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Episode1・ゼロス誕生
王妃の外遊2
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祖国。ここをそう呼ぶのは複雑です。
王都をぐるりと囲む石壁を潜ると、大通りには魔界から訪れた王妃一団をひと目見ようとたくさんの民衆で溢れかえっていました。
歓声を上げて出迎えてくれる民衆に困惑してしまいます。
民衆は口々に「おめでとうございます!」「おかえりなさい!」と親しみを込めて帰還を祝ってくれますが、帰還という言葉には違和感を覚えてしまう。
私の出身はこの小国の中でも片隅にある小さな領地の森の中。この国に住んでいた時、領地から出たことがなかったので王都には初めて訪れたのです。
通り沿いから手を振ってくれる民衆に車窓から会釈で返礼しながらも、広がる王都の風景は知らない景色で、私の国の王都はこんな都だったのかと初めて知りました。
「ブレイラ様、後しばらくで城に到着します。今夜は祝いの式典にご参加いただき、王都の迎賓宮でお休み頂きます」
「分かりました。……大きな式典ですか?」
「この国の王侯貴族だけでなく、近隣国からも爵位を持った方々が出席されるそうです」
「そうですか、緊張します」
「ブレイラ様出身の領地からも当代領主が出席するそうですが、領主は先代の嫡子です。もし不快な思いがあるようでしたら御申しつけください。対処いたします」
思わぬ気遣いに苦笑しました。
先代領主のバイロンは死去しています。それは自業自得ともいえる死でした。
そして当代領主がそれをどこまで把握しているのか分かりませんが、バイロンの嫡子ならそれなりに知っていると思っていいでしょう。
領主と会うことに不安はありますが、隣にいるイスラと腕の中のゼロス、そして左手薬指に嵌められた環の指輪を順に見ました。
大丈夫、もうあの頃のような孤独ではありません。何があっても受け止められます。
「……大丈夫です。構いません」
「ブレイラ様……」
「心配をかけてごめんなさい。でも本当に大丈夫です。それに式典にはコレットもいてくれるのでしょう?」
「もちろんです。お側に控えますので、なんなりと」
「それなら大丈夫ですね」
そう言って笑いかけると、コレットもようやく安心してくれました。
こうしてしばらく馬車は王都を進み、城門を潜って城内へと入って行く。いよいよ王との謁見でした。
城の広間には楽団の奏でる優雅な音楽が流れ、華やかな衣装を身に纏った王侯貴族たちの煌びやかな世界が広がっていました。
式典が始まってから私の元へは数多くの貴族が祝辞の挨拶に訪れてくれます。ひっきりなしに訪れる貴族たちは、祖国から魔界の王妃を輩出した光栄を口々に祝いました。まるで身内からの輩出を祝うような口振りに苦笑を覚えてしまう。
仕方ない事だと頭では分かっていますが、今まで会ったこともないような貴族が親しげに話しかけてくるのです。
もちろんその中には私が暮らしていた領地の領主もいました。紹介を受けた時は警戒しましたが、過ぎれば呆気ないものでした。
領主は先代の事など何事もなかったように領地の話をして私に祝いを述べたのです。それは白々しい態度にも見えるのと同時に、当代領主の狡猾さが伺えるものでした。当代領主は先代の罪深い出来事を無かったことにしてしまいたいのです。
私は謝ってほしかった訳ではありません。でも魔族の女性を犠牲にした出来事は、決して無かったことに出来るものではありません。
しかし私も触れることは出来ず、白々しいと思いながらも挨拶を受け流しました。
そして、ちらりと広間の片隅に視線を向ける。
そこには一人の男、名はチェルダ。この国の若い国王です。
国王とは謁見で挨拶をしてから二人で話すことはありませんでした。その挨拶も儀礼的な祝辞で当たり障りのないものだったのを覚えています。
チェルダは見るからに気弱な王で、どちらかというと周囲の貴族たちの方が大柄な態度に見えます。貴族たちから王への敬愛を感じないのです。
今も式典の主催であるはずなのに、貴族たちは国王に儀礼的な挨拶をするだけで機嫌を取ろうとする者すらいません。そこから見えるのは若い国王に対する侮りでしょう。
「ブレイラ……」
つんつんとローブの袖が引かれました。
見るとイスラが疲れた顔で私を見上げています。
今夜の式典は私と、私の息子としてイスラが参加しています。ゼロスはマアヤとともに部屋に下がってもらっているのです。
「疲れてしまいましたか?」
「うん」
こくりと頷くイスラに目を細めます。
そうですよね、イスラも何度かこういった式典には出ていますが、やはり子どもには退屈で疲れるものです。
「少し外の風に当たりに行きましょうか。コレット、いいですか?」
「はい。ではこちらのバルコニーへ行きましょう。夜の庭園をご覧にいただけます」
コレットはさっそく私とイスラをバルコニーまで案内してくれます。
途中で何人かの貴族が話しかけてきましたが、すべてコレットが対応して貴族たちには諦めてもらいました。
広間からバルコニーに出ると、心地よい夜風が頬を撫でる。
息苦しかった広間からの解放にほっと息を付きました。
「ここで少し休憩しましょう」
「うん。ブレイラ、みろ。ふんすいがあるぞ」
イスラがバルコニーから望める庭園を指さします。
庭園の真ん中には噴水があり、その周りを彩るようにして花壇があります。手入れの行き届いた花々は月明かりの下で淡い光を放つように咲き誇っていました。
「綺麗ですね。行ってみますか?」
「いく!」
私はイスラと手を繋いでさっそくバルコニーから庭園へと降りました。
