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第一章・強欲の王ギルタレス
強欲の王ギルタレス
しおりを挟む「こんな教会、もう二度と来たくなかったってのに」
モーリスは教会を見上げて忌々しげに呟いた。
高額報酬が約束されているとはいえ自分から悪魔と対峙したい人間などいない。せめてもの救いは追加依頼になったので追加の寄付金がもらえることくらいだ。
ナタリーが討伐前の状況確認をする。
「行方不明の修道女は三人。生死不明。三人の年齢は十八歳、二十一歳、二十三歳です。出現した悪魔の眷属は不明ですが、若い女性が狙われたことから色欲の王の眷属だと思われます」
「そうね、その線が濃いわね。対色欲用の魔道具を出して」
「分かりました。どうぞ」
ナタリーが魔道具のブレスレットを取り出した。
モーリスとナタリーが装着するが私は必要ない。そもそも悪魔の眷属なんて気にしたこともない。
しかしそれは異質なことのようでナタリーが心配そうに気遣ってくる。
「ロロットさんは使わないんですか? これは色欲の眷属に有効ですよ」
「放っときなさい、特待生様には必要ないみたいだから」
モーリスはそう言って挑戦的な顔で私を見た。
「あらかじめ眷属が分かっていれば聖女が悪魔に後れを取ることはないの。候補生は候補生らしくしてなさいよね」
ようするに対色欲のブレスレットさえあれば悪魔に負けることはないと言いたいのだ。
さっきなにも出来ずに私に助けられたことがよほど癪に触っているらしい。
「はいはい、それより早く行きましょうよ」
そう言うとモーリスが舌打ちした
相手にしない私が腹立たしいようだけど、こちらとしては一方的に突っかかられてうざいだけだ。
こうして聖女モーリスと聖女候補生の私とナタリーが教会の扉を開けた。
礼拝堂はシンッと静まり返って人影一つない。山羊の悪魔と戦った時に破壊した長椅子があるだけだ。
周囲を警戒しながらも礼拝堂に入ると、――――バタンッ!!
背後で扉が閉まり、緊張が走る。
ここはもう悪魔のテリトリー。
でもそれは分かっていることだ。悪魔のテリトリーに入らなければ悪魔討伐はできないのだから。
「……真っ暗ですね」
ナタリーが強張った声で言った。
しかしモーリスは苛々して命じる。
「とろいわね、明かりと間取り図っ」
「は、はいっ」
ナタリーが慌ててランタンに明かりを灯し、教会の間取り図と一緒に私とモーリスに手渡してくれた。
「ありがとう」
ナタリーが「いえ……」と申し訳なさそうに恐縮する。完全にモーリスに畏縮しているようだ。可哀想だと思わないではないが私には関係ないこと。
「ロロットは奥の控室を見て来て。ナタリーは厨房ね」
モーリスの指示にそれぞれ動きだす。
私は狭い廊下を進んで奥にある控室のドアを開けた。
薄暗い室内を見回すも悪魔の気配を感じない。でも物影に小さく動く黒い影。
「誰かいるの?」
不審に思って近づくと本棚の影に隠れるように蹲っていたのは修道女だった。
しかし修道女は私に気付かず、小さく蹲って小刻みにカタカタと震えている。
「そこにいたのね。良かった、地獄に引きずり込まれてたら見つけることも出来ないから」
そう声を掛けて修道女の顔を覗き込んだが、次の瞬間。
「ガアアアアアアッ!!!!」
「ッ、……取り込まれてたか」
咄嗟に飛びのく。
白目をむいた修道女が襲いかかってきたのだ。
普段は清楚な修道女だろうに今は獣のような動きをしている。
猛獣のように襲いかかってきたが、動きを読んで素早く背後に回った。そして頭を鷲掴む。
「浄化!」
ボッ!!
修道女の足元に魔法陣が出現し、白い炎が噴き出した。
白い炎は修道女の中の悪魔を焼き殺す。
修道女は断末魔の雄叫びをあげていたが、しばらくして正気に戻る。
「う……わたしは……。っ、あなたは聖女候補生様……!」
修道女は私に気付くとハッと表情を変えた。状況に気付いたのだ。
「に、逃げてくださいっ。ここはもうダメです! この教会はもうっ、早くここから逃げないとっ……!」
ガチガチと奥歯を鳴らしながら修道女が言った。
青褪めて恐怖に歪んだ顔。その尋常でない様子に顔を顰める。
取り込んだ悪魔は浄化の炎で消滅させたのに修道女の恐怖はまだ続いている。
なにかがおかしい。
本来、悪魔は同じ場所に複数もいないものである。いたとしても同じ眷属の二体までだ。
悪魔は仲間意識が薄く、たとえ悪魔同士だろうと殺しあう。そのため悪魔が一度自分のテリトリーを築けば他の悪魔がそこに潜んでいることは稀だ。
「何があったの?」
「悪魔はっ、悪魔は一体だけではありませんっ……、ここには、ここにはっ……!」
「キャーーーーーーー!!!!」
厨房からナタリーの悲鳴が聞こえた。
私は保護した修道女を連れて急いで厨房に向かう。
そこで目にしたのは全裸になった二人の修道女。
修道女はへらへらと笑いながらナタリーの体に絡みついていたのだ。
「あーあー……」
「あーあー……」
修道女の口から声が漏れている。口端からはたらたらとよだれが垂れて、しなだれかかって体を揺らす姿はまるで性交を連想させるものだ。
「助けてロロットさん!!!! ここに来たら襲われてっ……! やだ、やめてよっ!!」
ナタリーが必死にもがくが取り込まれた修道女たちの腕がしつこく絡みつく。
やはりこの教会には複数の悪魔が巣食っている。
私は保護した修道女を下がらせると、取り込まれた二人の修道女に手を翳した。
魔法陣とともに浄化の白い炎が出現し、彼女たちの中の悪魔を焼き殺す。
ようやく解放されたナタリーは崩れ落ちた。
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