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7 アンデッド ★
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アンデッド。
死した肉体が、なんらかの要因で動き出したモンスター。
腐敗したものをゾンビ、骨だけのものをスケルトン、霊体のものをゴーストと呼ぶ。
よく知られ、確認されるのはこの3種類。
そのいずれにも当てはまらず、生前と全く変わらない姿を保った者をリヴィングデッドと呼ぶ。
もっとはっきり言ってしまえば。
アンデッドとして蘇ったばかりの者のことを、指す。
「っひ、ぅ……っ」
冷たい手が、頬に触れる。
何か確かめるように、目元や髪、耳、首へ指を滑らせる。
怖い。でも、動けない。
アンデッドは聖属性の術か聖水か、特別な銀の武器でしか倒せない。無理に対処しようとしたら変異種になって大変なことになる。
理由はよく分からないけどアンデッドは変異しやすいんだ。
それに何より、バルファルドの身体を傷付けたくない。
だけどこのままにはしておけないよ。モンスターになってしまったのだから、討伐されてしまう。
そう、結論を出せずに迷っていたら。
「――――――え? やっ、待っ!」
顔に触れていた手が首に移動して、首筋を撫でたと思ったら、その手が服の襟元を掴んだ。
引っ張られる感覚に不味いと思って声を上げた、けれど。
呆気なく、服は破かれてしまった。
「っ、だめ!待ってっ!」
破かれた服を引っ張られ、慌てて抵抗する。
でも目一杯に力を込めても払い除けることはできない。
モンスター、で、異性で、体格差もあって。馬乗りになられた状態じゃ、足も動かせない。
だけどなんとかしなきゃ。逃げなきゃ。このままなんて絶対にダメだ。
分かってる。
でも――――だけど。
これが最初で最後の機会なんだって考えが頭を過って、上手く動けなかった。
…………私は、いくら貴重なマスターランクでも、親無しの平民で。何の血かも分からなくて。
バルファルドはいくら立場が微妙だっていったって、貴族で。公爵家の人間で。
だから諦めたんだ。ただの友人だって言い聞かせることで、自分を誤魔化して守ってた。
そうするしかなかった。
こんなことになるなら、ちゃんと言えばよかった。
生きてる時に…………好きだって、ちゃんと伝えていれば。
「やっ、んッ!?」
手を払われて、身体を触られる。
どうしよう。どうしよう。分からない。
迷いと羞恥と知らない感覚が思考を鈍らせる。
色んなとこ、触られて、与えられる感覚に抵抗する意思も何もかも奪われていく。
口から漏れ出る声は自分のものじゃない、みたいで。
…………モンスターに襲われた女性の最期は悲惨なものだ。
原型が残されていればまだマシな方で、見るに堪えない状態の方が多い。
当然だ。モンスターは自身の欲に忠実なだけ。相手のことなんてお構いない。ただの暴力だ。
なのに、そのはずなのに。
無理矢理ではあるけれど、私を傷付けるようなことはしなくて、むしろ壊れやすい物を触るみたいな。
これじゃ、まるで。
「ア、マり、え」
「っぁ、え――――、?」
私の、名前。
今確かに、声は嗄れていたけれど、バルファルドが私の名前を呼んだ。
涙で朧げな視界で見上げるその顔に表情はなくて、でも。なんとなく……最初よりも、目に力がある、ような。そしてその目は、雄弁に語っている。気がする。
きっと、浮かされた頭が見る都合のいい幻想だ。でも、だけど――――もう。
ううん。
とっくに手遅れ、だ。
「バル、ファルドぉ……っ」
「ン、」
「すき……っ!好きなの……っ!」
腕を伸ばしてその身体に縋り付く。
冷たい感触が、バルファルドがもう生きていないことを嫌って程に突き付けてくる、でも。
好きな人と一つになれることが、嬉しくないわけがなかった。
それが……相手が既に死者で、モンスターになっていて、自我のない状態だとしても。
「――――――ァま、り、え。ぁィ、エ、る」
所々詰まらせながらそう言って。
