王子様と過ごした90日間。

秋野 林檎 

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王子様は思う。

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木の上から、ローラン王が消えた場所を見つめるミランダのその表情は、幼い少女の顔には見えない。


何を思っているのだろう。
憂いを帯びたその顔に、俺は大きな声で
「…おいで」

そう呼びかけ、両手を広げると、ミランダはハッとしたように俺を見た。

「叔父様……叔父様!!」


ミランダは顔をクシャクシャにして、木の上から飛び降りるようにして、俺の腕の中に飛び込んでくると、胸の内に溢れる言葉を嗚咽を漏らしながら口にした…。

「…初めは…真っ黒な霧のようだったの。でも、だんだんと…姿が…見えてきたの。その顔を見ていたら…」

ミランダは両手で零れ落ちる涙を擦るように拭きながら
「なんだか懐かしくて、楽しくて…どうしてなのか…わかんない。全然わからない。」

「ミランダ…」

俺を見つめる、ミランダの緑色の瞳がまた潤み、震えながら

「【また、会えて嬉しかった。】」

「えっ?」

「……そう言ったの。消えてゆく寸前…そう言ったの!!」

ミランダは顔を歪めて
「【また会えて…】ってなに?!初めて会ったのに!!【嬉しかった】ってなに?!……意味がわかんない!」

そう言って、ミランダはまた両手で零れ落ちる涙を拭いながら
「【また、会えて嬉しかった。】って、どういう意味よと、ぜっーたい!聞くんだから!それから、それから…悪魔との契約を切って、感謝させるんだから!!それから…それから……」


そう言って、ミランダは俺の腕の中で大きな声で泣き出した。




【また、会えて嬉しかった。】


ローラン王がそう思う人は、ひとりしか浮かばない。


だが…俺は頭を横に振り、苦笑した。
前世だとか、来世だとか…その存在など、俺にはわからない。
わからないものに、困惑するなど愚かしいと思う。

今だ。今をしっかり生きる事が何より大事だ。
もし…もしもだ、ミランダが母の生まれ変わりであったとしても、ミランダが覚えていない以上、それは事実ではない。

俺が前世でロイという男だったことも…そうだ。


なにより今が大事だ。


「叔父様…。」

ようやく泣き止んだミランダに俺は微笑んだ。
「ミランダ、ロザリーのところに一緒に行こう。お前が側にいてくれたら、きっとロザリーは心強いはずだ。」

「ローラン王は悪魔も、天使も見なかったから、大丈夫だと言っていたけど…そんなにひどい怪我なの?」

「悪魔や天使を、跳ね除けるくらい逞しいミランダが側にいれば、ロザリーはぜったい俺たちのところに戻ってくる。」

「ひどい。」

そう言ったミランダだったが、口元には笑みが戻っていた。




恋とはなんなのだろう。


アデリーナやローラン王のように、どんなに恋焦がれ求めても、手にいられなかった思い。そんな思いを思い出には出来ず、愛する人の魂を追いかけるために悪魔と契約を交わした行為は…恋なのだろうか?

俺にはわからない。


だが今…この胸の中に溢れる思いだけはわかる。


現世でロザリーと結ばれず…来世で巡り合えたとしても…

その女性は…きっと…。
俺が背中を預けたいと思うほどの、剣の腕前ではないだろうな。

あの小柄な体を活かした剣の腕前と、溢れる気迫のシリル。そんな彼女も…俺の心の中で大きく占める。

女性に対して、そう思うのは…変かもしれないな。

だが…

俺が求める女性は、美しいだけの人形のような女性ではない。
飾っておきたいわけではない。

俺が好きなのは…
敵に向かって行く騎士の姿、そして…青いドレスを身に纏い踊る可憐な姿を併せ持つ…女性。



前世や、来世のロザリーじゃない、今のロザリーなんだ。

今の俺が求めるのは、今のロザリーだけだ。


そう、今の彼女が好きなんだ。



恋とはなんなのだろう。

答えがあるとしたら、それはひとつではないのかもしれない。
人それぞれに、答えはあるのだと思う。

俺は…


この70日あまりの日々で、俺なりの答えを見つけた。


だから…


「ミランダ行こう。ロザリーが待ってる。」



……ロザリーが待ってる。








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