賢者様の恋指南ー勇者の恋を成就させます。ー

秋野 林檎 

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第1章  キリアン

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『なぁ、兄ちゃん、オリビアがおかしいんだ。どうしたんだろうなぁ。』

隣を歩くオリビアをチラチラ見ながら、あいつは小さな声でそう俺に言ってきた。

俺は言いたかった。おまえと爺さんが…計画通りちゃんとやっていれば…。この帰り道オリビアと笑いながらおまえは家に帰れたんだぞ。すべて、そうすべてうまく行くはずだったんだ!

はぁ~まぁいいさ、オリビアの結婚は7年後だ、その間の分岐点はまだあるはずだ。今度こそは必ず。
しかし、オリビアが騎士団長に一目ぼれは阻止できなかったのは痛い。たが俺が酔っ払いを取り押さえたことで、ガキの俺の印象は薄くなっているだろう、これであいつのことは噂にはならないだろう。噂さえ押さえれば軍部のお偉いさん方の耳に、ガキの俺の事など入ることはないはずだ。おそらく…これで、来年戦場に行くことはないだろう。それだけが救いだ。

そう思いながら、俺の隣をエリザベス同様黙り込んでいる爺さんに目をやった。

騎士団長と会ってから、この爺さんもオリビア同様おかしい。何にも考えずに思った事をすぐに口に出す爺さんが、顔を顰め考え込んでいるのだ。おまけにその考え込む姿が妙に威厳があって、俺は爺さんに話しかけられないでいる。

そんな事を思いながら爺さんを見ていたら、爺さんと目が合ってしまった。
慌てて前を向こうとしたが遅かった。
「のう…お主は…この時間軸でオリビア嬢は騎士団長にひとめぼれをしたと言っておったなぁ。ということはオリビア嬢は初めて騎士団長に会ったということじゃな。」そう言って、頷く俺を確認すると

「お主は気づかなかったか?」

「なにをだ?」

「まったく、オリビア嬢の顔を見てないのか?あれはひとめぼれした顔ではなかった。

「いや待てよ!それって変だろう。だってオリビアは記憶喪失なんだぞ。」

「あぁ、そうじゃ、でもあの表情は間違いない。オリビア嬢は騎士団長を知っていた。それはこの時点でオリビア嬢が記憶喪失ではないという事じゃ。いつ記憶が戻ったのかはわからん、

爺さんの言葉がまるで異国の言葉のように感じられ、俺は理解できなかった。
「ちょっと待ってくれ。初めて会った時あいつは8歳だ。そんな子供がなぜ記憶喪失の振りをするんだよ。ぁ……でも、もし今日騎士団長に会ったことで記憶が戻ったんなら、オリビアはなぜそれを隠すんだろう?なぜ…。」

「…オリビア嬢が7年後も記憶が戻らない振りをするのはわからん。たがあの騎士団長から感じる気が…どうも気になるんじゃ。それと関係しているとしたら、ただの結婚ではないな。」

体がまるで縛り付けられたかのように、動かなくなった。爺さんも俺の横で黙って俺を見ている。
そんな俺と爺さんを7年前の俺とオリビアが追い越していった。その姿が7年前と重なる。

あの時、おまえは何を考えていたんだ。記憶は戻っていたのか?騎士団長を知っていたのか?
そう思ったら、今、目の前のオリビアに問いただしたくて「…聞く。この時間軸のオリビアに聞く。」その声に、爺さんは首を横に振り、俺の腕を掴んだ。

「わしの推理が正しければ、長い間記憶が戻った事を話さなかったということは、あの幼いオリビアとて話はしまい。」

頭の中で、10年前のオリビアが驚いた顔で俺を見ている。7年前のオリビアが息を乱して俺を追いかけてくる。そして騎士団長と婚約した時のオリビアは…涙を堪えていた。

あれは幸せであふれた涙だと思った。でも…。


「なぁ、騎士団長の事を知っているのに知らない振りをして、騎士団長と結婚する理由はなんだろう。」

「……悪い事しか浮かばんのう。」

爺さんの言葉に「そうだよな。」と俺もそう言うしかなかった。

「爺さん、戻ろう!あいつから話しを聞かないと…いや止めないと…あいつはが何かやる前に、結婚する前に!」


「キリアンよ。慌てるではない。こちらの1時間は向こうでは1分ぐらいじゃ、時間の流れが違うから焦るな。お主とこちらに来て4~5時間ぐらいじゃから、なら向こうでは4~5分じゃ。それよりあらたな分岐点に行こう。オリビア嬢が真実を話すように、わしらも大筋は掴んでおいたほうが良い。」

俺は黙って頷いた。50mぐらい先にはガキの俺と幼いオリビアが歩いている。


「ガキの俺。この時間軸のオリビアを守ってくれよ。俺は未来のオリビアを守ってくるからな。」

そう口にしたと同時に、それはまるで俺の声が聞こえたかのように、ガキの俺が振り返った。だがその姿が歪み、そして形をなくし、混ざり合いながら渦を巻くように俺の周りを覆っていった。

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