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6 直視したくない現実
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ここまで流されて、逃げ込んで。
そのまま、力尽きたのだろうか。
ずぶぬれだけど、外傷らしい外傷は見当たらない。
制服が乱れているのは流されたからだろう。
だけど抱き起して見た背中に、明らかにモンスターのものではない、剣で切り付けられたような切り傷があった。
ルージュは森の中を逃げ回る人間、と言っていた。
つまり誰かに背後から切り付けられて、それで逃げてたってことよね。
そりゃあ、隠そうとするわよね。モンスターがしたことにしたいわよね。
遺体が見つかって調べられたら、自分達の嘘がバレるんだもの。
自分達が手にかけたのだと。
バレたら不味いわよね?
「…………つめたい」
地面にバルファルドの遺体を横たえる。
顔色は白く。口元に手を当ててみるが、当たり前だが息をしていない。
首に手を当ててみても、脈もない。
その身に命がないのだと、突き付けるように。
眼を閉じた顔は、何も変わりないのに。
「ふっ……、あぁあ……っ!」
認めなきゃ。
理解しなきゃ。
思った以上に損傷が少なかろうと、それ故に変わらないように見えても。
バルファルドは、もういないんだって。
死んでしまった。殺されたんだ、って。
「ッうあぁあああっ!!」
あとからあとから涙が溢れてくる。
悲しみと苦しみと怒りにどうにかなってしまいそうだった。
信じられなかった。信じたくなかった。
それでも目の前に変えようのない現実がある。
なんでこんなことに?なんで?どうして?
どうしてバルファルドが死ななきゃならなかったの?
ねえ、どうして!!
「やだよぉ……っ!目を開けてよぉ……っ!!」
命の火が消えた冷たい身体に縋り付いて泣き喚く。
そんなことしたって戻らないって分かってるのに。
――――――小さい頃はよかった。皆、何も知らなかったから。
大きくなるにつれて皆との間に溝ができて、だんだん深くなっていって。
学園に入ってからはあからさまに見知らぬ人々に嫌われていて、なんでだろうって思ってたら原因は養子として出ていったきょうだい達だった。
贔屓されてた癖に、とか。
余り物の癖に、とか。
それぞれが貴族や結構いい商人の養子になったから、彼らの話を信じた他の生徒達から遠巻きにされたり避けられたり、的外れなことを言われたりするようになった。
先生達やマザーが庇ってくれたけど、大人に媚び売ってるとかなんとかって更に悪化して。
そんな頃に出会ったのが、バルファルドだった。
純粋な知識欲だけで近付いてきたそいつは、とにかくしつこくて。
何度無視しても振り払ってもお構いなしで、結局根負けしたのは私。
話すようになって、お互いの事を知っていって。
近い人達によく思われてなくて悪い扱いを受けてるあたり、似てるなって勝手に思ってた。
お互いにお互いしか普通に話せる相手がいないから、一緒に居ることが増えていって。
口ではつんけんしてしまうけれど、本当は嬉しかった。
バルファルドは、私に救われたっていうけれど。
私だって、バルファルドの存在に救われていた。
身分の事もあるしいつかは絶対に離れてしまうんだって分かってたんだ。
けど、こんな形で別れることになるなんて、思いもしなかったよ。
悲しいよ。
寂しいよ。
もう一度声を聞かせてよ。
「バルファルド……っ」
名前を呼ぶ。
もう、答える声はないのに。
「ア、」
「――――ぇ、ッきゃあ!?」
すぐ近くでしゃがれた声がしたと思ったら、強い力で地面に引き倒される。
突然のことに何が起きたのかが分からない。
ここには私とルージュと、バルファルドの遺体しかなかったはず――――、
「ぁ、うそ、」
眼を見開く。
目の前にしている状況が、信じられなくて。
だって息をしてなかった、脈もなかった。冷たかった。
確実に身体は死んでいた。なのに。
今、私を地面に押し倒しているのは――――――間違いなく、バルファルドだった。
そのまま、力尽きたのだろうか。
ずぶぬれだけど、外傷らしい外傷は見当たらない。
制服が乱れているのは流されたからだろう。
だけど抱き起して見た背中に、明らかにモンスターのものではない、剣で切り付けられたような切り傷があった。
ルージュは森の中を逃げ回る人間、と言っていた。
つまり誰かに背後から切り付けられて、それで逃げてたってことよね。
そりゃあ、隠そうとするわよね。モンスターがしたことにしたいわよね。
遺体が見つかって調べられたら、自分達の嘘がバレるんだもの。
自分達が手にかけたのだと。
バレたら不味いわよね?
