変わるんだ。すごいね?」
ティアの感動に対して、彼女の笑顔はどこか達成感めいたものが見え隠れしている。気づいてくれてありがとう。そんな感謝さえも見える。向かいではハオロンが「ん~? 言われるとなんか……めっちゃバター? 的な?」ふわっとした感想を述べた。
ひとつしか出てこなかったところを見るに、とても貴重なものなのだろう。なぜそんな貴重な物が急に出てきたのか——は、さておき。真っ赤なジュースをすすっているロキが、先ほどから不満そうな瞳を彼女に向けている。
「……なァ、ウサちゃん」
「……はい」
「それ、オレには持ってきてくんねェの?」
「……ろき、きょうは、はやおきだね?」
「それは、どォでもよくね?」
「……ろきは、ぱん、なんでもいい……よね?」
「オレもそれが欲しい」
「………………」
ものすごく考えているような沈黙があった。ティアから見える横顔だけでも、(手作りとロボの差が分からないロキには、このパンはもったいないんじゃ……)悩めるようすが伝わってきた。(同感、あげなくていいよ。その分を僕にくれる?)ティアの心の声は当然だが届かず、ためらいながらも彼女はクロワッサンを運んできた。
ぱくんっと軽い感じで食いつくロキ。黙って見守る彼女。
「……おいしい?」
「めちゃくちゃうまい」
「ほんと?」
ぱっと。彼女の表情が明るくなった。ロキの言葉を(ぜったい嘘なんだけど)素直に受け取ったらしく、安心したように喜んでいる。
「〈ばたー〉が、おいしい。〈こむぎこ〉のかおりも、いっぱいする。とてもおいしい?」
「……まァね」
——あのさ、それ完全なる嘘だよね?
場を割ってみようかと思ったティアだが、ロキの表情に気づいて、ささやかな悪意は消え失せた。
集中して味わっているけれど、彼女の言っている言葉の一粒も分からない。何がどう違うのか本気で分からない。まさか自分は騙されているのではないか。
(……騙してるのは君なのにね)
真剣に思い悩んでいるようなので、黙って紅茶を口に含むことにした。
ロキの横で、彼女は非常に嬉しそう。
「とくべつな、ぱん。ろきもわかるくらい、おいしい。……よかった」
窓の外は雪景色。
汚れのない、純白。
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