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勇者と冥王のママは暁を魔王様と
第十章・開眼式典開幕4
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「ちちうえ、みてた?! ぼく、つよかったでしょ?!」
ゼロスがまたしてもハウストに飛びついた。
もちろん主張されるまでもなくゼロスが強くなっていることにハウストは気付いている。そして一人で玉座に座り、冥王として冥界を強化してきたことも。
「ああ、驚いた。よく頑張ったな」
「うん! あのね、あにうえといっしょに、えいえいってしてたの! こわかったけど、ぼくがんばった!」
嬉しそうにゼロスが話した。
興奮した様子のゼロスに苦笑してしまう。きっと話したいことがたくさんあるのだろう。
ハウストはイスラを見た。きっとイスラは苦労したはずだ。
「ご苦労だったな。この甘ったれを相手に大変だっただろう」
「ああ、大変だった」
イスラは遠慮なく答えた。
実際、ゼロスを鍛えるのはとても大変だったのだ。
しかしイスラは続ける。
「でも、必要だったからな。四界の王がいつまでも甘ったれなのは困る」
「たしかに」
ハウストも重く頷いた。
ましてやゼロスは創世の王。先代がいない冥界にはゼロスしかいないのである。
ブレイラはゼロスを『まだ三歳』と言うが、ゼロスは誕生した時から冥王なのだ。ひとたび冥界に有事が起これば幼さや未熟さなど関係なくなるのである。
そして今、その有事が起ころうとしている。
「ハウスト、今、人間界はどうなっている」
「人間界の連合軍と教団が武力衝突するのは時間の問題だ。お前も見ただろう、遺跡の周囲一帯はすでに人間界の軍が包囲している」
「ああ、それについては俺も把握している。このまま放っておくつもりはない」
ハウストとイスラは真剣な面持ちで情報交換を行なった。
しかし……。
「うんうん」
二人の足元でゼロスが小さな拳をぎゅっと握って聞いていた。参加しているつもりなのだ。……思い返せばゼロスは赤ん坊の頃からこうだった。
もちろん二人はそれに気付いていたが、あえてそっとして会話を続ける。
「教団はお前の左腕を利用して連合軍を一掃するつもりだ。連合軍もそれなりに装備しているが、まともに衝突すれば戦場で万を超える死傷者が出るだろう」
「分かっている。教団が本格的に力を使う前に抑えたい」
「それが賢明だ」
「うんうん。けんめいだ」
「神殿の地下で人間界の古い禁術が使われていた。今のところ失敗続きのようだが、開眼式典でお前の力を使って実行するつもりのようだ。この一件が終わったら禁術について精査した方がいい」
「ああ、分かった」
「うんうん。あにうえが、わかったって」
「禁術以外にも、この地下で薬が調合されていたことが分かった。その件についても精査が必要だ。フェリクトールからも伝言を預かっている。全て完了した、とのことだ。人使いが荒いと嘆いていたぞ」
「それは悪かった」
イスラは悪びれなく答えた。相手が魔族だろうと使える者は使う主義なのだ。
いつもの調子でイスラは答えたが。……その隣でゼロスが「なげいていたぞ!」と言葉尻を拾っていた。調子が狂う。
「他には、……」
「うんうん。ほかには?」
ゼロスに先を促され、ハウストはなんとも複雑な顔になる。
ハウストとイスラは足元のゼロスを見下ろした。
先ほどからゼロスは「うんうん」と頷いて参加しているものの明らかに分かっているとは思えない。はっきりいって……邪魔だ。
いつもなら、こういう時はブレイラがゼロスを構っていた。『父上と兄上はお仕事のお話しです。あちらで一緒に遊びましょう』とゼロスの気を引いていたのだ。ゼロスもブレイラに構われるのが嬉しくて、今のようにハウストとイスラの話し合いに参加してくることはなかった。
「……ゼロス、あっちで遊んでていいぞ」
「だいじょうぶ! ぼく、おにいさんだから、おはなしわかるの! えいってできるもん!」
要するに、戦えるようになったし冥王の剣を出現させることにも成功した。だからお兄さんな気分になっているということである。しかも成長した自覚があるので自信満々なのだ。
「……遠慮するな、遊んでこい。楽しいぞ?」
「だいじょうぶ! ぼく、おにいさんだから、あそばないの! はやくおはなしして!」
そうは言うが、ゼロスはまだ三歳なので難しい話しはよく分かっていない。でも本人はお兄さん気分で参加できれば満足なのである。
ハウストとイスラの間になんとも言えない沈黙が落ちるが、イスラが気を取り直してハウストを見た。
「ハウスト、ブレイラは今どこにいる」
「地下に閉じ込められている。ブレイラの利用価値を考えれば安易に危害を加えられることはないだろう。だがそれも時間の問題だ。今後の動向によっては、教団の動きにブレイラが巻き込まれることも充分考えられる。俺はその前に助け出すつもりだが」
「ああ、俺もブレイラを探す。俺の方が身軽に動けるはずだ」
イスラは頷いて答えた。
