払暁の魔獣使い フォルナ

小鳥葵

文字の大きさ
5 / 31
道中の邂逅

3.青に染まる穂波

しおりを挟む
 
「さてと、これだけあればしばらくはもつわね。……もう狩りでやりくりできないからって、買いすぎちゃった」

 フォルナは食後に町の店で買ってきたあふれんばかりに大量の保存食品を鞄に詰めた。

「外の世界の人々はこの金貨、ってものを本当に使っているのね……これ3枚でたくさん食べられるなんて、便利なものね」

 フォルナは生前父が教え、遺してくれた金貨について思い出した。

 夜の国では物々交換が基本で、金を特別視する習慣は無かった。


 ふと窓の外を眺めると、空は暗くなることなく赤い光を放ち続けていてフォルナには不思議な光景だった。

 町に出歩いている人は少なく、町人は皆家にいるようだった。

「出発しようかしら」


 フォルナは宿屋を出て、門番からグアナを受け取った。

「こいつ、あなたがいなくなった瞬間に暴れまわって大変だったよ」

「それは大変な迷惑をかけたわね‥‥ごめんなさい」

「いいんだ。それで、こいつを取りに来た……ってことは、もう町を出るのか?」

「ええ。もうちょっと居たかったのだけれど、大切な用事を思い出したの。グアナをありがとう。お世話になったわ」

「そうか……この辺りにはさっきみたいな盗賊がいるから、道中お気をつけて」

 フォルナは頷き、グアナに身軽に飛び乗ってトラモントの町を出ていった。


 ◆


「あの門人さんは私があげた三日間分の薬草を全部グアナにあげてしまったのね……」

 フォルナはグアナに跨って進みながらグアナの頭を撫でると、幸せそうな声を出す。

「グアナも、あんなにいっぱい食べてはいけない。父さんも言っていたでしょ、自然の恵みに感謝して欲を捨て、必要な分だけ食べなさいって」

 グアナはその言葉に反抗するつもりなのか、フォルナの鞄の中身をつついた。

「こ、こら! これは長期間にわたって食べるものだから、そこまでいっぱい食べないわよ! それに私はそこまで大食いでもない……」

 フォルナがさらに言い訳をしようとしたその時。


 何かの気配を感じて、フォルナは身を低くしてグアナにしがみつくようにし、走れと命令した。

 頭上でヒュン……と矢が飛ぶ音が聞こえ、狼に乗った盗賊がフォルナの横から姿を現した。

(また、盗賊……! 門番さんが言った通りだわ。しかも数が多い。盗賊達が乗っているのはきっと獰猛な赤狼の魔獣。どうする……「語りかける」か)

 フォルナは赤狼が自分の周りに近づいてくるのを見た後、目を閉じて神経を集中させた。


「私から、離れなさい!」

 突然赤狼達が激しく震え、乗っている盗賊らを地に引きずり落とした。

「おい、何やってるんだ! この犬野郎が」

 盗賊達は狼を必死になだめようとするが、尋常ではない様子の狼達はどこかへ走り去っていってしまった。

 弓をたがえていた盗賊も、何が起こったのかわからない様子で地に座って茫然としている。

 動揺したのはグアナも例外ではなく、フォルナは必死に逃げる足が止まったグアナを落ち着かせた。


 しかし、その中でも平静を保った盗賊が「何をしている、かかれ!」と叫ぶと、一斉にフォルナに向かって矢を放ち始めた。

「グアナ! 走って! はやく!」

 グアナは再び走り出した……と思うと、盗賊の矢がグアナの足とフォルナの肩に刺さった。



「ぐうっ!」

 グアナは悲鳴をあげて大きく体を揺らし、フォルナは地に投げ出された。

 フォルナは体が地面に衝突する前に、素早く自分の肩から矢を抜いた。

 青色に光る血が、金色の穂波に散らばる。


「……っあ!」

 フォルナは右肩を押さえ、痛みに息が出来なかった。

「追えぇっー!」

 盗賊らはサーベルを構え、迫ってくる。

(……ブーメランで太刀打ちできる、数じゃない。グアナも怪我を負っていて、走れない)

 グアナに乗る暇もなく、盗賊達は剣を振り下ろすだろう。


「女一人だな」

「背が高いし、男かと思ったぜ」

「おい、ぐずぐずしてないでやれ」
 
 そんな会話が耳に遠く、聞こえる。

 死を覚悟したその時、視界が白に覆われた。

(何も、見えない。何も、聞こえない)

 フォルナはおかしな感覚にとらわれた。



(私は……死んだの……?)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

拾われ子のスイ

蒼居 夜燈
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞】 記憶にあるのは、自分を見下ろす紅い眼の男と、母親の「出ていきなさい」という怒声。 幼いスイは故郷から遠く離れた西大陸の果てに、ドラゴンと共に墜落した。 老夫婦に拾われたスイは墜落から七年後、二人の逝去をきっかけに養祖父と同じハンターとして生きていく為に旅に出る。 ――紅い眼の男は誰なのか、母は自分を本当に捨てたのか。 スイは、故郷を探す事を決める。真実を知る為に。 出会いと別れを繰り返し、生命を懸けて鬩ぎ合い、幾度も涙を流す旅路の中で自分の在り方を探す。 清濁が混在する世界に、スイは何を見て何を思い、何を選ぶのか。 これは、ひとりの少女が世界と己を知りながら成長していく物語。 ※基本週2回(木・日)更新。 ※誤字脱字報告に関しては感想とは異なる為、修正が済み次第削除致します。ご容赦ください。 ※カクヨム様にて先行公開中(登場人物紹介はアルファポリス様でのみ掲載) ※表紙画像、その他キャラクターのイメージ画像はAIイラストアプリで作成したものです。再現不足で色彩の一部が作中描写とは異なります。 ※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。

アリエッタ幼女、スラムからの華麗なる転身

にゃんすき
ファンタジー
冒頭からいきなり主人公のアリエッタが大きな男に攫われて、前世の記憶を思い出し、逃げる所から物語が始まります。  姉妹で力を合わせて幸せを掴み取るストーリーになる、予定です。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...