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Episode1・ゼロス誕生
王妃の外遊4
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二日目の予定は国内の要所を巡る視察を兼ねたセレモニーの招待でした。
主だった領地を治める貴族の案内で要所巡りをするのです。
その中にはかつて私が住んでいた領地もありました。
私がそこへ足を踏み入れたのは陽が傾く頃です。
馬車が街に入り、車窓に見覚えのある景色が広がりました。
薬師をしていた私はこの街の貧民街で薬を売っていたのです。
街では薬を売っていた記憶しかなく、特に思い出深いことがあった訳ではありません。でも不思議ですね、知っている街の景色を目にするとやはり懐かしさがこみ上げるのです。
「ブレイラ、ここしっているのか?」
隣に座っていたイスラが興味津々に車窓を眺め、私に聞いてきました。
イスラもこの領地で誕生したのですが、その生活圏はほとんど山の中でした。
「イスラは山を降りたことはありませんでしたね。あなたは生まれて十日目でハウストとずっと鍛錬をしていましたから」
あの時はイスラをハウストの望む子どもに育てることしか考えていませんでした。
街を見せてあげたいなんて気持ちも沸くはずがなくて、強い子どもになるように毎日なにを食べさせようかと考えるだけでした。
「コレット、馬車を降りて少し歩いてもいいでしょうか」
「何を言うかと思えば……。許すとお思いですか?」
急なお願いにコレットが顔を顰めました。
当然の反応に申し訳なさを覚えましたが、どうしてもかつて歩いていた街をもう一度歩いてみたくなったのです。
「無理は重々承知です。でもなんとか出来ませんか? 少しでいいのです。イスラとゼロスにも見せてあげたくて……」
お願いしますと頭を下げます。
無理なお願いをしていることは分かっています。まして急な願いで、とても困らせていると。
コレットは悩んでいましたが、少ししてため息をつく。
「……頭を上げてください、王妃様が臣下に軽々しく頭を下げては示しがつきません」
「ですが……」
「少しだけでしたら、大丈夫です」
「いいんですか?!」
「本当は阻止したいことではありますが、魔王様から多少の無理は叶えるように言付かっております」
「ハウストが」
ハウストの手回しに顏が綻んでいく。
私の気持ちを汲んでくれている彼にじわりと胸が温かくなります。
「これを多少と判断して良いものか迷うところですが、私どももフォローいたします」
「ありがとうございます。迷惑をかけます」
「それは今更ですよ。でも今馬車を降りれば混乱が生じますので、時間をおいて変装してお出掛けください。その際は周囲に護衛も潜ませます」
「よろしくお願いします」
許可が下りてほっとひと安心です。
どうしましょう、ワクワクしてきました。
「イスラ、もう少ししたら馬車を降りて一緒に街を散歩しましょう」
「うん! いくぞ!」
「ふふふ、楽しみですね。ゼロスも楽しみにしててくださいね」
「あぶっ!」
ゼロスが手足をばたつかせて喜びました。
その姿に目を細めましたが。
「…………ん? 温かい?」
ゼロスを抱っこしている胸元がじわりと温かくなる。
ふと見ると、ゼロスの服が湿っています。
「あっ、濡れてます! あなた、お漏らししましたね?」
「あぶぶー」
「あぶぶーではありませんよ。仕方ないですね」
思わず苦笑しました。
濡れてますよ? とゼロスの顔を覗き込むも、ちゅちゅちゅちゅちゅ。
ゼロスは素知らぬ顔で指を吸い始めました。
「ゼロス、おもらししたのか?」
「そうですよ。まだ赤ちゃんですからね」
ゼロスを覗き込むイスラにそう答えると、マアヤにゼロスの新しい服を出してもらいます。
「ブレイラ様、私がゼロス様のお着替えをいたしましょうか」
「いいえ、私ができる時は私がします。またお願いします」
申し出はありがたいですが自分の手で育てると決めています。
私が出来る時はなるべく私がしてあげたいのです。
「ゼロス、服を着替えましょう。ちょっと口から指を離してくださいね」
そう声を掛けながら、お漏らしで濡れた服を着替えさせました。
今日は領主の館に程近い場所にある迎賓館で滞在します。
領主の歓待を受けた後、すぐに迎賓館に戻って街へでる支度をしました。
幸いにも城の式典で挨拶を済ませていたこともあり、歓待は短時間で終わらせることができました。領主としても歓待が長くなれば先代領主バイロンの話題に飛び火しかねないことを警戒したのでしょう。
バイロンの悪行を無かったことにしたい領主の狡猾さに不快を覚えましたが、早めに解放されたことは幸いでした。
「コレット、これで大丈夫ですか?」
「はい。あとはヴェールを目元まで被っていただき、顔を少し隠してください。これなら人々の目も欺けるかと」
変装用に用意してもらったのは豪商の貴婦人が着るような上品な衣装でした。飾り気はなくとも上質な生地で織られたローブです。頭からヴェールを被って素顔を隠せば身バレすることもないでしょう。
そして私の側に控えてくれるコレットとマアヤは召使いの衣装を身に纏う。こうすれば、一見は商人の奥方が召使いを連れている図に見えるのです。
「イスラ様とゼロス様の支度も整いました。護衛の配置も完了しています。では暗くなる前に参りましょう」
