異世界生活物語

花屋の息子

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46 異世界の土は扱いづらい

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 持ってきた土をみんなでコネコネ。誰一人喋る人がいない。一様に皆一心不乱にこねている。陶芸と名を付けなければ、いい大人が何をしているんだと成るかもしれない。
 俺がこねていたせいか、それを見て皆こね出していきなり成型する人は誰も出なかったのだが、土煉り中で不思議と言うか奇怪な現象が現れた。
 異世界と感じるのは砂混じりの土が、こねていくとパン生地のようにまとまっていく事だろうか、逆に俺の陶土に見合っていた土は子供の力でこねる分には問題無かったが、大人がこねると打ち始めの蕎麦に似たボソボソとした質感に変わっていく、もう物理法則を無視している現象だ。
 その他にも、ただの土は練るほどに水分が抜けて砂状に崩れていく、これだけは使えなさそうだ。
 各々練った土を成型するがだいぶ苦戦しているようだ。
 まとまったは良いが今度は柔らかすぎて、重力に抗いきれなく成型が進まない者や、ボソボソ土から成型すると割れが出来てしまい製作が進まない者が続出した。
 俺?可もなく不可もなくって出来だよ。ブーストは切っているから丁度良いんだろうね。ただしセンスは無いから所詮な出来には目をつぶるしかない訳だけど。
 一つ目を形に仕上げた俺は一つの案が浮かんだ。全部混ぜちゃえばいいんじゃない?割合はもちろん研究に値するレベルだけど、柔らかいから成型できない。ボソボソしてまとまらないと、一つ一つはマイナス面だけど合わせたらうまくいきそうな気がするんだ。
 考え方は生コンと同じだ。トロトロのセメントに骨材が入って初めてコンクリートとしてしっかりとした構造が確保できる。セメントだけではもろいし、骨材だけではそもそも形すら確保できない。
  もしかしたら同じ事を考えた人がいるかもしれないが、採って来た人は自分の土が一番良いと思って作っている雰囲気なので、とてもそんな事を口に出来る感じではない。そんな事もあるから、今回は言わないけどね。
 それで作った鍋は20個を越えた。底の尖った寸胴のようなものから、まさに縄文土器といった逆円錐型のものまでさまざまで、金属供出しなくとも美しさがまかなえると信じての力作だったのだろう・・・
 焼き上がりの灰の中から崩れ落ちたその残骸を見るまでは、俺の作った物を含めて全滅、モノの見事に一つ残らず砕け散っていた。
 俺の作った物は間違いなく乾燥をさせてい無かったための水蒸気爆発だろう。綺麗さっぱり置いた場所には破片すらなかった。他の者達が作った物は材料と言うか材質に問題があったのだろう、残骸として灰の中から出てきた。
 火が落ち着くまで見せていた皆の笑顔を見ているため、その落胆振りの大きさがどの程度だったかがよく分かる。

「は~、割れちゃったわ」
「それも、みんなよ」
「やっぱり土では、駄目なのかしら」

 水蒸気爆発なんて知らないだろうし、俺の知識じゃ噛み砕いた説明する事も出来ないので、とりあえず皆ゴメンとしか言えない訳だが、ここは素朴な疑問系で気付いてもらうとしよう。

「ねえ、乾いて無い薪は燃やさないのに、乾いて無い鍋は火に入れちゃって良かったの?」
「そう言われたら、そうね」
「一度乾かしてから、焼いてみようかしら」

 がやがやがや。女性陣の情熱の火は消えていないようで、再度鍋作りへと火が燃えていった。
 情熱の火が燃えるのは良い事だが、今回だけでも相当な薪が消費されただろうに、こりゃ数日がかりの一大伐採が起こっても不思議じゃないな。
 今回消費された薪は前回の伐採とそん色無い量を使ったので、もう少しテコ入れして早めに完成させなければ、一時的にも農作業が完全ストップして禿森作りにシフトしてしまう。
 流石に本日もう一回と無茶な事は出来ないので、明日改めてとなった。いくら女性陣の強権と言えども、家の事をないがしろにするのは長年の習慣が許さないようだ。
 旦那達に薪を取りに行かせる事は、長年の習慣のウチに入っちゃうんだね。
 俺は余っていた粘土を持ち帰り、少し研究してみる事にした。たぶん俺の粘土でもいけるとは思うのだが、混ぜた物でも面白いと思ったからだ。
 しかし混ぜる量に関しては前世の知識チートを持ってしても、歯が立たないので少しまとまりを重点に置いて、最終的には信楽焼きに近い風合いの物でも作れたら面白いかななどと思っている。知識の出し惜しみはバレたら怒られそうだが・・・。
 金鍋にできなかったのだから、そのくらいのお遊びは良いじゃないかって事で。

「はい、これお願いね。」

 納屋に向かおうとしていた俺に渡されたのは、カイバクの穂を束ねたホウキ。すなわち掃除道具だ。
 半日以上を費やして焼き物つくりを行った結果として家事の停滞を招いてしまった。食事すらそっちのけでやっていたので、流石の男性陣もこれ以上はといった顔だ。口には出さないが。
 そしてそのシワ寄せは、このホウキを持った俺にきた。ウチの面積はちょっとした屋敷くらいに巨大だ。システム面ではバラック級だけど。
 それを四歳児の俺が一人で掃除だと、可笑しくはないか?姉も料理の手伝いをしている訳で、手の空くのは俺しかいない訳だが、何だろう悪いのは誰だ論と同じかもしれないけれど、ハンドクリームなど開発したのがいけないのか?それとも量産化を足止めした近所の奥様が悪いのか、掃除をやっておいたと言わない父達が悪いのか?はたまた押し付けてきた母が悪いのか?この感情は怒りではない。絶望だ。
 ワンルームで一人暮らしをしている人間からしたら、サイズだけは夢の邸宅に見えるかもしれないが、家がでかい事はそのまま掃除が大変という事に繋がる。なぜに田舎の家と言うのはこうもデカイのやら、ホウキ掛けをしていくだけでもガッツリ時間が掛かる。
 別段家具を移動させての掃除では無いが、そもそもの体のサイズ的にそれほど効率が上がる規格ではない。
 これも手を抜けば多分やり直しになるだろうから、85点は取るつもりでやら無くてはならない。キツイよこれ。
 セカセカ掃除を進めても本当に終わらない。3部屋終わった段階でようやく姉が手伝いに入ってくれた。

「お姉様、有難う御座います」
「なにやってんの?」

 最敬礼で援軍を迎えたら、意味の分からないポーズで出迎えられた姉は「なにこいつ」みたいな顔をしていた。俺からしたら絶対終わらない掃除という敵軍を、たったの一人で迎え討っていた訳だから、そのくらいのポーズはするさ。
 二つ上の姉が入るとやはり効率が違う。ホウキ一回のストロークの長さが違うのだから当たり前といえば当たり前だが、本当に助かった。なにせまだ6部屋もあるのだから一人でなどそもそも終わらない。姉が手伝ってくれる事は前提だったといえば前提なのだ。
 キッチンスペース以外のすべての部屋を掃除し終え、やっとの事で夕食にたどり着く事が出来たのは、いつもより大分遅い時間になっていた。ちなみに父達もサボっていた訳ではなく、買い物に行かされたり下準備を手伝わされたりと、結局は俺の出し惜しみの犠牲にはなっていたのだ。
 これは少し本気で完成を急がないと、地獄の行軍になりかねない。次で、次で決めなければと強く決意したのだった。
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