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なまいきな唇
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いつだって、そうだ。
こいつは私の話なんか聞いていない。
歩く速さも…
食事をするスピードも…
私に合わせてはくれない。
いつも私は置いてけぼり…
「木村君!!」
彼を呼ぶ女性の声に、あいつは振り向き立ち止まった。
(バカ…他の女の子の声には、立ち止まって…)
立ち止まった背中に、頭突きをして…
「じゃぁね。き・む・ら・く・ん。」
と言って、あいつの顔を見ず走った。
「・・・!!」
あいつがなにか叫んでいたが…もうどうでもいい。
なによ。
私が呼んだって、しらんぷりのくせして…
あいつの側に行って、
あいつの手を引っ張るまで、
あいつは止まってもくれないのに…
なのに…あの女性の一声で止まるのかよ!
もういい。もう、カルガモのようにあいつの後ろを付いて回るのは…もうたくさん。
『おまえは俺の物な。』
でも…あいつは私の物じゃない。
何を考えているのか、ぜんぜんわかんないよ!
はいはい…勉強もスポーツも…おまけにルックスも…あなたはピカイチですよ。
チビで…胸無し、くびれ無しの寸胴で、おまけに赤点の花を咲かせる私とは段違いってこともよーーーくわかってます!!
なんだか…もう…いや
もう…もう…「もう…!!」
「……もう、なんだよ。夏帆。」
はぁはぁと荒い息を吐きながら、あいつはそう言って、私の手を握った。
追いかけて?…もしかして、追いかけて来たの?私を?
いやいや…まさか…
彼を呼んだ女性がまだいるのか、私は少し視線をずらして見た。
いるじゃん…待ってるじゃん…
「…木村君、向こうで待ってるわよ…さっきの女性。」
「…なんで名前を呼ばない。」
「そこ?!そこを突っ込むわけ?」
「夏帆…名前を呼べよ。俺の名前を呼べよ。」
「…何言ってんの…、どうせ女の子と二人きりのときは呼ばせているんでしょう?」
「名前は…おまえにしか呼ばせたことはないし、これからもお前以外は呼ばせるつもりはない。」
無口のくせに…口を開くと、心臓に穴を開けるほどの飛び道具を持つ奴。
穴…空いたよ。見事にね。でも…
「…嫌です。き・む・ら・く・ん。」
「…夏帆…」
「だいたい…私は木村君のなんなの?!歩く速さも、食事をするスピードも、私に合わせてはくれないし、さっさとひとりで終わらせて行ってしまう。これが付き合っているカップル?!」
「…おまえと一緒にいると…鼓動が激しくなって…苦しんだよ。」
「えっ?!」
「たまらないんだ。チョコチョコと俺の横で歩く姿が可愛くて…。食べる時も…小さな口で頬張る姿が…可愛くて」
「…いや…なんか…小動物?愛玩動物ぽくない、それって…」
「違う…俺は小動物にキスしたいとか…押し倒したいとか思わない。」
「はぁ…じゃぁ…なんで、私が呼んでいたのに…止まってくれなくて、他の人が呼んだら止まるの。そう、いつも木村君はそうよ。私が手を引っ張るまで止まってくれないのはなんで!」
「名前…」
「名前?」
「夏帆が名前を呼ばないから…」
「名前を呼ばなかったから、止まらなかったというの?」
あいつは頷いた。…マジ?
「木村君と呼ばれるのが嫌で、立ち止まらないのなら、さっき他の人が呼んだ時、立ち止まったのは何故?」
「木村と呼ばれるのが嫌なわけじゃない、夏帆に言われるのが嫌なんだ。…さっき立ち止まったのは、呼び止めた人が、大学の就活センターの人だったから…」
なんだか…力が抜けて行く。
「じゃぁ…私が手を引っ張るまで止まってくれないのはなんでよ。」
「夏帆に…」
「私に?」
「求められているような気がして…」
勉強もスポーツも…おまけにルックスも…ピカイチのあなたは…
私の歩く姿や食べる姿が可愛くて…一緒にいると鼓動が激しくなるって…?
私だけに名前を呼んで欲しいって…?
それって…勉強もスポーツも…おまけにルックスも…ピカイチのあなたが…
私のことを、めちゃめちゃ大好きってこと?!
……なんだか…いいじゃん、それって…。
「祐樹」
あいつは、なぜだか、少し赤くなって「あぁ…」と…まぁ、返事らしきものをした。
ふ~ん、名前を呼ばれると嬉しいんだ。
「祐樹、祐樹、祐樹」と連発すると…あいつは珍しく大きな声で笑って
「お前って…ほんと可愛いいよなぁ…大好きだよ。夏帆。」
飛び道具を持つあいつには敵わない…。
やっぱり…敵わないから…
「木村君」と言ってやったら、私の顔を両手で挟み…
「…もういい加減にしろ。お前も言えよ。俺が大好きだって」
「…」
「夏帆」
「…」
「そんな生意気な口はお仕置きだ。」
あいつの唇が、そっと重なった。あいつはしらない、重なった唇の上でいつも…
祐樹…大好きって言っているのを…だからキスをされるまでは言わないことを…
こいつは私の話なんか聞いていない。
歩く速さも…
食事をするスピードも…
私に合わせてはくれない。
いつも私は置いてけぼり…
「木村君!!」
彼を呼ぶ女性の声に、あいつは振り向き立ち止まった。
(バカ…他の女の子の声には、立ち止まって…)
立ち止まった背中に、頭突きをして…
「じゃぁね。き・む・ら・く・ん。」
と言って、あいつの顔を見ず走った。
「・・・!!」
あいつがなにか叫んでいたが…もうどうでもいい。
なによ。
私が呼んだって、しらんぷりのくせして…
あいつの側に行って、
あいつの手を引っ張るまで、
あいつは止まってもくれないのに…
なのに…あの女性の一声で止まるのかよ!