「はい、よろしくお願いします」
こうして準備を終え、私たちはさっそく街へ繰り出しました。
主だった領地を治める貴族の案内で要所巡りをするのです。
その中にはかつて私が住んでいた領地もありました。
私がそこへ足を踏み入れたのは陽が傾く頃です。
馬車が街に入り、車窓に見覚えのある景色が広がりました。
薬師をしていた私はこの街の貧民街で薬を売っていたのです。
街では薬を売っていた記憶しかなく、特に思い出深いことがあった訳ではありません。でも不思議ですね、知っている街の景色を目にするとやはり懐かしさがこみ上げるのです。
「ブレイラ、ここしっているのか?」
隣に座っていたイスラが興味津々に車窓を眺め、私に聞いてきました。
イスラもこの領地で誕生したのですが、その生活圏はほとんど山の中でした。
「イスラは山を降りたことはありませんでしたね。あなたは生まれて十日目でハウストとずっと鍛錬をしていましたから」
あの時はイスラをハウストの望む子どもに育てることしか考えていませんでした。
街を見せてあげたいなんて気持ちも沸くはずがなくて、強い子どもになるように毎日なにを食べさせようかと考えるだけでした。
「コレット、馬車を降りて少し歩いてもいいでしょうか」
「何を言うかと思えば……。許すとお思いですか?」
急なお願いにコレットが顔を顰めました。
当然の反応に申し訳なさを覚えましたが、どうしてもかつて歩いていた街をもう一度歩いてみたくなったのです。
「無理は重々承知です。でもなんとか出来ませんか? 少しでいいのです。イスラとゼロスにも見せてあげたくて……」
お願いしますと頭を下げます。
無理なお願いをしていることは分かっています。まして急な願いで、とても困らせていると。
コレットは悩んでいましたが、少ししてため息をつく。
「……頭を上げてください、王妃様が臣下に軽々しく頭を下げては示しがつきません」
「ですが……」
「少しだけでしたら、大丈夫です」
「いいんですか?!」
「本当は阻止したいことではありますが、魔王様から多少の無理は叶えるように言付かっております」
「ハウストが」
ハウストの手回しに顏が綻んでいく。
私の気持ちを汲んでくれている彼にじわりと胸が温かくなります。
「これを多少と判断して良いものか迷うところですが、私どももフォローいたします」
「ありがとうございます。迷惑をかけます」
「それは今更ですよ。でも今馬車を降りれば混乱が生じますので、時間をおいて変装してお出掛けください。その際は周囲に護衛も潜ませます」
「よろしくお願いします」
許可が下りてほっとひと安心です。
どうしましょう、ワクワクしてきました。
「イスラ、もう少ししたら馬車を降りて一緒に街を散歩しましょう」
「うん! いくぞ!」
「ふふふ、楽しみですね。ゼロスも楽しみにしててくださいね」
「あぶっ!」
ゼロスが手足をばたつかせて喜びました。
その姿に目を細めましたが。
「…………ん? 温かい?」
ゼロスを抱っこしている胸元がじわりと温かくなる。
ふと見ると、ゼロスの服が湿っています。
「あっ、濡れてます! あなた、お漏らししましたね?」
「あぶぶー」
「あぶぶーではありませんよ。仕方ないですね」
思わず苦笑しました。
濡れてますよ? とゼロスの顔を覗き込むも、ちゅちゅちゅちゅちゅ。
ゼロスは素知らぬ顔で指を吸い始めました。
「ゼロス、おもらししたのか?」
「そうですよ。まだ赤ちゃんですからね」
ゼロスを覗き込むイスラにそう答えると、マアヤにゼロスの新しい服を出してもらいます。
「ブレイラ様、私がゼロス様のお着替えをいたしましょうか」
「いいえ、私ができる時は私がします。またお願いします」
申し出はありがたいですが自分の手で育てると決めています。
私が出来る時はなるべく私がしてあげたいのです。
「ゼロス、服を着替えましょう。ちょっと口から指を離してくださいね」
そう声を掛けながら、お漏らしで濡れた服を着替えさせました。
今日は領主の館に程近い場所にある迎賓館で滞在します。
領主の歓待を受けた後、すぐに迎賓館に戻って街へでる支度をしました。
幸いにも城の式典で挨拶を済ませていたこともあり、歓待は短時間で終わらせることができました。領主としても歓待が長くなれば先代領主バイロンの話題に飛び火しかねないことを警戒したのでしょう。
バイロンの悪行を無かったことにしたい領主の狡猾さに不快を覚えましたが、早めに解放されたことは幸いでした。
「コレット、これで大丈夫ですか?」
「はい。あとはヴェールを目元まで被っていただき、顔を少し隠してください。これなら人々の目も欺けるかと」
変装用に用意してもらったのは豪商の貴婦人が着るような上品な衣装でした。飾り気はなくとも上質な生地で織られたローブです。頭からヴェールを被って素顔を隠せば身バレすることもないでしょう。
そして私の側に控えてくれるコレットとマアヤは召使いの衣装を身に纏う。こうすれば、一見は商人の奥方が召使いを連れている図に見えるのです。
「イスラ様とゼロス様の支度も整いました。護衛の配置も完了しています。では暗くなる前に参りましょう」
「はい、よろしくお願いします」
こうして準備を終え、私たちはさっそく街へ繰り出しました。
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