王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

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結婚までの7日間 Lucian & Rosalie

7日目⑱

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寒い…。

いや…眠い。



「…ロザリー。」


温かくて、落ち着く…あぁ…その声好きだなぁ。このままこの声を聞きながら、もう少し眠りたい。


「ロザリー。」

別の声が聞こえる。

「ロザリー?!」

「ロザリー!目が覚めた?」

さすがに耳元で呼ばれると眠れない。

「ロザリー!」

今度は体を揺らされる。

は、はい、起きます。
重い瞼を必死に上げると…。


私の目に映ったのはミランダ姫とそしてルシアン殿下。
どうして、おふたりが私を覗き込むように見ていらっしゃるのだろう?

「ロザリー?」

あぁ、この声。
赤い瞳。
黒い髪。

そして、今日は…
黒い士官用の礼装に、肩から斜めに掛けたブルーのサッシュと、片肩から前部にかけて吊るされる金糸の飾り紐か…

うん、いいな。ルシアン殿下の礼装は…。

礼装…?でもどうして礼装……?

ぁ、あ、あ…あ~!!

結婚式!


寝過ごした?!寝過ごしたんだ!
バウマン公爵を嵌める為に、用意されたとはいえ、自分の結婚式に寝過ごし、起こされるなんて!最悪!

「す、す、すみません!寝過ごしたんですね!」

バタバタと起き上がった私に、おふたりは驚いたように私を見てなにも仰らない。

ただ、じっと…私を見ている。

えっ…?!

「…すぐにキャロルさんに、身支度を手伝ってもらいます。すみません!」

ミランダ姫が息を飲まれ
「ロザリー…。」

「…はい。」

「ごめんなさい。キャロルは……私が用事を頼んだので、今いないのよ。だから私の侍女に手伝わせるわね。」

なんだろう、この違和感。

なかなか返事をしない私に、ミランダ姫が
「私の侍女も、自称美の伝道師のキャロルに引けを取らないわよ。」
と言って、笑われたが、纏わり付くような重い空気が拭えない。

私は視線をルシアン殿下に向けると
「なにも、心配するな。」

やっぱり、なにかある。なにかあったんだ。

それはきっと大変な事なのだと思った。
それはきっと私に関することだと…思った。

「ルシアン殿下。」

ルシアン殿下の名前を呼んだが、でもそれから先の言葉が出てこなかった。

ミランダ姫もルシアン殿下もおかしい。

でも、ふと気が付いた。おかしいのは…おふたりだけじゃない。
おかしいのは、私もだという事に…。
おふたりの気配に気づかず、顔を覗き込まれるまで、私が気が付かないなんて有り得ない。


少し休むようにと言われて、この部屋に戻ってきたのは覚えている。
それから、私はベットに横たわって…それから…眠った?
いや…
誰かが…
そう誰かが…来た。この部屋に…来た。

誰だった?
誰…だったか思い出せない。


おぼろげに姿が見えた気がしたが…突然、吐き気を催し、思わず手を口へとやった。

…怖い。

そう、怖いと思った。
でも、何が怖いのかわからない。

一体、どうしたんだろう。

見えない恐怖に、震えだした体を押さえようと両腕で体を抱きしめたら、ぬくもりに包み込まれた。

そのぬくもりにホッと息をついた私に、心地良い声が…

「大丈夫だから。」

大丈夫?

顔をあげ、ルシアン殿下を見た。
ルシアン殿下はまた言われた。

「もう大丈夫だ。俺がおまえを守る。」

守る?私をルシアン殿下が守ると仰っている。

茫然とする私に、ルシアン殿下は強く私を抱きしめ
「必ず、おまえを守る。」

【守る。】

その言葉を言うのは、いつも私のはずだった。
その言葉は主君であるルシアン殿下に言われる言葉ではなかった。

私が眠っている間に何かが変わり、その何かから、ミランダ姫もそしてルシアン殿下も私を守ろうとされている。

一体、何があったの。

私は騎士なのに、ルシアン殿下の騎士なのに、唯一殿下の背中を守る事が許された騎士なのに…
今、私はこの温もりが手放せない。

「…私、どうしたんだろう。」

ポツリと出た言葉に、大きな腕がより強く私を抱きしめた。


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