王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

文字の大きさ
180 / 214
結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

7日目⑰

しおりを挟む
もう百年ほど使われていていない城内の地下牢に、いつものように聞こえるポトンという水音に交じって、コツンコツンという足音が、暗く寒い地下に響いていた。


「ここは寒いな。」
バウマンの口から、白い息と一緒に出た声に、ヒューゴはクスリと笑い

「そんなにお寒いですか?でも…」

そう言って、ヒューゴは薄いドレスで横たわるロザリーを見ると、またクスリと笑い
「公爵様や私より、薄いドレス一枚のロザリー様のほうがお寒いかと思いますが。」

「そうか?暗示に操られているロザリー様は、寒ささえ感じてはおられまい。」

ロザリーを様付けで呼びながら、嘲笑うふたりの声は、だんだんと大きくなっていった。

「しかし、ヒューゴ。暗示に掛かっておるロザリーをまたどうしてここに?手籠めにでもするつもりなのか?」

そう言いながらバウマンが、意識のないロザリーの姿態を舐めるように見る姿に、ヒューゴは眉を顰め
「…確かに美しい女ではありますが、ルシアンの手垢がついたお古でございますよ。」

口元を歪め吐き捨てるような物言いに、バウマンはフンと鼻で笑い
「ルシアンが惚れた女に興味があったのだが…そんなに、お古と強調されてはやる気が失せた。」

そうは言ったものの、まだ惜しいと思っているのだろうか、ロザリーの膝まで、まくれたドレスから視線を外せないバウマンに、ヒューゴは呆れたようにため息をつくと、バウマンはニヤリと笑い
「どうした?ヒューゴ。私があの先々代ローラン王の子だと、改めて思い呆れているのか?」

「…いえ」

ヒューゴの様子にバウマンは大声で笑うと
「大事の前にこの女をどうこうする気はない。しかし…その大事の前におまえは、なぜロザリーをここに来るように暗示をかけていたのは何故だ?暗示がうまくいっていなかったのか?」

悔しそうに顔を歪めたヒューゴは
「この女が暗示にかかりにくかったので、今一度確かめておきたかったのです。最後の最後で、ルシアンを殺す手を止められては元も子もないので…。御足労をお掛けして申し訳ありません。」

「だが、2回目のスイッチはちゃんと入ったようではないか。もう心配はないのだろう。」

「はい。この地下牢を知る者はルシアンの側近らにはおりません。その地下牢に迷わずひとりでロザリーが来たのは、何よりの証拠。」

「でもどうするのだ。」

そう言って、バウマンはロザリーの側に座ると、ロザリーの金色の髪に触れ
「怪しまれずに、どうやってロザリーを戻す。場合によってはこちらの計画にも支障がでるぞ。」

ヒューゴはにっこり笑うと
「ロザリー様は近衛師団の者に、無事発見されたという事に…。」

「ではロザリーを発見する奴も暗示に…?」

「はい。」

「やはり、暗示とやらは魔法だ。」

「殿下、暗示は学問でございます。」

「クッッッ…。そうであったな。」

ヒューゴはバウマンに笑みを浮かべ
「団員が今頃、ルシアンに報告しているでしょうから、そろそろここを出ましょうか。」

「そうだな…。」

だが、名残惜し気にまだロザリーに触れているバウマンに、苦虫を嚙み潰したような顔で見ていたヒューゴだったが、急にその顔が変わり、ゆっくりとバウマンの横に座ると、ロザリーの右手を手に取った。

「おまえも惜しくなったか?」と笑ったバウマンだったが、ヒューゴの呆けたような表情に眉を顰め

「どうした?」

「…この女…かなりの剣の使い手のようです。」

「…剣の使い手?!おいおい、わかっているか?ロザリーは女だぞ?!」

「この手の平を見てください。」

バウマンはヒューゴに差し出されたロザリーの手を見て、驚いたようにヒューゴを見た。

ヒューゴは満面の笑顔で
「どうやら殿下は、最強の剣を手に入れられましたね。」

「ルシアンを殺害後はロザリーを始末するつもりでしたが、このまま…殿下の剣として、この美貌と剣の腕で各国の王を暗殺することも可能ですね。あぁ、そうなれば殿下がこの大陸一の王になることも夢ではない。」

ヒューゴはそう言うとロザリーの手を愛おしそうに握った。



しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】お父様の再婚相手は美人様

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 シャルルの父親が子連れと再婚した!  二人は美人親子で、当主であるシャルルをあざ笑う。  でもこの国では、美人だけではどうにもなりませんよ。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

サマー子爵家の結婚録    ~ほのぼの異世界パラレルワールド~

秋野 木星
恋愛
5人の楽しい兄弟姉妹と友人まで巻き込んだ、サマー子爵家のあたたかな家族のお話です。  「めんどくさがりのプリンセス」の末っ子エミリー、  「のっぽのノッコ」に恋した長男アレックス、   次女キャサリンの「王子の夢を誰も知らない」、   友人皇太子の「伝統を継ぐ者」、  「聖なる夜をいとし子と」過ごす次男デビッド、   長女のブリジットのお話はエミリーのお話の中に入っています。   ※ 小説家になろうでサマー家シリーズとして書いたものを一つにまとめました。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi(がっち)
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...