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第1章 キリアン
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「で、お主が断ったわけではないな。」
「あぁ、どう考えたって、俺が断りを入れるのは変だろう。母上に散々小言を言われた親父が結局断る話をしたんだ。ただ返事を聞きに我が家に来たのは…オリビアだった。」
「なるほど、だからここが分岐点なんじゃな。」
「おそらく…。それにこの後偶然に、オリビアとふたりきりで会うことになるんだ。」
「この日お主とオリビア嬢はどんな話をしたんじゃ。」
「それは…その目で見てくれ。おそらく今頃は馬小屋の近くだろうな。」
俺の投げやりな言葉で、状況は全て把握したのだろう。爺さんはうなづくと、俺の腕を引っ張った。
幼い頃、馬小屋は俺とオリビアの秘密基地みたいなもので、大切な場所だった。
牧草の上に寝ころんで昼寝をしたり、飼い葉桶の中で、野良猫をこっそり飼ったりして、幼い俺達が誰にも邪魔されず自由に過ごせる場所だった。だからこの場所にくると心が何か重たいものから解放されるような気がしていた。オリビアも、親父と会ったあとでわざわざここに来たのは、そう思っていたからなのだろうか。
「まだ、来ていないようじゃな。」
「あぁ、おかしいな。」
牧草の中に潜り込み、辺りをうかがっていたが、オリビアだけじゃなく3ヶ月前の俺もまだ来ない。偶然だったとはいえ、3か月前はここで会ったのに。
「う~む、遅いのう。ちょっとあたりを見てこようかのう。」
そう言いながら、牧草の中から這い出た爺さんは体に着いた牧草を払うと馬小屋の外へと出て行った。その後ろ姿を見ながら、俺も見に行ったほうがいいかなぁと牧草から抜け出した時だった。
『キリアン?そんな格好でなにしてるの?』
その声は…オリビア。でも俺は俺だけど、3ヶ月前の俺じゃない。ど、どうしたらいいんだ?爺さんはいないし、
茫然とする俺に、オリビアは『もうなにしてたのよ。盛装でばっちり決めた、いい大人が牧草の中に潜り込んで』と言いながら俺の体についていた牧草をはらいながら、その手が一瞬止まった。だが『ベイカー男爵家の…』と言うと、オリビアは俺の背中に回り、今度は背中の牧草をはらいながら『ベイカー男爵家のローラ様とやっぱり婚約するんですって、お兄様から聞いたわ。今年中にはお互い…既婚者になるのね。』
ちょっと待て、やっぱりって、なんだ?
いや、それより3ヶ月前、俺がオリビアに話しかけたんだが。俺が3か月前の俺じゃないからか?このまま話を続けてもいいんだろうか?どうしたらいいのか悩んでいる俺に気が付かないのか、オリビアはひとりで話し出した。
『結婚って決まるときは簡単に決まるものなのね。ローラ様と半年前にお会いしたんでしょう。実は私もマクシミリアン様と半年前にお会いしたのよ。あの酔っ払いのもめ事から7年なのに、私の事を覚えてくださってて驚いちゃった。』
前の時間軸ではローラ嬢の話などなかった。話の内容が変わっている。なぜだ?
いや、それより騎士団長と半年前にどこで会ったんだ?半年前と言えば…あぁそうだった。来年の陛下の在位40年の記念パレードの警備の為に、パレードコースの下調べを騎士団でやっていた。あの時か…あの時、オリビアは騎士団長と会ったのか。
『見ちゃったの。』
見ちゃった?なんのことだかわからず、俺は思わず後ろのオリビアへと体を向けようとしたら
『まだ、牧草が付いてるから動かないの。』と言って振り向かせてもらえず、小さな声で「わかった。」と言うと、『良いお返事。』と言いながら柔らかい手が俺の頭を撫でた、と同時に馬小屋に春風が吹き抜け、その柔らかい風に目を細めた俺に、オリビアは『相変わらずの猫毛ね。』と言って俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
「お、お、おい、やめろよ。」と言う俺の言葉が聞こえないかのように、オリビアは話の続きをし始めた。
『私ね。あの日ローラ様を抱きかかえていたキリアンを見ちゃったの。あの時のキリアンとローラ様があんまりお似合いだったから、もしかして結婚するのではと思ったのよ。やっぱりそうだったんだ。』
