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侯爵の心。
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お父様が負傷し、ましてやミランダ姫を攫われることがあるなんて…信じられなかった。
あのお父様に傷を負わすことができる者は…おそらく…カルヴィン・アストンだ。
あの男ならありえる。あの男なら…
握り締めた手が震えた。
ルシアン王子の視線を感じたが、ルシアン王子は私になにも仰らず、
「バート、詳しい状況を」
「はい…。ミランダ姫付きの侍女の話しでは、それは…昼を少し過ぎた頃だった申しておりました。ウィンスレット侯爵とミランダ姫が、人払いをされてお部屋の前の庭でお話しをされていたそうです。」
*****
「侯爵は反対?」
「はい?」
「私は叔父様のお相手は、絶対ロザリーが良いの。だってふたりの色が重なるとキラキラして…それって、ふたりは一緒にいなさいと神様が言っているよ。」
「姫…。」
「だから、叔父様も結婚のために、ローラン国に行くのなんてやめたらいいのに…。ロザリーもシリルをやめればいいのに…。初めて見たの…叔父様の色がロザリーを追いかけたいみたいに、揺れ動くのを…。ロザリーもそうよ。」
ミランダ姫の声は…私の心に突き刺さった。
ロザリーが殿下を…
そして殿下がロザリーを……恐れ多いことだ。
だが心の一部が言っている。
幼い頃から知っている殿下の…、苦労をかけているロザリーの…、幸せがそこにあるのなら、その幸せを願ってやりたいと。
だが今となっては…もう遅い。
ロザリーが生まれた頃、他国との間に密約を結ぶ動きを見せていた弟ライアンに、侯爵家を渡すわけには行かなかった。ロザリーを双子などど安易な考えではなく、もっと良い方法があったのかもしれん。だがあの時私は…娘の幸せより、国を守る事を選んだ。
父親としては最低だ。
「あれ?」
いろんな思いが溢れ、その思いに捕らわれていた私に、ミランダ姫のキョトンとした声が耳に入ってきた。
「どうなさいました?」
「小鳥が…小鳥が今日は一羽もいないと思って…いつもすごいの。ピーピーとうるさいくらいなのにどうしちゃったのかなぁ。」
「えっ?」
なにか嫌な感じがした、その瞬間肌に感じた。誰かがいる。
いや…これは…
うかつだった…くそっ、私としたことが…
「姫…そっと私の後ろへと動いてください。」
「侯爵?」
…来る。
それは、大きく真っ黒なものだった。すごい勢いでこちらに向かって走ってくる。
犬だ。…どうする、剣を抜く時間はないな。ならば、これしかない。
この上着ならいけるかもしれない。
大型犬の眼の前に左腕を差し出し噛ませ、大型犬の足を止めた。
「キャァ!侯爵!」
腕を犬に噛ませた瞬間、後ろでミランダ姫の叫ぶ声が聞こえ、安心して戴くために、声を出したが…
「…大丈夫です。姫。」
私の掠れた声に、ミランダ姫はより一層声をあげて泣かれてしまい、かえってまずかったか…と思わず浮かびそうな苦笑を抑え、ゆっくりと右手を握り締めると…心の中で、チャンスは一度だと言い聞かせた。
犬は一度噛むと、相手を倒すまで離さない。それは長所でもあるが…短所でもある。
なぜなら弱点である、鼻先から口にかけた部分(マズル)を敵の眼の前にさらけ出すからだ。
私は思い切りマズルを殴ると犬は怯み、その隙にブーツに隠していた短剣で、犬の前足を切った。
…これで動けないだろう。
荒い息を吐きながら、ミランダ姫へと振り返った時
パーンという音と同時に、背後から熱を感じ、その熱が右の肩を貫いていった。
うっ…これは…
倒れる瞬間、体を捻り後ろを見ると木の影から、エイブが…
「す、すげー!指一本で、レジェンドと呼ばれる騎士の右肩をやった。銃ってすごいぜ。」
銃…これが…南の国で作られたという。銃なのか…?!
