王子様に恋の手ほどきを…【改稿版】

秋野 林檎 

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マリーは居酒屋の皿洗いの仕事を終え、まだ夜明け前の暗い道を、足を引きずるように帰って来た。

「気分は最悪、王子様にあんな事を言って、出て来たのだから…最高のはずはないかぁ…。」

誰ともなしにそう呟くと乾いた笑いを浮かべ、いつものように、建て付けの悪い扉の下を蹴りながら、開けようとしたら…内側から開き「おかえり、マリー」と微笑むおばあさまがいた。

嫌な予感がした。愛こそすべてと言い切るおばあさま。まさか…とは、思うけど、一応、ヘラリと笑ってみたが、私のその力のない不気味な笑いさえも、気にならないようようで、おばあさまの微笑みは、だんだんと深みを増し、満面の笑顔に変わると、目をキラキラさせて…私の顔を覗き込んできた。

そして恐れていたことを……ついに……言った。

「で…誰?あの方は…?あのお宿の前で見ちゃったのよ、私。」

マリーはゴクンと唾を飲んだ。
見られたんだ。ラファエル王子を…

今でも甘い恋を夢見る少女…の様なおばあさまに、まさか娼婦と思われてるとは言えない。
…どう言うべきか…こんな時は、やっぱり…取り敢えず…笑うことだ。

マリーの口角が…ゆっくりと上へとあがった。

…ヘラリ…と



祖母アデラは、庶子とはいえ伯爵家の令嬢だった、若い頃からロレーヌの宝石と言われる美貌を持ち、当時の男性達を虜にしていた。そんな伯爵家の令嬢が、なぜ子爵家に嫁いできたのかと言うと、それは、祖母に無体を働こうとしたユベーロ伯爵から、祖父ベルトワーズ子爵が助けた事が切っ掛けだった。かなりの反対があったと言う、庶子とはいえ伯爵家の令嬢と貧乏子爵。 だが祖母は、祖父に言ったそうだ。

「町に数年前まで住んでいたんです。貧乏なんて苦にならないわ。それに好きな人となら、どんな場所でも、どんな事でも頑張れる。」と言って子爵家に押し入ってきた…と祖父が苦笑しながら言っていた。 確かに、祖母は14の歳に伯爵家に引き取られるまで、町でお針子として働いていたと言うから、ただの伯爵令嬢ではなかったろう。だが、その祖父も8年前に亡くなり、その最愛の人と間にできた息子、後の私の父も数年前に黄泉の国へと旅立ってしまい、60歳を過ぎて、祖母は2人の孫を一人前にしなくてはならなくなった。

ひとことも昔の苦労話も、そして今の苦労も兄や私に愚痴ったりしない。苦労を苦労とは思わず、頑張って、今もお針子として働く祖母。そして今でも、夫を愛しているわと言って頬を染める。

そんな祖母が大好きだ。だから…言えない。
愛は尊く、綺麗なものだと信じている祖母に…体とお金の上に成り立つ男女の関係を……。
そんな女だと間違えられたことを言えない。


でもなにか言わないと、説明しないと…おばあさまが誤解する。

あれは、あの人は、ラファエル王子とは…なんでもないの…そう言わなきゃ、でも、場所が場所だけに、おまけに部屋まで連れて行かれたところまで、見られていたら…どう言ったら…

青くなっていく私とは逆に、高揚して、頬がピンク色になっていくおばあさま。
ヤ、ヤバイ。眼が、おばあさまの眼が言っている…誰!あの人は誰?教えて…と
 
どうしょう!!

そんな緊張漂う中…「マリー!」と叫びながら、血相をかえて入って来たのは、兄のケント

なんか、悪寒が…するんだけど…

「おまえ、ラファエル王子と会ってたそうだが…」

「まぁ!!王子様なの!それで、それで何処で知り合ったの?!」


……終わった。

お兄ちゃんのバカ!どうするのよ!

妙齢の男女が一緒にいます=それは恋人です。
そんな公式が成り立つおばあさまにどう言うのよ~。

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