私も異世界転移したいのですが!

空城誠

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第一章:異世界への転移と混乱

【第三話】夏の終わりと新学期

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 異世界転移の衝撃を引きずったまま、夏休みが終わってしまった。
 とても残念なことに、夏休み最終日になっても転移できなかった私は、徹夜してなんとか宿題を終わらせる羽目になった。
 疲れ切った時の父のような顔を隠さず登校すると、私と似たような顔になっている人をちらほら見かけたので、転移したから宿題できませんでした作戦を考え出したのは私だけではなかったようだ。
 眠たい目を擦りながら下駄箱で靴と上履きを置き換える。さて、上履きを履こうとした時、背後から声がかかった。
 
「おはよう……こよりちゃん?」

 この声はアリーだ。アリーが私より遅く来るなんて珍しい。声がした方に振り向き、そして手に持ったままだった上履きから手を放してしまう。

「アリー!? なんか見たことない有様になってるよッ!?」

 いつも完璧にセットされている髪には寝癖がついているし、校則で許される範囲の薄化粧もしていないし、そのせいか目元のくまも酷い。……ん?隈?

「もしかして、アリーも徹夜した?」

「え、えへへ。こよりちゃんも?」

「うん。夏休み最終日に徹夜して宿題やるなんて、小学生の時以来だよ~」

 アリーが上履きに履き替えるのを待ってから、一緒に教室を目指す。仲良し四人組の中でアリーだけが同じクラスなので、必然的にアリーと行動する事が多い。

「今日は、案外皆考える事は同じだなぁって思う瞬間をベスト10テンにしたら、堂々と一位にできる位は同じだなぁって思ってる気がする」

 自分の徹夜理由と貫徹して頭が働いていないのも相まって、今日眠そうな顔をしている人は全て“転移したから宿題できませんでした作戦”に失敗した同類だと思いこんでいる私。
 アリーに前提も話さず話題を進める。だいぶ脳が死んでいた。

「そんな事考えてるから異世界転移しないのかもだけど! まぁまだ自分に異世界転移できる可能性があるなんて、はっきり実感持ってるわけじゃないんだけどさ」

「そう? 案外すぐ予兆来ちゃうかもですよ」

「そうかなー。私の周りで異世界転移した人まだ居ないからなぁ」

「そしたら、私が一番乗りですね」

「おおー、一番乗りかぁ。さすが!」

 島崎さん異世界転移事件から何週間たっただろうか。転移して戻ってきた人も着実に増えてきて、世界でも日本限定の現象として取り沙汰されているようだ。政府としても何か対応策を考えなくてはならない……みたいな事をニュースで言っていたような気がする。

「学校とかもさ、転移したら出席日数に響かないとかにしてくれないかなーって思わない?」

「あ、それは思いました! あと転移した後は何日かお休みとかにしてもいいとか、そういうのもいいですね」

「え~なんで?」

「目が覚めたら結構記憶があやふやになってまして。転移してた事は少し覚えてるだけなのに、こう、七年間経ったと思ってたら一週間だったっていうギャップがなかなか抜けなくて……。だから昨日は色々と思い出すのを頑張ってたら徹夜しちゃいまして」

「そうなんだ~意外と大変だね」

 アリーは恥ずかしそうに微笑む。元々の素材がいいから、お化粧をしていないのに神々しさを感じるほど笑顔が可愛い。こんな可愛くて真面目なアリーですら徹夜するほど大変なら、たしかに転移後のお休みは必要かもしれない……。

「ん?」

「? どうかしました?」

 ――下駄箱からここに至るまで、私たちは何の話をしていた?

「え、えっと……異世界に転移したの……?」

「う、うん」

 私はなんでそのワードに反応できなかったんだ?

 あまりにも周りに転移したり予兆がきた人が居なさ過ぎて、本当にテレビやネットの中だけの出来事だと思っていたのかもしれない。
 いや、脳みその処理が追いついていなかった……あまりにも自然にその話題になったから、理解したようで理解できていなかった。徹夜明けの頭には、ちょっと荷が重い話題だったんだろう。うん、そういう事にしよう。

(でも少しインターバルを置きたい。あとちょっとで教室だけど、左に曲がって自販機に行こうかな……)

 思い立ったが吉日。私はアリーとは違う方向に体を向けた。

「ごめんアリー、飲み物買い忘れてたから自販機行ってくる。時間ギリギリだから、先に教室行ってて!」

 アリーの返事も待たずに、私は自販機のある教室棟から実習棟へ渡る用の廊下を突き進む。すると、予想外の先客に遭遇した。

「あれ、コヨじゃん! おはー」

 レンはひと夏の間で小麦色に焼けた肌に汗を伝わせたまま、元気よく手を上げた。そして不思議そうに視線を落とす。

「コヨ、上履き忘れたならあとでスリッパ借りてくるといいよ!」

 視線の先は、私の足元だった。私は何故か上履きを履かずに靴下のまま歩いていたらしい。

「うわ、なんで上履き履いてないんだろ!? 手には持ってたはず……あ」

 思い当たるのは、下駄箱でアリーに話しかけられた時。手に持っていた上履きの記憶は、そこで途切れている。

 キーンコーンカーンコーン……。

 始業ベルの予鈴が鳴る。それは朝のホームルームが始まるまであと五分しかない事を意味していた。

「レン! お昼休みはいつもの所に集合ね! じゃあ!」

 私のクラスの担任は始業ベルが鳴ってから二分後に教室に入るくらいのんびりとした人なので、残された時間は実質七分くらい。急いで下駄箱に行って上履きを探して帰ってきても少しくらいは余裕はありそうだった。