なんて言ってるのかはよく、分からなかったけど。
抵抗することなく、バルファルドを受け入れた。
死した肉体が、なんらかの要因で動き出したモンスター。
腐敗したものをゾンビ、骨だけのものをスケルトン、霊体のものをゴーストと呼ぶ。
よく知られ、確認されるのはこの3種類。
そのいずれにも当てはまらず、生前と全く変わらない姿を保った者をリヴィングデッドと呼ぶ。
もっとはっきり言ってしまえば。
アンデッドとして蘇ったばかりの者のことを、指す。
「っひ、ぅ……っ」
冷たい手が、頬に触れる。
何か確かめるように、目元や髪、耳、首へ指を滑らせる。
怖い。でも、動けない。
アンデッドは聖属性の術か聖水か、特別な銀の武器でしか倒せない。無理に対処しようとしたら変異種になって大変なことになる。
理由はよく分からないけどアンデッドは変異しやすいんだ。
それに何より、バルファルドの身体を傷付けたくない。
だけどこのままにはしておけないよ。モンスターになってしまったのだから、討伐されてしまう。
そう、結論を出せずに迷っていたら。
「――――――え? やっ、待っ!」
顔に触れていた手が首に移動して、首筋を撫でたと思ったら、その手が服の襟元を掴んだ。
引っ張られる感覚に不味いと思って声を上げた、けれど。
呆気なく、服は破かれてしまった。
「っ、だめ!待ってっ!」
破かれた服を引っ張られ、慌てて抵抗する。
でも目一杯に力を込めても払い除けることはできない。
モンスター、で、異性で、体格差もあって。馬乗りになられた状態じゃ、足も動かせない。
だけどなんとかしなきゃ。逃げなきゃ。このままなんて絶対にダメだ。
分かってる。
でも――――だけど。
これが最初で最後の機会なんだって考えが頭を過って、上手く動けなかった。
…………私は、いくら貴重なマスターランクでも、親無しの平民で。何の血かも分からなくて。
バルファルドはいくら立場が微妙だっていったって、貴族で。公爵家の人間で。
だから諦めたんだ。ただの友人だって言い聞かせることで、自分を誤魔化して守ってた。
そうするしかなかった。
こんなことになるなら、ちゃんと言えばよかった。
生きてる時に…………好きだって、ちゃんと伝えていれば。
「やっ、んッ!?」
手を払われて、身体を触られる。
どうしよう。どうしよう。分からない。
迷いと羞恥と知らない感覚が思考を鈍らせる。
色んなとこ、触られて、与えられる感覚に抵抗する意思も何もかも奪われていく。
口から漏れ出る声は自分のものじゃない、みたいで。
…………モンスターに襲われた女性の最期は悲惨なものだ。
原型が残されていればまだマシな方で、見るに堪えない状態の方が多い。
当然だ。モンスターは自身の欲に忠実なだけ。相手のことなんてお構いない。ただの暴力だ。
なのに、そのはずなのに。
無理矢理ではあるけれど、私を傷付けるようなことはしなくて、むしろ壊れやすい物を触るみたいな。
これじゃ、まるで。
「ア、マり、え」
「っぁ、え――――、?」
私の、名前。
今確かに、声は嗄れていたけれど、バルファルドが私の名前を呼んだ。
涙で朧げな視界で見上げるその顔に表情はなくて、でも。なんとなく……最初よりも、目に力がある、ような。そしてその目は、雄弁に語っている。気がする。
きっと、浮かされた頭が見る都合のいい幻想だ。でも、だけど――――もう。
ううん。
とっくに手遅れ、だ。
「バル、ファルドぉ……っ」
「ン、」
「すき……っ!好きなの……っ!」
腕を伸ばしてその身体に縋り付く。
冷たい感触が、バルファルドがもう生きていないことを嫌って程に突き付けてくる、でも。
好きな人と一つになれることが、嬉しくないわけがなかった。
それが……相手が既に死者で、モンスターになっていて、自我のない状態だとしても。
「――――――ァま、り、え。ぁィ、エ、る」
所々詰まらせながらそう言って。
なんて言ってるのかはよく、分からなかったけど。
抵抗することなく、バルファルドを受け入れた。
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