払暁の魔獣使い フォルナ

小鳥葵

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解読

11.思いがけぬ願い

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 ◆

 クノッタが部屋を去ってからしばらく時が経過した。


 荷は全て、部屋の隅に置かれた鞄の中に入っていた。

 ルルートはクノッタが去ってから寝てしまい、リュキは連れ去られる前に読もうとしていたフォルナの本のことを思い出した。


 本を鞄から出して、読み始める。

 意識がはっきりした今は、陽語で書かれた最後のページを読むことができた。


「アバズ・コルタナ…………? どこかで聞いたことがあるな」


 リュキが考えていると、寝ていたルルートが唸りだした。

 その尋常ではない震えと声にリュキはルルートを強く揺り起こした。

「ルルート!」

「こわい、こわいよ」


 ルルートはリュキが起こそうと背に置いた腕を握り、怯えた表情で寝言を言っていた。

「また、繰り返すのは嫌だ……」

 ルルートは苦しく、絞り出すように呟いた。


「おい! ルルート」

 リュキの叫んだ声でルルートはびくっと体を震わせた。


「あ、リュキ………………とても、怖い夢を見た」

「そうらしいな……でも、大丈夫だ。僕もいるし、フォルナもきっとすぐに来る」

「そう、だよね」


 ルルートは耳飾りを握りしめ、体を丸めた。

「おい、ルルート……聞きたいことがあったんだ」

 リュキはルルートの背を見ながら言う。

「あの守り手、古代兵器との戦いで、君は何をしてあれを倒せたんだ」


 ルルートはリュキの方へ体勢を振り返った。

「……自分でもわからない」

 ルルートは利き手の左手を見ながら言う。


「ウチがどうやって鉄剣を振り回したのかも、覚えてないの……あの時は自分が自分じゃなかった」

 ルルートは再び目を閉じ、守り手が剣に引き裂かれて原型がなくなった姿を思い出した。


「……そうか」

(あの速さ、普通じゃない。ルルートは何者なんだ。本人もわからないらしいんじゃ手がかりがないな……)

 リュキは思考した。


「そうだ、そういえば、リュキはアレンって名前だったんでしょ?」

「そうだけど、それがどうかしたのか?」

「じゃあ、アレン王子! ‥って呼んだ方がいい?」

「もう、その名は昔に捨てている。リュキが今の僕の名だ」

「じゃっ、リュキ!」

 ルルートは嬉しそうに言った。


「失礼いたす」


 突然扉が開き、老人が入ってきた。

 ルルートは声を聞いた瞬間飛び起き、その場に座った。


 小柄な老人は正座をして、二人に礼をした。

「わしは雷の一族の長、ブルゾイと申す。突然このような所へお連れた無礼をお詫びする」

「大丈夫だよ。クノッタさんから、追われてることは教えてもらったから。……って、おじいちゃん!

雷の一族って言った!?」


 ブルゾイは頷いた。

「あなた方は、アレン様に、」

「リュキだよー!」

「リュキ様に…………」


 ルルートはぷくっと頬を膨らませて言う。

「ウチはルルート。フォルナの弟子だよ!」

「…………ルルート様ですか」


「雷の一族ってことは、ザンダ語も話せる? ウチ達、ザンダ語らしい本を持っててね、それを解読してほしいんだ!……えっと、これなの。フォルナがお父さんから預かって、内容を知るためにここまで旅してきたんだ」

「ほう…………これは、」

「ね、題名は何て書いてあるの?」

「……『災厄の歴史』と書いてある」

「災厄……?」


 リュキが眉をひそめた。


 ◆


 フォルナが火馬に乗ってから、数時間。

 フォルナはシナンが拠点だという、平野の地下にある場所に来ていた。


「私は近くにあると思ったけれど、大分湿地の町から遠かったわね……」

「迷惑をかけた。これから地下のやつらに紹介して、話を始める」


 道中シナンは拠点に着いたら話すと黙っていたが、シナンに協力者が大勢いるというのは聞いていた。

 地上で馬を預けて拠点の地下へ降りると多くの人々が集まっており、そこにはフォルナの知った顔もあった。


「あなたは……トラモント村の村長さんと、案内してくれた息子さん?」

「はい。そうでございます、フォルナ様。ほら、テレム。挨拶をしろ」


 以前フォルナと出会った案内人テレムは、フォルナを見上げて戸惑ったようだったが、お辞儀した。

「いえ、様だなんて言われることを私はしていないわ。テレムさんも頭上げて。……では、村長さん。失礼するわ」


 フォルナは村人達の態度の変化に驚きと違和感を覚えながらシナンについて行き、部屋へ入った。

 中は意外と広く、夜光石で明るい。


「フォルナ。手間をかけさせて悪かった。久しぶりだな、こうやって二人で話すのは」

 シナンはフォルナを椅子に座らせて、茶を出した。


「そうね…………あら、このお茶とても良い匂い。いただくわ」

 シナンはフォルナの様子を見て、顔を緩めた。


「おまえは俺の家に来てから、茶を飲む度にそんな美味しそうな顔をしたものだ。……あの頃が、懐かしいな」


 シナンは頬杖をついて、思い出をしみじみと語った。

 フォルナもシナンの話を熱心に聞いていた。

 そして雰囲気に慣れ、落ち着いてきた頃にフォルナが切り出した。


「……それで…………私達の国には、一体何が起こったの」

 シナンもその言葉で顔が暗くなった。


「陽の国の侵略行為だ」


「……!」


 フォルナは息を呑んだ。

「私のせいでは無かった、ということかしら……」

「フォルナ、勘違いしないでくれ。言い伝えは本当ではない。過去の言葉なんて、むやみに信じるな。フォルナは神獣様に守護された、素晴らしい力を持っているのだから」


 シナンは身を乗り出す勢いで言った。


「陽の国は王が変わってから、他国の領土侵略に活発になっているだろう? 支配した土地には重税を課し、差別をしている。そんなひどいやつらが……我が国を、滅ぼしたんだ」

 シナンは顔を俯かせた。


「……そこで、フォルナ。頼みがある。望んでいるのは俺だけじゃない。さっき、地下に人がたくさん集まっていたのを見ただろう? 俺も、彼らも、支配され苦しんでいる人々全員の願いだ」

 シナンはフォルナの腕を強く握りしめた。


「おまえの持つ、魔獣を操る力で陽の国を攻め入ってほしい」

 その言葉がシナンの口から出たのを聞いて、フォルナは固まった。
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