このままでは、気を失う。ミランダ姫がいるのだ。倒れるわけにはいかん。右肩はダメだ。左の前腕部は犬に…だが、右よりましか…
短剣を左手に持ち替え、エイブへと…当たってくれと祈る気持ちで投げたが…意識は闇へと引き込まれていった。
あぁ…ミランダ姫の泣き声が聞こえる。
*****
「ギャァ!」
短剣はエイブの太ももに刺さっていた。
「侯爵~!!!」
「異能の姫さんよ。地獄へとお連れに来ましたぜ。」
「…あなたは…カルヴィン・アストン…。嫌!離して!…侯爵!!!」
カルヴィン・アストンは大きな溜め息を吐き、
「うるさいな。だからガキは嫌いなんだよ。静かにしてろ。」
そう言って侯爵にしがみ付くミランダ姫の腕を引っ張り、薬を嗅がせて意識を奪うと、荷物のようにミランダ姫を抱え上げ、エイブをチラリと見て鼻で笑いながら
「俺が殺ると息巻いていたのに…」
「う、うるさい。アストンはなんにもしないで、隠れていた癖に大きなことを言うな。」
「俺が侯爵と剣でやりたいと言ったら、お前が自分の手で殺ると言ったんだぜ。それも…銃でだ。女子供でも使えるような、銃なんぞでやるのは俺は嫌いだ。」
「…侯爵は強いから、しょうがないだろう。ちょっと待てよ。止血するから…ダラダラ血を流していちゃ、動けないだろう。」
「ここで、王女も殺らないのか?そういう話だったろう?」
「あぁ…そうだったな。」
「何を考えている?」
「その前に楽しみたいんだ。」
「なんだ。楽しみって…。」
「ルシアン王子とシリルを戦わせる。」
「ふ~ん、どうやって?」
「…この姫だ。人質にする。」
「姫を助けたければ…殺し合いをしろ…とでも言うのか?」
「あぁ、良いアイデアだろう!」
「…気に入らんな。」
「なんだと!」
「まぁ…勝ったほうを俺に殺らせるなら、協力する。」
口元を歪めて、エイブは笑うと
「いいぞ。殺れよ。」
エイブの声に、カルヴィンは何も答えず歩き出すと、エイブは舌打ちをして、懐から封筒を出し、ウィンスレット侯爵の体の上に投げた。
ミランダ姫を預かった。
取引がしたい。今夜23時にリールの森近くの教会で待つ。
ルシアン王子、シリルの両名で来られたし。・・・救国の志士
あのお父様に傷を負わすことができる者は…おそらく…カルヴィン・アストンだ。
あの男ならありえる。あの男なら…
握り締めた手が震えた。
ルシアン王子の視線を感じたが、ルシアン王子は私になにも仰らず、
「バート、詳しい状況を」
「はい…。ミランダ姫付きの侍女の話しでは、それは…昼を少し過ぎた頃だった申しておりました。ウィンスレット侯爵とミランダ姫が、人払いをされてお部屋の前の庭でお話しをされていたそうです。」
*****
「侯爵は反対?」
「はい?」
「私は叔父様のお相手は、絶対ロザリーが良いの。だってふたりの色が重なるとキラキラして…それって、ふたりは一緒にいなさいと神様が言っているよ。」
「姫…。」
「だから、叔父様も結婚のために、ローラン国に行くのなんてやめたらいいのに…。ロザリーもシリルをやめればいいのに…。初めて見たの…叔父様の色がロザリーを追いかけたいみたいに、揺れ動くのを…。ロザリーもそうよ。」
ミランダ姫の声は…私の心に突き刺さった。
ロザリーが殿下を…
そして殿下がロザリーを……恐れ多いことだ。
だが心の一部が言っている。
幼い頃から知っている殿下の…、苦労をかけているロザリーの…、幸せがそこにあるのなら、その幸せを願ってやりたいと。
だが今となっては…もう遅い。
ロザリーが生まれた頃、他国との間に密約を結ぶ動きを見せていた弟ライアンに、侯爵家を渡すわけには行かなかった。ロザリーを双子などど安易な考えではなく、もっと良い方法があったのかもしれん。だがあの時私は…娘の幸せより、国を守る事を選んだ。
父親としては最低だ。
「あれ?」
いろんな思いが溢れ、その思いに捕らわれていた私に、ミランダ姫のキョトンとした声が耳に入ってきた。
