王子様に恋の手ほどきを…【改稿版】

秋野 林檎 

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マリーの恋愛経験は本のみ。もっと具体的に言えば、R15ぐらいまでの小説ばかりだったが、一度、そう一度だけ、兄ケントの秘蔵書R18をこっそり見たことがあった。

もっとも、BLと言われる類であったため…兄ケントは違うんだと必死に否定していたが…。

まぁ、確かにある意味、知識は増えたが…これは…どうだろう。マリーには役に立ったとは思えないのだが…だが、R18を見た!ということが、マリーに【幅広い恋愛の知識】を知っているという、訳のわからない妙な自信を植え付けたようだった。

そんなマリーだから、百戦錬磨のラファエルの、誘うようなキスの深い意味などわかろうはずもない。だが本人は、そうは思ってはいない。《本で、いろんな恋を知ってるんだから!》と妙な自信がマリーの背中を押したものだから、おかしなことになってしまった。


腕のキスって…なんだったけ?
マリーはラファエルの意味ありげなキスに、頭を捻った。

確か【王女の夢と騎士の夢】の中であったのよね 【参照P205】王女様に…騎士が…

「もう、耐えられません。私はサンドラ様が、他国に…まるで売られるように嫁ぐなんて…」

「アラン…でも、私は行きます。どうぞ、もう私のことは…」


そうこのあと、アランが…ラファエル王子みたいに、掌の上にキスをして腕にもキスをするシーンがあって、サンドラがえっと…なんて言ったんだっけ?あっ!そう、そうだ。

 「ありがとう…アラン。このキスだけで、私は幸せです。王女としてやって行けます。」


ラファエル王子の場合は…
「無粋か確かにそうだなぁ。では恋に手馴れた君に、恋の手ほどきしてもらおうか。」
と言って腕にキスをしたんだ。

マリーは、にっこり笑った。あぁぁ~なるほど、尊敬のキスだ。
恋と呼べないような、いい加減なお付き合いをしてきたから、女心を指南してくれってことだ。

妙な自信のせいなのか……それとも、あれほど本好きなくせに読解力がないのか……
マリーはそう思ってしまった。

かたや、ラファエル王子は、このなんとも言えない怒りのような感情は、嫉妬からだとは気づかず、無理やり、マリーを自分が今まで付き合ってきた女性同様だと思おうとしていた。


ようやく出会った運命の人なのに…
不器用なふたりは…歯車が噛み合わないまま、動き出してしまった。



(この王子様のスキャンダルを握って、子爵家の安泰!いい男だと自惚れて、女を娼婦のように扱う。この傲慢さを…けちょんけちょんにしてやる。)


 (この姿が本当なら…この娘は寵妃としてエフレイン国に連れて行く。)


まあ、どちらもズレた考え…、そしてズレた思いだったが…、

ラファエルは、マリーに向かって、よりいっそう笑みを深くし腕を出した。
マリーは、(腕を組めってことね。)と心の中で、チェックを入れて微笑むと、頭の中で(ラファエル王子の好みの遊びなれた女を演じて…振ってやる!)とほくそ笑み。

 「私が初めてお付き合いした方は、情熱的で、腕を組む前に仰るの。そう…愛の言葉を。ううん…愛の名言を私に教えてくださるの。初めて教えていただいた言葉は…

【真実の愛は幽霊のようなものだ。 誰もがそれについて話をするが、それを見た人はほとんどいない。】素敵でしょう。」

ラファエルは顔を歪め…思っていた。
 (す、素敵なのか…これが…。俺なら腕を組む度に体が痒くなる。そんな男が、初めて付き合った男なのか…可哀想に…。)

ラファエルの哀憫な眼を…マリーは感激しているんだと思い微笑むと
「ちょっと、ラファエル王子にはまだハードルが高いかしら?」
と言って、ラファエルの腕に手を添えた。

微笑むマリーを見つめ、ラファエルはそっと顔を近づけて、マリーの首筋にラファエルはキスを落とした。

マリーは…驚き、ラファエルを見つめ…ラファエルは、そんなマリーの驚いた顔に、
「ハードルは高いです。先生」と艶然と笑った。


手の上なら尊敬のキス  
額の上なら友情のキス 
頬の上なら満足感のキス 
唇の上なら愛情のキス
閉じた目の上なら憧憬のキス 
掌の上なら懇願のキス 

そして腕と首なら欲望のキス…。

この意味を、マリーが知るのは、もう少し先のこと。

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