11 / 16
第1章 キリアン
10
しおりを挟む
おおっ!と歓声があがった。
勝負は一瞬だった、いや勝負というほどのこともなく、俺は殴りかかってきた酔っ払いの拳を掴むと、相手の勢いを利用して投げ飛ばした。
周りの興奮は収まらず、俺は大勢の人に囲まれもみくちゃにされてる中、ガキの俺がいつもまにか俺の腕をしがみつきながら
『兄ちゃん!いや預言者様は強いなぁ!』と興奮気味に言えば、やはりいつの間にかやってきた爺さんが唾を飛ばしながら『いや、見事じゃ!強いとは思ってはいたが、見事な投げ技じゃ!』と、ふたりに褒められ、俺はちょっと、ほんのちょっと俺って勇者の生まれ変わりかもなんて思ってしまった…が…。
ふと思った。なぜこのふたりがこの場にいるんだ?
ガキの俺にはオリビアの事を頼んだのに、肝心のオリビアはここにいない。
爺さんは騎士団長の動きを見張ると言ってたよな。なのになぜここにいるだ?
「なぁ、オリビアはどこにいる?」ガキの俺があっと言いながら舌をだし『オリビアはロザリアのおばちゃんと一緒だったし、それよりこっちのほうが面白そうだったから…。』
俺は頭を抱え、爺さんを見た。
「見張るって言ってたよね。」爺さんは俯きながら「お、お主が心配でな。ちょっとお主を見てからと思っていたんじゃが…ついついなぁ。」
俺はそのまま座り込むとふたりが声を合わせたかのように『「悪かった!」』と叫ぶ声に、俺はため息をついた。とにかくオリビアを見つけなくては、騎士団長に会わせてしまったら、この時代に来た意味がない。
「よし!」と気合を入れなおして立ち上がろうとした時だった。
『なかなか良い投げだったね。』
その声に俺は固まった。そんな俺の様子を気にもせず、その声の持ち主は話を続けた。
『あの体のキレなら、剣の腕もなかなかなのだろうな。』
そう言いながら、俺の前に立つと
『その服装をみれば貴族のようだが、この国の貴族なら私は顔を全員知っているんだが、さて、おまえは何者だ?』
あなたが率いる騎士団の下っ端です。なんて言えやしない。
しかし、この時団長は今の俺と年齢は変わらなかったはずだが、怖いくらい威厳がある。答え方によっては切られそうだが、でも、どう答えたらいいのかわからいうえに、団長の圧に言葉が出てこない。爺さんをチラリを見れば、まるで見物人のような顔で周りに溶け込んでる。おい、助けろよ。あんたが見張っていなかったからこうなってんのに。空気が冷たくなって行くような気がした…だがそんな空気をぶち破った奴がいた。
『団長殿。俺は騎士団で小姓(ペイジ)をしております。ロマーネ子爵家のキリアンです。』ガキの俺が突然そう言った。
ガキはにっこり笑うと『この兄ちゃんは親戚なんです。えっとおふくろの故郷ジョージア国にいるいとこの子供の嫁ぎ先の弟で、足を怪我したおふくろのお見舞いにきてくれてるんです。』
おふくろの故郷ジョージア国にいるいとこの子供の嫁ぎ先の弟…それ…他人じゃないか?
でもガキの俺は例の得意げな顔で俺を見てにっこり笑った。…まぁ、礼を言う。とりあえずな。
騎士団長は一瞬顔を顰めたが、クスッと笑うと
『まぁいいでしょう。あのロマーネ子爵家が身元を保証してくれるのですから。』
間抜けな弁解とはいえ、なんとなく切り抜けそうな空気に、これ以上下手に口を開かないほうが良いと思い、黙って騎士団長に頭を下げると、騎士団長が小さな声で言った。
『命拾いしましたね。』
ハッとして顔を上げると、口元に笑みを浮かべていた騎士団長だったが、その目の冷たさに体が震えた。
この人はこんな顔も持っていたんだ。
今まで見たことがない冷たい目だった。もっとも団長と来月ようやく騎士になる俺では接点がそうあるわけじゃなかったが、身分に囚われず、誰にでも平等で優しくて、イケメンという言い方より美男という言い方のほうが合う容姿、そして剣の腕は国一番と評されていたから…以外だった。まぁ怪しい人物になら、そんな顔を見せるよな。でも俺が知っている騎士団長とは違う空気に、俺は改めて騎士団長の顔を見た。
この国では珍しい銀色の髪とグレーの瞳。その透き通るような容姿はまるで絵画から抜け出た天使のようにみえる。
そんな騎士団長の横に、金色の髪に青い瞳のオリビアと並べば、月の貴公子と太陽の女神…みたいだろうな。
