紫の瞳の王女と緑の瞳の男爵令嬢

秋野 林檎 

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王の寝室で、男の荒い息だけが聞こえていた。

「カトリーヌ…どうだ」と男は…いやノーフォーク王は、パメラの白く豊かな胸に顔を埋め、そう聞いたが、もはや、形代とはいえカトリーヌ王妃の模倣さえ、パメラはもうどうでもいいのだろう。返事もせず、いや王の愛撫にさえ反応せず、ぼんやりと自分の胸に唇を寄せる王を見ていた。いや王のプラチナブロンドの髪が月の明かりで、わずかに輝いているのを見ていた。

―兄であったあの人のブロンドの髪は、もっと綺麗だったなぁ。 紫の髪と紫の瞳よりも、兄には本来のこの色がのほうが似合っていた。それは兄本来の色のブロンド髪を、リリスもエリザベスも見ることがなかったからかもしれないが…。


私は…兄が欲しかった。

15年地下牢にいた私を救い出してくれた人。私を認めてくれた人。



誰からも顧みてもらえなった寂しい15年の時から、救い出されてから後の時間は幸せだった。だが、兄が伴侶を見つけた頃、なにかが私の心を覆っていった。

初めは、ふたりで過ごしていたお茶の時間が3人になり、それが辛いと感じ始めたことだった。そして4人になった頃、兄の私への愛情は変わらなかったが、王妃リリスとエリザベスのふたりに対するものとは違う事に気づいたことだった。

そして、それがなんなのか気づいたのは…名前が切っ掛けだった。

リリスと呼ばれていた王妃の本来の名はアーデルハイト。だが小柄で愛くるしい少女のようだった彼女は祖国ノーフォークでも、そしてマールバラでもその愛らしさからだろう愛称のリリスと呼ばれていた。そしてあの小生意気なエリザベスは愛称のべスより、ノーフォークの坊やが呼ぶエリザベスという名のほうが気に入っていたのだろう。リリスに(アークに呼ばれると、自分の名前がすてきな音楽の1小節のように聞こえちゃうの。)と真っ赤な顔で話しているのを見た。

好きな人に呼ばれたら、自分の名前がすてきな音楽の1小節のように聞こえるのか…なら…愛称で呼ばれたら、リリスのように呼ばれたらと思った。

だからパメラと呼ばれる度にパムと呼んで欲しいと言ったが、ある日兄が…

「今更だがすまない。実は…おまえの名を決めるとき、とっさに浮かんだパメラという名前は、私のマナーの先生の名前だったんだが、すっごい怖かったんだ…だから愛称で呼ぶ時は緊張して…でもお前がそういうのなら、なるべくそうする。」と言われた。


緊張すると言っていた通り、一呼吸おいて呼ばれる度にこちらも緊張して…。でもエリザベスの言う通り、好きな人から呼ばれる自分の名前は、確かに素敵な音楽の1小節に聞こえた。



でもまさかあの日…最後に…呼ばれるとは…。



兄さま…。私が兄さまの名を呼んでも、すてきな音楽の1小節のようには聞こえなかったのでしょうね。





そんなことを考えていたから、思わず口に出た。
「キ…キース…」

 王の愛撫の手が止まった。

「誰の名だ…カトリーヌ。」

「あら、焼きもち?ふっふふ…」というと王は狂ったかのように、私の体に己の痕をつけていく。


こんなところで…呼ぶなんて…バカだ。


 



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