「…………つめたい」
地面にバルファルドの遺体を横たえる。
顔色は白く。口元に手を当ててみるが、当たり前だが息をしていない。
首に手を当ててみても、脈もない。
その身に命がないのだと、突き付けるように。
眼を閉じた顔は、何も変わりないのに。
「ふっ……、あぁあ……っ!」
認めなきゃ。
理解しなきゃ。
思った以上に損傷が少なかろうと、それ故に変わらないように見えても。
バルファルドは、もういないんだって。
死んでしまった。殺されたんだ、って。
「ッうあぁあああっ!!」
あとからあとから涙が溢れてくる。
悲しみと苦しみと怒りにどうにかなってしまいそうだった。
信じられなかった。信じたくなかった。
それでも目の前に変えようのない現実がある。
なんでこんなことに?なんで?どうして?
どうしてバルファルドが死ななきゃならなかったの?
ねえ、どうして!!
「やだよぉ……っ!目を開けてよぉ……っ!!」
命の火が消えた冷たい身体に縋り付いて泣き喚く。
そんなことしたって戻らないって分かってるのに。
――――――小さい頃はよかった。皆、何も知らなかったから。
大きくなるにつれて皆との間に溝ができて、だんだん深くなっていって。
学園に入ってからはあからさまに見知らぬ人々に嫌われていて、なんでだろうって思ってたら原因は養子として出ていったきょうだい達だった。
贔屓されてた癖に、とか。
余り物の癖に、とか。
それぞれが貴族や結構いい商人の養子になったから、彼らの話を信じた他の生徒達から遠巻きにされたり避けられたり、的外れなことを言われたりするようになった。
先生達やマザーが庇ってくれたけど、大人に媚び売ってるとかなんとかって更に悪化して。
そんな頃に出会ったのが、バルファルドだった。
純粋な知識欲だけで近付いてきたそいつは、とにかくしつこくて。
何度無視しても振り払ってもお構いなしで、結局根負けしたのは私。
話すようになって、お互いの事を知っていって。
近い人達によく思われてなくて悪い扱いを受けてるあたり、似てるなって勝手に思ってた。
お互いにお互いしか普通に話せる相手がいないから、一緒に居ることが増えていって。
口ではつんけんしてしまうけれど、本当は嬉しかった。
バルファルドは、私に救われたっていうけれど。
私だって、バルファルドの存在に救われていた。
身分の事もあるしいつかは絶対に離れてしまうんだって分かってたんだ。
けど、こんな形で別れることになるなんて、思いもしなかったよ。
悲しいよ。
寂しいよ。
もう一度声を聞かせてよ。
「バルファルド……っ」
名前を呼ぶ。
もう、答える声はないのに。
「ア、」
「――――ぇ、ッきゃあ!?」
すぐ近くでしゃがれた声がしたと思ったら、強い力で地面に引き倒される。
突然のことに何が起きたのかが分からない。
ここには私とルージュと、バルファルドの遺体しかなかったはず――――、
「ぁ、うそ、」
眼を見開く。
目の前にしている状況が、信じられなくて。
だって息をしてなかった、脈もなかった。冷たかった。
確実に身体は死んでいた。なのに。
今、私を地面に押し倒しているのは――――――間違いなく、バルファルドだった。
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