賢者様の恋指南ー勇者の恋を成就させます。ー

秋野 林檎 

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第1章  キリアン

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時空酔い?というものなのか、ムカムカする胸を押え、ゆっくり目を開くと同時に親父の声が聞こえてきた。

『わしはお断りするつもりだ。』


その大声に慌てて目を開ければ、ここは見慣れた景色、ロマーネ子爵家の書斎の前庭だった。
えっ、どうしてここなんだ。と考えていたら、

母や、兄、兄嫁が口々に『そうです。もうすぐ伯爵家の家令が返事を聞きに来るから、はっきりと言ってやりましょう!』『オリビアちゃんには悪いけど…』『キリアンが腑抜けだからこんなことに!』と………最後の声は兄貴だな。


あぁ、そうだ…これは3ヶ月前のあの日だ。わぁ~最悪だ。


そんな家族会議?を爺さんは背伸びをしながら窓枠に手をかけ、書斎をのぞき込んでいた。
「貴族の世界は、メンツの世界じゃからな。いくら好きでも平民でおまけに孤児ではつり合いがとれないから、養女にというわけじゃな。まぁオリビア嬢がいる孤児院を長年援助しているから、そういう話がきていたのは当たり前じゃな。」と言いながら俺を見て「で、この時お主はどこにいた?!」


俺は黙って、爺さんの顔を見ないように書斎を指さした。
「えっ?あの!あの書斎にいたのか?!何をしておったんじゃ?」その問いに答える前に、兄貴の言葉に爺さんは固まった。

『キリアン、おまえがぐずぐずしていたからだぞ。しかし相手がマクシミリアン伯爵じゃ…もう話にもならん。あの話を受けろ。ベイカー男爵家への入り婿の話、半年前に困っていたローラ嬢をお助けしたそうじゃないか、あれ以来ローラ嬢はお前の話ばかりだそうだ。気に入られてるんだ。そう悪くはないぞ。』


長男は家を継ぎ、次男以降は入り婿。というのが一般的な考えだったが、我が家は俺の好きにしろと言われていた。というより、家族のお気に入りのオリビアを妻に迎えて欲しいと思っていたようだった。

『話を進めるからな。』兄貴の言葉に、3ヶ月前の俺は部屋の隅で項垂れている。

爺さんは憮然とした顔で、なぜだか隣に座っている今の俺へと視線を移すと、その口がヘタレと動かした。
いや、あれは今の俺じゃない、3か月前の俺であって、今の俺は…がんばっている。
そう、目で訴えたが、爺さんは書斎の中の様子のほうが、いや3か月前の俺が気になっているようで、その姿をじっと見ていた。


3か月前の俺は、あの爺さんが心配するほど落ち込んでいて、自分でも情けなかった…。でも、分かってもいた。自分がどんなにオリビアを好きでも、幸せにできる男じゃないことを。14歳で行った戦場で見たあの情景が何年経っても、忘れることができず、藻掻きながら、どうにか日々を送っていた俺には、オリビアを守る力はない。そう思っていた。

だから…。3ヶ月前の俺は言った。

『入り婿の話を進めてくれ、それよりオリビアの養女の件は引き受けたほうがいいんじゃないか?子爵家が伯爵家の話を断るのは問題だし、なによりオリビアがいる孤児院を援助をしている我が家が養女の件を断るのは対外的にも良くないしさ。目出たいじゃないか。オリビアが伯爵夫人になるんだぜ、それも名門の伯爵家のだ。おまけに美男で騎士団長が夫になるんだ。だから…。』そこまで言って、俺は口を閉ざした。

口の中に残った言葉は…虚しい言葉だった。(だから、俺は良いんだ。)

そんな俺を親父は見つめながら…確か…。

『入り婿の話は…保留だ。」

『でも父上!このままではキリアンもオリビアも…』と言った兄貴は俺を見て、揺れるマナコを伏せると

『…私はこのお話は進めるべきだと思います。』と言って部屋を出て行った。

『キリアン、あいつもおまえを心配しているのだ。だが私はまだおまえの心が回復するまで、どんな縁談話も断るつもりでおる、相手の女性にも失礼だろう。』

何もかも逃げ出したかった俺は、その言葉に唇を噛んでいた。

『私はオリビアを愛おしく思うおまえの心を抉るようなことはしたくないという気持ちはもちろんだか…。なにより現シュルツ伯爵である騎士団長をわしは嫌いなのだ。剣聖を生んだロマーネ子爵家は今は…と言われるのは仕方ない。事実だからな。だが才能がなくてもひたすらに剣の道を究めようとする者達を大事にされた前伯爵と違って、現シュルツ伯爵は心がない。剣と共に育むべき心が…。頂点に立つ方なのに、自らが才能がない者をバカにされ、その言動が団の中で当たり前のようになっている。私から見れば今や騎士団は盗賊のような荒くれ者が支配するように見える。そんな方にオリビアが嫁ぐことになるとは…。わが娘と言っても良いくらいのオリビアを…。あんな男にやりたくはない!』

親父はカッコよく締めた。


だが、その後のことを俺はよーーーーーーく覚えている。


『そう、おまえが言ってやれ!』と俺を見たのを。

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