この国で一番多い栗色の髪に、緑の瞳の俺が、あの月の貴公子から太陽の女神を奪うことができるのだろうか。
くそっ!!しっかりしろ!この分岐点で俺は新たな道を選んだんだぞ。
泥酔客を抑えたのはガキの俺と騎士団長じゃない。俺だ。俺がやったんだ。
騎士団長が俺より数段上の男だという事実はどうしようもない、でも俺はもう後悔したくないんだ。オリビアを諦めたくないんだ。
じっと俺から見つめられていた騎士団長は、またクスッと笑うと
『失礼した。あなたから感じるその覇気が私を刺激して、私らしくないことを言ってしまいました。」
そう言って、踵を返した騎士団長に俺は茫然としていた。
はき?破棄?まさか覇気…なのか。あの野心や野望という意味もあるあの覇気?それが俺から感じたって?生まれてこのかた一度だって言われたことがない言葉に、俺は戸惑うように爺さんを見た。
だが、爺さんは俺を見ていなかった。爺さんは険しい顔で騎士団長の背中を見ていて、ゆっくりとその視線を遊歩道の大きな桜へと移し、「困ったのう。」と言って俺へと視線を移した。俺は意味が分からず、爺さんのように騎士団長の背中を見て、その視線を遊歩道の大きな桜の木へと移して…息を止めた。
なぜなら、そこには菓子屋のロザリアさんの手を握り、騎士団長を凝視するオリビアがいたからだった。
勝負は一瞬だった、いや勝負というほどのこともなく、俺は殴りかかってきた酔っ払いの拳を掴むと、相手の勢いを利用して投げ飛ばした。
周りの興奮は収まらず、俺は大勢の人に囲まれもみくちゃにされてる中、ガキの俺がいつもまにか俺の腕をしがみつきながら
『兄ちゃん!いや預言者様は強いなぁ!』と興奮気味に言えば、やはりいつの間にかやってきた爺さんが唾を飛ばしながら『いや、見事じゃ!強いとは思ってはいたが、見事な投げ技じゃ!』と、ふたりに褒められ、俺はちょっと、ほんのちょっと俺って勇者の生まれ変わりかもなんて思ってしまった…が…。
ふと思った。なぜこのふたりがこの場にいるんだ?
ガキの俺にはオリビアの事を頼んだのに、肝心のオリビアはここにいない。
爺さんは騎士団長の動きを見張ると言ってたよな。なのになぜここにいるだ?
「なぁ、オリビアはどこにいる?」ガキの俺があっと言いながら舌をだし『オリビアはロザリアのおばちゃんと一緒だったし、それよりこっちのほうが面白そうだったから…。』
俺は頭を抱え、爺さんを見た。
「見張るって言ってたよね。」爺さんは俯きながら「お、お主が心配でな。ちょっとお主を見てからと思っていたんじゃが…ついついなぁ。」
俺はそのまま座り込むとふたりが声を合わせたかのように『「悪かった!」』と叫ぶ声に、俺はため息をついた。とにかくオリビアを見つけなくては、騎士団長に会わせてしまったら、この時代に来た意味がない。
「よし!」と気合を入れなおして立ち上がろうとした時だった。
『なかなか良い投げだったね。』
その声に俺は固まった。そんな俺の様子を気にもせず、その声の持ち主は話を続けた。
『あの体のキレなら、剣の腕もなかなかなのだろうな。』
そう言いながら、俺の前に立つと
『その服装をみれば貴族のようだが、この国の貴族なら私は顔を全員知っているんだが、さて、おまえは何者だ?』
あなたが率いる騎士団の下っ端です。なんて言えやしない。
しかし、この時団長は今の俺と年齢は変わらなかったはずだが、怖いくらい威厳がある。答え方によっては切られそうだが、でも、どう答えたらいいのかわからいうえに、団長の圧に言葉が出てこない。爺さんをチラリを見れば、まるで見物人のような顔で周りに溶け込んでる。おい、助けろよ。あんたが見張っていなかったからこうなってんのに。空気が冷たくなって行くような気がした…だがそんな空気をぶち破った奴がいた。
『団長殿。俺は騎士団で小姓(ペイジ)をしております。ロマーネ子爵家のキリアンです。』ガキの俺が突然そう言った。
ガキはにっこり笑うと『この兄ちゃんは親戚なんです。えっとおふくろの故郷ジョージア国にいるいとこの子供の嫁ぎ先の弟で、足を怪我したおふくろのお見舞いにきてくれてるんです。』
おふくろの故郷ジョージア国にいるいとこの子供の嫁ぎ先の弟…それ…他人じゃないか?