もういい。もう、カルガモのようにあいつの後ろを付いて回るのは…もうたくさん。
『おまえは俺の物な。』
でも…あいつは私の物じゃない。
何を考えているのか、ぜんぜんわかんないよ!
はいはい…勉強もスポーツも…おまけにルックスも…あなたはピカイチですよ。
チビで…胸無し、くびれ無しの寸胴で、おまけに赤点の花を咲かせる私とは段違いってこともよーーーくわかってます!!
なんだか…もう…いや
もう…もう…「もう…!!」
「……もう、なんだよ。夏帆。」
はぁはぁと荒い息を吐きながら、あいつはそう言って、私の手を握った。
追いかけて?…もしかして、追いかけて来たの?私を?
いやいや…まさか…
彼を呼んだ女性がまだいるのか、私は少し視線をずらして見た。
いるじゃん…待ってるじゃん…
「…木村君、向こうで待ってるわよ…さっきの女性。」
「…なんで名前を呼ばない。」
「そこ?!そこを突っ込むわけ?」
「夏帆…名前を呼べよ。俺の名前を呼べよ。」
「…何言ってんの…、どうせ女の子と二人きりのときは呼ばせているんでしょう?」
「名前は…おまえにしか呼ばせたことはないし、これからもお前以外は呼ばせるつもりはない。」
無口のくせに…口を開くと、心臓に穴を開けるほどの飛び道具を持つ奴。
穴…空いたよ。見事にね。でも…
「…嫌です。き・む・ら・く・ん。」
「…夏帆…」
「だいたい…私は木村君のなんなの?!歩く速さも、食事をするスピードも、私に合わせてはくれないし、さっさとひとりで終わらせて行ってしまう。これが付き合っているカップル?!」
「…おまえと一緒にいると…鼓動が激しくなって…苦しんだよ。」
「えっ?!」
「たまらないんだ。チョコチョコと俺の横で歩く姿が可愛くて…。食べる時も…小さな口で頬張る姿が…可愛くて」
「…いや…なんか…小動物?愛玩動物ぽくない、それって…」
「違う…俺は小動物にキスしたいとか…押し倒したいとか思わない。」
「はぁ…じゃぁ…なんで、私が呼んでいたのに…止まってくれなくて、他の人が呼んだら止まるの。そう、いつも木村君はそうよ。私が手を引っ張るまで止まってくれないのはなんで!」
「名前…」
「名前?」
「夏帆が名前を呼ばないから…」
「名前を呼ばなかったから、止まらなかったというの?」
あいつは頷いた。…マジ?
「木村君と呼ばれるのが嫌で、立ち止まらないのなら、さっき他の人が呼んだ時、立ち止まったのは何故?」
「木村と呼ばれるのが嫌なわけじゃない、夏帆に言われるのが嫌なんだ。…さっき立ち止まったのは、呼び止めた人が、大学の就活センターの人だったから…」
なんだか…力が抜けて行く。
「じゃぁ…私が手を引っ張るまで止まってくれないのはなんでよ。」
「夏帆に…」
「私に?」
「求められているような気がして…」
勉強もスポーツも…おまけにルックスも…ピカイチのあなたは…
私の歩く姿や食べる姿が可愛くて…一緒にいると鼓動が激しくなるって…?
私だけに名前を呼んで欲しいって…?
それって…勉強もスポーツも…おまけにルックスも…ピカイチのあなたが…
私のことを、めちゃめちゃ大好きってこと?!
……なんだか…いいじゃん、それって…。
「祐樹」
あいつは、なぜだか、少し赤くなって「あぁ…」と…まぁ、返事らしきものをした。
ふ~ん、名前を呼ばれると嬉しいんだ。
「祐樹、祐樹、祐樹」と連発すると…あいつは珍しく大きな声で笑って
「お前って…ほんと可愛いいよなぁ…大好きだよ。夏帆。」
飛び道具を持つあいつには敵わない…。
やっぱり…敵わないから…
「木村君」と言ってやったら、私の顔を両手で挟み…
「…もういい加減にしろ。お前も言えよ。俺が大好きだって」
「…」
「夏帆」
「…」
「そんな生意気な口はお仕置きだ。」
あいつの唇が、そっと重なった。あいつはしらない、重なった唇の上でいつも…
祐樹…大好きって言っているのを…だからキスをされるまでは言わないことを…
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