コレットも控えた位置にいながら一緒に来てくれます。
三人で噴水の近くにくると、城の方から侍従を連れたチェルダが血相を変えて走ってきました。
王都をぐるりと囲む石壁を潜ると、大通りには魔界から訪れた王妃一団をひと目見ようとたくさんの民衆で溢れかえっていました。
歓声を上げて出迎えてくれる民衆に困惑してしまいます。
民衆は口々に「おめでとうございます!」「おかえりなさい!」と親しみを込めて帰還を祝ってくれますが、帰還という言葉には違和感を覚えてしまう。
私の出身はこの小国の中でも片隅にある小さな領地の森の中。この国に住んでいた時、領地から出たことがなかったので王都には初めて訪れたのです。
通り沿いから手を振ってくれる民衆に車窓から会釈で返礼しながらも、広がる王都の風景は知らない景色で、私の国の王都はこんな都だったのかと初めて知りました。
「ブレイラ様、後しばらくで城に到着します。今夜は祝いの式典にご参加いただき、王都の迎賓宮でお休み頂きます」
「分かりました。……大きな式典ですか?」
「この国の王侯貴族だけでなく、近隣国からも爵位を持った方々が出席されるそうです」
「そうですか、緊張します」
「ブレイラ様出身の領地からも当代領主が出席するそうですが、領主は先代の嫡子です。もし不快な思いがあるようでしたら御申しつけください。対処いたします」
思わぬ気遣いに苦笑しました。
先代領主のバイロンは死去しています。それは自業自得ともいえる死でした。
そして当代領主がそれをどこまで把握しているのか分かりませんが、バイロンの嫡子ならそれなりに知っていると思っていいでしょう。
領主と会うことに不安はありますが、隣にいるイスラと腕の中のゼロス、そして左手薬指に嵌められた環の指輪を順に見ました。
大丈夫、もうあの頃のような孤独ではありません。何があっても受け止められます。
「……大丈夫です。構いません」
「ブレイラ様……」
「心配をかけてごめんなさい。でも本当に大丈夫です。それに式典にはコレットもいてくれるのでしょう?」
「もちろんです。お側に控えますので、なんなりと」
「それなら大丈夫ですね」
そう言って笑いかけると、コレットもようやく安心してくれました。
こうしてしばらく馬車は王都を進み、城門を潜って城内へと入って行く。いよいよ王との謁見でした。
城の広間には楽団の奏でる優雅な音楽が流れ、華やかな衣装を身に纏った王侯貴族たちの煌びやかな世界が広がっていました。
式典が始まってから私の元へは数多くの貴族が祝辞の挨拶に訪れてくれます。ひっきりなしに訪れる貴族たちは、祖国から魔界の王妃を輩出した光栄を口々に祝いました。まるで身内からの輩出を祝うような口振りに苦笑を覚えてしまう。
仕方ない事だと頭では分かっていますが、今まで会ったこともないような貴族が親しげに話しかけてくるのです。
もちろんその中には私が暮らしていた領地の領主もいました。紹介を受けた時は警戒しましたが、過ぎれば呆気ないものでした。
領主は先代の事など何事もなかったように領地の話をして私に祝いを述べたのです。それは白々しい態度にも見えるのと同時に、当代領主の狡猾さが伺えるものでした。当代領主は先代の罪深い出来事を無かったことにしてしまいたいのです。
私は謝ってほしかった訳ではありません。でも魔族の女性を犠牲にした出来事は、決して無かったことに出来るものではありません。
しかし私も触れることは出来ず、白々しいと思いながらも挨拶を受け流しました。
そして、ちらりと広間の片隅に視線を向ける。
そこには一人の男、名はチェルダ。この国の若い国王です。
国王とは謁見で挨拶をしてから二人で話すことはありませんでした。その挨拶も儀礼的な祝辞で当たり障りのないものだったのを覚えています。
チェルダは見るからに気弱な王で、どちらかというと周囲の貴族たちの方が大柄な態度に見えます。貴族たちから王への敬愛を感じないのです。
今も式典の主催であるはずなのに、貴族たちは国王に儀礼的な挨拶をするだけで機嫌を取ろうとする者すらいません。そこから見えるのは若い国王に対する侮りでしょう。
「ブレイラ……」
つんつんとローブの袖が引かれました。
見るとイスラが疲れた顔で私を見上げています。
今夜の式典は私と、私の息子としてイスラが参加しています。ゼロスはマアヤとともに部屋に下がってもらっているのです。
「疲れてしまいましたか?」
「うん」
こくりと頷くイスラに目を細めます。
そうですよね、イスラも何度かこういった式典には出ていますが、やはり子どもには退屈で疲れるものです。
「少し外の風に当たりに行きましょうか。コレット、いいですか?」
「はい。ではこちらのバルコニーへ行きましょう。夜の庭園をご覧にいただけます」
コレットはさっそく私とイスラをバルコニーまで案内してくれます。
途中で何人かの貴族が話しかけてきましたが、すべてコレットが対応して貴族たちには諦めてもらいました。
広間からバルコニーに出ると、心地よい夜風が頬を撫でる。
息苦しかった広間からの解放にほっと息を付きました。
「ここで少し休憩しましょう」
「うん。ブレイラ、みろ。ふんすいがあるぞ」
イスラがバルコニーから望める庭園を指さします。
庭園の真ん中には噴水があり、その周りを彩るようにして花壇があります。手入れの行き届いた花々は月明かりの下で淡い光を放つように咲き誇っていました。
「綺麗ですね。行ってみますか?」
「いく!」
私はイスラと手を繋いでさっそくバルコニーから庭園へと降りました。
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