ハウストは魔界の軍を率いて人間界を訪れている。それは囚われているブレイラや魔族を救出する為だが、軍を率いている以上自由に動くには限界があったのだ。
ゼロスがまたしてもハウストに飛びついた。
もちろん主張されるまでもなくゼロスが強くなっていることにハウストは気付いている。そして一人で玉座に座り、冥王として冥界を強化してきたことも。
「ああ、驚いた。よく頑張ったな」
「うん! あのね、あにうえといっしょに、えいえいってしてたの! こわかったけど、ぼくがんばった!」
嬉しそうにゼロスが話した。
興奮した様子のゼロスに苦笑してしまう。きっと話したいことがたくさんあるのだろう。
ハウストはイスラを見た。きっとイスラは苦労したはずだ。
「ご苦労だったな。この甘ったれを相手に大変だっただろう」
「ああ、大変だった」
イスラは遠慮なく答えた。
実際、ゼロスを鍛えるのはとても大変だったのだ。
しかしイスラは続ける。
「でも、必要だったからな。四界の王がいつまでも甘ったれなのは困る」
「たしかに」
ハウストも重く頷いた。
ましてやゼロスは創世の王。先代がいない冥界にはゼロスしかいないのである。
ブレイラはゼロスを『まだ三歳』と言うが、ゼロスは誕生した時から冥王なのだ。ひとたび冥界に有事が起これば幼さや未熟さなど関係なくなるのである。
そして今、その有事が起ころうとしている。
「ハウスト、今、人間界はどうなっている」
「人間界の連合軍と教団が武力衝突するのは時間の問題だ。お前も見ただろう、遺跡の周囲一帯はすでに人間界の軍が包囲している」
「ああ、それについては俺も把握している。このまま放っておくつもりはない」
ハウストとイスラは真剣な面持ちで情報交換を行なった。
しかし……。
「うんうん」
二人の足元でゼロスが小さな拳をぎゅっと握って聞いていた。参加しているつもりなのだ。……思い返せばゼロスは赤ん坊の頃からこうだった。
もちろん二人はそれに気付いていたが、あえてそっとして会話を続ける。
「教団はお前の左腕を利用して連合軍を一掃するつもりだ。連合軍もそれなりに装備しているが、まともに衝突すれば戦場で万を超える死傷者が出るだろう」
「分かっている。教団が本格的に力を使う前に抑えたい」
「それが賢明だ」
「うんうん。けんめいだ」
「神殿の地下で人間界の古い禁術が使われていた。今のところ失敗続きのようだが、開眼式典でお前の力を使って実行するつもりのようだ。この一件が終わったら禁術について精査した方がいい」
「ああ、分かった」
「うんうん。あにうえが、わかったって」
「禁術以外にも、この地下で薬が調合されていたことが分かった。その件についても精査が必要だ。フェリクトールからも伝言を預かっている。全て完了した、とのことだ。人使いが荒いと嘆いていたぞ」
「それは悪かった」
イスラは悪びれなく答えた。相手が魔族だろうと使える者は使う主義なのだ。
いつもの調子でイスラは答えたが。……その隣でゼロスが「なげいていたぞ!」と言葉尻を拾っていた。調子が狂う。
「他には、……」
「うんうん。ほかには?」
ゼロスに先を促され、ハウストはなんとも複雑な顔になる。
ハウストとイスラは足元のゼロスを見下ろした。
先ほどからゼロスは「うんうん」と頷いて参加しているものの明らかに分かっているとは思えない。はっきりいって……邪魔だ。
いつもなら、こういう時はブレイラがゼロスを構っていた。『父上と兄上はお仕事のお話しです。あちらで一緒に遊びましょう』とゼロスの気を引いていたのだ。ゼロスもブレイラに構われるのが嬉しくて、今のようにハウストとイスラの話し合いに参加してくることはなかった。
「……ゼロス、あっちで遊んでていいぞ」
「だいじょうぶ! ぼく、おにいさんだから、おはなしわかるの! えいってできるもん!」
要するに、戦えるようになったし冥王の剣を出現させることにも成功した。だからお兄さんな気分になっているということである。しかも成長した自覚があるので自信満々なのだ。
「……遠慮するな、遊んでこい。楽しいぞ?」
「だいじょうぶ! ぼく、おにいさんだから、あそばないの! はやくおはなしして!」
そうは言うが、ゼロスはまだ三歳なので難しい話しはよく分かっていない。でも本人はお兄さん気分で参加できれば満足なのである。
ハウストとイスラの間になんとも言えない沈黙が落ちるが、イスラが気を取り直してハウストを見た。
「ハウスト、ブレイラは今どこにいる」
「地下に閉じ込められている。ブレイラの利用価値を考えれば安易に危害を加えられることはないだろう。だがそれも時間の問題だ。今後の動向によっては、教団の動きにブレイラが巻き込まれることも充分考えられる。俺はその前に助け出すつもりだが」
「ああ、俺もブレイラを探す。俺の方が身軽に動けるはずだ」
イスラは頷いて答えた。
ハウストは魔界の軍を率いて人間界を訪れている。それは囚われているブレイラや魔族を救出する為だが、軍を率いている以上自由に動くには限界があったのだ。
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