「どうなさいました?」
「小鳥が…小鳥が今日は一羽もいないと思って…いつもすごいの。ピーピーとうるさいくらいなのにどうしちゃったのかなぁ。」
「えっ?」
なにか嫌な感じがした、その瞬間肌に感じた。誰かがいる。
いや…これは…
うかつだった…くそっ、私としたことが…
「姫…そっと私の後ろへと動いてください。」
「侯爵?」
…来る。
それは、大きく真っ黒なものだった。すごい勢いでこちらに向かって走ってくる。
犬だ。…どうする、剣を抜く時間はないな。ならば、これしかない。
この上着ならいけるかもしれない。
大型犬の眼の前に左腕を差し出し噛ませ、大型犬の足を止めた。
「キャァ!侯爵!」
腕を犬に噛ませた瞬間、後ろでミランダ姫の叫ぶ声が聞こえ、安心して戴くために、声を出したが…
「…大丈夫です。姫。」
私の掠れた声に、ミランダ姫はより一層声をあげて泣かれてしまい、かえってまずかったか…と思わず浮かびそうな苦笑を抑え、ゆっくりと右手を握り締めると…心の中で、チャンスは一度だと言い聞かせた。
犬は一度噛むと、相手を倒すまで離さない。それは長所でもあるが…短所でもある。
なぜなら弱点である、鼻先から口にかけた部分(マズル)を敵の眼の前にさらけ出すからだ。
私は思い切りマズルを殴ると犬は怯み、その隙にブーツに隠していた短剣で、犬の前足を切った。
…これで動けないだろう。
荒い息を吐きながら、ミランダ姫へと振り返った時
パーンという音と同時に、背後から熱を感じ、その熱が右の肩を貫いていった。
うっ…これは…
倒れる瞬間、体を捻り後ろを見ると木の影から、エイブが…
「す、すげー!指一本で、レジェンドと呼ばれる騎士の右肩をやった。銃ってすごいぜ。」
銃…これが…南の国で作られたという。銃なのか…?!
このままでは、気を失う。ミランダ姫がいるのだ。倒れるわけにはいかん。右肩はダメだ。左の前腕部は犬に…だが、右よりましか…
短剣を左手に持ち替え、エイブへと…当たってくれと祈る気持ちで投げたが…意識は闇へと引き込まれていった。
あぁ…ミランダ姫の泣き声が聞こえる。
*****
「ギャァ!」
短剣はエイブの太ももに刺さっていた。
「侯爵~!!!」
「異能の姫さんよ。地獄へとお連れに来ましたぜ。」
「…あなたは…カルヴィン・アストン…。嫌!離して!…侯爵!!!」
カルヴィン・アストンは大きな溜め息を吐き、
「うるさいな。だからガキは嫌いなんだよ。静かにしてろ。」
そう言って侯爵にしがみ付くミランダ姫の腕を引っ張り、薬を嗅がせて意識を奪うと、荷物のようにミランダ姫を抱え上げ、エイブをチラリと見て鼻で笑いながら
「俺が殺ると息巻いていたのに…」
「う、うるさい。アストンはなんにもしないで、隠れていた癖に大きなことを言うな。」
「俺が侯爵と剣でやりたいと言ったら、お前が自分の手で殺ると言ったんだぜ。それも…銃でだ。女子供でも使えるような、銃なんぞでやるのは俺は嫌いだ。」
「…侯爵は強いから、しょうがないだろう。ちょっと待てよ。止血するから…ダラダラ血を流していちゃ、動けないだろう。」
「ここで、王女も殺らないのか?そういう話だったろう?」
「あぁ…そうだったな。」
「何を考えている?」
「その前に楽しみたいんだ。」
「なんだ。楽しみって…。」
「ルシアン王子とシリルを戦わせる。」
「ふ~ん、どうやって?」
「…この姫だ。人質にする。」
「姫を助けたければ…殺し合いをしろ…とでも言うのか?」
「あぁ、良いアイデアだろう!」
「…気に入らんな。」
「なんだと!」
「まぁ…勝ったほうを俺に殺らせるなら、協力する。」
口元を歪めて、エイブは笑うと
「いいぞ。殺れよ。」
エイブの声に、カルヴィンは何も答えず歩き出すと、エイブは舌打ちをして、懐から封筒を出し、ウィンスレット侯爵の体の上に投げた。
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