やっぱり…というのはこのことか。何言ってんだか、あれは偶然そうなっただけ。馬車を避けようとして転んで、足を挫いて途方に暮れていたローラ嬢に、たまたま俺は出くわせただけなのに、ローラ嬢もこいつもまるで運命的な出会いのように言いやがって。俺だって騎士、まだ正式じゃないが…騎士の端くれなんだよ。困っている女性をほっとけないじゃないか。特にローラ嬢には恋愛小説のような一場面と重なったようで、俺を白馬に乗った騎士のように見えたらしく、いたくローラ嬢の乙女心をくすぐったらしい…さっぱりわからない。だいたいそれのどこが白馬に乗った騎士になるだ?ただ俺は騎士として、男として、やったことなんだけど。それが大げさなこととなり、挙句の果てには婿入りの話になってしまった。女性の頭の中はどうなんてんだろう…後日談だがローラ嬢の乙女心を、俺以上にくすぐった者が結局婿入りすることになり、俺は白馬から落ちた騎士になったようだ。
いや、そんなことよりオリビアと騎士団長との事を聞きたい。
「おまえはどうなんだ?騎士団長は7年前まだ11歳のおまえを覚えてて声をかけてきたのか?」
背中の牧草を払っていたオリビアの手が止まった。
『…私が声をかけたの。マクシミリアン様が孤児院の前で考え込まれてて、だから声をかけたの(どうなさいましたか?)って、後から伺ったんだけどどうやら警備のことで悩んでいらしてたみたい。その時に私が(7年前のあの酔っ払いの出来事を覚えていらっしゃいますか?あの時、マクシミリアン様をお見掛けしたんですよ。)ってお話をさせて頂いたら、話が弾み、それから何度かお会いするようになって…それで…。』そう言って、言葉を区切ったオリビアが背中越しで震えているのがわかった。
『…それで…それで…すごく好きになって、私がマクシミリアン様に……私を…貰ってくださいとお願いしたの。』
なんだよ。その声は幸せそうに聞こえないじゃないか!寧ろ辛いって泣いてるみたいでじゃないか!
「おまえ、本当は騎士団長を…」と言いながら俺は振り向かば、涙を堪えようとして唇を噛んだオリビアがいた。とても幸せそうには見えなかった。まるで死刑台へと足を進める者のようで、俺はオリビアの両肩に手をやり問い詰めるように言っていた。
「本当に騎士団長が好きなのか?俺にはそう見えない!一体何を隠してるんだ!」
俺の言葉に青い瞳から一筋の涙が頬へと零れ落ちて行った。
「あぁ、どう考えたって、俺が断りを入れるのは変だろう。母上に散々小言を言われた親父が結局断る話をしたんだ。ただ返事を聞きに我が家に来たのは…オリビアだった。」
「なるほど、だからここが分岐点なんじゃな。」
「おそらく…。それにこの後偶然に、オリビアとふたりきりで会うことになるんだ。」
「この日お主とオリビア嬢はどんな話をしたんじゃ。」
「それは…その目で見てくれ。おそらく今頃は馬小屋の近くだろうな。」
俺の投げやりな言葉で、状況は全て把握したのだろう。爺さんはうなづくと、俺の腕を引っ張った。
幼い頃、馬小屋は俺とオリビアの秘密基地みたいなもので、大切な場所だった。
牧草の上に寝ころんで昼寝をしたり、飼い葉桶の中で、野良猫をこっそり飼ったりして、幼い俺達が誰にも邪魔されず自由に過ごせる場所だった。だからこの場所にくると心が何か重たいものから解放されるような気がしていた。オリビアも、親父と会ったあとでわざわざここに来たのは、そう思っていたからなのだろうか。
「まだ、来ていないようじゃな。」
「あぁ、おかしいな。」
牧草の中に潜り込み、辺りをうかがっていたが、オリビアだけじゃなく3ヶ月前の俺もまだ来ない。偶然だったとはいえ、3か月前はここで会ったのに。
「う~む、遅いのう。ちょっとあたりを見てこようかのう。」
そう言いながら、牧草の中から這い出た爺さんは体に着いた牧草を払うと馬小屋の外へと出て行った。その後ろ姿を見ながら、俺も見に行ったほうがいいかなぁと牧草から抜け出した時だった。
『キリアン?そんな格好でなにしてるの?』
その声は…オリビア。でも俺は俺だけど、3ヶ月前の俺じゃない。ど、どうしたらいいんだ?爺さんはいないし、
茫然とする俺に、オリビアは『もうなにしてたのよ。盛装でばっちり決めた、いい大人が牧草の中に潜り込んで』と言いながら俺の体についていた牧草をはらいながら、その手が一瞬止まった。だが『ベイカー男爵家の…』と言うと、オリビアは俺の背中に回り、今度は背中の牧草をはらいながら『ベイカー男爵家のローラ様とやっぱり婚約するんですって、お兄様から聞いたわ。今年中にはお互い…既婚者になるのね。』
ちょっと待て、やっぱりって、なんだ?
いや、それより3ヶ月前、俺がオリビアに話しかけたんだが。俺が3か月前の俺じゃないからか?このまま話を続けてもいいんだろうか?どうしたらいいのか悩んでいる俺に気が付かないのか、オリビアはひとりで話し出した。
『結婚って決まるときは簡単に決まるものなのね。ローラ様と半年前にお会いしたんでしょう。実は私もマクシミリアン様と半年前にお会いしたのよ。あの酔っ払いのもめ事から7年なのに、私の事を覚えてくださってて驚いちゃった。』
前の時間軸ではローラ嬢の話などなかった。話の内容が変わっている。なぜだ?
いや、それより騎士団長と半年前にどこで会ったんだ?半年前と言えば…あぁそうだった。来年の陛下の在位40年の記念パレードの警備の為に、パレードコースの下調べを騎士団でやっていた。あの時か…あの時、オリビアは騎士団長と会ったのか。
『見ちゃったの。』
見ちゃった?なんのことだかわからず、俺は思わず後ろのオリビアへと体を向けようとしたら
『まだ、牧草が付いてるから動かないの。』と言って振り向かせてもらえず、小さな声で「わかった。」と言うと、『良いお返事。』と言いながら柔らかい手が俺の頭を撫でた、と同時に馬小屋に春風が吹き抜け、その柔らかい風に目を細めた俺に、オリビアは『相変わらずの猫毛ね。』と言って俺の頭をぐしゃぐしゃにかき回した。
「お、お、おい、やめろよ。」と言う俺の言葉が聞こえないかのように、オリビアは話の続きをし始めた。
『私ね。あの日ローラ様を抱きかかえていたキリアンを見ちゃったの。あの時のキリアンとローラ様があんまりお似合いだったから、もしかして結婚するのではと思ったのよ。やっぱりそうだったんだ。』
やっぱり…というのはこのことか。何言ってんだか、あれは偶然そうなっただけ。馬車を避けようとして転んで、足を挫いて途方に暮れていたローラ嬢に、たまたま俺は出くわせただけなのに、ローラ嬢もこいつもまるで運命的な出会いのように言いやがって。俺だって騎士、まだ正式じゃないが…騎士の端くれなんだよ。困っている女性をほっとけないじゃないか。特にローラ嬢には恋愛小説のような一場面と重なったようで、俺を白馬に乗った騎士のように見えたらしく、いたくローラ嬢の乙女心をくすぐったらしい…さっぱりわからない。だいたいそれのどこが白馬に乗った騎士になるだ?ただ俺は騎士として、男として、やったことなんだけど。それが大げさなこととなり、挙句の果てには婿入りの話になってしまった。女性の頭の中はどうなんてんだろう…後日談だがローラ嬢の乙女心を、俺以上にくすぐった者が結局婿入りすることになり、俺は白馬から落ちた騎士になったようだ。
いや、そんなことよりオリビアと騎士団長との事を聞きたい。
「おまえはどうなんだ?騎士団長は7年前まだ11歳のおまえを覚えてて声をかけてきたのか?」
背中の牧草を払っていたオリビアの手が止まった。
『…私が声をかけたの。マクシミリアン様が孤児院の前で考え込まれてて、だから声をかけたの(どうなさいましたか?)って、後から伺ったんだけどどうやら警備のことで悩んでいらしてたみたい。その時に私が(7年前のあの酔っ払いの出来事を覚えていらっしゃいますか?あの時、マクシミリアン様をお見掛けしたんですよ。)ってお話をさせて頂いたら、話が弾み、それから何度かお会いするようになって…それで…。』そう言って、言葉を区切ったオリビアが背中越しで震えているのがわかった。
『…それで…それで…すごく好きになって、私がマクシミリアン様に……私を…貰ってくださいとお願いしたの。』
なんだよ。その声は幸せそうに聞こえないじゃないか!寧ろ辛いって泣いてるみたいでじゃないか!
「おまえ、本当は騎士団長を…」と言いながら俺は振り向かば、涙を堪えようとして唇を噛んだオリビアがいた。とても幸せそうには見えなかった。まるで死刑台へと足を進める者のようで、俺はオリビアの両肩に手をやり問い詰めるように言っていた。
「本当に騎士団長が好きなのか?俺にはそう見えない!一体何を隠してるんだ!」
俺の言葉に青い瞳から一筋の涙が頬へと零れ落ちて行った。
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