王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

文字の大きさ
174 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

7日目⑪スイッチ

しおりを挟む
「ロザリー!」

「ロザリー様!」


ロザリーを呼ぶ、その悲鳴のような声を聞いた瞬間、ルシアンの体はもう王妃の間に飛び込んでいた。


まるで部屋の外で待っていたかのように現れたルシアンに、驚いたミランダだったが、複数の足音にゆっくりと振り返り、ウィスレット侯爵とアストンの姿を確認すると……目を細めた。



何かあったんだ。
侯爵、アストン、叔父様の三人でしか共有できない…出来事が。




「ロザリー!」
ルシアンの声に、ロザリーはハッとしたように、目を開け

「…えっと、私…どうしたんでしょうか?」

「キャロルの背中に刺し傷があると、私が言った途端に倒れたのよ。大丈夫?」

「は、はい。寝不足だったんでしょうね。ちょっとクラッとしちゃって…」
そう言って、ロザリーは微笑むと、キャロルに向かって

「キャロルさんの傷は…大丈夫ですか?」

ロザリーが倒れたのが自分のせいのような気がしたキャロルはべそをかきながら

「す。すみません…私…」

「キャロルさん!泣かないでください。私が勝手に倒れたわけで…私こそ、す、すみません。」

ロザリーとキャロルの話をクスリと笑いながら見ていたミランダだったが、侯爵とアストンがロイを複雑な表情で見ていることに気が付き、今度は視線をロイに移しその様子を見た、だが、纏う色も特に不審なところは見当たらず…ミランダはまた侯爵とアストンへと視線を移し「なるほどね。」と呟くと

「ロイ、あなたはすぐに私がブラチフォード国から連れてきた、マクドナルド医師にここに来るように言って。それからそのままリドリー伯爵に、私がお願いしていた件がどうなったか聞いてきて頂戴。」

ミランダのその命に、ロイは「わかりました。」と言うとすぐに、部屋を飛び出した。
その後ろ姿を見ながら、ミランダはキャロルとロザリーに

「なにふたりで謝ってんのよ。はい!もうここで終わり。それよりキャロル、その背中の刺し傷はどうしたの?」

「刺し傷…?」

ルシアンの声に、ミランダは頷くと
「えぇ、キャロルの刺し傷を聞いて、まぁ偶然だと思うけど…ロザリーは倒れたの。」


アストンがキャロルの背中にまわるとその傷を見て、眉を顰め侯爵に何か言った。
ミランダは黙ってその様子を見ていたが、キャロルに向かって

「どこで、怪我をしたの?」

キャロルは青い顔で、涙を零しながら
「…わ、わかりません。いつケガしたのか、さっぱり…」

「痛くはない?」

「…痛くないです。」

「でもちゃんとマクドナルド先生に、あなたも見てもらうのよ。」

「…はい。」

ミランダは侯爵とアストンに
「キャロルの背中の傷をみたいでしょうけど、嫁入り前のキャロルの背中を見せるわけにはいかないわよ。でも…」

ミランダはキャロルに微笑むと
「キャロル、ごめんね。今日は大事な日だから、男の方々は少しでも気になる事は挙式前に片付けておきたいらしわ。面倒だけど着替えたら、そのドレスを男性陣に見せてあげて欲しいのだけどいいかしら?」

「はい。」

ミランダはそう言って、まだグズグズと鼻を鳴らすキャロルの手を握り

「さぁ、着替えていらっしゃい。着替えたら…ロザリーの側についていてあげて」

「そして、ロザリー。」

「は、はい!」

「あなたは少しでも休んでおきなさい。」

「ミランダ姫、私はもう大丈夫です!それに、もう時間が…」

「ロザリー。キャロルのこの涙はどうしてだかわかるでしょう?」

ロザリーの瞳が大きく見開いた。その様子を見てミランダは

「キャロルはあなたが倒れたのは、心配をかけた自分のせいじゃないかと思っているのよ。ロザリー、お願い。これ以上…キャロルを泣かせないで」

ロザリーは目を瞑ると頷き
「…はい。少し横になっておきます。」

そしてキャロルに向かって
「キャロルさん、ついて来てくれますか?」

「はい!ロザリー様。」

「ミランダ姫、ルシアン殿下…ご心配をおかけしてすみません。少し休んでまいります。」

ロザリーはそう言って、何も言わないルシアンを見て唇を噛むと頭を下げ、キャロルと一緒に部屋を後にした。


ミランダはルシアンが何も言わず、ただロザリーの背中を見ている姿に確信を持ったように
「ここにいるのは、ウィンスレット侯爵、アストン、叔父様の三人よ。さぁ話して。」

そう言うとウィンスレット侯爵とアストンを見て、ルシアンの上着を握り
「ロザリーとロイのふたりに、声を掛けるのを躊躇っているのはどうして?!何を三人で隠しているの?」

だが、ルシアンは黙ってミランダを見ただけだった。
その様子にミランダは語気を荒げ
「この部屋に入ってから、倒れたロザリーに叔父様の口から出た言葉は、ロザリーの名前だけ。大丈夫の一言さえなかった。見たでしょう?この部屋を出て行くときのロザリーの顔を?!叔父様がロザリーを心配しているのはわかっているわ。でもこんな時に、いたわりの言葉さえなかった事に、ロザリーはショックを受けたはずよ。きっとロザリーは思っているわ。いざというときに倒れるなんて…情けない。叔父様が何にも言ってくださらないのは、きっと呆れているからだとね。」

「…ミランダ。」

ルシアンが苦しそうにミランダの名を呼んだが、それから後の言葉が出てこないことに、ミランダは顔を歪め

「叔父様が言えないのなら…アストン。あなたに聞くわ。」

アストンの視線がルシアンに行った。

ミランダはアストンの視線の動きを見ながら
「アストン!あなたは私の臣下、叔父様の臣下ではないわ。命令します。私にすべてを話しなさい。」


その声は纏う雰囲気は、百戦練磨のアストンでさえ息を呑む姿だった。


しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

チョイス伯爵家のお嬢さま

cyaru
恋愛
チョイス伯爵家のご令嬢には迂闊に人に言えない加護があります。 ポンタ王国はその昔、精霊に愛されし加護の国と呼ばれておりましたがそれももう昔の話。 今では普通の王国ですが、伯爵家に生まれたご令嬢は数百年ぶりに加護持ちでした。 産まれた時は誰にも気が付かなかった【営んだ相手がタグとなって確認できる】トンデモナイ加護でした。 4歳で決まった侯爵令息との婚約は苦痛ばかり。 そんな時、令嬢の言葉が引き金になって令嬢の両親である伯爵夫妻は離婚。 婚約も解消となってしまいます。 元伯爵夫人は娘を連れて実家のある領地に引きこもりました。 5年後、王太子殿下の側近となった元婚約者の侯爵令息は視察に来た伯爵領でご令嬢とと再会します。 さて・・・どうなる? ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...