「ああもう、夏休み明けから色々ありすぎーー!」

 半分以上は自分のせいなのだけれど、人目も気にせず叫ばずにはいられない。今日から暫くは、この事をレンにからかわれるのは避けられないだろう。そして靴下のまま廊下を駆け抜ける間抜けな一年生が居たというのも噂になるかもしれないのだから。 


◇◇◇


 お昼休み。仲良し四人組はクラスが別れているため、時間がある時は中庭のテーブル椅子に陣取って一緒にお昼ご飯を食べるようにしていた。今日は午前中は始業式で午後は防災訓練、そして長いホームルームを経て通常より二時間も早く帰宅できるので、時間的にも気持ち的にも余裕がある。

「なんか、思ったより転移した人多かったねぇ」

 ミイが、サンドイッチを頬張りながらぼやく。全校集会の時に学生指導の先生が言うには、今日登校していない生徒のうちの何人かは転移しているみたいだし、夏休み中に転移を経験した生徒もそれなりに居るという。数週間経ったとはいえ、この学校だけでもそこそこの数だった。

「凄いよねーあたし吃驚したよ! リリも転移したんでしょ~聞いたよ!?」

「わ、私は夏休み最終日に戻ってこれそうだったので……」

 そうそう、アリーから詳しく話を聞くために、集合をかけたのだった。先にお昼を食べきってしまって、食後のティータイムと洒落込しゃれこみながら、口を割るようアリーをうながす。

「そんな面白い話でもないですよ!」

 アリーは縮こまっていたが、三人からの圧を受けて、やっとぽつりぽつりと話始めた。

「……予兆が来たのは、二十二日頃でした。私の宿題は終わっていたので、妹の宿題を手伝っていたんです。そしたら、急に眠たくなってしまって――、一瞬、寝落ちしちゃったんですね。その寝落ちしている間に、こう、綺麗な女の子が夢に出てきて、転移したかったら覚えて三回唱えてって言われたので、一応覚えました」

 妹の宿題の手伝いをするくらい余裕があったのか。まず私が衝撃を受けたのは、そこだ。

「それで家族が集まった時に、相談してみたんです。どうすればいいのか自分だけでは判断できなくて……。そしたら、母がホットラインに電話してくれました。もし転移する意思があるなら、そういう人用に病院の大部屋を確保しているから行っていいみたいで。ただ、ちゃんと安全な場所で横になるまでは、呪文を唱えてはいけないと念は押されました」

 実際、一度目・・・の人たちの中にも立ったまま呪文を唱えたせいで危うく頭をぶつけそうになった人がいたらしいし、呪文を唱えるタイミングは注意しないといけない。私はスマートフォンのメモ機能を立ち上げて、きたる日に備えて注意事項をまとめる事にする。

「それで、明日行けば夏休み終わるギリギリになるけど転移してみたいって思ったので、自分から行きたいって言ったんです。両親は微妙な顔をしていましたが、妹は羨ましいって駄々こねてましたね」

 私はさながら新聞記者のような姿勢でアリーの話を聞いていたけれど、他の二人はというと、ミイは羨ましそうな、レイは興味深そうな顔をしている。

「ねぇねぇアリッち、呪文ってどんなのだった?」

「あーそれ、あたしも気になる!」

「そうですね……。ああ、ドラクエの復活の呪文みたいだって言ってる人が病院に居ましたよ」

 ドラクエの復活の呪文とは、まだセーブ機能が無い時代にゲームの進行度を暗号化したもので、それがパスワードとなっていたらしい。このパスワードを入力すると、暗号が示す状態でプレイが再開できるのだとか。
 正直、自分が生まれるよりずっと前のゲームだし、実物を目にしたことはないけれど、中学の現代史の授業でゲームの歴史も学ぶから、私たちの世代は割と知っている。

「えーじゃあ、意味不明な言葉の羅列ってこと?」

「私は数字と英語も混じってました。 でも、もちろんそこら辺は人によって違いますけd」

 ジリリリリリリリリリリリ!!

 突如、警報器のけたたましい音が学校中に響き渡る。それと同時にあちこちで悲鳴が上がり、怒号が飛び交った。

「な、何事!?」

 私達は既に外に居た分余裕があった。しかし校舎内が騒がしすぎて、校内向けの放送内容が聞き取れない。一度グラウンドに出るか騒ぎが収まるまで待つか決めかねていたけれど、意外なことに、アリーが私達の手を引っ張り背中を押してくれる。
 そんなこんなで私達は、アリーに導かれてグラウンドを目指す集団の中に飛び込んだ。
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