でもガキの俺は例の得意げな顔で俺を見てにっこり笑った。…まぁ、礼を言う。とりあえずな。
騎士団長は一瞬顔を顰めたが、クスッと笑うと
『まぁいいでしょう。あのロマーネ子爵家が身元を保証してくれるのですから。』
間抜けな弁解とはいえ、なんとなく切り抜けそうな空気に、これ以上下手に口を開かないほうが良いと思い、黙って騎士団長に頭を下げると、騎士団長が小さな声で言った。
『命拾いしましたね。』
ハッとして顔を上げると、口元に笑みを浮かべていた騎士団長だったが、その目の冷たさに体が震えた。
この人はこんな顔も持っていたんだ。
今まで見たことがない冷たい目だった。もっとも団長と来月ようやく騎士になる俺では接点がそうあるわけじゃなかったが、身分に囚われず、誰にでも平等で優しくて、イケメンという言い方より美男という言い方のほうが合う容姿、そして剣の腕は国一番と評されていたから…以外だった。まぁ怪しい人物になら、そんな顔を見せるよな。でも俺が知っている騎士団長とは違う空気に、俺は改めて騎士団長の顔を見た。
この国では珍しい銀色の髪とグレーの瞳。その透き通るような容姿はまるで絵画から抜け出た天使のようにみえる。
そんな騎士団長の横に、金色の髪に青い瞳のオリビアと並べば、月の貴公子と太陽の女神…みたいだろうな。
この国で一番多い栗色の髪に、緑の瞳の俺が、あの月の貴公子から太陽の女神を奪うことができるのだろうか。
くそっ!!しっかりしろ!この分岐点で俺は新たな道を選んだんだぞ。
泥酔客を抑えたのはガキの俺と騎士団長じゃない。俺だ。俺がやったんだ。
騎士団長が俺より数段上の男だという事実はどうしようもない、でも俺はもう後悔したくないんだ。オリビアを諦めたくないんだ。
じっと俺から見つめられていた騎士団長は、またクスッと笑うと
『失礼した。あなたから感じるその覇気が私を刺激して、私らしくないことを言ってしまいました。」
そう言って、踵を返した騎士団長に俺は茫然としていた。
はき?破棄?まさか覇気…なのか。あの野心や野望という意味もあるあの覇気?それが俺から感じたって?生まれてこのかた一度だって言われたことがない言葉に、俺は戸惑うように爺さんを見た。
だが、爺さんは俺を見ていなかった。爺さんは険しい顔で騎士団長の背中を見ていて、ゆっくりとその視線を遊歩道の大きな桜へと移し、「困ったのう。」と言って俺へと視線を移した。俺は意味が分からず、爺さんのように騎士団長の背中を見て、その視線を遊歩道の大きな桜の木へと移して…息を止めた。
なぜなら、そこには菓子屋のロザリアさんの手を握り、騎士団長を凝視するオリビアがいたからだった。
0
あなたにおすすめの小説
繰り返す夜と嘘 〜【実録】既婚の僕と後輩の彼女、あの夜のキスから始まった13年の秘密〜
まさき
恋愛
結婚して半年の僕と、同じ職場の彼女。
出会った頃は、ただの先輩と新入社員だった。
互いに意識しながらも、
数年間、距離を保ち続けた。
ただ見つめるだけの関係。
けれど――
ある夏の夜。
納涼会の帰り道。
僕が彼女の手を握った瞬間、
すべてが変わった。
これは恋でも、友情でもない。
けれど理性では止められない、
名前のない関係。
13年続いた秘密。
誓約書。
そして、5年の沈黙。
これは――
実際にあった「夜」の記録。
さようなら、あなたとはもうお別れです
四季
恋愛
十八の誕生日、親から告げられたアセインという青年と婚約した。
幸せになれると思っていた。
そう夢みていたのだ。
しかし、婚約から三ヶ月ほどが経った頃、異変が起こり始める。
【完結・コミカライズ進行中】もらい事故で婚約破棄されました
櫻野くるみ
恋愛
夜会で突如始まった婚約破棄宣言。
集まっていた人々が戸惑う中、伯爵令嬢のシャルロットは——現場にいなかった。
婚約破棄されているのが数少ない友人のエレナだと知らされ、会場へ急いで戻るシャルロット。
しかし、彼女がホールへ足を踏み入れると、そこで待っていたのは盛大な『もらい事故』だった……。
前世の記憶を持っている為、それまで大人しく生きてきた令嬢が、もらい事故で婚約破棄されたことですべてが馬鹿馬鹿しくなり、隠居覚悟でやり返したら幸せを掴んだお話です。
全5話で完結しました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。
小説家になろう様にも投稿しています。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
わたしたちの庭
犬飼ハルノ
恋愛
『夜明けになるまで絶対に寝室の扉を開けないで』
未来の義母が告げたのは奇妙な夜の掟だった。
父に売られる形でブルーノ伯爵子息の婚約者になったフィリスの物語。
ヒロインのフィリスが自らの力と周囲の人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、しばらくは暗く重い展開です。
タグを途中から追加します。
他サイトでも公開中。
【完結】番犬と呼ばれた私は、このたび硬派な公爵様に愛されることになりました。
紺
恋愛
「私の妹リゼリアに勝てた殿方の元に嫁ぎますわ」
国一番の美女である姉の番犬として何年も剣を振り続けてきた伯爵令嬢リゼリア。金儲けや汚い思惑のために利用され続けた彼女だが、5年目となるその日両親からわざと負けるよう命じられる。
何故ならこの日相手をするのは、公爵という立場でありながら騎士としても活躍する男。玉の輿を目指す両親や姉はリゼリアの敗北に大喜びするが……
「では約束通り、俺の元に来てもらおう。リゼリア嬢」
「…………へ、?」
一途な硬派騎士団長×愛され無自覚な男前ヒロイン
※ざまぁ必須。更新不定期。
誤字脱字にご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる