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第1章 キリアン
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オリビアは両手で俺を押すと、その両手で自分の頬をバチンと叩き
『……マリッジブルー……なのかなぁ。』
「えっ?ま、まり、まり?」聞いたことがない言葉に、俺は戸惑うように聞き返すとオリビアは潤んだ瞳で微笑み『剣以外はどうでもいいキリアンにはわかるはずはないか。』
そう言って、俺の額をパチンと弾き
『今度会うときは結婚式よね。ローラ様によろしく。』と言いながら、オリビアはもう走り始めていた。
一瞬、出遅れた俺は、「おい!オリビア!」と言いながら、オリビアを追いかけようしたが、俺の前にどこから現れたのか爺さんが立ちふさがった。
「爺さん、どいてくれ!あいつを止めないと!おそらくあいつは!」
「キリアンよ、焦るな!その前にわしの話を聞け。」
「…爺さん…。」
爺さんは躊躇いながら
「前にも言ったが、マクシミリアンと言う男の漂う気が…どうも気になっておった。…昔…。」そう言うと爺さんは顎に手をやり「昔、あんな気を持つ者に会ったことがある…。人を殺めることに喜びや興奮を感じる男で魔物より性質が悪いやつじゃった。」
「爺さん…いくらなんでもそれは…。俺だって確かに騎士団長の気は……怖いくらい重々しく感じていたが、だが爺さんがいう人を殺めることに喜びや興奮を感じる男と同じなはずは…だって騎士団長だ。正義の為に剣を持つ騎士なんだ。そんなはず…はない。」」
「剣を愛するお主ならそう言うじゃろう。いやそう思いたいのだろう。だがキリアン、あのおぞましい気がまともな人間とはわしには思えん、そんな嫌な気を持つ男が、人を愛することなどできるはずはない。だがあの男は平民で孤児のオリビア嬢を貴族の養女にしてまで嫁にしようとしている。その意味はなんじゃと思う?」
頭の中に浮かぶのは、剣先から滴り落ちる血と崩れ落ちていくオリビア。
俺は頭を振り、その画像を消そうしたが、爺さんの次の言葉に固まった。
「オリビア嬢とて、7年前あの男を見た時のオリビア嬢はひとめぼれと言うより驚きと嫌悪に満ちた顔じゃったのに、それなのにあの男に見覚えがあることを隠し、嫌悪さえ感じている男からの求婚を受けた。それは結婚すればマクシミリアンの傍によりちかくなるからだろうな。その理由は…。」
爺さんは俺に言わせようとしているのか、次の言葉を発しない。
この分岐点でよりあいつが何をするのか想像できた。想像できたからあいつから言って欲しかった。だがオリビアはこの分岐点でも俺に頼るどころか、真実さえも話してはくれなかった。
やっぱり俺が頼りないからか…そう思ったら体から力が抜け、馬小屋の壁に寄り掛かってしまった。ドンと馬小屋に響いたが、爺さんは何も言わず、いや寧ろ見ることを避けるように下を向くと
「わしが導いた答えは…オリビア嬢が今も記憶喪失なのかどうかは別にして、10年経った今でも身内が名乗り出てこないところを見ると、おそらく身内は全員が亡くなっているんじゃと思う。身内を全員亡くして孤児になった子らの多くは、戦争や災害が一番多い。だが10年前は寧ろ盗賊団に襲われて天涯孤独の身になった子が多い。ならばオリビア嬢の両親は盗賊団か、盗賊団の振りをしていた者に襲われたとわしは思う。」
俺は寄り掛かった壁を背にしたまま座り込むと爺さんを見上げた。おそらく爺さんはこう言いたいのだろう。
「騎士団長が…盗賊だったにしろ、盗賊の振りをしたにしろ、オリビアの両親を殺した。」
爺さんの眼が細くなり、俺を見ている。
「でもそれは…雲をつかむような話だ。」
「じゃが、オリビア嬢の不自然な行動が一番説明できると思うが。」
頭の中にまた、剣先から滴り落ちる血と崩れ落ちていくオリビアが浮かんだ。
「爺さんの推測通り騎士団長がオリビアの両親の仇で、オリビアが仇討ちを考えているとしたら無謀だ。騎士団長の剣の腕は一流だ。騎士団の中でも3本の指に入るほどの凄腕だ。とてもオリビアには無理だ。」
「それはオリビア嬢が一番わかっておろう。実際見た…だろうしのう。だから結婚じゃ。」
「だから結婚?」
「寝屋なら眠っているところなら殺れるのではないかと思ったのではないかのう。まぁ、それは剣士を知らない者が考えそうな事じゃな。わしも、お主も剣士をよく知っておるから、そう簡単なものじゃないことはわかっておる。ましてや凄腕と言われるほどの人物なら、例え寝ていても、剣の心得がない者に殺られることはない。返り討ちだろうな。」
頭の中にまた、剣先から滴り落ちる血と崩れ落ちていくオリビアが浮かび、その映像に心が乱れるの恐れ、俺は叫ぶように言った。
「早くオリビアを止めに行かないと!」
「いや、わしが行こう。お主はここで待っておれ。3か月前のお主の眼が覚めるまで、代わりをやっておれ。」
えっ?3ヶ月前の俺が眼を覚ますまでって、どういうことだ?
「…俺に何かしたのか?」
「お主がオリビア嬢と話している最中に現れたから、これはマズいと思って、ちょっと眠ってもらっておる。」
俺はため息をつくと爺さんを見たが、またため息をついてしまった。確かに3ヶ月前の俺と今の俺がオリビアの前で顔を合わせるわけにはいかないが…。だがどんな場所で眠らされているのやら。
はぁ~そもそも…。
「時間の流れが違うと言っても、俺にこのままここで待っていろはないだろう。だいたいなぜ爺さんなんたよ。」
そう言うと爺さんは笑った。それも今まで見た爺さんの表情の中では一番温かい笑みだった。
「わしはオリビア嬢と話がしたかったんじゃ。だからすまぬがちょっとここで待っておいてくれ。」
爺さんの温かい笑みは俺の心も落ち着かせたみたいだ。俺は爺さんの顔をじっと見た。
心配で追いかけたいという思いはまだある。だが今オリビアの顔を見たら、なぜ俺を信じて話してくれない!なぜ俺を頼らない!と責めてしまいそうだ。…わかっている。責めてもあいつは話さないだろうし、これ以上あいつとの間の隙間を作りたくはない。
爺さんの顔にはまだ温かい笑みが浮かんでいる。
その温かい笑みが、今のオリビアに落ち着きをもたらせ、すべてを話してはくれなくとも、心の内の一部を見せてくれるのではと思った。
だから素直に言えた。
「オリビアを頼む。」
爺さんは頷くと
「マーベリックとの約束も果たせそうじゃ。」と笑った。
『……マリッジブルー……なのかなぁ。』
「えっ?ま、まり、まり?」聞いたことがない言葉に、俺は戸惑うように聞き返すとオリビアは潤んだ瞳で微笑み『剣以外はどうでもいいキリアンにはわかるはずはないか。』
そう言って、俺の額をパチンと弾き
『今度会うときは結婚式よね。ローラ様によろしく。』と言いながら、オリビアはもう走り始めていた。
一瞬、出遅れた俺は、「おい!オリビア!」と言いながら、オリビアを追いかけようしたが、俺の前にどこから現れたのか爺さんが立ちふさがった。
「爺さん、どいてくれ!あいつを止めないと!おそらくあいつは!」
「キリアンよ、焦るな!その前にわしの話を聞け。」
「…爺さん…。」
爺さんは躊躇いながら
「前にも言ったが、マクシミリアンと言う男の漂う気が…どうも気になっておった。…昔…。」そう言うと爺さんは顎に手をやり「昔、あんな気を持つ者に会ったことがある…。人を殺めることに喜びや興奮を感じる男で魔物より性質が悪いやつじゃった。」
「爺さん…いくらなんでもそれは…。俺だって確かに騎士団長の気は……怖いくらい重々しく感じていたが、だが爺さんがいう人を殺めることに喜びや興奮を感じる男と同じなはずは…だって騎士団長だ。正義の為に剣を持つ騎士なんだ。そんなはず…はない。」」
「剣を愛するお主ならそう言うじゃろう。いやそう思いたいのだろう。だがキリアン、あのおぞましい気がまともな人間とはわしには思えん、そんな嫌な気を持つ男が、人を愛することなどできるはずはない。だがあの男は平民で孤児のオリビア嬢を貴族の養女にしてまで嫁にしようとしている。その意味はなんじゃと思う?」
頭の中に浮かぶのは、剣先から滴り落ちる血と崩れ落ちていくオリビア。
俺は頭を振り、その画像を消そうしたが、爺さんの次の言葉に固まった。
「オリビア嬢とて、7年前あの男を見た時のオリビア嬢はひとめぼれと言うより驚きと嫌悪に満ちた顔じゃったのに、それなのにあの男に見覚えがあることを隠し、嫌悪さえ感じている男からの求婚を受けた。それは結婚すればマクシミリアンの傍によりちかくなるからだろうな。その理由は…。」
爺さんは俺に言わせようとしているのか、次の言葉を発しない。
この分岐点でよりあいつが何をするのか想像できた。想像できたからあいつから言って欲しかった。だがオリビアはこの分岐点でも俺に頼るどころか、真実さえも話してはくれなかった。
やっぱり俺が頼りないからか…そう思ったら体から力が抜け、馬小屋の壁に寄り掛かってしまった。ドンと馬小屋に響いたが、爺さんは何も言わず、いや寧ろ見ることを避けるように下を向くと
「わしが導いた答えは…オリビア嬢が今も記憶喪失なのかどうかは別にして、10年経った今でも身内が名乗り出てこないところを見ると、おそらく身内は全員が亡くなっているんじゃと思う。身内を全員亡くして孤児になった子らの多くは、戦争や災害が一番多い。だが10年前は寧ろ盗賊団に襲われて天涯孤独の身になった子が多い。ならばオリビア嬢の両親は盗賊団か、盗賊団の振りをしていた者に襲われたとわしは思う。」
俺は寄り掛かった壁を背にしたまま座り込むと爺さんを見上げた。おそらく爺さんはこう言いたいのだろう。
「騎士団長が…盗賊だったにしろ、盗賊の振りをしたにしろ、オリビアの両親を殺した。」
爺さんの眼が細くなり、俺を見ている。
「でもそれは…雲をつかむような話だ。」
「じゃが、オリビア嬢の不自然な行動が一番説明できると思うが。」
頭の中にまた、剣先から滴り落ちる血と崩れ落ちていくオリビアが浮かんだ。
「爺さんの推測通り騎士団長がオリビアの両親の仇で、オリビアが仇討ちを考えているとしたら無謀だ。騎士団長の剣の腕は一流だ。騎士団の中でも3本の指に入るほどの凄腕だ。とてもオリビアには無理だ。」
「それはオリビア嬢が一番わかっておろう。実際見た…だろうしのう。だから結婚じゃ。」
「だから結婚?」
「寝屋なら眠っているところなら殺れるのではないかと思ったのではないかのう。まぁ、それは剣士を知らない者が考えそうな事じゃな。わしも、お主も剣士をよく知っておるから、そう簡単なものじゃないことはわかっておる。ましてや凄腕と言われるほどの人物なら、例え寝ていても、剣の心得がない者に殺られることはない。返り討ちだろうな。」
頭の中にまた、剣先から滴り落ちる血と崩れ落ちていくオリビアが浮かび、その映像に心が乱れるの恐れ、俺は叫ぶように言った。
「早くオリビアを止めに行かないと!」
「いや、わしが行こう。お主はここで待っておれ。3か月前のお主の眼が覚めるまで、代わりをやっておれ。」
えっ?3ヶ月前の俺が眼を覚ますまでって、どういうことだ?
「…俺に何かしたのか?」
「お主がオリビア嬢と話している最中に現れたから、これはマズいと思って、ちょっと眠ってもらっておる。」
俺はため息をつくと爺さんを見たが、またため息をついてしまった。確かに3ヶ月前の俺と今の俺がオリビアの前で顔を合わせるわけにはいかないが…。だがどんな場所で眠らされているのやら。
はぁ~そもそも…。
「時間の流れが違うと言っても、俺にこのままここで待っていろはないだろう。だいたいなぜ爺さんなんたよ。」
そう言うと爺さんは笑った。それも今まで見た爺さんの表情の中では一番温かい笑みだった。
「わしはオリビア嬢と話がしたかったんじゃ。だからすまぬがちょっとここで待っておいてくれ。」
爺さんの温かい笑みは俺の心も落ち着かせたみたいだ。俺は爺さんの顔をじっと見た。
心配で追いかけたいという思いはまだある。だが今オリビアの顔を見たら、なぜ俺を信じて話してくれない!なぜ俺を頼らない!と責めてしまいそうだ。…わかっている。責めてもあいつは話さないだろうし、これ以上あいつとの間の隙間を作りたくはない。
爺さんの顔にはまだ温かい笑みが浮かんでいる。
その温かい笑みが、今のオリビアに落ち着きをもたらせ、すべてを話してはくれなくとも、心の内の一部を見せてくれるのではと思った。
だから素直に言えた。
「オリビアを頼む。」
爺さんは頷くと
「マーベリックとの約束も果たせそうじゃ。」と笑った。
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